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消えた楽師への道

 音楽の試験は難易度が上がった。

 俺が去年のダンスの試験の時に難易度MAXの曲を吹いたからで、先生からは来年の最後の試験に“レミオルベ”通称グレパスの泡沫を吹くことを求められた。


「4年生の時に前期の試験は無くすわ。1年を通して練習をして学年末に聞かせてちょうだい」

 それを3年生の前期に言う辺りが怖い。


 それなりに仕上げろと言うことだろう。


 今回の試験はダンス曲のグレッシングアイズで、難しいですと言ったのだが、

「ふふふ。駄目よ! あの時、“演奏しましょうか”と言ったのを覚えているわ!」

 笑っていない目で微笑まれ、抵抗虚しくこの選曲に甘んじることになった。


 家でシュミッツ先生に教えてもらいながら直前までかなり練習をした。手が震えないように剣舞の試験の前に、音楽の試験を先に受けさせてもらった。

 今回も悶えながらユナ先生に合格を貰った。


「ソルレイ様、いい話があるのよ。これなんだけれど……」

 手に持っているものには“コンクール”という文字が見えた。あ。日付が……。

「今年はね、素晴らしい栄誉のあるコンクールがあるのよ」


 先生から音楽コンクールの紙を渡されかけたので、受け取らずに、すぐに断りを入れる。


「ユナ先生。申し訳ありませんが、この日は、違うコンクールに出ないかと勧められて、そちらにエントリー済みなのです」

「まあ! なんですって!? 嘘よね!?」

「本当です。お疑いでしたら、ブーランジェシコ先生にご確認ください。会場に応援に来て頂けるということです」

「そんな……。4年に1回のこのコンクールで優勝すれば王宮の楽師になれたのに……」

 

 あ、危なかった!

「ありがとうございます。先生のお気持ちだけいただきますね」

 頭を下げ、さっさと音楽室を出た。


 ふぅ、危ない。

 剣も型の小テストはあるし、剣舞の試験をした後だと指が上手く動かないと、ユナ先生に頼んで早目に試験をしてもらったのだ。


 放課後に受けたため、いつも助けてくれるノエルがいないので足早に逃げた。


 魔道学はお爺様の講座のおかげで危なげなく終わり、数学が確率に変わったが問題なく、歴史は元々好きなのかすんなり頭に入り、これまたすらすらと記入をした。


 問題の詩の試験は春夏秋冬を愛でよという一文だった。

 前世の記憶よ。前世の四季よ。ありがとう。

 今年も早く部屋を出られそうだ。

 春、うららかな陽気に眠りを感じ、心もふわふわと浮き上がる。

 夏、強い日差しに川の涼の恩恵を知る

 秋、たわわに実る収穫と共に刈り取りの早さに命の大切さを学ぶ

 冬、凍える手に息を吹きかけ大切な人をこそ想う

 さっさと書いて、試験監督の先生に提出をして部屋を出た。


 ああ、明日は剣術の型の小テストだ。

 試験は来年の学年末だけれど、剣舞の試験はある。

 どちらもある明日は辛い一日になりそうだ。


 カルムスに木剣で明日の負担にならない程度に教えてもらう。庭でやっているとラウルやモルやベンも来て、皆で木剣を片手に型通り、空を切っていく。一番下手なのは俺だが、これでも頑張ってやっているのだ。


「前期の小テストはこれで大丈夫だ」

「本当?」

「型だからな。合格は貰えるぞ。後期も型なら問題はない。来年の学年末にある一対一の試験は、ソルレイの頑張り次第だ」

「うん。前期の小テストだけでいいよ。ありがとう」

 練習用の木剣を持って去ろうとした肩を掴まれた。


「待て待て待て! そう言わずに一緒に頑張るぞ! ラウルツだって頑張っているだろう」

「うーん。僕は、お兄ちゃんに剣術は似合わないと思う」

「俺もそう思うよ」


 激しく同意だ。練習している時にノエルを手本にするのだが、同じ動きができているとは思えない。


「そんなことを言うな! おまえは努力家だ!」

「ありがとう、カルムお兄ちゃん。でも、辛いし、痛いの嫌だよ」

「お前は、騎士になりたいとかは思わないのか?」


 憧れたりするだろうと疑問を口にされるが一度も思ったことはない。

 軍属は、死に急ぐ職業の急先鋒だと思う。


「お爺様の孫なのに? そこは魔道士でしょ? 魔道士に剣術はいるの?」

「いや、いらんな。俺並みならともかく、そうでないなら齧った程度ではどうにもならん」


 怖い世界だが、それが事実だろうと思い頷く。


「俺としては魔道具や魔法陣の新たな可能性を模索したいよ」

「お爺ちゃんも剣術より魔法陣や魔道具を作成して欲しいって言ってたよ。お兄ちゃんの構成って面白いんだって」

「なに!? 見せてくれ!」

「「試験が終わったらね」」

「もうやめだ、やめ。俺も魔法陣の方が好きだからな」


格好良く剣を回して鞘に収めるので無意識に拍手をしていた。様になるな。

「僕は剣も頑張るの!ちゃんと教えて!」

「ったく仕方がないな。ラウルツは魔法陣……には、興味があるか。魔道具に興味はないのか?」

「ない! お兄ちゃんがいるもん!」

「確かにな。魔道具は緻密な計算がいるからな」

「僕、試験はきっと満点だよ! 全部書けたもん!」

「馬鹿だとは思っていない。ただ、計算好きじゃないと作れないんだ。複雑だからな」


 ワイワイ言いながら、もう少し頑張ると言ったラウルのためにもう1時間だけ頑張った。

 

 翌日。前期の試験をすべて終え、剣術の小テストは合格とその場で言ってもらえた。剣舞も一応合格できたかなと思う。ラウルも全科目合格できたと言っていた。


 ということは!ようやく待ちに待った夏休みだ!

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