本条薫のパンドラの箱
母親は大女優、本条麗華。その息子が僕、本条薫だ。
父親は僕が生まれる前に母と離婚したから会ったことがない。そもそも、本当に父の子かどうかも定かではないという話だ。母は奔放的で自由な人だった。
“母親”よりも“女”でいることを選び“家庭”よりも“仕事”を優先してきた。
だから僕は母ではなくお手伝いさんに幼い頃は面倒を見てもらった。
幼い頃から僕は愛情というものに飢えていた。そんな僕は、ずっと“愛”が何なのかを知りたかった。辞書で意味を調べても、恋愛小説を読んでも、恋愛映画を観ても、さっぱりわからない。
そんな時。女の子から告白されたのだ。
「本条くんのことが好きなの。付き合って」と。
これで僕は“愛”を知ることが出来るかもしれない。だけど女の子と付き合っても僕の感情は何ら変わらない。僕にはまだ愛がわからなかった。
愛を知るために僕は次から次へと女の子と付き合う。
「ねぇ薫。愛してるわ」女の子は僕に愛を囁く。だけれど、僕は満たされることなく虚しさばかり募っていった。
そんなある日。僕は学園でハナちゃんを見つけた。彼女は学年首席の西園寺と中等部一の悪と言われている金剛に言い寄られていた。顔がいい二人なのに。普通の女の子なら、すぐに付き合ってもおかしくないのに。彼女はどこか迷惑そうにしていて、他の女の子と違う反応をしていた。
そのことが新鮮に思えて僕は興味を持った。他の女の子と違う彼女といたら“愛”を知ることが出来るかもしれない。僕は彼女に近付いた――……。
「あーあ。この部屋を開けちゃったんだね」
背後で本条の声がして、私の肩がビクリと跳ねた。
「先輩、これは……」
「ハナちゃんも薄々気付いているだろうけど、僕は本条麗華の息子さ」
やっぱり、そうだったんだ……。
「酷い母親だろう? 息子を放っておいて海外にいってさ。しかも帰国するだなんてことテレビで知ったし。これまで連絡もなかったんだ」
「先輩……」
「ハナちゃん。僕の世話係はクビね。もう手伝いをしなくていいから」
「え、でも不便なんじゃ」
すると、本条は手に巻いていた包帯を外す。
「実は骨折だなんて嘘なんだ」
「え」
「ハナちゃんのこと気になって近付いたけど飽きちゃった。だから、さようならだね」
そう言うと本条は私を部屋から閉め出した。
どうやら私は本条のパンドラの箱を開いてしまったようだ。
本条の世話係をクビになってから三日。私は学園で本条から絡まれることがなくなった。
学園内で顔を合わせても、本条の方から目を逸らすのだ。
なんだあの態度は⁉
いや、色気ムンムンフェロモンのイケメンから相手にされなくなったことは私にとって本望なのだが、何だろう……胸がモヤモヤする。
「本条先輩の世話係から解放されて良かったわね、ハナ!」
私が本条から絡まれなくなったと知ったエリカは喜んでいるようだった。
本条は学園でも有名な色男だ。そんな男と自分の大事なハナが一緒にいることはエリカにとってさぞかし心配だっただろう。
本条はこれまで色んな女の子と付き合い、浮名を流してきた。でもそれは本当は――……。
「ハナ? 何を考え込んでいるの?」
「あ、ううん。何でもない」
私は、へらりと笑う。
するとエリカは私の手を取った。
「ねぇハナ。私はアナタが心配よ、この前は不良に拉致されて悪いことに巻き込まれて」
「エリカ……」
「お願い、ハナ。私を心配させるようなことはしないで」
「うん。わかった」
私はエリカを安心させるために約束した。
私が廊下を歩いている時のことだ。
「あら、誰かと思えばアナタは本条くんのつまみ食い相手じゃない」
「さすがつまみ食い程度の女、もうポイされたのね」
意地悪そうな甲高い声。
それはいつぞやの腰巾着女子ABだった。
「何だ、アンタたちか。私はアンタに付き合っているほど暇じゃないのよ」
私は適当にあしらう。
「なっ、何よその言い草!」
「アンタみたいなゲテモノを食べたせいで本条先輩は今日休んでいるんだから!」
そんな私を食べたせいで腹を壊したみたいな言い方しないでほしい。てか、食われてないし……って、え?
「本条先輩休んでいるの?」
「えぇ。教室にいなかったし学園に来てないみたい」
その時の私は、きっとモデルの仕事で休んでいるんだろう、程度にしか考えてなかった。




