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体育祭のルールと穴

 後期の試験は全て終わり、残されたのは体育祭のみだ。

 俺とノエルは学年末に張り出された順位を見て頷く。


 1番 ノエル・アヴェリアフ

 2番 ソルレイ・グルバーグ


「満点でも、ノエルの加点には追いつかずか。来年は、剣の授業が入って順位が落ちるからラストチャンスだと頑張ったんだけどなあ」


 茶会や音楽、詩で加点を貰ったが、ノエルのダンスの加点が高すぎた。

 上限は10点だと思っていたのに、テイナー先生……30点は、酷いよ。


「加点は、2点差か。原因は詩だな」

 公表していれば同点だったと意地悪を言う。

「無理だよ。公表とか地獄でしかないよ。どうして高得点なのかすら分かってないのに」

「俺もだ。あの授業自体いるのか疑問だ」

「3年生になってもあるのかな」

「「…………」」

 来年の授業に思いを巡らせていたが、ここにいても仕方がないので教室に戻る。



「皆、知っていると思うけれど、体育祭は4年生と合同です。と、いうより、4年生の卒業イベントね。一応4年生は試験なので、手を抜くと嫌われるから気をつけなさい」


 先輩から話を聞いておらず、知らなかった生徒もいたようだ。初日の顔合わせの時の態度の訳が、ようやく分かったと口にしていた。そういえばすぐに別れていたペアもいたな。


「はーい、静かにしてちょうだい。この試験は、泊りでやりますからね」


 泊まり?

 林間学校みたいな行事なのか。


 隣から凍えるような殺気を感じて、姿勢を正してから横目でノエルを覗うと、目を細めてクライン先生を見ていた。


 ……見なかったことにしよう。触らぬ神に祟りなしだ。


「泊まる場所は学校ね。72時間よ。不眠不休の鬼ごっこね」

 続いた先生の言葉にクラス中が、悲鳴を上げた。

『3日もやりますの!?』『まあ!』『きつい』『先に捕まったら恨まれそうだ』『休みたい』


 貴族にはハードな内容だと思う。

 口々に不平不満を漏らすのに混じり、『学校じゃなくて、山でも湖でも行ってやる方がよかった』と言っておいた。

 

 鬼ごっこだというのは聞いていたのでいいが、開催場所が3日間ずっと学校なのは不満だ。もっと広いフィールドでやりたい。


「まあ協力しないでバラバラに逃げるのも手です。相談して頑張ってちょうだい」


 ノエルの怒りを黙殺して説明をするので、手を挙げる。後で教員棟まで来られるより、教室で解決のほうが先生もいいだろうに。


「クライン先生。私達は、女子生徒と組んでいます。先輩達の外聞にーー」

「大丈夫よ。本人達から『気にしません』という返事をもらったわ。弟にしか思えないそうよ」


 これは、俺からの質問待ちをしていたな。ノエルは納得していない。クライン先生の意図は分かるが、二人で説得したところで今回は駄目な気がする。怒りがよく分かる。ペアを組んだ時に言うべきだった。


 今にして思えばあの時も濁していたような……。


「それはそれで喜んでいいのかは分かりませんが、本当に問題はないのですね?」

「ええ。問題ありません。学校内のイベントだもの」

 先生の流れ通りに確認はしたものの、これで納得してくれるのか。


「ノエル様もお気になさらないで大丈夫ですわ」

「二人きりか」

「まあそうですけれど、本人が良いと言っているのだから大丈夫ですわ」

「辞退する。不名誉なのは女子生徒側だけではない。アヴェリアフ侯爵家としても不名誉だ」


 一緒にいるかどうかではない、そういう事実があったというのが問題なのだと言い辞退を告げた。

 ノエルらしい決着だ。

 先生に緩く首を振り、これ以上は止めた方がいいと暗に告げた。


「困りましたわ。では、ソルレイ様と合同ならいかがです? 音楽室でもそうなさっておいででしょう?」

「…………」


 ノエルがこちらを見ているのが分かった。怒っているんだろうな。怖怖ノエルがどうしたいのかを確認するために覚悟を決めて顔を見た。


 無表情だけれど、俺の意思確認を求めているようにも見えた。

 あれ? 物凄く怒っていると思ったけれど、案外そうでもない、か? 緩衝材がいればいいのかな。


「合同で行いますか? 4人で1チームにすれば女性と二人きりで3日間過ごしたことにはなりません」

「では、どちらかが捕まった時点で連座だ」

「はい」

「では、指輪は1つ。1/4の確率ですわね」

「そうなるな」

「分かりました。そのように伝えておきます。スタートですけれど、明日の朝6時からですわ」


 ええ!? 明日!?

