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贈り物は本と○○○

 全ての試験が終わり、新年が明けるまで冬休みに入る間近に学年末の試験結果が張り出された。


 知らなかった俺も含めて多くの生徒が、廊下に張り出された結果を見に行っていた。

 見に行くと、言い渡された“合格”などではなく、科目ごとの点数が張り出され総合点順に並んでいる。

 クライン先生が俺も満点だと言っていたので、本当かなと思っていたが、結果は2番で。点数は満点だが、ダンスでノエルは加点10とあり、ノエルが1番だ。


 ブラボーだもんな。


 魔道士学も茶会も満点で嬉しい。

 帰ったらお爺様とラウルに報告だ。

 教室で本を読んでいるノエルに満点でダンスの加点が10で1番だよと伝える。

「そうか」

「うん」

「ソルレイは?」

 視線だけをこちらに向ける。

「2番」

「そうか」

 薄く微笑まれたので俺も笑っておく。

 クラスの女子たちに見られていることに気づき、ああ、こういうのがまずいのか?と頭をかく。ノエルは、入学試験の時と違って手を抜かなかったことに笑っただけだ。お爺様が魔法陣を教えてくれるので褒めてもらおうと試験勉強は頑張ったのだ。ノエルもそのことは知っている。


 面倒な視線から逃れるように俺も本を出して読むことにした。


 担任のクライン先生が、主席と次席がいるこのクラスはいいわね、他の子も頑張るのよと声をかけつつ、成績がふるわなかった生徒に、冬休みの補講についての説明や新年明けの学校の始まる日、持ち物などの説明をする。

 学園祭があるらしく。2年毎に夏休み期間中に行われ、家族も参加OKだと来年の夏の説明までされた。

 そのことを不思議に思っていたが、冬休みに手紙を出して家族に予定を伝えておきなさい、すぐに休めないわよ、と先生が言い、なんだかんだ言って面倒見がよく優しい先生なのだと思った。

「はい、じゃあ。また新年にね!」

 忙しそうにすぐに教室を出て行った。奇数組を受け持っているので次はガーネルに説明に行ったのだろう。先生も大変だ。


 冬休みは5週間ある。


 夏と違って帰ってもいいらしいが、今度は日数の問題で帰ったとしても休めない生徒が多い。ディハール国出身のノエルも手紙だけ出して寮にいると言うので、気にせず家にも遊びに来て欲しいと言うと笑って頷いた。

 冬休みも勉強熱心な学生のために、図書館や自習室は常時開設され、食堂も使える。音楽室だけは許可制だが開けてもらえる。

 俺はラウルと勉強するために魔法陣が書かれた本を沢山借りている。

 あとは、ベリオットの為の植物栽培の本だ。

 毎日のように図書館に行くので司書さんにも本の好みを覚えられているほどだった。

「ソルレイ様は勉強熱心ですわねえ。この本もお勧めですよ。魔法の行使がいい場合と魔法陣を用いたほうがいい場合を例題を交えて解説してあります」

 まだ初等科には早い内容だからと何度か購入が見送られた本らしい。

「ありがとうございます。いずれ学ぶなら早いほうがいいのでお借りしたいです」

「ふふ、そうよねえ、私もそう思って何度も購入リストに書いたの。粘り勝ちね」

 少女のようにウィンクをする司書さんに、他にも粘り勝ちした本はあるのかを尋ねる楽しい時間を過ごした。

 最後にはもちろん絵本の紹介も受ける。

「ありがとうございました。ソフィーさんの選んでくれる本は弟もいつも喜んでるんです」

「嬉しいですわ、司書冥利に尽きますもの」

 冬休みにもう一度借りに来ると約束をして手を振った。この借りた絵本は厚みがあり絵本と児童書の中間だ。今のラウルにはいい文量だ。それに、きっとこれくらいの本なら贈っても喜ばれると思う。次に来た時に相談しようか。

