貴族のプライド
音楽の授業が終わり、アリア先輩がロッカーを開けた時に絆創膏やあったら便利な雨具やタオル、少額のお金の入ったコインケースなどを棚に入れた。
「楽器はよいのか?」
「はい、今回は持ち帰ります」
「そうか」
「ノエル様はどうなさります?」
「私も持ち帰ります」
「分かりましたわ」
また3日後に、と手を振り別れた。
音楽室を使える日以外の音楽の時間は、来てもいいし来なくてもいい。お互いに合同で練習してもいいし、しなくてもいい。かなり緩いので、その分コミュニケーションをしっかりとらないといけないが、俺達の場合は少し特殊だ。
進みが遅いと感じても最終的には、完璧になりますと宣言してある。
ノエルも全体を通しでやっていくので、最初からここまでと言われるのは苦手だと伝えていた。
アリアとメイも最終的にできていればそれでいいので練習にまで干渉しないという考えのため助かっている。
試験はこれだけではないのだ。相手に合わせるのは大変だからな。
体育祭は、2年生にとってはお楽しみイベントなので、まずは勉強だ。
前期に試験を受けたものの合否がよく分かっていなかった詩の試験は授業中に発表があり、不合格が続く中、俺は合格できた。ほっとしていると、先生にまさかの提案を受けた。
「ソルレイ様。加点を与えます。皆の前で発表しても宜しければ加点は10点とします」
全員の前とか何の罰だ。
絶対回避だろう。貴族らしく微笑んで拒否するぞ。
「心に秘めた思いをさらけ出すのですか? 詩は皆に読まれてこそとも思いますが、あの題材では少々……私に加点は必要ありません。先生の“評価したい”というお気持ちだけいただくことにします」
「よい答えです。加点を8点とします」
「これからも精進致します」
頷いているが、俺には評価基準がさっぱり分からない。
ふぅ。
前世の記憶から何か著名な人の詩を。詩を……思い出そうとするが1つも思い浮かばない。そもそも詩は、買ってまで読んだことがないな。
縁のない読み物だった。
冬休みは読んでみようか。
ノエルも合格を貰うが、こちらも複雑そうな顔だ。
女子は合格者が多い。ほとんど全員が合格したようだ。
やっぱり女性の方が、複雑な気持ちを表現できる能力が高いのだろうか。視点が繊細なのかな。
ノエルに加点の理由を問うように見られたが、首を横に振ると頷いた。
魔道士学の授業内容は難しくなっていったが、お爺様のおかげでまだ分かる範囲だ。
先生の言うことを聞き逃さないように、疑問が出たらノートの端に書いておく。魔道具と歴史は本を読んだので予習はできていて自信がある。
数学は簡単なので問題ない。
暗記は得意なので世界史も大丈夫だ。
問題は……。
「ダンスは相変わらずの地獄なのに、明らかに不機嫌なエリット様とその不機嫌さに当てられピリつくガーネル、文化祭の売上1位で澄ましているレリエルとも合同でやりたくないよな」
アモンの男子たちが言い、笑うルモンドのその後ろに俺達レリエル組がいるという。
「言わずにいられないのなら誰もいないところで言え」
ノエルの冷ややかな声にギギギと軋んだ音がしそうな振り向き方をして、アモンの生徒達が固まる。
ダンス教室はここを通るしかないのだからそうなるだろう。
教室で言えばいいのに。
「ノエル様、クラスメイトの言葉が過ぎ申し訳ありません。文化祭での素晴らしい成績に嫉妬してしまったのです」
ルモンドが、ノエルに慌てて謝罪をしたが一瞥もせずに通る。
「ソ、ソルレイ様……」
助けを求めるように小さく声をかけられたが、ノエルが一瞥もしない以上、聞こえないフリだな。
遅れないようにノエルの隣を歩いた。
新しいダンスのステップは、家でラウルや使用人の皆と踊ったので分かっているものだった。
皆もステップは家で練習してきている。
「よろしい、次はガーネルいきますよ」
ガーネルもアモンも精神的にきつかったのかボロボロだった。
「ガーネルは夏休みが潰れたから練習時間が少なかったかもしれませんが、アモンはあったでしょう? 酷い物ですね。次も酷ければ、ガーネルとアモンは15時以降に放課後特訓です」
うわぁ。
先生の言葉にダンス教室の空気が重くなった。
ダンスの時間が終われば、皆で目配せをしあい揃ってそそくさと教室へ帰る。
関わらない方がいいと言われた以上、従った方が安全だ。




