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第2話

 森を慎重に進むと、少し前方に魔物が見えた。中型の割と強いやつだ。男性が剣を握って魔物と対峙していた。何とか応戦しているが、肩から血が出ているし呼吸も荒い、もう限界なのだろう。

 仕方なく私はポーチに手を突っ込んだ。魔物が嫌がる匂いと痺れる薬が混ざったものだ。それを素早く投げつけながら男性に向かって叫んだ。

「息を止めて!!こっちに来てっ」

 薬が命中して魔物は嫌がる様子だ。匂いと痺れる成分が分散して一瞬だが隙が出来る。その間に私は風魔法を細く強く魔物に向けてはなった。この魔物の皮膚は固く、普通の剣では貫くのは難しいのだ。突き刺さった風の槍に向けて、雷を落とした。これで少しの間、足止めが出来るはずだ。師匠ならこんな魔物一撃で倒すのだが、私にはそんな事無理だ。

「私について来て!!」

 男性は一瞬躊躇したが、そのまま私について家まで帰って来た。師匠の家の周りには結界がはってあり、魔物は入って来られない。人も私や師匠が許可しないと入れないのだが、今は緊急事態だと許可をしたのだ。

「助かった。もしやあなたが西の魔女か?」

「まさか、違いますよ!」

「そうか、そうだな。西の魔女は見た目が25歳ぐらいだと聞く。君はまだ子供だな。それに村で聞いたが、西の魔女は処刑されたと……」

 15歳はこの国では成人だが、小さい頃栄養が足りてなかったからか、私は平均的な女性よりかなり小さかった。あと少しは伸びると信じているが、師匠に比べたら胸もかなり寂しいものだ。どちらも希望は捨てていない。

「西の魔女に何か用ですか?こんな辺鄙なところにやって来るなんて、余程の用でしょうか?」

「ああ、私は隣国から来た。西の魔女に呪いを解いてもらいたかったんだ……」

 そう言って男性は右腕の袖をたくし上げ、右腕を見せた。そこには禍々しい黒いイバラが巻き付いたような紋様が、手首から肩の方へ向かって伸びていた。

「これは、確かに呪いですね……こんな紋様は初めて見ましたが」

「このイバラは魔力を糧に成長する。呪われた者は魔力を吸われて魔法が使えなくなるし、このイバラが成長し心臓に達すると命を奪われる、そう魔術師に言われた。国に解呪できる者はいなくて、もしかしたら西の魔女なら可能性があると言われ、一縷の望みをかけて訪ねる途中だった。魔法が使えず、あのままだったら死んでいたよ。助けてくれたありがとう」

「いえ、偶然通りかかったので……あの、死んでしまうのですか?」

「ああ、私が20歳になった時に呪いは完成するらしい」

「そうですか、きっと西の魔女は死んでいません。でもいつ戻るかもわかりませんし、その呪いが解呪できるかも師匠が見ないと分からないと思います」

「師匠、という事は君は西の魔女の弟子か?」

「そうですね、ここは西の魔女の家です」

「では、ここで待つことは可能だろうか?」

「待つ?」

「ああ、この場所は不思議と呪いが軽くなるような気がする。いつもはイバラがギリギリと腕を締め上げるように痛むんだが、今は少しマシな気がする」

「そうですか。結界のせいかもしれませんね」

「勿論待っている間の滞在費、食費、お礼も支払う」

 男性は腰に下げた革の袋から数枚の金貨を取り出し、テーブルの上に置いた。

「生まれて初めて金貨を見ました。これ、一生ここでなら暮らせそうです」

 これがあれば、当面の生活費には困らない。いや、かなり充実した食生活が送れる。私は唾をごくりと飲んだ。

「でも、いつ戻るか分かりませんよ」

「ああ構わない。国に戻っても命を狙われるだけだし、20歳になればどの道死ぬんだ。それならばここで自由に生きるのもいいかもしれない」

 若いのに疲れ切った顔でそう言う男性は、本当に今にも死んでしまいそうだった。

「名前は?」

「ああ、ボー、いや、ウィンでいい」

「ウィンさんですね、私はココです。ではここでよければどうぞ。おもてなしは出来ませんが、客間が一室あるのでそこを使ってください」

「ああ、助かるよ」

「あと、ここで生活するということは、自分のことは自分でするということです。出来ますか?」

「君は小さいのに、一人で偉いな」

「そうですか?ちなみに私は15歳です。小さい時に親に捨てられたので、師匠に助けてもらってからはここで過ごしています。私はマシな方だと思います。師匠がいなかったらすでにこの世にはいなかったでしょう」

「15歳……」

 意外そうな顔でウィンさんは私を見た。きっともっと子供だと思っていたのだろう。

 

 その日は森で採れた山菜に、ウィンさんのくれた干し肉を入れてスープを作った。パンは村で買ったものを出した。食材も二人分必要だから、村に買い出しに行かないと。久しぶりに誰かと食事をしたら、いつもより少しだけ美味しく感じた。

「おやすみなさい、ウィンさん」

「ああ、おやすみココ」

 誰かにおやすみを言うのも久しぶりだった。少しだけ心が温かくなってほっこりとした。一人で平気だと思っていたが人恋しかったのだろう。

 

 夜中に隣の部屋からうめき声が聞こえてきて目が覚めた。どうやらウィンさんのものらしい。壁が薄いから音が筒抜けのようだ。そっと扉から部屋の様子を覗くと、ウィンさんはベッドで目をつぶっていた。腕の紋様が生き物のようにうねり巻き付いている。苦しそうに浅い息を繰り返しながら寝返りをうっている。

 私は心の中で、うるさくて眠れないから仕方ないと自分に言い訳をしてから、ウィンさんの腕に癒しの魔法をかけた。

「なかなか厄介な呪いですね……」

 呼吸が安定したのを見届けて、部屋へ戻って寝た。

 

 翌朝目を覚ますと、ウィンさんは既に起きているらしく、外から薪を割る音が聞こえている。各自出来る事をして過ごす、昨日そう取り決めをした。でも……

「ウィンさん、非常に助かるのですが、肩の傷が開いてしまいます。治るまではほどほどでお願いします」

 肩の傷ぐらいなら癒しの魔法で治せるのだが、師匠に秘密にするように厳命されていて人前では使っていない。昨晩はウィンさんが寝ていたので使ったけど。

「もう大丈夫だよ。昨夜はいつもより眠れたから、調子もいいんだ」

 爽やかな笑顔でウィンさんはそう言った。昨日出会った時は魔物がいたり、帰宅後もバタバタしていて、食事の時も夜で薄暗かったので、顔をゆっくり見ることが無かったけど、ウィンさんはかなり綺麗な男性だった。


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