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ダンスのお相手探し2

 夏休みが終わって学校が始まった。

 アインテールは自然が多いため、木々の紅葉が美しくなってきた。朝、学校に向かう車窓から眺めるのが楽しい。

 特に運河の辺りは紅葉が水面に映り、煌めいていた。そこに水獣が曳く小舟が通るのもまた、誰かの日常を垣間見ているようでついつい見てしまう。

 時間はかかるけど秋の間は小舟で通ってもいいかもしれない。


 そう思っていたのに、秋は授業日数が短くすぐに試験になる。授業も駆け足気味だった。そんな中でも、なんだか魔道学の試験は難易度が上がったような……。気のせいかな。

 試験を受け、ダンス以外は合格をもらえた。

 ダンスは落ちたわけではなく、まだ試験が始まっていないのだ。


 俺の相手は、見つかっていない。


 ノエルが、責任を感じているので、

「髭の濃いテイナー先生と踊るのは嫌だから、本番までに見つからなかったらノエルが踊ってよ」

 と、言うと天を仰いでから

「……仕方がない」

 と言った。

「ええ? 気持ちだけもらっておくよ」

「ソルレイから言い出した話だ」

「ごめん、冗談だよ。何か回避できる方法はないかな?」

「……」

 真剣に頭を悩ませてくれていたが、アイディアは出ないので、ジェラードでもと教員棟に近いカフェに食べに行き、担任のクライン先生がいるのを見つけた。

「先生に縋ってみよう」

「……」

 ノエルが物言いたげに俺を見るが、構わず先生に声をかけた。溺れる者は藁をも掴むのだ。先生は藁ではないので溺れる前の俺を引き上げて救ってくれるかもしれない。

「クライン先生。ご一緒しても宜しいですか。助けて欲しい案件が出ました」

「座学試験満点の二人組が何を言っているの?」

「俺もですか?」

 そう言いつつさっさと先生の座っているテーブルにつき、季節のジェラードを2つ頼もうとして先生にも尋ねる。

「先生、話を聞いて助言を下さい。ジェラードでいかがです?」

「アハハ。なあに? 本当に困っているの?」

「ダンスですよ。相手がいません」

「まあ! アハハハ」

 笑ってから季節のジェラードね! と言われ、3つ頼んだ。

 そこで俺はなぜ女子に断られるのかの本当の理由を知った。


「だから、二人ともできてるって思われてるのよ」


「ど、どうして!?」

「……」

 自分のクラスに引き抜いて、レストランではいつも2人掛けの席に座り、休み時間も一緒、放課後も図書館、休みも一緒に出掛けていると知られており、ノエルから寵愛を受けているのではないか。という扱いになっているらしい。

 四六時中一緒にいるからよ、と言われ二人で遠い目になる。

「男同士の友情ですよ。第一10歳です。みんな早熟すぎませんか?」

 寵愛って‥‥。夏に流行った小説『王族の寵愛―平民の営む刺繍店で愛を紡ぐ』からきているのだろうか。主人公は17歳の女の子だったはずだけれど。

 ダニエルやカルムスに女性を誘う時の手ほどきを受けたのに断られるはずだ。4人から更に増え、もう6人に断られている。


 まさかの理由に、クラスの女子達を見る目が変わりそうだ。


「そういう言葉を使う10歳ってなかなかいないわよ。それに、もうすぐ11歳でしょ。こういうのは女の方が早いのよ。ノエル様のお気に入りのソルレイ様には申し込まれても断らなきゃって女子生徒の間で暗黙の了解になっているのよ」

 他国の侯爵家とか敵に回すと怖いじゃない? にっこりと続けられため息を吐く。

「はぁ……終わった。テイナー先生とダンスか」

 こうなるともうどうしようもないな。本格的にジェラードを攻略しにかかる。やけ食いだ。

「回避する方法は、あるわよ? ソルレイ様が女の子のダンスを覚えて、ノエル様と踊ればいいの! みんな見たいわよ!」

 楽しそうに笑いながらジェラードを美味しそうに食べる。

「教師が生徒の不幸を楽しむな」

「本当だよ。あ! 先生もクラスの一員と言えるのではないでしょうか? クライン先生、一緒に踊って下さい」

「嫌よ、見世物になるじゃない。こういうのは、外から見る方がいいわ」

「「……」」

「ノエル様、覚えたら踊ってくれますか?」

「正気か?」

 さっきとは状況が違う、と言われてしまい、確かにと唸る。

 それでも、

「毎年、面倒です。きっと来年もこうなります」

「一理あるが……」

 考え込んでいる。

 そこはノエルの立場上断らないと駄目だ。友情に厚いのは分かったが笑い者になってしまう。俺はやけになっての提案だから何かないかと視線を空にやり手を考える。

「先生、女子を教えている先生はどうですか? 申し込んでみる価値ありですか?」

「ダメね。昔使われた手だもの。禁じ手ね」

 ふぅ、先人がいたか。

「詰んだか」

 ノエル、そんな冷静に言わないで欲しい。

 足掻くだけ足掻かなければ。最後の一口は味わって食べた。

「では、試験を一緒に受けない他クラスの女子ではどうでしょう? ロゼリアクラスとか……試験前の練習がてらどうかと誘うのです。テイナー先生にはどうしても一緒に踊りたかったと言います」

