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君がいない今、私は未来の妄想が出来ない。

作者:

君が生まれた時、私は未成年だった。


母のお腹から出てきた瞬間の産声は、分娩室から少し離れた病室にいてもはっきりと聞こえた。


新生児室で他の赤ちゃんたちと仲良く並んで寝ている小さな君は、小さな小さな帽子をかぶっていた。


帽子をかぶっても少しはみ出している髪の毛は生まれた日からふさふさで、赤ちゃんは皆ハゲだと思っていたから何だか不思議だった。


お腹の中にいる間「おチビ」と呼んでいた君に名前がついて、最初は「〇〇ちゃん」と呼んでいたのにいつからか呼び捨てになって。


妄想していた。


中学生になった君が私のところに家出をしてくる未来を。


私は中学生だった時逃げ道がなくてどこにも居場所がなかったから、例えば両親と喧嘩した時に私のところを家出先に選んでくれるといいな、なんて。


当時の私は君の一番の理解者だと自負していたし、これから先もずっと理解者のままでいたかった。


成長するにつれて友だちや彼氏の方が身近になったりもするだろうけれど、少なくとも大人の中で逃げ道として選んでくれるような関係性でいたいと妄想していた。


あの頃は君と会えなくなる未来なんて想像していなかった。




毎年数えている訳じゃないから離れて何年経ったか分からないけれど、君が中学生になったと聞いた。


私の家に逃げ込むどころか、君は私の住所も知らない。


私の顔もきっと覚えていないだろう。


君にとって私は既に他人だろうけれど、私にとって君はずっと大切な人。


お腹は痛めていないけれど、夜泣きに苦しんだ夜も、ミルクを拒否して泣きつかれた日も、離乳食を美味しそうに食べた日も、全部知っている。


下手くそなハイハイが出来るようになった頃に君が後追いしたのは私だったし、二人で出かければいつも親子と間違えられた。


私の名前がちゃんと言えない頃から、たくさん呼んでくれた。




君がいない今、私は未来の妄想が出来ない。


それでも、君の幸せな未来を祈っています。

「無償の愛は幼子から親へ向けられるもの」と昔誰かが言っていました。

私は親ではありませんが、幼い彼女から無償の愛をもらいました。

子どもが大人を愛するなら、大切な記憶を忘れないのは大人の役割だと思います。

彼女が私の存在を忘れてしまったとしても、彼女にもらった思い出の分だけ私は彼女を想い続けます。

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