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秘密の設計図

「ソルレイ様、ラインツ様よりお預かりした新しい魔道具の本がこちらでございます。書棚に並べて宜しいでしょうか」


 ロクスが両手に抱えて持ってきてくれた本は、かなりの冊数があった。


「うん、ありがとう。書棚か……。やっぱり、机の上に置いておいて。鉱石の種類と等級の書かれた辞典と初級魔道具の作り方が書かれた本は先に読みたいんだ。一冊ずつ書籍を確認してから自分で書棚に並べるよ」

「かしこまりました」


 勉強机の方ではなく、ソファー前のローテーブルに全て置いてもらい、一冊ずつ仕分けていく。


 綺麗な表紙の本もあれば、使い古した表紙の捲れた本もある。

 この世界の本の表紙は、厚紙を布で縫い付け、その上から刺繍で題名を記したものが一般的だ。


 もっと高価な物になると、最初からかなり強度のある固い表紙の装丁が成されたハードカバーになる。

 図書館や書庫室で貸してもらえる本のように、多くの人の手に取られることが分かっている本がそうだ。


 人にプレゼントする時は、専門の職人に頼み、題名を金糸で金文字にしたり、伝統工芸品のような装飾をしたりして渡す。


 そういう意味でいうと、積み上がった本たちはとても珍しい。なぜならここには様々な種類の本がある。貴族が持つには不相応だと疑問に思う物までもがあった。

 絶対に、初級の内容は書かれていなさそうな変色した紙を手にする。


「この辺は、本というか資料を纏めたって感じだね」

「左様でございますね」


 ボロボロの表紙を捲ると、魔道具の設計図と石の名前がひたすら書かれている。

 貴重な資料なのかな。こっちは設計図だ。こういうのは手に入れることが難しいのかもしれない。

 題名や内容を見ていき本を初級、中級、上級とだいたいに分けた。


「ソルレイ様、この順で宜しいのでしたら、私が書棚に並べます」

「ありがとう。手伝ってくれると助かるよ。初級のこの本と、辞典はこれがいいか。調べながら読むよ」


 すぐ読む本をソファーに2冊よけて、ロクスと部屋の書棚に並べていった。



 魔道具作りは、思いの外自分に向いていたようだ。

 石のカスタムが面白く、魔法陣を組み合わせては、初級の本に載っている物を作り、終わると中級に進み、上級に挑戦するといった具合で腕は上がっていった。


 その内に、魔道具に向く魔法陣の構成も分かってきた。

 石と魔法陣の組み合わせで汎用性が広がっていくため、オリジナルの魔法陣を作り出す力がつけば、更に腕が上がることになる。

 このことから研究棟に入り浸り、今度は、上級魔法陣の作り方を読み漁るのだった。


 この難しい本をあと2回読んだら、グルバーグ家の魔法陣が集められたお爺様の書斎の方に移ろう。

 部屋に戻り、最初に手に取った古い設計図を改めて読み解いていくと、いいと思う部分とここは駄目だと思う部分があった。

 

 石の等級は正確だし組み方も面白いが、この人が作りたかったものとは違う物が出来上がっている。


 題名は、『守護魔法陣が魔力を感知して守護壁が自動展開される魔道具』と書かれてあるのだが、これを組み上げてできるのは常日頃から守護壁が前面展開される魔道具だ。


 前者なら石の力はその一時だけの物だが、後者なら石の力はだんだん衰え、等級にも寄るが3、4年が寿命の魔道具だ。


「魔道具の寿命は、鉱石の寿命によって尽きる、か。石の延命の本を探そう。今度は鉱石について詳しく知る必要があるな」


 設計図を読めるようになった自分を褒めつつ、最後の設計図まで読み進め、自分ならここはこうするとかそういったことも思うようになった。


 今度、本当にそれでうまくいくか設計図を書いてお爺様に見せに行こう。

 片づけようと古い資料を纏めて裏返し、そこに小さく書かれた名前に目を留める。


 “レイナ・グルバーグ”


 これは……。レイナ様が書いたものだったのか。

 本当に平民と駆け落ちしたことしか知らない。

 子供だということになっているから聞き辛いということもあるが、それ以上にお爺様が気持ちを閉ざしている気がする。


 聞けば教えてくれるとは思う。けれど、上手に聞ける話術を持ち合わせてはいない。


 設計図があるってことは魔道具が好きだったのかな。

 それならこの設計図を改良したものをお爺様に見せることはやめよう。

 ロクスに話し、この設計図がこれ以上痛まないように装丁してもらえるように職人に依頼をすることにした。



 後日。

 生前、レイナが好きだったと聞いたレモン色をふんだんに使った装丁にピンク色のリボンがかけられた一冊の本が出来上がった。


 早速、お爺様に持って行くと目を細めて、とても喜んでくれた。設計図が紛れていたのに気づいていなかったらしい。


「もらってもよいかの」


 欲しいと言ったお爺様に、聞かないでいいのにと思いながら笑ってプレゼントをした。

 

 部屋に戻るとレイナ様の設計図をもう一度書き始める。

 忘れないうちに正しい題名に直して満足すると、俺の考えた設計図と共に机の引き出しにしまうのだった。


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