 スプーンを付き出して、これならどうだと先生に案を出す。寵愛云々はおそらくクラスを変わったからだ。初日に先生にばらされた。レリエルとガーネルの女子を中心に回っているのなら偶数組を狙えばいい。

「うーん。いい案だけど、微妙ね。試験として認められないかもしれないわ」

 これも駄目か。

「ふぅ。もう休もうかな」

 ジェラードを食べて糖分を補給した割にいい案が浮かばない。

「ダンスの試験を逃げるのは、タブーね。冬の間個人レッスンに通う羽目になるわよ」

 ちなみに相手を見つけられなかった者も、冬にレッスンだそうだ。

 敵前逃亡は期間が倍になるという。

 それも新入生がよくやる過ちだと教わる。

「あぁ」

 頭を抱える。

「そんな声を出すな。踊ってやる」

 ノエルがそう言うと、先生が驚いた顔で見る。

 さっきは、冗談のつもりだったのだろうか?

「うん、ありがとう。練習しておくよ」

 ノエルの厚意に頷いて、礼を言う。

 最悪ノエルとだと思えば途端に気が楽になるが、責任感の強いノエルのことだ。自責の念にかられているのだろうから家で皆に相談しよう。

 ええ? そこでお礼なの? という目で驚かれる。でもさ、踊る相手が先生と同級生ってだいぶ違うよ。心のダメージが。その辺りをクライン先生にも話した。

「ふぅ、全く。仕方がないわね。ノエル様のお相手に頼みなさい」

「リューナ嬢にですか?」

 荷が重いと断られたけど……。

「頼み方が大事なのよ。ノエル様にあなたとなら踊ってもよいと言われました、と言いなさい。ノエル様もついて行って、頷くだけでいいのよ」

 先生と踊られるのが嫌なノエル様が渋々許可を出したということにすればいいの、と言われ、俺はノエルに頼みこんだ。

「一緒に踊るよりマシだ。行こう」

「周りに誤解は受けるけど、唾をつけておきたい上級生達からの風除けにも使えるから、ノエル様にもそう悪くない案ね」

 頑張って、と笑いながら手を振られ、「ありがとうございます」と、一応礼を言っておく。


 同じように焦っているガーネルクラスの男子を刺激しないようにタイミングを見て、リューナとエリーゼに話をしに行くと、笑顔で引き受けてくれた。

「ありがとう。他に頼める子がいなくて、助かったよ」

「分かりましたわ! お任せください!」

「大役ですわね!」

 俺とノエルは複雑な気持ちになったが、今年のダンスはなんとかなった。




 試験当日は、ダンスホールに着飾った女子と男子が対面し、入学式のときの成績順に男子が一人ずつ名前を呼ばれて前に出る。成績上位者が後半だ。

 一緒に踊る女子に手を差し出してダンスが始まる。

 相手のいない男子は、その場で先生と踊るのだ。

 もちろん女子役なので、先生にエスコートされるし、女子の振り付けも覚えていないので上手く踊れず、冬休みの補講になる。

「ミスターソルレイ」

「はい」

 リューナに手を出し、ダンスを踊る。

 家では踊れる者には全員踊ってもらった。

 使用人は下級貴族や中級貴族の者が多く、女性ならほとんど踊れたので何の問題もない。快く引き受けてくれた。

 リューナが、緊張していてもノエルより先なので俺で練習できるからちょうどいい。

 ちゃんと最後までエスコートをして、エリーゼにも手を差し出す。今度は、女子が練習で使っていたという曲をかけてもらう。

 同じワルツでもこちらの方が踊りやすかった。

「ミスターソルレイ。今のところあなたのダンスが1番よろしいですよ。合格です」

「ありがとうございます」

「ミスリューナ、ミスエリーゼもとても良かったですわ。素晴らしいできよ。二人とも合格ね」

 それぞれの先生に褒められ、礼を言って席に着いた。

 主席のノエルは最後だからな。

 ほとんど終わって1番ならまずまずだな、と思う。

 それにしても、みんな避けたかったようで、思っていた以上に相手がいる。

 先生と踊ったのは5人くらいだ。


 次々に踊り、最後はノエルの見事なダンスで、ブラボーと先生に褒められ終わった。

 運動神経がいいからか流れるように踊っていた。

 女子生徒たちから感嘆や称賛する声が音楽に紛れて僅かに耳に入った。さすがノエルだ。拍手の嵐がよく似合っている。俺も惜しみのない拍手を今日の主役へ贈った。

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