戦いの始まり 5
周囲は静かで人気はない。門から校舎と寮塔の間にある教務課の建物に向かう。
「教務課からだね」
「うん、敵か味方か分かっていれば楽だ。関わっていたら学校全体が危ない」
「これは一体なんなのだろうな」
「もはや学長が学長なのかも分かりませんよね」
「殺されちゃってるかもしれないもんね」
「「「「あり得る」」」」
「いやいや怖いよ、それ」
学内にも騎士がいるかもしれないと話していたが、接触することはなく無事に皆で校舎に入り、渡り廊下を通って教務課へ向かう。
中に入ると、いつもの教務課の人がすぐにカウンターまで来てくれた。
「おや? 皆さんでどうされました?」
ああ、よかった。杞憂だった。顔を見てすぐに関わっていないと分かった。詰めていた息を吐く。そうと分れば、授業に本はいるな。
「登校初日に教科書を忘れてしまったんだ。借りに来たよ」
「え? 登校日は10日ですよ。明後日です」
「「「「「…………」」」」」
皆で視線を交わし合う。説明するかどうかだが、ラウルは確認したかったようだ。
「正門前とロータリーに騎士がいるよ?」
「仰々しいのですが、不審者の警備です。寮で過ごす方も多いですからね。仲間がいると困りますから」
生真面目な職員のその言葉を受け、ノエルが口を開く。
「――――――以上だ。アヴェリアフ侯爵家の家紋に誓う」
これまでの経緯をノエルが家の代紋に誓って話をしてくれた。
「これは、参りましたね。本来報告すべき学長が、となると、軍でしょうが……こちらも騎士が不審な行動をとっているとなると根回し済み、か?」
口元に手をやり考えている。
「ノエル様達がいてくれたのが不幸中の幸いでした。私は学長に殺されそうになったのでしょうか。あの教員は採用時にわざと見逃されたのでしょうか。家に届いた手紙は今日が登校日でした。ここにいる全員が見ています。家に偶々来ていた伯爵家や子爵家の皆様も手紙が来た時にいらっしゃたのでようやく登校ですよ、と見せました。だから来たのですが、騎士の態度が不審のため教務課に行こうかと。教室に刺客がいるということはありますか?」
カルムスやダニエルはもはや家族だが物は言い様だ。伯爵家と子爵家は本当だしな。
「騎士が不審者を入れたなら教室に誰かいるかもしれませんね」
一人の職員の呟きにより、集まって来ていた教務課の人達がざわざわと騒ぎ出す。
「そんな、信じられない。すぐに救援要請を入れましょう」
「軍はまずいぞ。見分けがつかない。まずは教員に連絡すべきでは?」
「皆さん!緊急連絡を使って全教員に連絡を!」
バタバタと多くの人達が奥の部屋に走って行く。開いた扉から魔道具に手をかざして先生達に連絡を入れていく姿が見えた。大きな水晶の魔道具だ。光るので緊急信号か。言葉でやり取りできるわけではないらしい。興味深くてじっと見てしまう。
「お兄ちゃんここにいる? 教室に行ってみる?」
ラウルの言葉に頷く。
「そうだな、行ってみようか」
誰がいるのか見たいしな。今日は、お守りを沢山持たされている。
「待ってください!危険です!」
「そうです!」
「教員が来るまでお待ち下さい」
教務課の人が止めるが、ここは確認に行った方が良い気がする。敵を知ることが一番大事だ。
「危ないのは承知の上です。誰かいたらなにか分かるかもしれない。情報が欲しいです」
得られる機会は今日しかない。俺の言葉にラウルも頷き、お守りがあるから大丈夫だよと指輪が見えるように手の甲を向けた。
「ノン達はここにいて。僕たちが見てくるよ」
「一緒に行く」
「そうですよ。一緒に行けば躊躇うかもしれません」
「外交問題になるぞと言ってやりますよ」
教務課の人達が悲鳴を上げる。
「「「「「「絶対に行かないで下さい!」」」」」」
教務課の人達にここから出さないぞと違う意味で包囲をされた。仕方がなくカウンター前のソファーに座って待っていると、深刻な顔をした先生達がすぐに教務課にやって来た。
座っている俺達5人にクライン先生が代表をして話を聞くという。ノエルが同じ話をしてくれた。
「これは一体何だ?」
「申し訳ないのですが、こちらが聞きたいくらいなのです」
教務課の人に、一応駆けつけた先生順に時間と名前を書いてもらっている。
これがここに留まる条件だった。
学長の命だとアルベルトは言っていた。教室で教員が待ち受けていた場合もあるからな。
何食わぬ顔で合流とか怖い。
このことは教員が来る前に全員に言った。
「グルバーグ家は名門中の名門で我が国の要石だから、手を出す貴族も敵対派閥もいませんわ。ソルレイ様もラウルツ様も人畜無害なのは分かっているし……」
先生のこんなにも困った顔は初めて見るな。
「だが、明らかに校内で起きているぞ」
「狙うのならもっと幼い頃のような気がするがね」
他の先生の言葉に頷く。確かに。本来はそうなのだろうが、俺とラウルがお爺様の孫になったのは5年前だ。
そう考えると“今”なのか?
