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魔法陣の手ほどき

 浮かび上がる数多の魔法陣を前に圧倒された俺たちに、

「1つずつ学んでゆけばよい」と、お爺様は笑った。

 まずは、魔法陣の書き方から習う。

 時間の設定の仕方、効果範囲の決め方、発動するために必要な魔力の量、魔法の選定から始まり、複合魔法陣の作り方、補助魔法陣の役割。複合魔法陣の限界数は8つとされているが、補助魔法陣を入れ込めば魔力を還流させ12まで複合できることをやって見せてくれた。


 それを見ながら魔道士家の凄さを思い知る。


 お爺様、魔道士学の先生に『グルバーグ家ならば6つの魔法陣の複合もできるのでしょうね』と言われたよ。嫌味なのかも分からずに曖昧に笑って流したけれど、どこから8つって出てきたの? 12の複合魔法陣って、教科書は5つが限界だって見せた教本に載ってたはずなんだけど……。


 手元で描かれた魔法陣が、ピンと指で弾かれ天井に大きく広がり描かれる。1、2、……10、11、12。


 うん。間違いなく12こだ。


 おじいちゃんすごいね! と言っているラウルに頷くお爺様の笑顔を見た。博識な人は人にものを教えるのが好きな人が多いという。お爺様もきっとそうだ。

 こんな凄い人がせっかく教えてくれるんだ。努力しないと、と密やかに気合を入れるのだった。




 2日半食事や寝る時は山小屋へ行き、それ以外は、神秘的な施設に篭り、俺とラウルは魔法陣を自作できるようになった。

 魔法陣は、設置型とすぐに発動できるものがあり、魔法陣の外枠はいつ発動するのか時間を決めるもの、魔法陣の中にある4つの円は、それぞれ、行使する魔法の種類、強さ、範囲、場所が書きこまれていて、それらを繋ぐ魔法陣が一斉に4つの円を同時に行使するよという時間を意味している。

 つまり、先生が言っていたのは、ここは、今は火魔法で設定してあるけど、水魔法に変えると水魔法になるよと言ったのは、魔法陣の雛型の魔法の種類だけを切り取り、違う魔法に張り替えたということだ。


 お爺様が大魔道士と言われるのは、4つの円の中にいくつもの円を作り、最初の魔法は火魔法で火炙りだ、次は風魔法で熱風を最後は水魔法で押し流そうという具合にそれぞれの発動時間を変えた上で、15時にドラゴン討伐だな、では15時にドラゴンが来たら発動!ということができるからだ。対象以外を傷つけないきめ細やかな魔法陣。複雑になればなるほど計算は複雑になり、魔法陣の発動率は下がる。

 だから多くの魔道士たちは単純な魔法陣を早く描ける努力をする。一方、大魔道士には、必要な魔法陣を瞬時に描けることが求められる。グルバーグ家の人間、お爺様はその頂点にいるのだ。

 魔法陣は魔法陣を組み合わせて巨大な複合魔法陣を作ることができる。

 魔法の連鎖だけではなく威力を足したり、速度を上げることも補助魔法陣で可能だ。魔道具とは本質が全く違うものだというのはすぐに理解できた。魔道具よりも魔法よりもできることの幅が広い。


 俺とラウルはお爺様に、

「この魔法陣はどういう魔法陣かの?」というクイズを出され、部屋いっぱいの魔法陣を選んで当てる。当たるとその魔法陣をお爺様が消すという遊びをした。 

 外すと発動されてしまうデンジャーな遊びだ。そのため自信がないと言えない。

 ラウルが素早く「これは風魔法、威力そこそこ14時に発動だね!」と、簡単に当てていくので、俺は部屋にある魔法陣をじっくり見て「よし!これは……」とお爺様に伝え、ラウルから遠い場所にある魔法陣を当てていくことになった。


 全部の魔法陣を消し去ることができたのは、2日目の夕方だった。


 最後に試験を出され、俺とラウルは絵描きの要領でお爺様が言った内容に則した魔法陣を作成した。

「いくよー!お外は時間♪4つの円は、1!魔法のしゅるいー2!魔法の強さー3!魔法のはんいー4!どこで発動するのか決めましょうー!最後に皆の円を囲んでつなげ!囲んでつなげ!えい!えい!えい!」

