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授業中に行われる試験

 授業は今までにない早さで進んでいく。

 それでなくても4年生から早かったというのにその比ではない。毎日1時間の授業が追加された。

 週に2日ある休みの内の1日も補講に充てられたのだ。夏休みは3日減り試験も延びた。


 この日は1限目から詩の授業だった。教えてくれている先生が腕時計を見ながら残り3分ですねと呟く。

「時にソルレイ様、詩を詠める心の余裕はありますか?」

 余裕がないなら特別に免除してくれるという。


 心配りのできる先生は流石だと称賛したかった。

『ありがとうございます』そう言って終わらせたい。逃げ道を用意されると人はそちらを選びたくなるものだ。


 だけれど先生、それは後でそっと言ってくれないと。

 クラスメイト達が凄い顔で見てきている。


 “羨ましい”だったり“仕方がないですわね”だったり、様々な表情で見られていた。

 飛びつきたいのに飛びつけない。


 心の中の未練がましい声を押さえ込む。

「お気遣いありがとうございます。ですが、好奇心で私の顔を確認に来る他クラスの生徒をクラスメイトが追い払ってくれるのです。皆の前で“余裕がない”と情けないことを言いたくありません。試験はボロボロでみっともないことになるかもしれませんが、受けさせてください」

「さすがですね、ソルレイ様」

「いえ、上手くいかない時も受け止めようと思います」

 試験が上手くできなかった時の言い訳だけを先にしておいた。

「その心がけが立派なのですよ」

「ありがとうございます」

 仕方がない。

 苦しいのは皆同じだ。


 来週の授業中に一対一で試験を行う提案をする。先生も了承をしたことで即興で詠み合う試験の日にちが決まった。

 


 次の確率の授業では、試験が前倒しになった。

 ノックス先生はよく分からないことをするな。

 どの先生も生徒に配慮をして遅らせているのに。

 とはいえ、得意な魔道具作りだ。早目に合格がもらえるのは有難い。計算して組み立て、発動するかどうかで合否が決まる。


「今日は、魔道具作りの実践です。魔道具をこの授業中に作れたら試験は合格にしてもいいですよー。頑張ってくださーい!」


 試験内容は少し変更になった。学校側が全て材料を用意したのだ。採りに行く必要がなくなった。全員に材料が行き渡ったところでノックス先生に釘を刺す。


「作り上げるので、確実に合格にすると言って下さい。後であれは冗談だった。と言われるのは嫌です」

「ソ、ソルレイ様。それは、できによります」

「これで作れる魔道具は、底がしれています。フェズラー鉱石を1つください」

「いえ、そういうのは、ちょっと。とにかく出来が良ければ認めますので」

「ソルレイは、出来の基準が曖昧だと言っている。後でどうとでも言える物言いをするな」


 ノエルがラウルの担任のノックス先生に冷たい眼差しを送る。

「ひぃっ」

 ラウルツ君はあんなに可愛いのに……。同じ主席なのに……。何やらぶつぶつと言っている。


 本格的な試験が始まる試験期間前に、授業中に試験が行われる詩と確率の授業の合格は早目に取りたいと俺もノエルも思っているので、“合格にしてもいい”という曖昧な表現が引っかかったのだ。


 来週も再来週も授業中に魔道具作りになるのだから、先生からしたらここで合格を出す必要はないため、もう少し見たいと、合格を引き延ばすことができる。


「この材料じゃ魔法を撃ちこまれても一撃も回避できないよ。付与魔法が精々だ。違う魔道具に幾つか組み合わせれば、一撃なら守れるかも」

「組み合わせるか?」

「そうする? 合作にしようか」

「ああ」


 相談して魔法の効果時間が長くなる魔道具を作り上げ、キーホルダーにつけた。

「先生、できました。魔法の効果時間が1.5倍になる付与魔法の魔道具です。キーホルダーにしました」

「ええ!? まだ20分ですよ?」

「ノエル様との合作です。出来が良ければ二人とも合格を下さい」

 茶色のサラサラヘアの若い男性教諭は、確認してすぐに合格をくれた。

「いやー凄いですね。合格です」

「「あれで良かったのか」」


 ノエルが他の科目の試験勉強を始めたので、クラスメイトを見るとこういう作る系は男子が得意で、女子が苦手のようだ。

 中にはどうしていいか分からずにいる子もいて、必死にノートを見ている。


「ケイト嬢、ソラ嬢」

 声をかけると二人が助けを求めるように見るので頷く。

「この材料では付与魔法が精々なんだよ。先にどういう付与にしたいかを決めるんだ。それから核になるのはこの鉱石。魔法陣でいうところの発動する心臓部分だ。付与魔法を決めたら、魔法陣でいうところの時間、範囲これらを決めていく。まずは、そこまで紙に書いてごらん。どれくらいの時間や範囲が限界かはまだわからないだろうけど、5分程度、半径1メートルほどがこの材料の限界だ。参考資料は魔道具教本の60ページ。まだやっていないけど分かりやすいよ」

「ソルレイ様、ありがとう存じます」

「分かりました。やってみますわ」

 ほっとした顔で紙に書いていく。

「ソルレイ様。組み立てたのですが発動しません。何が原因でしょうか?」

 アレクやフォルマが同じ内容を尋ねる。

「考えられるのは、1、材料の限界を超えていた。2、接続の魔法陣の組み込みがうまくいっていない。3は、組み立て自体が間違っている、だね。もう一度組み立て直してみて。それから、2を確認して1に戻る。それでも駄目なら持って来て」

「はい。ありがとうございます」


 席まで作った物を持って来た何人かの魔道具を確認していく。これでは合格は貰えないから、もう少し効果時間を長く設定して、魔法陣を書きかえるように突き返したり、組み立て間違いを一緒にやり直したり、女子生徒に教えに行ったりした。


「ソルレイ様。一応試験なのですが……」

 困った顔をされたが、それほど手伝ってはいない。

「付与魔法の選択や組み立ては本人がやっています。基礎を見るのだからいいのではありませんか? 後期はもっと厳しくなるのでしょう? 効果時間や基礎材料の知識が疎かになっています。これは中途半端に休みになったからです。先生が復習から入って下さればよかったのですが、時間も少ない中でしたからね。来週もう一度やっていただけませんか? このままだと後期の授業についていけなくなります。それに、フロウクラスの生徒がずっと図書館の魔道具の本を占有していたのです。3年生の冬休みから1冊もない状態が続いていましたから、それを生徒だけの問題にするのはいかがなものかと……」


 通うのは上級貴族ばかりではなく、他国の生徒も多い。

 グルバーグ家の私でさえ図書館の本を頼りにしているのに、あんまりだと先生に伝える。


「そうなのですか? 図書館の本は、今は借りられるのでしょうか」

「今は弟が借りています。3年生の冬休み前に頼んで予約をしてもらったのですよ。返すとまたフロウクラスで占有です。ただ、司書の方に相談したところ、フロウクラスの生徒は、何度も借りているそうで、予約を入れれば借りたことのない他の生徒を優先してくれるそうです」

 ノックス先生が授業をするのなら話しておく方がいい。


「なるほど、そんなことになっていたのですね。分かりました、今回はソルレイ様が助言した者も合格にしておきます」

「ご理解いただきありがとうございます」

「後期は駄目ですからね?」


 指を差し先生らしく注意をするが、ラウルから話を聞くにどうにも頼りない先生という印象が拭えない。


「では、先生の教え方にかかっていますね! 大人しくお手並みを拝見させていただきます」

「あ」

 憂いを含んだ顔を笑顔で躱した。

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