グルバーグ領の新事業
授業が終われば、すぐに帰る。
勉強は学校の授業中にやればいい派の俺は、本は読むけど、勉強という勉強はしなかった。
前世でも学校に行くのが当たり前で、記憶があるからできるけど、この世界では学校に通うのは当たり前ではなく、貴族の子供にとっては苦痛であるようだ。
平民の子供も学びたい子が教会に行くくらいなので、10歳だとこんなものかもしれないが、3ヵ月も経つと、クラスで、できる子とできない子がはっきり分かれた。
といっても集中しているか、していないかくらいで、喋るわけでもなく授業妨害などはない。
試験はそれぞれが個人で頑張るので、周りの成績はあまり関係ないのだ。
学校にも慣れてきた。ノエルのおかげもあり、いじめられることもなく、グルバーグ家の貴族として振る舞えているようだ。問題のない学校生活を送れるようになったことで余裕のできた俺は、ラウルと水獣の船に乗ろうか、と学校帰りに遊びに行くこともできるようになった。
ノエルも遊びに誘うと断らないので、勉強の邪魔をしない程度に誘った。
学校に行く傍ら、お爺様と俺、ラウル、ダニエルと、カルムスで保湿性に優れたハチミツ石鹸やシャンプーとリンスを作り、ハチミツの加工品として特産品にすべく動き出した。
軌道に乗るのは2、3年後だろうが、揃って売れると断言してくれた。
製造方法は完全に秘匿だ。
蜜蝋で蝋燭も作れるし、保湿剤にもなるから化粧水も作れる。
この世界の冬はかなり寒いので、手荒れにも効くのでハンドクリーム代わりにもなるし、リップとしても使えるので売れると思う。
まずは試そうと、俺たちも含め屋敷で働く皆も一緒に使ってみることにした。感想や改善したかの統計を取るのだ。
領内の儲け話なのだが、グルバーグ家は魔道士の家系のためこういうことには明るくない。そこでカルムスに白羽の矢を立て、「「やって、やって」」とラウルと二人で頼みこむ。
「だって財務派閥の人ってカルムお兄ちゃんの友達なんでしょ」
「あーまあそうだな。家は元々財務派閥だからな」
「僕たちより向いてるよ。お爺ちゃんに恩返しできるよ?」
「むぅ。そうか」
強引に頼まれる経験が伯爵家であるために少ないので、ダニエルの言う通り、なんでだよ、と言いながらも最後には渋々引き受けてくれるのだ。
「ダニエル、ハチミツを領地の特産品にしたいんだ。安定して供給できるようにハチミツハウスを作ろうと思う」
「ハチミツハウスですか?」
「うん。ベリオットを育てる。受粉させて果実を作るのに養蜂も並行して行う」
俺は雪が降っても大丈夫なように3階建ての堅牢な建物の中に、魔道具で作った人工灯を設置し、ベリオットを年中育てられるようにしつつ、その花の蜜を餌に養蜂も行うと、絵図を描き、可能か検討してもらう。
「お爺様に見せる前に、どれくらい初期費用が掛かるか知りたいんだ」
「これは……また凄いことを考えられましたね。やってみます」
「ありがとう」
ベリオットはいちごに似ていて、少し酸味が強いけどジャムやケーキにすると美味しいのだ。
年中食べられたら嬉しい。
ベリオットの花の蜜だけで作ったハチミツは美味しそうだ。
それに、不自由のない暮らしをさせてくれるお爺様に恩返しもしたいのだ。形は違うけど、これも領地を盛り立てることになる。
ラウルと相談して頑張ることにした。




