ペア 後編
ガーネルも、アモンも奇数クラスは合同だ。
先に下級生がクラスごとに分かれて待ち、そこに最上級生が入って来た。
男子生徒も女子生徒も成長期で身長も高く、体格が違う。
中には制服がきつそうな男子もいた。
「はーい! みんな! 早速だけどペアになる下級生に挨拶よ! 自分が2年生だった時のことを思い出してちょうだい! 緊張を解すのは年上の役目よ!」
快活そうな先生がそう言うと4年生たちが値踏みをするように俺たちを見る。完全に逆効果になり緊迫感さえ漂う空気となった。
「あらあら。では、ペアを発表するわ」
4年生の担任が、上級生の名前が呼び、前に出るとクライン先生も名前を呼び、前に出させる。
上級生から挨拶をして、下級生を連れて下がり、多目的室の隅で話をしている。
俺とノエルは、あの人だろうかと白服の女性二人を見る。
白服は本来1組に1人だが、成績の優秀な他国の公爵令嬢が同じクラスを望んだため特別措置で首席のメイ様と次席のアリア様が同じクラスになり、6組にあたるロゼリアクラスには入学試験で7番目だった生徒が繰り上がりで白服を着ている。
見ていると向こうも気づいた。
「ノエル様、聞きに行ってきます」
「まだ発表中だが……」
「気になる人はいますか? ペアで試験ということは、対抗戦になるかと思います」
クラス対抗か何かだと当たりをつけ、2年前に経験しているペアの相手に情報をもらうべきだと伝えた。
「なるほどな。エリットは見ておくべきか」
「では、お願いします。話を先輩方に聞いた方が得策ですから行ってきます」
「先に呼ばれた者たちが組まれたペアを見ているな。分かった。後で呼ばれた者の方が不利かもしれん」
「私もそう思います」
俺はノエルの傍を離れ、二人の元へ向かう。白服の上品な着こなしの方がメイ様か。その隣の方がアリア様だな。
それにしても女の子が着ると白の制服は、こんなに可愛いんだなと変に感心した。
銀髪のポニーテルの女子と緑色のウェーブ髪の女子か。タイプは正反対に見えるのに、どちらにもよく似合っていた。
「初めまして、ソルレイ・グルバーグと申します。私とペアの方でしょうか?」
「ふむ。私だな。アリア・レゲリフスだ」
「アリア様。試験の内容は分かりませんが、このペアは重要なのですね? 組まれるペアを見ておく必要はありますか?」
「ないな。小細工を弄しても実力がなければ勝てぬ」
そんなに難しいのか。
「私は試験内容を知らないので自信がありません。見ていても宜しいですか?」
「む? そうか……いいぞ」
言葉遣いで気の強い人なのかと思ったが、そうでもないようだ。
安心して笑いペアになっていくのを見る。
「うふふ」
隣に来たメイに可笑しそうに笑われた。
アリアも並んでいる。
「グルバーグ家のソルレイと申します。ノエル様とペアのメイ様でお間違いありませんか?」
「ええ。御挨拶が遅れましたわ。メイ・ハルグルマンでございます」
丁寧な挨拶に礼を言い、あちらにいる白服の彼がそうだと言っておく。
「寮生だからロッカーの共有は大丈夫だと先生に言われましてよ。ソルレイ様は、どう思われます?」
ペアをそれとなく見ながら視線を一瞬俺にやり尋ねた。
「メイ様とノエル様におかれましては、問題はありません。アリア様も私に見られたくない物はメイ様に頼んで置かせてもらって下さい。ただ、ロッカーは等分に分け、小さなカーテンをつけようと思います。不躾に開けたりしませんので、ご心配なきよう」
俺がそう言うと、二人は目を大きくする。
何に驚いたのだろうか?
当り前の配慮だと思うが…。
「ソルレイ様には姉君がおられるの?」
何で分かったんだろう。
「姉は3年前に12才で亡くなりまして。今は、2つ下の可愛い弟が1人です」
「あ」
悪いことを聞いたとメイが目を伏せるので、明るく笑う。
「お爺様も弟もおりますので大丈夫です。言いたくなければ今も言っておりません。それよりも、アリア様は必要ないとおっしゃられましたが、本当でしょうか?先に呼ばれた皆が食い入るように見ているのですが?」
俺が話を変えると、控えめに微笑んで話題に乗ってくれる。
「アリアはああ言いましたが、見ておくべきですわね」
「必要ないと思うがな」
「まあ。そんなことありませんわ。体育祭はペアで追いかけっこですもの」
私達にとっては大事な卒業試験ねと笑った。
追いかけっこ?
体育祭は鬼ごっこなのか?