「それは余りにも急ですね。連絡ミスでしょうか?」

「ソルレイ様の言う通りです。先生、急すぎますわ」

「そうですわ。泊まりですのよ。すべき用意もありますわ」

 女子からの抗議が多いが、俺もどうかと思う。他国から来ている生徒や寮生組に配慮がないな。


「ええ。分かりますよ。担任の私も言われたのが今朝ですからね」

 嘘だろう。体育祭が突如始まるなんて聞いてない。

「去年は来月だったから、てっきりそうだと思っていたのだけれど、毎年違うのよね。諦めて頂戴。今からルールの説明ね。後はソルレイ様よろしく」

「ふぅ、分かりました」


 前に出て目を通し、さっさと確認をする。

「二人で1つのリュックの持ち込みを認める。武器の使用は禁止。魔法・魔法陣も禁止。魔道具も禁止。己の肉体のみで戦うことか。分かりやすいね。相手を傷つけたら失格。指輪を大量に持っている人が勝ちだけれど失格になったら負け。残っている人で指輪の数が多い人が勝ち。期間は3日間。以上のシンプルルールだね」

 シンプルすぎて質問も出ず、みんな頷いて机に突っ伏した。

 とりあえずお菓子とお弁当でも持ち込むか。


「ソルレイ。4人で1つなら持ちこみのリュックサックも1つかもしれない。中身の検討をしよう」

「はい」

 朝の6時集合だからなあ。

「ノエル様。耳をお貸し下さい」

「…………」


 耳元で、今日は月の日だから購買に行こうと持ちかける。

 リュックに入れられる中身が少なくても、ロッカーに入れておけばいいと囁く。


「今の内に行くか」

「うん」

「クライン先生は、ガーネルとアモンに行って戻らないだろうから早めのお昼にしよう。皆も混む前に行くといいよ。今ならテラス席も使えるはずだ。教員棟に近いレストランの数量限定の裏メニューは……月の日だから鴨のパイ包みだね。美味しかったよ」


 全員鞄は持って行ってね、と声をかける。

 授業中ですよ、などと無粋なことは誰も言わずに席を立つ。

 俺達も席を立ち、怪しい購買に向かった。


「情報も売ってると思う?」

「必勝法か? さすがにないとは思うが、買った物をロッカーに入れておくという案はいい」

「3日って何も食べないわけにはいかないだろう? レストランとカフェで待ち伏せに警戒しないと駄目だね」

「開いているのかどうかも問題だな。合流して話を聞いた方がいいだろう」

「そうか。閉まっているのか」


 購買で体育祭のことについての“情報”を売っているか聞くと売っているという。

 入学初日に『試験の情報()断っている』と言った時、他の情報なら売買している可能性があるとは思ったが当たりだった。


 ノエルはかなり驚いていた。

 貴族だとそうかもしれないな。

「欲しいのはルールの裏ルール。抜け道や知っていて得な情報について知りたい。予算は小金貨3枚。ラインナップを教えて欲しい」

「なるほど、なるほど。考えましたね」


 ラインナップ自体がヒントになるので、こういう聞き方をした。

「1閉まっている食堂の使い方 2リネン室の鍵の入手方法 3言えない」

「3」

「ソルレイ」

 呆れた声で名前を呼ばれると怒られている気分になる。


「言うだけでヒントになるから何かすら言えない情報だね。外れを3番には持ってこないよ」

「……そうか」

 すっと出された手に小金貨3枚を乗せる。


「指輪を持って3日間守れた者達には学長から魔道具が与えられる」

「「!?」」

「その情報小金貨3枚でいいの?」

「聞きに来た貴族はここ10年いませんでしたからね。特別です」

「俺の名前は、ソルレイ・グルバーグだよ。教えてくれてありがとう。頑張ってみるよ」


 10年前は誰だったのだろうかと考えると、とても楽しい。貴重な情報に名乗ってから礼を言った。

 フードを深く被った店主が口角を上げたように見えた。


「じゃあ。まずは買い出しだね。飲み物と食べ物は買わないと」

「そうだな。これは頑張った方が良さそうだ」

 二人でこれがいい、あれがいいと買い込みお金を支払った。


 まだ授業中の為、ロッカーの上に隠しておく。

「閉まっている食堂も使えるようになるし、リネン室もか」

「ふむ。教務課ではなく、管理課だな」

「リネン室は貸出し予約かな」

「そうだな。行ってみるか」


 管理課に行くと、

「何を言ってるんだ? 泊まり込みでもするのか」と、言われた。

「ノエル。これは、まず教務課に行って教室使用の許可を貰って、鍵を手に入れてから管理課でリネン室の布団貸出し予約だよ」

「文化祭の時と同じ教員印のいる手続きか。面倒だな」

「うん。でも書式は覚えているよ。問題はどこの教室にする? 授業中抜けるか放課後に準備でもしないと目立つよ」

「リネン室から近いのは、ダンス教室か」

「いいかも。あそこは、皆なんとなく避けるもんね。ロッカーも近いからね」

「男女別だから部屋も二部屋ある」

 それは確かに重要だ。


「そうしようか。ダンスレッスンで使用許可を求めてみよう」

 教務課へ行き、ダンス教室の使用許可を求めると、申請書類をもらえた。

 担任の印とテイナー先生とロベリア先生の二人のダンスの先生の印がいる。


「二人でやるには仕事が多い。先輩たちと合流するぞ」

「そうだね」



「ーーーーというわけで、協力をして下さい」

 クラスを訪ねて場所をカフェに移して説明をした。

「閉まっている食堂の利用方法は分かりますわ」

「本当ですか?」

「パーティーですわ」

「パーティー?」

「あのレストランは貸切予約ができますのよ」

「成績がかかっているからな。私が持つぞ。これだけの情報を手に入れてきてくれたんだ。3日ともとればいいな?」

 

 アリアが申し出てくれたが、1日で大丈夫だ。

「ノエル様とさっき飲み物と日持ちする食べ物を買ってきました」

「疲れた3日目だけでいいかと思います」

 俺達は頷き合った。

「ノエル様、レストランでパーティーをする時間は決まっていて夜の20時から0時までですの。シェフたちも休まないといけませんもの」


 メイの言葉を受けアリアに3日間の予約を頼むのだった。

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