夏休みの魔道具作り
ラウルと遊び回りながら夏休み中に、お爺様に貰った本で魔道具を幾つか作った。それを参考に自分で設計図を作り組み立てた。
振ると明かりが点き、もう一度振ると消えるポケットに入る小型ペンライト。それと受発信器を作った。この二つを午後のお茶の時間に完成品をお爺様に見せた。
「ソルレイ、これはどういうものかの?」
「この小型の発信機を相手の服や鞄の中に入れるんだ。そうすると魔力波を出す。そしてこっちの受信機でその波をキャッチしてどの辺りにいるのか分かるんだ。ここから1キロ以内ならここのメモリに1って表示されるよ。アインテール国を網羅とまではいかないけど街単位なら大丈夫」
渡すと魔法陣を見て、鉱石との相性をよく考えている。組み合わせがいいと褒めてくれた。
「素晴らしい魔道具だ」
褒めてもらえて嬉しいので、お爺様の所に行き頭を出すと撫でてくれた。
「良い子じゃ。頑張ったの」
「うん!軍だと索敵とか言い出しそうだけど、これはそういうのじゃなくて迷子になりやすい子供とかにつけておくとお母さんが分かるっていうイメージで作ったんだ!」
照れながら説明をする。
「申し訳ありません。ソルレイ様。私は完全にそう思ってしまいました」
ダニエルが頭を振り悔恨の声を上げる。
「いや、誰でもそう思うぞ。騎士ではない俺とてそう思った。迷子とか親のミスだろ」
また始まった。迷子は誰かのミスとかじゃないよ。
「この世に生きているのは貴族ばっかりじゃないの! 遊んでる内に帰れなくなっちゃうとか普通だからね!」
「そうだよ。カルムお兄ちゃん。平民は共働きだよ? 夕方に帰るんだよ」
もう少し領民の暮らしに目を向けるように二人で言うと、目を泳がせる。
「む。そうか。それなら便利だな」
「ハッハッハ。かたなしじゃのう」
「街に一つあれば、発信機だけを買えばいいんだ。いいと思わない?」
「なるほどな。どうせ金を出すならそっちのペンライトが良いが、どれくらい持つ?」
お爺様に怒られたくなくて話を変えたな。でも乗ってあげよう。カルムスのことも好きだからな。
「これは、5年だね。もう少し発光石が大きけれ8年持つんだけど、少し大きくなっちゃうからポケットに入るのを重要視したんだ」
持ってその軽さに驚いたらしい。振って何度も確かめると、頷く。
「買おう」
「駄目。両方ともお爺様にあげるんだ」
「お兄ちゃん、初めて作ったものは、お爺ちゃんにあげたいって言ってたもんね」
「うん!」
ちらっと見ると、嬉しそうに笑ってくれるお爺様がいた。
「そうか、そうか。では、私が貰おう。ソルレイの初めての作品だからの」
「うん! お爺様に渡したいって思ったらすごく勉強できたんだ。貰ってくれたら嬉しい」
「私も嬉しいぞ。可愛い孫からの贈り物じゃ」
目を細めて喜んでくれて、胸がぽかぽかとする。俺も照れながら満面の笑みを返した。
「師匠が相手では引き下がるしかあるまいが、俺にも作ってくれ」
「いいよ。でも、次はラウル。その次がモスとベンだからその次だね」
「何故、あいつらより後なんだ!?」
そんな声を荒げるようなことでもないだろうに。
「警護の仕事にこれがあれば便利だからだよ」
「面白くないぞ。俺はお前たちにとって兄だろう。先に渡せ」
「カルムス。そんな子供のようなことを……」
「ダニーの前に割り込ませてあげたのに。一番べったにする」
「アハハ! カルムお兄ちゃんが最後になった!」
「プッ」
メイドの誰かが堪えきれずに吹き出した。
「誰だ!? 今、笑ったのは!?」
紅茶を配したメイド達が蜘蛛の子を散らす様に下がって行った。見事な連携だった。
「カルムス。お主に笑いの才があったとは思わなんだが、ソルレイがくれると言うのだ。待つが良い。この子が金を取ると思うか? 兄ならば弟からのプレゼントを待つのじゃな」