 思いがけずセインデル国で大金を手に入れたから、教会への寄付をしたい。事業が上向いたらしようと思っていたが、先に本と寒い冬を暖かく過ごせるように、何か。

「お爺様は好きに使いなさいと言ってくれた。大切に使わないと」

 吐く息は白く一段と寒い季節の訪れを知らせた。つぎはぎのない青とエンジの2色が使われた首元を覆うマフラーを柔らかい皮で作られた手袋でそっと撫でた。


 大事にしてもらってる分、俺も誰かに分けないと。


 一過性で終わらずにずっと継続していける何かに頭を悩ませながら歩いた。



 冬休みは、お爺様とラウルと一緒に魔法陣を作ったり、改良したり、カルムスと魔法陣の早書き対決をしたりと魔道士の遊びをしていた。

 成績が2番目だったことにお爺様は自分のことのように喜んでくれた。

 ラウルも苦手だった魔道士学を頑張ったんだね、と褒めてくれたので抱きしめた。

 ダニエルには先生との関係を相談し、処世術や交渉術を学んだ。ジェラートの取引は、今後しないように言われた。

 一度きりしか使ってはならない手のようだ。


 来年の茶会で使う菓子の試作を繰り返した。

 タイミングよく来るノエルにキャラメルの試食をして貰い、みんなで遊んだ。

 ラウルが、『泊まっていってー』と言うと、『一応用意はしてきた』と言うので、いつもの部屋に泊まってもらう。

 お爺様は孫が一人増えたくらいの感覚なので、俺達と同じ扱いだ。

 そのことをノエルも嫌がっていない。

 もう1日、もう1日と、3日泊まってもらって3人で遊んだ。

 ノエルも楽しかったと笑って帰って行った。


 冬休みの宿題や課題は一切ないが、音楽だけはシュミッツ先生に毎日教えてもらっていた。

 俺とラウルが一緒に演奏できる貴重な時間だ。

 ノエルも来た時は、一緒に教えてもらっていた。

 3人で、6弦楽器を演奏するのも楽しかった。


 ダンスは、メイド長に加点がつかなかったからノエルに成績で負けたと正直に話し、どうしたらいいかな?と助言を貰ったところ、『女性と何度も踊るしかありませんわ』と、言われた。『今は細くて軽い子供でもだんだん大人になるにつれ肉付きもよくなるので、今の内に練習しておいた方がよいのです』と、真面目に教えてもらった。

 だんだん恥じらいも出るし特定の相手としか踊り辛くなるのだという。

 ただ、子供の時に1度でも踊ったことがあればハードルは下がるので、大人になってからも社交界で困らないと言われた。

 それが伝手になり、広く情報を得られることに繋がるのですよと。

 とても大事なことを知った。

 俺とラウルにはそういう事を言ってくれる親がいないのでメイドや執事たちの言葉は大事にしないといけない。お爺様がグルバーグ家で働く者はみんな家族だと言っていたっけ。

「ありがとう、アイネ。ダンスは想像以上に大切なことだったんだな」

「お兄ちゃん。僕も一緒にダンスをやるよ」

「ん? 女の子をやるのか?」

「うん! そしたらお兄ちゃんは上手くなるんでしょ?」

「ソルレイ様。女性の役のダンスを覚えれば、女性の動きも分かりますよ」

「……うーん」

 気乗りしない。ノエルや先生と踊ることになっていたかもしれない未来に目を閉じた。

「はぁ、仕方ない! 下手より上手い方がいいに決まってる! やるぞ! ラウル、俺がステップを教えるから男の役を覚えよう。踊れるようになったら俺は女性役をラウルは男役を。それぞれ男役が上手くなるように練習しようか!」

「うん!」

 ラウルは音楽もダンスも好きなので、すぐに覚えて、俺は逆にメイド達に足さばきを笑われながら練習をした。笑いながらも助言をくれるのでみんな優しいメイド達だ。たぶん。

「すみません、ソルレイ様。手はこうですわ」

 やっぱり子供とはいえ男の身体で女性役のダンスは難しかった。

「お兄ちゃん、足を踏んでもいいよ」

「あ! もうまただ、ごめん!」

 思い切りぶつかった。

「ううん! 頑張ろうね!」

「うん」

 ラウルの足を踏むたびに腰が引けて、それをまた注意される。俺の体は固いようだ。

 それでも、二人で練習をしてから誰かと踊ると踊りやすいので効果はある。


 冬休みは、読書もできたし新しい菓子も作れた。


 キャラメルクリームを作りビスケットに挟んだ。可愛いマリーゴールドの形なので、中々いいと思うのだ。

 試食してもらうとみんな美味しいと言ってくれた。

 女性が食べやすいサイズが知りたくて、使用人達にも感想が欲しいのだと言って渡した。

 メイド長達が、お茶を淹れて美味しそうに食べているところを、ダンスを頼みに行った時に見てしまい、ノックもせずに休憩室に入ったことを詫びて、内緒だと言って余分に渡してあげた。


 もしかしたら詳しくダンスの助言を貰えたのはお菓子の効果があるかもしれない。


 お菓子か。教会でビスケットをもらえる日は必ず行ったな。甘いものは滅多に食べられないのが普通だったから…体は温まらないけれど、お菓子を贈ろうか。

 うん、そうしよう。

 教会への寄付は本とお菓子に決めた。

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