体育祭の攻略絵図
放課後。
先生への許可印は4人揃って教員棟まで行き、事情が分かっていて笑う先生達に“真面目にダンスの練習をしたく”などと弁を述べて許可を貰った。
教務課の申請は手慣れているものだ。書式を調え即日許可を出してもらう。
最後は、管理課にもう一度行き教務課の申請許可証を見せ、リネン室から寝具を運び込んだ。
「リュックやっぱり1つだったね」
「ああ」
「本当に私達が使って宜しいの?」
「はい。必要な物はローブのポケットに入れてきます」
「ここの鍵は俺が持つ。必要な物はソルレイの分も運び込んでおく」
「ありがとうございます。拠点があるのとないのって大違いです。開始時刻前にお弁当を持って来るので開けてもらえますか?」
「ああ、寮に来てくれ」
「はい」
これで籠城の準備は調った。初日は大丈夫だと笑い合って頷く。
「はぁ。2年生の時は寒さに凍えそうだったぞ」
「わたくしも散々でしたわ。男子は乱暴で捕まえる時に背中を思い切り殴りつけられるようにされましたのよ」
痛かったという。
14歳間近の男子に女の子が思い切り叩かれたらさぞ痛かったろうと思う。
「男子と女子では体格が違いますからね」
「ええ。そうですの」
「寒さか。確かに冬の足音が聞こえるな」
ノエルに頷く。
「備品貸出しの申請ですね。前に見せてもらった一覧の中に湯たんぽがありました。えっと……使い方は分かりますか?」
「いや、分からない」
「わたくし達も分かりませんわ」
そうだよな。貴族には無縁なものだ。レストランの紅茶コーナーの湯をもらおう。
「温かいお湯を中に入れます。魔法が禁止だからレストランで容れて持って帰りましょうか」
「分かった」
俺達は備品の申請に行き、先輩たちはレストランの予約をしに向かった。
教員棟の近くと中庭の近く。両方のレストランの予約をしてくれたのでこれでどっちにも行ける。購買で買った物をダンス教室に移し、全ての準備を終えた。
狙うのは学長の魔道具だ。
家に帰ってお茶会の準備をミーナに頼み、ロクスにお爺様やカルムスたちも呼んで欲しいと頼む。
集まってくれた皆に、急だけれど、明日から体育祭で急に3日間泊りになったことを伝える。
「そういえばあったな」と、カルムスが言い、ダニエルから白い目で見られ、お爺様に忘れすぎじゃと怒られていた。
「3日間凌いだら魔道具が与えられるらしいんだ」
俺は月の日に来る購買屋の話をして、その情報を小金貨3枚で買ったと話す。
「ちゃんと交渉できたのはダニーのおかげだよ」
「役に立てて良かったです」
微笑んでくれた。
「ん、ありがとう。お爺様、魔道具は持っているのも禁止なんだ。戻るまで指輪はラウルに嵌めてもいい?」
「もちろんじゃ。帰って来たら嵌めておくれ」
「うん!」
ラウルに手を出してもらう。
「左手の薬指以外にしてね」
アイネがそこにいるもんな。誤解されたくないと思う可愛らしい気遣いに心の中で微笑んだ。
それなら右手にしようと提案した。右手の人差指にはラウルの青い石が。中指には嵌められたばかりの赤い石が輝いている。
「僕も一緒に学校にお泊まりしたい」
「ごめんな。これ、試験みたいなんだ。4年生だけみたいなんだけど……」
許してくれとラウルの頭を撫でた。
「あ。そうだ。ラウルが2年生になった時は俺が4年生だ。一緒に組めたらいいな。後期は、ロッカーも共有だよ」
1番を取ればレリエルになる。そうすれば同じレリエルクラスということで組めるはずだ。
確かロッカー分けは、兄弟や姉妹がいる場合は、優先されて組んでいるとクライン先生は言っていた。
「本当? 僕、お兄ちゃんとがいい。知らない人とロッカーを使うのは不安だよ。カエルをいれられそうだもん」
「アハハ。そんなことされないよ。でも、姉弟がいた人達は一緒に組まされていたよ。先生達に頼んでみるね」
「うん!」
カルムスに貰える魔道具について聞いたが、寒い中、やりたくなかったからすぐに友人に捕まえてもらったのだと言われ、全く参考にならなかった。
「案外そういうやつも多いぞ」
「そうなの? じゃあ明日、聞いてみようかな」
「交渉で何とかなる場合もあります。貴族同士のつながりを使うことも大切です」
「なるほど。教わっていた根回しかあ。する時間なかったよ。明日は6時集合なんだ。お弁当を持って行って1日は籠城するよ」
卒業試験なら先輩たちの面目も守らないといけない。
「1日目は苛烈だったと友人から聞いた覚えがある。全員一斉スタートだから先頭を取れないなら一番後ろの方が安全だぞ。それにしてもダンス室は部屋の中にトイレがあるだろう? 良い選択だったぞ」
廊下のトイレで待ち伏せするのだという。
「危なかった。逃げ場がない」
「そうだ。そうやって背中を刺される。廊下のトイレに行く場合は、鍵をかけずに個室だ」
「ええ? 嫌だよ。ダンス室まで戻るよ」
「まあ、それも手だ」
カルムスとダニエルから直前でもいいから狙わないように下級貴族と交渉をしろと言われて、苦笑いで応えた。
作って持って行こうと思っていたお弁当は、疲れるとよくないか。思い直して料理長に頼んでおくことにした。
今日は部屋で早目に眠らないといけない。お爺様は、夕飯も早くしようと言ってくれた。