 ラウルが歌う可愛い歌が耳につき、俺は魔法陣の作り方を覚えることに成功したのだ。

 お爺様に最初に言われていた目標も“魔法陣を描けるようになること”だったので、

「合格じゃな!」と褒めてもらえた。

 俺はラウルを抱きしめた。

「お爺様に合格を貰えたのはラウルのおかげだ!ありがとう!」

「いいよー! お兄ちゃん、ほっぺにチューは?」

 俺はラウルの頬に感謝の印を渡した。

「アハハ。大好きだよ。お爺様も」

「うん! お爺ちゃんも大好き!」

 二人でお爺様の頬に親愛の口づけをして、微笑むお爺様と一緒に屋敷に帰るのだった。


 車に3人並んで乗り込み、いつもは真ん中はラウルだが今日はお爺様だ。

「あのね、お爺様みたいな大魔道士にはなれないかもしれないけど、頑張る!」

「ラウルもー! 魔法陣のお絵かきする! 楽しかった!」

 ラウルの感想に笑い、俺も楽しかったと笑う。

「お爺ちゃん、また教えてね!」

「うん、教えて!」

「ハハハ! よいよい! 生きている内に何でも聞くが良いぞ!」

 今が一番幸せだとお爺様が笑い、俺もラウルも今日はお爺様の部屋で寝ることにした。


 


 夜の21時過ぎに屋敷に帰って来た俺達はお腹がぺこぺこで、帰りの馬車の中パスタが食べたいと言ったラウルの案でそれぞれ食べたいパスタをリクエストして食べることになった。

 ラウルはボロネーゼ、俺はマスとほうれん草のクリームパスタ、お爺様はラグーソースの大盛りパスタだった。

 好物なのだという。

 いつもはスープとバランスのいい料理を料理人が作るので外食をする時はいつもこれだというのだ。

 ラウルが言ったからということで、今夜は屋敷で食べられると喜んでいて何だかかわいかった。



 その夜のこと、お爺様の部屋に枕を持っていき大きなベッドで川の字で寝ると、魔道士の成り立ちについて話してくれた。


「魔道士とは魔法を時間差で発動できないかを考えた魔法士が始まりなのだ。そしてその魔法士が、我がグルバーグ家の最初の先祖だ。自らが持つ魔力で魔法を発動させるわけだが、放出させると無防備になり、他国との戦争にあった中、魔法士は真っ先に狙われた。一度でも魔法を放たれると戦力差がひっくり返る。魔法士が前線におかれ、たった1度の魔法を行使するために命を落とさなければならなかった。国に使い捨てにされていた時代があったのだ。そこで魔法を行使した後に、風魔法を素早く行使できれば障壁となって身を守れるのではないかと考えた。だがうまくいかなかった」


「「魔力切れ?」」


「ハハ。そうじゃ。まあその後も魔法士を2組で配置させ、一人は攻撃、一人は防御なども試されたし、兵士達を盾に使うといった非道なこともあったようだが。魔法を発動させるためにやはりタイムラグが出るからの」


 そうか、その隙にやられるとダメなんだ。


 連続攻撃をされたら、どこかでほころびが出ていつか詰むのか。学校で習う魔道士の歴史は、偉大な魔道士の名前とその功績だけで、起源や成り立ちに関しては一言も出なかった。その時代に生きていた魔法士たちの生き様は壮絶だったろうな。


「時代は移り変わって、戦争は終わり魔法士が前線に立たされることもなくなったのだが、グルバーク家は多くの魔法士達の上官という立場だったのでな。死んでいった者達に申し訳がないと代々時間差で発動できる魔法の研究を重ねていたのだ」


「代々?みんな魔法士だったの?」


「そうじゃよ。魔法士は、いや魔力は貴族しか持っておらぬ。これが何故かは分からんのだが、今も魔法士も魔道士も皆、貴族の血が流れている者だけだ」


 あれ?

 魔法陣は描けたけど、魔道士にはなれないのか?


「お爺ちゃん? ラウルとお兄ちゃんは魔法陣の絵しかかけないの?」

「ラウル、魔法陣は動力の魔導石を置けば使えるよ。あ! そうか。魔法は発動できない?」

「ハハ、いやいや、それがのう。私もなぜ今の状態でアレが見えるのか謎じゃったのだが、今、分かったぞ。一緒に寝ておるからだ」

「ええ? お爺ちゃんと寝てたら魔法士や魔道士になれるの?」

「うむ、そのようだ」

「「ええー!?」」

 てっきりラウルの意見は否定されると思っていたのに肯定され悲鳴を上げる。


 眠っている時に漏れ出る僅かな魔力を二人が吸収しているのではないか、というのがお爺様の見解らしい。

「といっても魔力の量は少ないのう。死の前に、二人に魔力をやるので分かるだろうが、今の魔力は水滴ほどだ」

「俺もラウルもお爺様が生きてくれている方が嬉しいよ。大怪我だったから心配だったんだ」

「うん、ずっと一緒にいて欲しい」

 ポーションを2本使うのって死期を早めるって分かっているから、エルクのことも心配している。

「おお、そうか、そうか。ハハハ。最初はすぐに死ぬと思ったんじゃが、なかなかどうして。可愛い孫が二人もおると生活にハリが出てのう。魔力をやるのは当分先じゃ」

「「よかった!」」

 そっちのほうがよっぽど嬉しいよ。

 俺とラウルはそのことに喜び、安心して眠りについた。

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