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第6話

 ウィンさんも、焦り過ぎたと反省して、今は執務の合間に会いに来てくれている。私は魔法薬や魔法以外の知識がほとんどなく、今は貴族の令嬢としての常識やマナーをアリシアお母様に習っているところだ。

 師匠は、半年後の結婚式まで南の国で過ごすと言って、セイさんと一緒に旅立って行った。しばしのお別れだ。


 ウィンさん、……ウィン様も今は忙しい身だ。解呪後すぐに国へ戻ったが、父王に会いに行けばやはり操られていたのか、半分以上記憶が混濁している状態で、執務が出来る状態でなかった。異母弟だと思っていた6歳のサミエルくんは、目の前で突然母親が苦しんで死んでしまったのが原因で話すことが出来なくなったようで、宰相と相談して優しい人柄の辺境伯のところに養子に出すことが決まったらしい。

 ウィン様としては一刻も早く結婚したかったようだが、さすがにこの状態では言い出せなかったようだ。なので、半年後に結婚、1年後には療養中の陛下から玉座を譲られることが正式に決まっている。今は国王代理としてウィン様が宰相と一緒に国を取り仕切っている状態だ。黒薔薇の魔女の影響は広範囲におよび、今だ国内の貴族は混乱を極めているそうだ。

 私は私で出来る事をしようと、最近は孤児院や救貧院へ積極的に行っている。聖女として活動することにしたのだ。さすがに魔女として活動することは出来ないので、似て非なるもの、聖女を名乗ることにしたのだ。

 子供たちの怪我を治し、救貧院でも怪我や病気を癒した。この国の聖女は今私しかいないようで、行けばどこでも喜ばれた。それと合わせて十分な量の魔法薬を薬屋へ卸し、病気で不安になることを積極的になくすようにした。国民が元気なら、今は混乱している情勢もきっと持ち直すだろうと思ったのだ。


「ココのお陰で、国民は元気に過ごしているよ。ありがとう」

 疲れている様子のウィン様が、相変わらず美しい顔で微笑んだ。いつ見てもドキドキする笑顔だ。

「ウィン様、かなり疲れていませんか?大丈夫ですか?」

 私はウィン様を抱きしめて癒しの魔法をかけた。

「ありがとう、ココ。体が楽になった。最近忙しすぎて寝不足気味で……あと少しで落ち着くと思うんだ。そうしたらゆっくり出来る。君との結婚式の打ち合わせも出来るしね」

「もう少し結婚を遅らせてもいいですから、ゆっくり休んでください」

「それは出来ないよ。国として発表したのもそうだけど、なにより私が待てないんだ。早く君と一緒になりたい。毎日ココの顔を見ていたい。寝顔も見たいし、笑った顔も怒った顔も全部側で見たい」

「……そうですか。あの、はい」

 あまりの勢いに照れるより、ちょっと引いたのは内緒だ。きっとかなり疲れているせいで、言い方が素直になってしまっているのだろう。後で、疲れが取れるポーションも箱で渡しておこう。

「それにしても、宰相様が魔女の暗示にかかってなくて本当に良かったです。ウィン様一人では大変です」

「ああ、本当に宰相には頭が上がらないよ。元々彼は私の魔法の師匠なんだ。王妃のことは前々から怪しんでいて、呪われた時に秘かに私を逃がしてくれたのも彼だった」

「そうでしたか、魔法の師匠、まだお会いできていませんが、落ち着いたらゆっくりお会いしたいです」

「……そうだな。ちなみにココは年上が好きとか、そういう感じではないよね?」

「ウィン様?」

「あ、いや、……宰相のオーガストは、私から見てもいい男なんだ。歳は40歳だがまだ全然、ってすまない。変なことを言っている自覚はある……だからそんな目で見ないでくれ……」

 そんな目とは、呆れて半眼になった私の目のことだろうか?最近余裕がないのか、ウィン様は私がほかの男性に惹かれることを警戒することがある。全くもって遺憾である。

「ウィン様は私に愛されている自覚がないのですか?」

「あ、いや、ココが愛してくれているのはわかっているつもりだよ。ただ、自分に自信がない……」

「どうしたら、自信が持てるのですか?そんなに整った顔をして、王宮を歩いていたら侍女もメイドも令嬢も、ずっとあなたを見て頬を染めて秋波を送っているのに、これ以上さらに自信なんか持たれたら、私の方こそどうしたらいいんですか?!もう、知りません。帰ります」

 そう言って、転移魔法で侯爵家まで帰って来た。王宮での私への扱いは概ね良好だと思う。王太子を呪いから救った聖女、幼い頃に攫われた可哀そうな侯爵令嬢、いろいろな目で私を見てくる。貴族独特の回りくどい言い回しも、何を考えているのか分からない笑顔も、はっきり言って馴染めるものではなかったけど、優しい家族と、ウィン様がいてくれるから、なんとか頑張っていたのに……

「魔女の家に帰りたいな……」

 刹那、後ろからきつく抱きしめられた。ふわりと柑橘系の香りがした、ウィン様の香りだ。

「ごめん、疲れすぎて余裕がなかった。お願いだから帰るなんて言わないで。ココがいなくなったら、私はどうしたらいいかわからなくなる。何でもするから、お願いだ……」

 捨てられた犬のような顔で、こっちを見ないで欲しい。確かに森で拾ったのは私だけど……

「王太子が軽々しく何でもするなんて言わないでください。夫婦とは信頼関係が大事だとアリシアお母様が言っていました。反省しているのなら、これからは絶対に私を信じてください。私もウィン様を信じていますから。裏切ったり浮気したら、師匠直伝の黒魔術で呪ってあげますから、安心してください!」

「そ、そうか。わかった。肝に命じておこう」

 少し引きつった笑顔で頷くウィン様に、私は優しく口づけた。


 晴れ渡る空がどこまでも続くような素晴らしい日に、私たちは無事結婚式を挙げた。出会って1年もたっていないのに結婚式をしているなんて、それも相手が王子様だったなんて、出会った頃の私は想像もしていなかっただろう。

 師匠は約束通り、南の国からお土産をたくさん持って、結婚式に参列してくれた。数日ここで過ごした後は、寒い北の国へ旅行に行くのだそうだ。


「あなたも好きに生きたらいいのよ。魔女は自由な生き物だから、弟子のあなただって自由でいいのよ」

 師匠は何でもお見通しなのか、そんな言葉を残して旅立った。セイ様も嬉しそうに師匠と旅立って行った。


「そうですね、今は無理ですが、生まれてくる子供たちが立派に成長したら、私も魔女の弟子らしく自由に世界を回ってみたいです。その時は一緒に来てくれますか、ウィン様」

 ウィン様は嬉しそうに微笑んで、私の手を握った。

「ああ、君とどこまでも一緒に行くと誓うよ。愛している、私の可愛い魔女の弟子さん」


これで完結します。最後まで読んでいただきありがとうございます。

よければブックマーク、評価☆していただけると嬉しいです。

このお話は「天才魔法騎士団長は最愛の生まれ変わりの乙女に愛を捧げる」に出てくる西の魔女ミラーリアのサイドストーリーとして書いてみました。よろしければそちらも覗いてみてください。

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