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空手の申し子、獅子堂凛

 生前、地味なモブ喪女高校生だった私、月並花子は廊下でプロレスごっこをしていた脳筋バカ男子のせいで階段から転落死してしまった。そんな私が次に目を覚ました場所は天国――……ではなく、なんと乙女ゲームの世界でヒロインの“ハナ”に転生していたのである。

 よくある転生もの作品だと無双するのがお決まりだが、私はこのゲームをプレイしたことがなく、幼馴染のナオちゃんがしているのを隣で漫画を読みながら見ていただけなのだ。

 無双することができないに加え、根っからの地味なモブ喪女である私はヒロインらしく振舞うことが出来ない。だから私はヒロインではなくモブ喪女として、この世界で生きていくことを決めたのだけれど……。

 私の目の前には攻略対象である青髪、金髪、橙髪のイケイケキラキラ男子がいる。その三人の頭には光り輝くハートが飛んでいる。

 私はヒロインらしく振舞っているわけでもないのに、どうしてかイケイケキラキラ男子を攻略しているようだ。

「なんでこうなっているんだっ!」

 私は地団駄を踏む。

 そんな私に青髪イケメンの西園寺蒼が、

「大丈夫か? 具合が悪いのなら名医を紹介するが」

 金髪イケメンの金剛要が、 

「お前、本当に予想外なことをするよなぁ」

 橙髪色男の本条薫が、

「ははは、君は本当に他の女の子と違う」

 ドン引きすることもなく答えるのだった。

 そういうわけで、私は学園のイケメンに囲まれて日々を過ごしていた――……。


 季節は巡り、間もなく冬が始まろうとしていた。


「あ、獅子堂先輩よ」

「今日も鍛錬に励んでらっしゃる」

「相変わらず素敵な人だわ」

 女子生徒ABCがそれぞれ口にする。

 女子生徒の視線の先には、空手部部長の高等部二年生、獅子堂がいた。

 現実世界には有り得ない赤髪をしている獅子堂は、この乙女ゲームの攻略対象の一人である。

 しかし転生初日に獅子堂に助けられた私は気持ち悪い笑顔をしてしまい、獅子堂にドン引きされてしまったのだ。

 それ以来、獅子堂とは関わらないようにしていた。何より、スポーツをしていて体格のいい獅子堂を見ていると、私を転落死させた脳筋バカのことを思い出してしまうのだ。

 だから私は獅子堂のことを避けていた。


「獅子堂先輩、大丈夫かしら。ねぇ、ハナ?」

 そう私に声を掛けるのはヒロイン“ハナ”の親友“エリカ”である。

「え? 何かあったの獅子堂先輩」

「もうすぐ空手部の大会があるようなんだけど、前の大会以降不調(イップス)みたいなの。空手部の男子が話しているのを偶然聞いちゃって」

「へぇ、あの獅子堂先輩が」

 獅子堂先輩は空手の申し子と言われている。そんな獅子堂が不調とは一体何があったのだろうか。

「でもまぁ、獅子堂先輩ならきっと大丈夫よね。今までずっと連覇していたわけだし」

「うんうん、大丈夫よ! それより購買で人気ナンバーワンのカスタードクリーム入りメロンパンが食べられるかの方が心配だわ!」

 正直、この時の私はカスタードクリーム入りメロンパンで頭がいっぱいで、獅子堂のことを一ミリも心配していなかった。

「……なんかハナ、最近変わったよね」

 エリカの一言に私は立ち止る。

「昔のハナは大人しくて引っ込み思案で。私がいないとダメだったのに最近のハナは友達がたくさんできて、皆が驚くような行動をするし」

 どこか寂し気なエリカ。

 エリカは“ハナ”の一番の親友でずっと傍にいた存在だ。

 だからハナの中身が月並花子()になったことで性格も変わってしまったことに驚くのも無理はない。これまで私の行動や言動にびっくりしすぎて倒れたことだってあった。

 私はエリカの手を握る。

「エリカ、私ね……」

 ピンポンパンポーン。

『えーマイク、テステス』

 突然の校内放送に私の言葉が遮られた。

『うん、ちゃんと聞こえますね』

 この声は――……嫌な汗が私の額から流れた。

『ハナさんハナさん。至急理事長室まで来てください。以上!』

 そこで放送は終わる。

 やっぱり――……。私の嫌な予感は当たった。

 この学園の理事長は何かと私にミッションを与えてくるのだ。

 そのミッションは問題を抱えた生徒のことで、しかもその生徒というのがなぜか攻略対象ばかりなのだ。これも乙女ゲームのシナリオにあるのだろうか? しかし、私はわからない。なぜなら私はこのゲームをながら見でしか知らないから。

「ちょっとハナ。あなた理事長に呼ばれるって今度は一体何をしたの⁉」

 私の肩を揺さぶるエリカ。

「いや、私は何もしてないわよ⁉」

 私は全力で否定する。

「とととりあえず、私、理事長室に行ってくる!」

 こうして私は理事長室に向かったのだった。


「遅かったですね」

 私を呼び出した理事長は革張りのオフィスチェアに腰掛け、優雅にティータイムをしていた。

 胸まで伸ばした銀髪を肩から流し、一つ結びしている理事長。顔は美形で密かに女子生徒から人気があるのだが、その腹に何を抱えているのかわからない。

「今度は一体何の用ですか」

「実は困ったことがありましてね」

 理事長はわざとらしく溜息をつくと、持っていた高そうなティーカップをソーサーの上に置いた。

「高等部二年の獅子堂凛のことです。彼は「組手」「形」の両方で優勝するほどの実力で、空手の申し子と言われています。そんな彼が出場した大会は個人戦、団体戦ともに活躍し、優勝を修めてきました。そんな彼が不調のようじゃ他の部員たちの士気も下がってしまいます」

「あー、不調だってことエリカから聞きました」

 私は来客用のソファーに腰を下ろす。さすが理事長室のソファーだけあって座り心地がいい。

「彼を見ていると苦しそうで辛そうで胸が痛みます……そこでハナさんの出番です。獅子堂凛の不調を脱する手助けをしてください」

「嫌です」

 私はきっぱり断る。だって、これまでずっと獅子堂のことを避けていたというのに。

「困りましたね」

 すると理事長はパチンと指を鳴らした。

 そこへ理事長の部下なのかボディーガードなのか正体不明の黒服がどこからともなく現れる。

「もし獅子堂凛が不調を克服できたら、これを差し上げようと思ったのですが……」

 黒服が私の目の前に何やら見せてきた。

「こ、これは……!」

 私の目が輝く。それは、カスタードクリーム入りメロンパン引換券だった。

「この引換券を使えば、必ずメロンパンが食べられますが……どうしますか?」

 どうやら私のことを事前に調査していたらしい。

 なんて姑息な手を使うんだ理事長! 私はぐぬぬ、と答えに詰まる。

「……ちなみに、私の一存で購買からメロンパンをなくすこともできますね」

「やりましょう。私に任せてください」

 私はすぐさま答えた。


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