「あーいえ、そのように思ったわけではありません」
歯切れの悪いカルムスに助け船を出す。
「うん。お金はいらないんだ。作るから待っていて」
「分かった。ダニエルの前だぞ」
「ダニーいい?」
尋ねると、くすくすとおかしそうに笑う。
「かまいませんよ。私も心待ちにしております」
「うん。我が儘なお兄ちゃんを許して」
「ダニー、僕からも謝るよ。許してあげて」
「はい」
笑いながら頷くダニエルと少々居心地が悪そうに装うが、本当は、譲って貰えて喜んでいるカルムスを見て俺は笑うのだった。
勉強机に椅子を並べて腰掛け、ラウルの分からないところに耳を傾ける。
「お兄ちゃん、ここ教えてー?」
「うん、ここはね、」
ラウルは後期の勉強を終えると、更に来年の2年生の基礎も終え、今は2年の後期の応用に入っている。
俺がお爺様に教わる時にラウルも一緒にと言っていたので、授業は簡単なようだ。
夏休み勉強を教えてと頼まれ、俺でよければと教えている。ダニエルの方が良いかもしれないのだが、今はカルムスとお出かけ中だ。
煩かった財務派閥の元に儲け話を持って行ったのが先週のことだ。内政派閥と財務派閥が蜜月の関係なので、少し切り崩しておきましょうというダニエルの助言を受け、適当なところで済ませるつもりだった儲け話を企画、立案して会いに行った。
これで一安心だと言っていたので、久々に二人で休みを謳歌しているのだろう。
メイドがダニエルを探していたので、今日はカルムお兄ちゃんと出かけたよと言っておいた。
「さようでございましたか」と頭を下げていた。
「お兄ちゃんの授業でやってる魔法陣ってどんなの?」
「ん? 教科書を持って来ようか?」
「うん!」
難し目の魔法陣を説明していくと、ラウルはうん、うんと頷いていた。難しいくらいの方が楽しいようだ。
頭を撫でて、2年生の後期に使う教本に戻り、教え終った。算数も教えるが、得意なようでこれと言って問題もなかった。
「優秀だなあ。お兄ちゃんが教えてあげられることが少ないよ」
「ふふっ。あのね、後期の試験が終わったら点数が張り出されるんでしょう? 満点だったらご褒美が欲しい!」
「いいよ」
「僕の為にお菓子を作って!」
それが褒美になるのだろうか。
「いつもラウルの為に作ってるよ?」
「新作!」
「ああ。新作か! 分かった。いいよ!」
「やったぁ!」
大きい目を細めてにぱっと笑うのが、天使だった。
「今日から考えるから頑張って」と、笑って伝える。
新作か。何を作ろうかな。ラウルの好きな柑橘系にしようか。それともチョコレート。は、難易度が高すぎるか。
「お兄ちゃん、もう一つ聞いてもいい?」
「うん、どこ?」
手元の本を覗き込む。
「魔法陣じゃなくって。お兄ちゃんは、魔法陣より魔道具が好きなんだよね?」
「うん、そうだな。作るのが楽しい。でも、ちょっと心配してたんだ。お爺様が喜んでくれるかどうか」
「お爺ちゃん?」
「そう、ちょっと引っ掛かってて……お爺様は魔法陣が大好きだからね」
願い出るまで魔道具の本だけが、部屋に一冊もなかった。
「そういえばそうだね。最初の時に歴史も魔道具もいらないって言ってたもんね」
「そうそう」
それもあるんだけどな。
でも、引っ掛かったのはレイナの残した設計図だった。
グルバーグ家は魔法陣の生みの家。あの設計図は隠してあった。親に隠れて作っていたと思ったのだ。
だから、お爺様にも魔道具なんかいいから魔法陣をと言われると思った。
「お爺ちゃん喜んでたね!」
「うん、考えすぎだったみたいだ」
「僕は魔法陣の方が好き。魔道具の授業になったら分からなくてお兄ちゃんの部屋に入り浸るかも」
教えてね。負けたくない子がいるのだと言う。驚いた。ラウルのライバルがいたのか。
「アハハ、任せて!その時までにもっと腕を磨くよ」




