新たなる家族
お爺さんと込み入った話をしていると、男性が二人ノックの音とともに部屋に入ってきた。
一人はエルクと同じ騎士服でもう一人はローブ姿だった。下級騎士と魔道士だという。病人のお世話は若い人がする決まりらしい。
俺たちがいることに驚いたのか目を見張っていたが、お爺さんが、
「孫のソルレイとラウルツだ」
そう紹介をすると更に驚き、目を丸くしていた。
「娘が平民と駆け落ちしておったのだが、どうやらこの国にいたらしくてな。怪我をしたと聞き訪ねて来たのだ。この子らと最期の時を過ごしたい」
「それは構いませんが……」
突然のことに驚きながらも了承の意を示していた。
「師匠、この子達にも魔道士の素質はあるのでしょうか?」
「うむ。間違いなく素質はある。だが、何も知らぬ。私の死後は財産をこの二人に渡す。学校に入れてやってくれ。お前たちにしか頼める者がおらぬ」
その言葉に二人共恭しく礼をとった。
「ラインツ様、お安い御用です」
「お気になされなくとも我々が責任をもちます」
見ず知らずの子供なのに気安く引き受けることにびっくりした。だけど……。
「いや、責任はエルクシスにもたせる」
「え? エルクシス様にですか?」
「エルクシスが庇護をしていたのだ。あいつは悪いやつじゃ。わたしに何の話もせずに出立したのだ。魔道士学府の高等科を卒業したら引き合わせよ」
「エルクは悪くないの」
お爺さんの言葉を聞いてラウルがおろおろとして言うので、目を細めて頭にぽんと手を置いた。俺もラウルを抱きしめた。
「大丈夫、分かってるよ。お爺さんもエルクのことを嫌っているわけじゃないんだ」
さっきの込み入った話は、ラウルにはまだ難しかったようだ。
「なるほど、エルクシス様が……」
「そういえば、子供が待っていると出立の時に言っていました。王の勅命で急いで出立しましたが。まさか、あの近衛騎士団長が隠し子かとざわめいていましたよ。よもや、ラインツ様のお孫さんのことだったとは…………」
「ふむ。最後まで気にかけていたのだな?」
「ええ。どこかに行こうとしたらしく、皆で止めるように命が出ました。副騎士団長が王の勅命だと言ってようやく出立の準備をされていました。申し訳ありません。時間もなかったものですから訳を聞くこともできない有様で……」
ああ、良かった。ほっとして涙が流れた。ラウルを抱きしめる腕に力が入った。
「ラウル、エルクは俺たちのところに戻ろうとしたんだよ。どうしてもやらなきゃいけない仕事ができたんだ。許してあげようね」
「……うん」
泣き出した俺たちを見てお爺さんは微笑み、騎士と魔道士はもう一度謝るのだった。
エルクの部屋に二人に残したものがあるかもしれないというので、騎士に連れられるまま1番奥の部屋へ行くと、俺たちに宛てた手紙があった。
“ソウル、ラウル すまない”
一言だけだったが、エルクは言葉が少ないので俺もラウルも十分だった。
金貨が入った袋と短剣も一緒にテーブルに置いてある。何度か借りたことのあるものだ。お爺さんに見せに戻ると、頷いた。
「ごめんねのお手紙があったよ」
「うん、それと借りたことのある短剣と袋に入った金貨もあった」
「そうか、そうか。短剣はソルレイが持ちなさい。フェルレイ家の家紋が入っておるからの。大事にするようにの。金銭はラウルツと等分にして持つように」
「「うん、分かった」」
お爺さんは、急に現れた俺たちを天啓に導かれたと言った。俺とラウルを孫にしたいと言い出したのだ。その代わり、死に際に魔道士の力の源になる魔力と全財産を譲渡するといった。いくらなんでも気弱になりすぎだ。
俺とラウルは看病をしてあげるから元気になって!と、笑い、お爺さんも若いエネルギーを貰えると笑った。
名前は貴族っぽいものに変え、ラウルだよと言ってしまう“ラウル”は“ラウルツ”になり、俺は“ソウル”から“ソルレイ”と、お爺さんの家系で使われたことのある名前になった。
お爺さんが避難区域の人達は、ドラゴンに襲われたと聞いたと話してくれ、俺とラウルは全てを察した。恐らく、家族はもう二人だけなのだ。
ある程度の決め事をしている最中に騎士と魔道士に入ってこられて焦ったが、お爺さんが話しているのを聞きながら設定を知り、ふんふんと頷いていた。
エルクと別れ、お爺さんと出会い。無事だと思っていた家族の死を知ったこの日。
ラインツ・グルバーグと名乗ったお爺さんと家族になった。