「ラインツ様がいて無理だったのでは?」
「学校でしか狙えないってことなのかしら?」
「他国の学校に転校したら収まりますか?」
それでなくなるのなら一先ずはそれでいい気がする。
「待ちなさい!」
「それはよくありませんね。なんだか別の疑惑を呼びそうです」
「私ではなく友人の3人が狙われたという可能性はありますか?」
「何とも言えないわね」
まあ言ってみただけで、そんなことは思っていないのだが。さて、どうすべきだ。
「では、私と弟は休学届を出します」
「それもまたいい手ではありませんね」
そう言ったのはマットン先生だった。憂いた顔で、他国よりもアインテールの方がいいと言う。
「では、このまま学校に通えと仰るのですか?」
学校で起こっている以上、学校関係者が犯人である可能性は高く、学長の名前が挙がっているため安全ではないと告げる。そう言うと先生達も思案する。
「教室に行ってみようよ」
ラウルがもう一度提案をする。俺のやりたいことに力を貸してくれるラウルの頭を撫でてソファーから立ち上がった。
「うん、そうしよう。もう誰もいないかもしれないけど」
「学長は魔道具を作るのが上手いんでしょ? 何かあるかもしれないよ?」
「そうだな。物証とまではいかなくても痕跡は残っているかもしれない」
俺達が揃って席を立つと、先生達も行くと言ってくれた。教務課の警護をお願いして先生達には分かれてもらった。
半分の先生と一緒に教室に向かうが、廊下なども安全か確認しながら教室まで行くので時間がかかった。
着いたらついたで、いつものようにレリエルクラスの扉の前に立つと違和感を覚える。
扉を開けようとしたクライン先生の手を、思わず掴んで止めた。
「待って先生!なにか変だ。ああ、扉がもう魔道具だ。触れたら危ない」
「嘘でしょ……」
ラウルと同時にエスコートをして先生を後ろに下げた。
「見た目は普通の扉に見えますが……」
先生達が困惑の声を上げる。
魔法や魔法陣には詳しいようだが、魔道具には慣れてないのかな。さすがにマットン先生は気づいている顔だ。
「扉ではなく、外側を見てください。組み込まれた魔道具の扉、周りの壁に僅かに亀裂があり少し変色しているでしょう? 間違いなく魔道具です。先生方何か投げてもらえませんか? 皆も一つずつ投げてくれ。俺は最後に投げよう」
「分かった! 誰で反応するか見るんだね」
「俺達の可能性を消すのだな」
「先生達にも反応したら無差別かもしれないということですね」
「やりましょう」
先生が一人ずつ投げても何も反応しない。
ノエル達も一人ずつやっても白。
ラウルが先に投げ、無反応。
最後に俺が先生達に確認してもらったハンカチを投げるとハンカチが扉に吸い込まれた。
「お兄ちゃんのハンカチなくなっちゃたね」
「うん。無くなったということは移動の魔道具だ。俺をどこかに飛ばしたかったみたいだ」
そういえば、騎士も拘束するとか言っていたな。生け捕りにしたいのかもしれない。
この魔道具は最高峰に位置するゲートだろう。希少な物がふんだんに使われているから、外して持って帰りたいくらいだ。
「欲しい石が目の前にあるのに。触れそうにないのが、残念だ」
「僕がやろうか?」
小さな呟きをラウルが拾い、やってあげると笑みを浮かべる。
「本当? 頼んでもいいか? 狙われているのは俺みたいだから戦利品に欲しい。向こうの手持ちのカードも減らせる。分解して鉱石を取り出そう。俺がこうしてっていうから」
