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魔法剣士エルクシス・フェルレイ

 俺が塩胡椒を振った目玉焼きにかぶりつき、ラウルが野菜炒めからよけた鶏肉を集め一心不乱に食べていると、大きな腹が鳴る。

 二人で、顔を見合わせてからすぐ側で横になっている騎士を見た。

「ああ、すまない」

 恥ずかしそうに片手で顔を覆う。

「食べられますか? 腹が切れていたから……食べないほうがいいかなって。用意しますね」

「いや、必要ない」

 俺が席を立つと、慌てて声をかけ身を起こそうとして痛そうに腹を押さえた。

「……食べないほうがよさそうだ。いい匂いだったから鳴ってしまった」

 なんだか安心して笑ってしまった。この騎士は、とても真面目で横柄さがなかった。

「あ。ポーションが腰のポーチに入っていましたが、使いませんでした」

 持ってくるか暗に尋ねると首をふる。

「2本使ってこれだ。もう効かなかっただろう」

 その言葉に驚いた。

 どうやら使ってあの裂傷だったようだ。

「そ、うでしたか。……腹は俺が縫っただけなので、医者に診てもらった方がいいかと思うのですが、とりあえず食事が終わるまで待っていてください」

「私は動けないからな。気にせずゆっくり食べるといい」

「うん、お兄ちゃん。気にせず食べよう。冷めちゃうよ」

「アハハ。そうだな」

 やはり優しい人のようだ。笑って食事を再開し、久しぶりに味の濃い料理を味わう。

 この世界のソーセージはこんなにも美味しかったんだな。セージが効いているが、ラウルもモリモリと食べている。香草をふんだんに使っているので肉の旨味を強く感じた。

 食べ終わってから精のつくものを騎士に食べさせようともう一度支度をする。腹が鳴って食べたいという意思表示をしているのだ。食べられるかもしれない。

 夕飯のスープにしようと思っていた鶏肉の手羽元と香味野菜に水を加え火にかけた。

 ひと煮立ちしてから味を調え、パンも食べやすくカットしたバゲットをふやかすように少し煮込んで柔らかくした。卵もフォークで混ぜてから落とし、もう一つ贅沢にポトンと入れて落とし卵にする。

 手羽元の骨を外して、スープと共に木のお椀に盛った。

「ラウル、俺が身体を支えるから食べさせてあげてくれる?」

「うん、いいよ」

「すまない。だが、手は動く」

「もう、力が入るか分からないでしょ? お兄ちゃんの言う通りにして」

 ラウルに怒られて、そうだなと返すので忍び笑いがもれた。

 俺が後ろから体を支えて、寄りかからせて体重を預けさせた。

「熱いから冷ましてあげてね。卵は火傷してしまうからスプーンで割って」

「うん、ふぅふぅ。あーん」

 木のスプーンを口元に運ばれることにものすごく恥ずかしそうに目を伏せるが、病人の世話とはこういうものだ。

 口を開けたので、やや強引にスプーンを差し入れられ咀嚼をすると驚かれた。

「うまいな」

「お兄ちゃんの料理だからね。お母さんより上手だよ」

「そうか。ありがとう」

 肩越しに微笑まれ、貴族は美形だなと思いつつ頷く。口にあったのなら何よりだ。

「はい、あーん」

「ああ、すまない」

 ゆっくり咀嚼させふやけたパンも食べさせる。お椀に入った分は完食だ。食欲もあるようでよかった。このまま順調に快復してくれるといいな。

「あっちに両親のベッドがあるんですが立てますか?」

 体は支えると言うと、包帯の上から確かめるように腹を撫でる。

「まだ無理そうだ」

 眉根を寄せるので痛むのだろう。

「となると……俺とラウルでは運べないのでここになりますが、いいですか?」

「迷惑をかけているのは私だ。かまわない」

「分かりました。うちでいいなら養生してください」

 寝かせて頭を撫でると、曲げた片腕で顔を隠すように覆う。泣いているわけではないようだけれど、情けないとでも思っているのかもしれない。

 俺からすると世話をするのはラウルと変わらない。気にせず、頭をポンポンしておく。

「お兄ちゃん予定変更だね」

「うん、2、3日は様子を見ようと思う。食べ物は5日は大丈夫だ。水は夜に近所からもらってくるよ。早朝に城で魔法攻撃があった。ドラゴンは城を根城にしているから起きだす前に攻撃したんだ。陽が差すと飛べるけど、それまでは身体が冷えていて飛べないからな」

 ラウルは真剣に話を聞き質問をした。

「外には出ないほうがいい?」

 しっかりしている。ここが命の瀬戸際で対応を誤ると明日は生きられない。そのことに気づいているのだ。

 だからこそ、ちゃんと教えないといけない。

「そうだなあ。昼間は、飛んで獲物を探すみたいだ。ドラゴンは大型の鳥と行動が同じように思う。目で探して獲物を捕まえるから外に出るのはまずい。夜目も効くから完全に城に戻った時じゃないと危なそうだ。ただ、群れでいる割には連携は取っていない」

「難しい。どういうこと?」

 そうだよな。もっと分かりやすく言わないと……。

 少し言い方を悩んでから口を開いた。

「俺とラウルが遊びで誰かを捕まえるなら協力するだろう?あっちにいたよとか、そっちに回り込んでとか」

「うん」

「そういうのがない。見張り役と指示役はいないんだ。交代で見張られると全く動けないけど、そうじゃない。みんなで遊ぶときは大変だろう?5対5で分かれると捕まえるのも逃げるのも声をかけあうけど、ドラゴンたちは協力しないみたいだ。だから、出かける時間はある。城に戻って寝てから朝日が上るまでの時間だ」

「分かった。今は家にいる時間だね」

「ふふ、そうだ」

 頭を撫でて褒める。

 さあ、洗い物をするよと、声をかけると『はーい』と、使った皿を運んでくれる。

「その洞察力は、凄いな」

 ふと小さく呟かれ、そちらを見てしまう。

「うん、お兄ちゃんはすごいんだよ」

「ええ? 凄くないよ。ああ、そうだ! 名前……俺はソウルです。ラウルおいで」

 顔が見えるところまで行き、ラウルを呼ぶ。

「ラウルだよ。お腹が痛いお兄ちゃんは?」

「ふっ。あぁ、確かに痛いな。エルクシスだ。エルクシス・フェルレイ」

 笑って傷が痛んだようだ。

「長いからエルかエルクでいい?」

「構わんが、どちらかであるならエルクにしてくれ」

 確かに、エルだと女の子みたいだもんな。

「「分かった。エルクだね」」

 こうして、奇妙ではあるが楽しい3人での生活が始まった。

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