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人脈と根回し

 

 毎日3人で駆け回って遊んでいると、あっという間に2週間が経ち、ノエルが寮に荷物を運ぶと言うので一緒に行くことにした。


 足りない物がないか確認をすると、教科書が1冊足りなかったので教務課に行き話をして用意してもらった。

「申し訳ありません、こちらの不手際で……」

 やってしまった相手が他国の侯爵家で、グルバーグ辺境伯家が使い走りにされたのではないかと恐縮する教務課の人に笑って以前からの友人だと伝えた。

「まだ1日前だから大丈夫です。気づいてよかったです」

 お礼を言う教務課の人に、ダニエル直伝の処世術で欲しい情報を貰ってから寮に戻り、ノエルに教科書を渡して俺の役目は終わりだ。

「お兄ちゃんお帰りー!」

「ただいま」

 我が物顔でソファーに座って絵本を読むラウルの頭を撫でる。優しい目をした年配のメイドが紅茶まで淹れてくれていた。お礼を言うとにっこり笑う。

「ノエル貰って来たよ」

「すまない、そこの机に置いておいてくれ」

「うん。……あれ? ノエル主席なのか?」

 勉強机に教科書を置こうとして、メイドがクローゼットに直す制服の色が白であることに気づいた。

「てっきりソルレイかと思っていた」

 ノエルのことだからと山を張って1番にしたが本当に主席だった。

「『白服は目立つから、嫌だよ。10番狙いにするね』ってお爺ちゃんに言ってたよ。1番から6番はクラスの数と同じだから学級委員? まとめ役で先生の雑用係だろうからって。カルムお兄ちゃんは、白服は貴族の証だから、手を抜くなって言ってた。でも、お爺ちゃんも早く帰って来てくれる方が嬉しいから『よいぞ』って言ったの。僕もその方が嬉しい」

「……」

 8歳になっても無垢なところが抜けない、素直なラウルに一身上の都合を暴露され、ノエルにじっと問うように見られる。

「主席は名誉なことだよ。あくまでも俺の推測で、事実とは異なる……かも。ある種のヒエラルキーも必要で、この部屋も主席専用の部屋なのだと思う。他より広く、一人しか認められないメイドも、優秀な1番から6番までの生徒には二人認められると聞いた。そもそも通いで通学できる者は、他国の生徒に配慮することが多くて、アインテール国の貴族は避けるんだ」

 この1年は、勉強も頑張った。分からない問題はなかったが、入学試験は学力テストのようなもので、落とされることはなく初等科は誰でも入学できて卒業もできる。


 一応辻褄は合っているなと言わんばかりの顔をされる。


「ラウルツ、ソルレイの話をどう思う?」

 素直なラウルに聞くのが一番とばかりに話をふる。

 ソファーに座っているラウルは頷く。

「本当だよ? カルムお兄ちゃんは、お兄ちゃんのことを心配したの。僕はお母さん似の髪色で金髪だけど、お兄ちゃんはお父さんの髪色と同じなの。辺境伯家じゃなくて平民だろって馬鹿にされないように主席を取れって言ったの」

 ラウルがそう言うと、何度か頷き、頭を撫でた。

「俺が守っておく。心配するな」

「うん! 僕が入学するまでお願い!」

「分かった」

 二人で話しているところに本人として割り込む。

 心配しているのは俺よりも周りだ。

「そんなに心配しないで大丈夫だよ。国内で入学する家の子とは交流もあったから。この国の貴族が人数の割合でも1番多いからね」

 仲良くなった隣の領のフォルマも一緒の入学だし、新たな事業である養蜂の発展、加工事業で一部の財務派閥との関係も良好だ。

 お爺様は俺とラウルの案なので直接聞くようにと、財務派閥の何人かに声をかけてくれたので、俺は案を出し、時折ラウルに振った。

 蜜蝋を使った加工は追々するということでお爺さんと一致している。

 領内でやるための根回しだ。

 今の内に噛んでおくと得なので、お爺様が信用できる財務派閥家の人を俺達に引合わせたのだ。

 国内の主要な家にも挨拶回りはしてある。


 この国の王は、ラルド国との架け橋をお爺さん頼んだものの、大怪我を負い置き去りにされたことで、グルバーグ家に対して強く出られない。

 外交派閥でもなければ外交一門でもないのに、魔道士を外交の道具として使ったのだから自業自得だ。

 命を失い、濡れ衣まで着させられていたかもしれないのだ。

 今後、グルバーグ家にそういった依頼がきても断固お断りすると。お爺様は、自分の死後に苦労しないように俺達の為に言ってくれたようだ。

 王族には、ちょっかいをかけたり、爪弾きにされたりしないように上級貴族達に接触して外堀を埋めてから謁見をしたのだ。

 エリドルドが随分と根回しに動いてくれたらしい。

 貴族達もいざという時の国の守りの要になる大魔道士のラインツ様が他国に派遣されて死んでいたかもしれないなどと許しがたいという判断だ。


 俺もここにきてグルバーグ家の立ち位置が分かったので、国内の貴族達に対してはそれほど心配をしていない。

 学校では他国の王侯貴族がどう出るかだが、ノエルと仲良くなっているので大丈夫だと思っていることを伝えた。

「クラス分けにもよる」

「そうかな?」

「こちらでやっておく」


 え? なにを? と聞かなくても次の日クラスに行って判明した。

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