「うん!」
先生達が危ないわよ!やめなさい!という中、マットン先生を見ると、興奮している目だ。味方につけよう。
「マットン先生。ゲートはなかなか作れません。その分希少な鉱石が沢山使われるのはご存知でしょう? 分解をした者で山分けしませんか?」
「いいでしょう!私も参加します!」
「ミスターマットン!!」
「やめなさい!」
「何を言っているんだ!」
「この場でやるなど正気かね」
他の先生が止めるが、本当にゲートかは分解すれば分かります!と先生が押しきった。
間違いなくゲートだが、一級品どころか特級品の鉱石がごろごろ使われているもんな。先生、本当は魔道具の方が魔法陣より好きみたいだ。ダニエル式交渉術の出番もなかった。
「俺達も参加する」
「ソルレイ様がここまで言うのなら、余程貴重な鉱石なのでしょうからね」
「参加すべきですね」
「うん。俺は触れないけど、指示はできるから山分けに参加することを認めてね。弟もだよ」
「ああ」
ノエルが頷き、マットン先生も『いいでしょう』と頷いた。
そこから、一つずつ魔法陣を書いては魔道具のガードを1枚ずつ外していく。全部を外したらようやく扉を動かせるようになるのだ。
「最後に、範囲魔法の魔法陣と魔力付与を消す為に同量の魔力で上書きをするんだ。そうすると魔道具が無力化される。大事なのは組まれた方ではなく、付与と範囲というのがゲートの特徴だね。これは、魔道具によるから注意が必要だ」
ラウルがお絵かきのように魔法陣をいくつも描いて他の先生に魔力を込めてーー!と頼んでいる。
「ノン。お兄ちゃんの説明分かりやすいね。僕、魔道具がどういうものか分かったよ」
「ああ。魔道具の試験はこれで大丈夫だ」
「そうですね。あの偽教員の授業はさっぱりでしたが、本も読みました。これでいい点数が取れそうです」
「私もです。ソルレイ様のおかげで仕組みがよく分かりました。それにマットン先生のおっしゃる通り分解するというのは大事ですね」
皆でやり切った。
「よし。最後に浄化魔法だ……。マットン先生、“アクアス”と“ハインティ”の違いってなんですか? ここでは、どちらがいいのですか?」
しゃがんで作業をしていたのだが、全員が顔を上げてマットン先生を窺う。
「フフ。仕方がありませんね。アクアスは清浄魔法で、ハインティは浄化魔法。一般的にはそう言われますが、こと魔道具に関してはアクアスを使います。あまり知られていませんがアクアスにも浄化する力はあるのですよ。ハインティは穢れや呪いといった蓄積したものを滅して浄化、アクアスはその物本来の姿を取り戻す浄化と覚えなさい」
おお!分かりやすい。
「やっぱり先生の説明は分かりやすいです。魔道具も先生の授業を受けたかったです」
照れている先生を余所にノエルがアクアスをかけたのを見て、俺も指を近づける。
「うん、もう大丈夫だ」
ぺたぺたと指で触れて直接確かめたことを、他の先生に怒られたが、ここまでやったのだから問題はない。
扉に使われていた木枠をフンと拳に力を入れてブーランジェシコ先生が破壊した。
やはりその体は……。
木枠を外すと扉を廊下に横たえる。中に嵌め込まれていた希少な鉱石がごろごろと転がった。
「わぁ! ノエル! これが欲しい! お願い!」
俺は指を差して小さい石をコレコレ!と欲しいアピールをするとあっさりいいぞと言われて嬉々として手に入れた。
やったー!一生かかって探す石を手に入れたぞ!
