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ドラゴンに襲われた市場で食材を得る

 変な時間に寝てしまったため寝付けないラウルと、これからの話をしたり少し遊んだりした。それでもさすがに真夜中には眠くなったようなので、一緒にベッドにあがり寝かしつけてから看病に戻った。

 何度か起きては、汗を拭く。意識が朦朧としている目で見ているのに気づき水を飲ませた。

 もう明け方だ。

 さっぱりするように熱い湯で絞ったタオルで顔を拭いてやり、今はとにかく眠るように声をかけた。なにか言いたげに見ていたが、瞼を指で優しく撫でると素直に閉じた。褒めるように頭を撫でておく。


 意識が戻ってよかった。


 昨日は気づかなかったけど、着ている服は軍服じゃなくて騎士服か?

「…………」

 見るも無惨な血まみれの服は床に放りっぱなしだ。脱がせる時に邪魔だったので、固く結ばれていた下衣の内側の結紐はハサミで切断した。でないと、裂傷防止用の装備は外せなかったのだ。

 頼むから弁償しろと言わないでくれよ。横柄な貴族もいると聞くので少しだけ心配になった。

 さてと、意識が戻ったということは、少しくらい目を離しても大丈夫だろう。朝の内は、ドラゴンも体が冷えていて飛べないというのは本当だろうか。


 市場まで行って戻ってこられるだろうか。

 

 不安はあるが、行こう。

 ラウルの頬に口づけをして買い物かごを持って行く。

 “市場まで行ってくるね。今の時刻は、朝の4時すぎ”

 テーブルに黒石の板を起き、石灰でできたチョークで書き置きをしてから走って市場へ向かった。時間を書いておいたから戻らなかったら何かあったと思うはずだ。


 俺もやっぱり怖いので、早く行って戻りたい。


 通りも酷いので予測はしていたが、市場はめちゃくちゃになっていた。店ごとぺしゃんこになっている。特に店を構えていない青空市場のエリアは、布で張ったテントだったが、見る影もない。途中から店が消えて嵐のように違う通りに残骸がある。

 その分、商品は散乱し通りに落ちていた。……これは落ちているから盗んだわけではないと言い訳をして、チーズや野菜をもらいつつ、滅多に食べられない果実を手に入れる。

 いつもなら大きさを吟味するが、そんな時間はない。パン屋の前に行き、カビが生えたら食べられなくなるから。バターがたっぷりの高級バゲットを買い物かごに挿した。

 ブドウやイチジク、デーツの入った布の大袋が通りに投げ出されており、中身がこぼれている。持ってきた麻袋に入れていく。

 これでよし、と。

 戻ろうとして向かいの通りにある立派な店だった肉屋が目に入った。店は半壊してる。肉屋だからドラゴンに狙われたのか。


  肉もいいかな。傷病人もいるし。精はつけないと。


 店先に吊るされていた食用肉は全てないけれど、中には無事な肉もあるはずだ。空を見上げてから肉屋まで走った。

 食べたことのある鶏肉と、この世界に転生してからは食べられなかった牛肉、ソーセージ、ボンレスハムをもらう。肉の塊なので、だいぶ大きくて重い。

 いつ、最後の晩餐になるか分からないので、買い物かごとは別に抱えるほど持ってしまった。肉屋に置いてあった胡椒と香草をもらい、隣の卵屋の卵に目を輝かせ、入っていた竹籠ごと背負い家まで急いだ。

 美味しいものは重いんだな。

 家に無事に帰り着き、もう一度行くか悩んだが、日が差せば体が温まったドラゴンたちが動き出すかもしれないと諦めた。

 玄関の戸締まりをきちんとしてへたりこむ。

「ハァ」

 色んな意味で精神的にキツかった。

 抱えている肉と買い物かごから目を逸らし、前を向く。

 ほぼ地べたで眠っている貴族の顔を見て、顔色が先程より良くなっていることに息をつく。なんとかなりそうだ。ポーションはなるべく使わない方がいい。

 ちゃんとラウルが寝ているかを確かめ、黒石板の書き置きを布で消した。

 床に置いたままの買い物かごから食材を台所に運び、朝ごはんの支度にとりかかる。豪勢にいこうと、鶏肉と野菜をどっさり入れて塩胡椒をふりかける。香草もどっさり入れて焼窯にいれた。スープも作ろうかと水瓶をなんとなしに覗き、量の少なさにまずいだろうかと作っていた手が止まった。

 父さんが昨日に水を汲みに行くはずだった。使っていい井戸は地区ごとに決まっている。井戸があるのは教会の近くだ。距離があり今からでは帰りが危険だ。

「どうしよう。何とかしないと」

 果実はあるが、水分代わりといえる量はないよな。それに怪我人だっているのだ。白湯は飲ませたい。

 井戸以外の水ならどこだ?

 そうだ飲食店!

 ……駄目だ。遠い。と、なると近所の逃げた家の水瓶から移すしかない。

 玄関の扉を少し開け、空を見上げる。まだ陽はそれほど差していないことを確認して、お隣の家に入り水瓶の水を鍋に汲み、我が家の水瓶に流し入れる。

 何往復かしたら、城の方で魔法の放たれた音がして、これ以上は無理だと慌てて扉を閉めた。

 何日かは大丈夫だけどまずいな。

 ご近所の水を集めれば問題ないだろうけど、それをするのは夜半になりそうだ。

 とにかく今日、明日は大丈夫だからと気持ちを持ち直すように腹に力を込め、朝ごはん作りを再開させた。

 前世以来のソーセージと目玉焼きを用意し、ラウルを起こしに隣の部屋にいく。

 ベッドに腰掛けてすやすやと眠るラウルの頭を撫でてから体を揺する。

「ラウル、起きて」

「う? くまさん?」

 わぁ、かわいらしく寝ぼけてるな。どういう夢か気になる。クマのふりをしてやるべきか。

「…………」

 しかし、いざやろうとすると照れてしまいできない。仕方なく、お兄ちゃんだと打ち明ける。

「食べたら寝てもいいから。お兄ちゃんと一緒に朝ごはんを食べてくれ」

「うぅ、うん、いい匂い」

「焼いただけだけど、自信作だ」

 母さんよりおいしいはずだよと、耳元で伝える。

「楽しみー!起きる!」

 水で濡らしきつく絞った薄手のタオルで顔を拭くと、ぷはっと息を吐くので体を起こしてやる。

「着替えたらおいで」

「うん!」



  戻ると、こちらも目を覚ましたようで、ぼうっとした表情の騎士に白湯を入れたお椀を口元に運ぶ。ほっとしたように息を吐いた。

「腹を切られたようなので、もう少し寝ておいてください」

「……ここは?」

「僕とお兄ちゃんの家だよ。ドラゴンが来たから家族は避難所に行ったからね。僕たちが朝ごはん食べるまで大人しくしてて」

 用意を終えたラウルの視線は、テーブルの上のご馳走で。

 こちらを見ずに先にごはんだよ!と言いたげな言葉に俺は笑った。

「食べ終わるまで寝ていてください」

 白湯を飲ませるのに起こしていた体をゆっくり戻した。痛むのか眉を寄せていたが、意識もしっかりしていたので一安心だ。

 バゲッドを焼いて温め直してスープも運ぶ。

 鶏肉とソーセージにラウルは目を輝かせた。俺は卵に興奮したけれど、食べたことのない卵よりも肉の方が嬉しいようだ。

「お兄ちゃん、朝からすごいね!」

「うん、どうせ残していても傷むから沢山食べて」

「うん!」


  今日を生きるためには食べないとな。

 

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