4年生にとっては卒業試験で、俺たちにとってはただの体育祭?これは大変だ。道理で入ってきた時の温度差があるわけだ。
「どうなると勝ちなのでしょうか?」
「生き残って指輪を多くとった方が勝ちですの」
「ペアの意味はあるのですか?」
「指輪はどちらが持っているのか分からないのですわ」
「なるほど」
1つの指輪を持って2人で逃げて、2人で捕まえると。
「出会い頭に会った者を手当たり次第捕まえて指を見るのだ。絶対に手の指につけると決まっている。捕まえればその者は失格だ。ペアがペアでなくなりソロになる」
ペアで失格にならないのか。ソロになっても戦うのに指輪を奪うのか? 指輪を持ってなくても背中を叩かれていなければ戦えるんだよな?失格のルールは指輪を奪われることではなくて、背中を叩かれること? 何だか奇妙なルールだな。
「ということは、指輪を持っていようがいまいが、捕まった時点で失格なのですね? なにか捕まえたことが分かる物があるのですか?」
「参加者は魔道具を全員腕につける。背中を叩かれると印が出るのだ」
子供の遊びではなく、無駄に高いクオリティーの仕様から学校側の本気度が窺える。
アリアが呼ばれたのだが、隣にいる俺を見るので、エスコートをしようと手を出した。
「アリア様、お手をどうぞ」
じっと見られたのでじっと見返すと手を取った。
俺のほうが背が低いから嫌だったのかもしれないな。今更だ。そのままエスコートをして中央に出ると、アリアが改めて挨拶を優雅にするので、俺も丁寧に見えるようゆっくり挨拶をした。
最後にメイの名前が呼ばれ、ノエルが前に出て挨拶をする。
「はーい。これで全員のペアが完成ね、後の時間は好きにするように」
「話をするも解散も自由よ」
クライン先生がそう言うと、あっさり解散していくペアも多い。
「アリア様。今後のこともあります。話をしたいので温室かカフェに行きたいのですがよろしいですか?」
「そうか」
「どちらがいいですか?」
そうだな、と考えているので、待つと温室の方が人はいなさそうだと言った。
「人を避けるのなら音楽室を開けてもらいましょうか。今日は授業がないので大丈夫ですよ」
「ふむ。ではそうするか」
「ついでにロッカーを見たいです。開けて採寸できれば尚いいです」
「案内しよう」
ノエルたちにロッカーを見てきますと声をかけると、一緒に行くと言うので4人で見に行く。
ロッカーは思っていたよりも縦長だった。
開けると棚もない。
扉側にもない。
木でできたただの縦長の箱だな。服をかけるところもないのだ。
「アリア様とメイ様が2年生の時はどのように使っていたのですか?」
「遠慮してあまり使えなかったな」
「そうですわね、4年生になると音楽の授業が増えますの。それに後期にはペアで音楽の試験もございますのよ。6弦楽器を2つ入れて、必要な小物類を置くともうほとんど置けませんの」
アリアとメイが言うには、これから4年生がこのロッカーを使い、後期になると2年生と共有になるのだと言う。
音楽の試験もペアで組むのか。だったら先に申告しておこう。
「アリア様。私は横笛ですが宜しいですか?」
「なに!?」
「私の専攻は横笛です」
「まぁ!」
信じられないという顔だ。
「ソルレイの横笛はとても綺麗な音色です。試験の時は見学者も多く先生からも美しい音色だと手を叩いて褒められています。試験ももちろん満点です」
ノエルがそう言ってくれて嬉しい。
「音楽への造詣も深く6弦楽器も上手に弾きますから嫌ならば、そうおっしゃれば宜しいと思いますが、ただの偏見ですよ」
あなた達がしていることは偏見だとはっきり言われ、更に目を丸くしていた。
動揺しているように思う。
「ノエル様。ありがとうございます。そう言っていただけでとても嬉しいです。でも、アリア様のご迷惑になりますから後期の試験は先生に頼んで6弦楽器に致します」
「そうか……残念だ」
珍しい物言いにノエルが横笛の繊細な音を楽しみにしているのだと知り、今度家に来た時は6弦楽器ではなく横笛にしようと思う。
「ああ、いや、待って欲しい。そうだな、劇に用いられているのは私も知っているのだ。横笛でかまわない」
「そ、うですわね。驚きましたけれど、先生方もお認めになられたということですもの。選択した楽器で行うべきですわ」
二人が、無理をして呑みこんだ。先輩としての矜持なのだろうか。
「ありがとうございます」
お礼を言ってロッカーの採寸をした。
「楽器を置くと入らないと言うことでしたが、デッドスペースがあるので、物は置けますよ。お互い遠慮しないで使えるように棚とカーテンを作っておきます」
「その方がいいので頼むとしよう」
「ノエル様も、何か置きたい物が出るかもしれません。一緒に作っておきます」
「悪いな」
「これくらいお安い御用です」
木のロッカーなので、改造などやりたい放題だ。
音楽室に行く前に時間になったので、授業があるアリアとメイには礼を言ってここで別れた。今日はお昼をラウルとお爺様と食べようと約束しているために帰ることにした。
「ノエルも来る?」
周りに誰もいなかったので気軽に声をかけた。
「わざわざ昼を食べにか?」
「ラウルのリクエストで煮込みハンバーグなんだよ」
「行く」
肉好きだからそういうと思った。まだ雪も残っているからラウルも一緒に遊べて喜ぶだろう。寮に戻って伝えて来てもらい、グルバーグ家のスニプル車でノエルと共に帰った。昼は案の定、煮込まれたハンバーグも旨いと喜んでいた。
ラウルも好きなので2つ食べ、お爺様も、ここにパスタを入れれば美味しいと思うぞ、と言って食べてくれた。
きのこをどっさり入れて大きなトマトを1つ入れ、つぶして酸味をだし、バターも少し加えてからパスタを投入して和えると美味しいのだ。
腹ごなしに少し遊ぼうと誘い、無防備なノエルに雪玉をぶつけようとして避けられた。
そのままやり返され、そのまま雪合戦になだれ込んだが、ノエルに当てることはできずラウルとヘトヘトになった。避けると同時に投げられて俺とラウルに当たるのだ。神業すぎる。
遅くなるといけないので再戦の約束をしてロクスに学校までノエルを送ってもらった。
「ラウル今度は勝とう」
「うん! ノンには負けない!」
俺もラウルも似た者同士の負けず嫌いだった。
1対2だったことも忘れて悔しがり、後頭部に当てるための作戦を思いつくまま話しながら家に入った。
そうして、メイドたちに雪まみれのコートを剥ぎ取られ、風呂に入るように厳命されるのだった。