「私はコレです! 絶対にコレが欲しいです!」
マットン先生が言うと、ノエル達が相談に入る。
「どうする?」
「あの喜びようならノエル様がもらうべきでは?」
「大きさも一番あります」
「待ってください! この鉱石はディハール国では手に入るはずです! ソルレイ様が選んだのもアインテール国では希少な鉱石ですが、バルセル国では手に入る物です!」
マットン先生がそう言うので黙っておく。俺が貰ったのは、ポフィルデート石で幻の記憶鉱石だ。
マットン先生の物も、ケルベルト石でゲートの要になる貴重な鉱石だった。家に置くと守り石になる。
「お兄ちゃん、僕はどれを選んだらいい?」
話し合いをしているのを横目にラウルがこっそり尋ねるので、じっと並んだ鉱石を見る。
「絶対にこれだ。ラウルと相性が良いはずだ」
カクリ石は、そのものずばり隔離できる石で、これだけのものなら魔法陣すら隠しておけるだろう。
魔道具を作ればラウルの魔法陣展開の幅が広がる。
それにこのカクリ石は……。守護のエレメンツが入っている希少石だ。
万が一魔道具だとバレてもこの石が魔道具全体を守ってくれる。身を守る魔道具は多いが、魔道具自身も攻撃から守る魔道具となると希少性の高い物になる。家宝になりそうだ。
「どこにでもある鉱石なんだけど、ここまで純度の良い物は滅多にないからこれにしよう」
こそっと耳打ちする。まだ目がいっていない今なら譲ってくれるはずだと。
「うん、これにする! ノン、これもらっていい?」
「いいぞ」
小さい石を一瞥をしてすぐに了承された。鉱石は大きい方が良いものだという常識がある。ただ例外もあるというだけだ。次に欲しいのはあれだ。
まだ結論が出ないようなので、強引に決めることにした。
「ノエルは身を守ってくれる力が強いコレ、ハルドは魔法陣と相性の良いコレ、クラウンは長男だからコレとコレでノエルの持っている石と同程度が見込める。自国で他の質の良い鉱石と組み合わせて魔道具を作るべきだ。何の魔道具を持っているかというのは知られてはいけないよ。でもこれなら汎用性がある。これで、誰の持っている物も同じくらいにはなったかな。いや、まだ先生と俺がやや得か……。ノエルがコレで、ハルドがコレ。魔法陣の破壊を阻止できるだろう、さっきの石との相性もいい。クラウンはこれだな。ラウルツの分はコレとコレにするよ。 お兄ちゃんが作って渡すからね」
「えへへ。楽しみにしてるー!」
よし!二巡目だとマットン先生とコレが欲しい!と、他の先生達が若干引いている中、声を上げるのだった。
希少な石が沢山手に入りホクホク顔になる。
「得したなあ」
「ええ!かなりの収穫です!」
「教室にも珍しい魔道具があったらいいですね」
「見てみましょう!」
マットン先生と喜んでいるとクライン先生から叱られた。
「目的が変わってるわよ! 私達より先に入っては駄目よ!」
「学長の動きが気になりますね」
「誰かに洗脳されている線もあるが、さすがにここまでの魔道具を作れるとなると厄介だぞ」
年配の先生が私が見ようと言い、中を見る目が色んな場所に動く。
「ふむ。学長で間違いないな。レディスク家の魔法陣があるぞ」
その言葉を受け先生達が、私達も確認しますと外された扉に近づいた。俺達は、動かないように言われたので、周囲を警戒するように見回した。
「何よコレは!?」
「殺す気ですな」
「むぅ。入ったら死ぬまで攻撃を受け続けるな」
先生が覗いた教室には無数の魔法陣が浮かんでいたようだ。
見ておこうと教室を覗く。空間に数多の魔法陣が浮かんでいる。設置型は、魔導石で魔力を込めたのだろう。
攻撃の魔法陣の中には見慣れないものもあった。これだけ描くのに8日も使ったのか。魔力の多いお爺様があの美しい神殿で描いたのはこれの何倍もの数があった。
魔力が少なくても魔導石があれば発動できるのが魔法陣のいいところなのだが、ゲートにいい鉱石を回したようだ。言い方は悪いが、この程度の魔法陣の難度なら揃えられた魔導石も大したことはない。資金力も乏しい気すらする。
となると、単独犯かいても2、3人か。人数がいればもっと早くに描き終わったはずだ。
「ミスターマットン、あなたはどう見ます?」
「ゲートは後ろ扉だけでした。レリエルは一番端の教室で生徒は後方からの出入りが多いです。しかし、万が一前から入室した場合のことを考えて、魔法陣を展開させたのでしょう。ゲートにハンカチーフを飛ばしてしまいましたから、そろそろここに来るのではないかと思います。若しくは騎士を使って正門を封鎖しているかもしれません」
