西園寺蒼の杞憂
聖羅舞璃愛学園は本条薫の話題で持ちきりだった。
なんでも今日の午後に記者会見が開かれるというのだ。
女子生徒はテレビに映る本条を楽しみにしているようだった。
その記者会見会場というのが、俺、西園寺蒼の父親が経営する西園寺ホテルである。
記者会見会場が西園寺ホテルで開かれることは、西園寺の人間かホテルの従業員しか知らない。
これは顧客のプライバシーを守るための守秘義務というやつだ。
しかし、俺は冷汗が止まらなかった。
――昨日――
俺は最近ハナと話す機会が少なくなっていることに不満を抱いていた。
金剛といい本条といい、最近ハナの周りには虫のように男が群がっている。
どうにかハナの気を引きたいのだが――……。
すると、ハナの姿を俺は見つけた。しかもラッキーなことに一人きりではないか。
「おーいハナ!」
俺は声を掛ける。
するとハナは凄い形相で俺を見た。
「うっ……」
女性がするものと思えない顔に俺は引く。が、そんな裏表のないことがハナのいい所だ。
「あ……西園寺か。ごめん、本条先輩のことでイライラしていた」
と、ハナは眉間を指でつまむと揉み解す。
「本条のことを考えていたのか。……そんなことより俺と一緒にデートしないか」
俺から女の子をデートに誘ったことなんか一度もない。ハナが初めてだ。
高鳴る胸の音。しかし――……。
「あー、くっそ。イライラする。本条先輩をぎゃふんと言わせたいわ」
ハナは俺の言葉も耳に入らないほど本条にキレていた。
せっかくこの俺が直々にデートを誘っているっていうのに……!
「はっ、そうイライラするなよ、ハナ。どうせもうすぐ海外に行く本条のことなんて気にしたら負けだぞ? それに今度、西園寺ホテルで記者会見をするようだし――」
つい勢いで俺は記者会見のことを口に出してしまった。
「その話本当⁉」
案の定、ハナはその話に食らいつく。
しまった――……。しかし後悔してももう遅い。
「あ、あぁ。しかし、この話は内密にしてくれよ」
「もちろん! ありがとう西園寺!」
満面の笑みで俺に御礼を言うハナ。そんなハナに俺の胸が跳ねる。
ハナの笑顔に心を奪われた俺はしばらく動けず、その場にとどまる。
スキップして俺から離れていくハナを見送っていると、俺は、ん? と引っかかった。
あの様子じゃあ、まるで記者会見会場に突撃するような勢いではないか。
いや、まさか……。でもハナなら有り得る。なぜならハナは突拍子もないことをする女だからだ。でもまさか……いや……。
その日の夜、俺は寝付けなかった。
そして記者会見がある今日、俺はドキドキしながら登園すると、ちゃんとハナがいることに安心した。どうやら俺の杞憂に過ぎなかったようだ。
そして、間もなく記者会見が始まる時間である。
クラスメイトたちはスマホを片手に、まだかまだかと落ち着かない様子だ。
「おーいハナ! 一緒に記者会見見よう……」
俺がハナのクラスに遊びに行くと、そこには中等部の金剛とハナの親友エリカがいて肝心のハナの姿がどこにもない。
嫌な予感……嫌な汗が流れる。
「おい、ハナはどこだ?」
俺はエリカに訊く。
「それが……頭が頭痛するって言い残して帰っちゃったのよ。大丈夫かしら、ハナ」
心配そうな顔をするエリカ。その心配に色んな意味が含まれているのは、言うまでもない。
「そうか帰った……え⁉ 帰ったぁ⁉」
ますます嫌な予感がし、俺の動悸が止まらない。
「あ、エリカ先輩。記者会見始まりましたよ」
金剛がエリカにスマホ画面を見せる。
俺も一緒になって画面を覗く。
本条と本条麗華が並んで座っており、フラッシュの光が瞬く。
『えー、では今から会見を行います』
司会者がマイクを使って喋り出した。
記者からのいくつかの質問には全て本条麗華が答えていた。
『えー、それではこれにて会見を終了させて……』
無事に会見は終わりそうだ。俺はホッと胸を撫で下ろし、持っていたペットボトルの水を口に含んだ、その時――。
「ちょっと待ったぁ!」
雄たけびと共にそこに現れたのは覆面を被った女の子……見バレ防止のために被っているようだが、それはまごうことなく、ハナだった。
「ハナ⁉」
金剛とエリカが同時に叫ぶ。俺は口に含んでいた水を盛大に吹き出した。




