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第5話

「……そうですね。早急に対応しないと。あの、ココ……」

「王太子様とは知らず、今まで数々の無礼お許しください。どうぞ気をつけてお帰り下さい」

 ウィンさんがショックを受けた顔でこっちを見た。

「ココ、それが告白への返事なのか……」

「私には、あなたの隣に立てるような、そんなもの何もないんです。立場が違いすぎます、無理です」

 私たちのやり取りを黙って見ていた師匠が、にっこり笑ってこっちへ来た。

「あら、そうでもないみたいよ、ココ。冒険者ギルドで、王太子捜索依頼書の近くに気になる依頼を見つけたの。かなり古い依頼書なんだけど、今もずっと依頼され続けていたわ。それもあってココに連絡をとろうとしていたのよ」

「師匠、何を言っているのか分かりません」

 師匠は、紙を取り出して読み上げた。依頼書の写しのようだ。

「髪はピンクブロンド、瞳は銀色、性別女、攫われた当時3歳……だから今は15歳ね。マリロー二侯爵家次女コレティーヌの捜索依頼。この家は聖女を輩出することで有名な家で、次女コレティーヌも聖女の可能性が高い。攫われた当時、犯人を見つけたのに、すでに子供は違う誰かに連れ去られた後で、いまだ行方不明」

「それは、ココの特徴と一致する。マリロー二侯爵とは何度も会っているが、娘は一人だと思っていた」

「ちなみに、ココの両親は何色の髪だったかしら、瞳の色は?」

「二人とも茶色の髪に、茶色の瞳でした……私の色はこの国では珍しいから高く売れると言っていて……」

「当時幼かったココには無理だとしても、今のココにはわかるかしら?」

「はい、あの人たちは本当の親ではなかったのですね」

「きっと誘拐犯からあなたを連れ去ったのよ。高く売れると思ったのよね。もし、あなたが本当は侯爵家の娘だとして、ココはどうしたい?」

「わかりません。今までずっと師匠と暮らして、次の西の魔女は私だと思っていました。これまで私の世界は師匠しかいませんでした。それが、この2か月ウィンさんと生活して、とても楽しかった。でもこの気持ちが何なのか、私にはよくわからなくて」

 師匠は嘆息してウィンさんを見た。

「まあ、そうなるわよね。まだ、ココには早いのかしら?西の魔女は処刑されてしまったからねぇ、それに侯爵家の依頼、金貨100枚なんだよね……」

「こら、ミラ。駄目だよ。ちゃんとココが決めないと」

 相棒のセイさんが、今にも私を隣国へ引き渡したそうな師匠を止めてくれた。

「ココ、私は一度国に帰る。きっと国も混乱しているはずだ。落ち着くのも時間がかかる。マリロー二侯爵の娘についても調べてみるよ、絵姿が残っているだろうから。私が国に戻っている間に、私と共に過ごす未来を考えてみて欲しい」

 ボールドウィン殿下はそう言って、国へ帰って行った。

 

 あれから1か月がたった。2か月の間ずっと毎日顔を合わせていたウィンさんがいなくなり、代わりに師匠とセイさん、3人で暮らしている。2人で暮らすより、3人で暮らす方が賑やかだった。でも、私の心はぽっかり穴が空いた様な気分だった。ウィンさんに会いたい。一緒にご飯が食べたい。

「ウィンさん、私寂しいみたいです……」

 そう呟くと、光が足元に広がった。転移魔法の気配だ。誰かがここへ来るようだ。

「ココ、やっと呼んでくれた!会いたかった!!」

 現れたのはウィンさんだった。ウィンさんは私をぎゅっと抱きしめた。

「ウィンさん、どうして?」

「君の師匠が、君が私に会いたいと思うまで、私がここの結界に入れないようにされていたんだ……」

「は?師匠が……」

 どうやらウィンさんが、1か月ここへ来なかったのは、師匠のせいだったらしい。

「お、やっとかぁ~」

 背後から師匠の声がした。

「どういうことですか?」

「ええ~、だって~、この王子、ココのことすぐにでも隣国に連れて行きそうだったから。でもココは自分の気持ちが分かってなさそうだったし、だからココが王子を恋しがるまで強制的に王子を排除したのよ」

「排除って……」

「それで、ココはどうしたい?私の弟子のままここで暮らして、魔女になる?そこの王子と一緒に国へ帰って嫁になる?さあ、どっち?」

 師匠はそう言って、私に手を差し出した。初めて会ったあの時と同じように。師匠かウィンさん、どちらかを選ぶ……

「ごめんなさい.ウィンさん……」

「え、ココ、まさかここに残るのか……」

「……師匠、私どっちか一つは選べません。私はウィンさんのお嫁さんになりたいです。でも、師匠を選ばないことも出来ない。魔女になって子供が出来ないのは困ります。でも、ずっと師匠の弟子でいたいです。駄目でしょうか?」

「なるほど、そうきたか。いいんじゃない。ココは5歳からずっと私の弟子としてここで育った、娘も同然ね、嫁に行ってもそれは変わらない。だから好きな男の手を取りなさい」

 ウィンさんが私に手を差し出した。私はウィンさんの手をぎゅっと握った。

「よし、これで心置きなく金貨100枚いただけるわ。セイ、このまま南の国でゆっくり過ごすわよ~」

「こら、ミラ。また君はそうやって強がって……」

 セイさんが優しく師匠を抱きしめた。1か月一緒に過ごしたが、セイさんは相棒というより師匠に甘々な旦那様だった。いつも強がる甘え下手な師匠を、上手に甘やかすのだ。私もこれを見て安心してウィンさんのところへ行けると思った。


 その後、西の魔女の家を片付けて、みんなでタルティア王国へ転移魔法で飛んだ。私は無事本当の両親に再会を果たした。母、アリシア様は私と同じピンクブロンドの髪で、父、アルバート様は銀色の瞳だった。姉のチェルシー様は18歳で、すでに伯爵家にお嫁に行ったそうだ。弟のクリスは10歳で、私と同じ髪と瞳だった。私ともすぐに打ち解け、今では可愛い弟だ。

 両親は、今まで保護してくれた師匠にとても感謝して、金貨100枚を報酬ではなくお礼として渡した。初めは遠慮していた師匠だったが、熱心に渡されとうとう受け取っていた。お返しにと、師匠は希少な魔石を数点渡していた。これも売ればかなり高額だと、両親は返そうとしたが、これも師匠が固辞した。

「ココの結婚準備に役立ててください」

 両親はこの魔石を売ったお金で、結婚式用のドレスを作ると言っていた。師匠は嬉しそうに頷いた。

 私の本当の名前はコレティーヌで、愛称がココだったようだ。偶然なのか、その当時の私がそう名乗ったのかは記憶にない。こちらに来てすぐ、ウィンさんは私と王宮で暮らしたがったが、ここでも師匠の横やりが入った。

「ずっと離れていた家族がやっと元に戻ったのに、結婚準備が済むまで待てないなんて、そんなの犬以下でしょ。たかが半年ぐらい待ちなさい」


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