グルバーグ家はラインツ様がいるので大丈夫かと思いますが、正門で帰ったと言う執事は危ないかもしれません、という。
ロクスにはカルムスが作ってくれたお守りを渡した。
なんとかなると思うが心配だ。
「まずいわね」
「それが分かっていて、悠長に分解をしていたのですね?」
「どこで会うかなど運次第ですよ。それに多くの人間が知ることになりました。もはや隠し通せません」
初めは俺だけのつもりだったのに知られすぎたので計画は破綻しているようだ。
「教務課も軍にどういうことか問う質問状を送っていたわ」
「私達もそれぞれ学校の支援をしている貴族家へ連絡を入れました。そちらも動いているはずです」
グルバーグ家に恩を売れるかもしれないので、喜んで動きそうだということだ。
「お爺ちゃん怒って来そうだね」
「うん。それが目的なのかな」
俺はポフィルデート石を使って、教室の内部の魔法陣を記録した。ここでできる魔道具作りは石に直接魔法陣を描いて単石で用いることだけだ。記憶石があってよかった。
証拠って大事だもんな。
先生が言うレディスク家の魔法陣を教えてもらい記憶石の光を当て残しておく。知らない魔法陣も記憶石に残してから離れた。
皆でばったり学長に会ったら怖いなと言いながら教務課に戻ると、こちらも何事もなく無事だった。そこには、お爺様ではなくカルムスがいた。
「「カルムお兄ちゃん!!」」
二人で抱き着くと抱きしめて頭を撫でられた。
「二人とも怪我はなさそうだな。大丈夫だったか? ロクスがバカ騎士共を引き連れて戻って来たから驚いたぞ」
俺の渡したお守りを執事に渡すなんて、と怒られたが、カルムスのくれた一級品のお守が大事なロクスを守ってくれると思って渡したというとムスっとするだけだった。
「皆が助けてくれたの。学長に言われて動く騎士は公平じゃないね。僕たちを誘拐する気だったの?」
ラウルが軍の見るからにお偉いさんがいる前でカルムスに言った。
居心地が悪そうにしている。
「そうだぞ。グルバーグ家に来た騎士もバカばかりで普通に敷地に入ろうとしてな。一歩入った時点で捕まえてやったぞ」
俺達が馬車に乗っているだろうと叫んでいたらしい。
だったらなんだ? という話なのだが。盗難車でもなくグルバーグ家の車だ。どうこう言われる筋合いはない。
「敷地に入ったら不法侵入だもんね」
「ああ。で? 学長とはやり合ったのか?」
「ううん。教室には後ろの扉にゲートと教室内は魔法陣ばっかりだったよ」
誰もいなかったと伝えた。
「仕方がない。学長室に行ってみるか」
一緒に行くか? と聞かれたので『行く!』とラウルと答えた。
先生達はもう行かないで欲しいらしく、止められた。
「どうしても行くなら私も行くわ」
クライン先生が立ち向かうように言うが、心配になる。
「担任はハイブベル家のクラインだったか。ラインツ様の一番弟子のカルムス・グレイシーだ。学校で起きている以上教員も怪しんで当然だろう? 邪魔だ。ついて来るな」
「酷いおっしゃりようですわね」
「お前と俺じゃ格が違うんだよ」
学長を捕まえてきてやる。
こっちの軍属に引き渡すからおまえたちはここいろ、と教員達に上から物を言う。
ポカンとするほどの俺様ぶりだ。
「「カルムお兄ちゃん! 先生達に謝って!」」
お爺様に言うよ!と二人で怒った。
「はぁ。はい、はい。悪かった、悪かった。行くぞ」
「もう! それは謝ってないよ!」
「先生ごめんね。カルムお兄ちゃんいつもあんな感じなの」
俺とラウルが失礼をと謝り、ノエル達に先生達といてと声をかけると、まさかの返事だった。
「一緒に行くに決まっているだろう。お前たちといた方が安心だ。校内で起きている以上、教師が信用に欠けるというのは事実だ」
「私もです。信用している先生もいますが、初めて会う先生も多いのでここにいるのは怖いです」
「右に同じです。クライン先生やマットン先生を始め、授業をして頂いている先生は信用しておりますし、少なくとも一緒に教室に行って下さった先生方には感謝しております。申し訳ありませんが、他国出身の生徒ゆえとご理解ください」
うわぁ。
「全く、あなた達は……」
先生達が顔を手で押さえる。
しかし、もう行こうよ、とラウルが手を引いているので、行って参ります、と頭を下げてカルムスの後を追った。




