表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
29/244

入学前にめいいっぱい遊ぶ

 もうすぐ学校が始まる。

 制服も一応あるので、採寸合わせも行った。

 冬のコートや羽織物、セーター類は自由だ。

 試験は1ヵ月前にあり、主席から6番までは、制服が白に変更になる罰ゲームのようなものがある。

 これは、クラスが6クラスあるので学級委員をやれということだろうと認識している。

 平和な学生ライフを得たいので、手を抜くことに決め、学校に行くまではラウルとお爺様と3人で遊び回った。


 エリドルドから事前に教えてもらった国内の入学予定の子供については、何度か遊びに行ったり、遊びに来てもらったりと貴族らしくパイプ繋ぎは要領よくこなしておいた。

 どちらかというと相手の方が緊張しており、階級が1つ違うだけでこうなのだと貴族社会の則を知る。

 学校では、改めて気をつけようと思った。



 お爺様の信頼し、信用できる家には同行して国の財政状況や政治派閥を勉強させてもらった。

 子供は遠慮してもらいたいと言われない限りは、無害な孫アピールをラウルとして、難しい話を聞き、家に持ち帰り、ダニエル、カルムス、お爺様、俺、ラウルの5人でディスカッションをした。


 試験の結果は10番で、予定通りだ。


 勉強をする時は真面目にやり、やらない時は駆け回って領内の子たちと遊ぶ。メリハリをつけた遊び多目の時間を過ごしていたある日、俺宛てに手紙が届いた。


「ソルレイ様。お手紙です」

「ありがとう、ロクス。誰だろう?」

 ここにいることを知っている人になるけれど? 渡された封筒の裏を見る。

「アヴェリアフ家の蝋印でございます」

「ノエル様か」

 部屋でペーパーナイフを使い目を通す。アインテール国の魔道士学校の寮に入寮すること、少し早目に行くので、家に遊びに行っていいか尋ねるものだった。

 お爺様に聞かないと。

 今の時間なら執務室ではなく書斎かな。書斎に向かっている途中で、食卓に飾る花を摘んでいたラウルとメイド長のアイネとばったり会い、ラウルもお爺様のところへ行くというので一緒に向かう。


「ふむ。入寮は1日前からしか認められておらぬ。この屋敷に泊まるとよいぞ」

「いいの? やったー!」

「ありがとう!」

「ハハ。気にせずともよいぞ」

 早速、“入寮できるまで家に泊まればいいよ、自然が多いから、外で遊ぼう”と手紙の返事を出すと、学校が始まる2週間前にノエルが来た。


 10歳になり深窓の美少年に磨きがかかっていた。

 隣に立つと長い睫と気品溢れるオーラに委縮しそうだが、早く来たのはきっと珍しい昆虫目当てだ。ノエルは見た目で損をするタイプだと思う。


「ラインツ様。アヴェリアフ家のノエルです。この度は、私の我が儘をお聞き入れ下さりありがとうございます」

「立派な挨拶だと褒めるべきだが、気にせずともよいのだ。まだ学校にも通わぬ身だ。ソルレイとラウルツと遊んで過ごせばよい。我が屋敷で羽根を休められよ」

「……ありがとうございます。自然が多いので是非見て回りたいです」

「ハハハ。ソルレイとラウルツも毎日出かけて遊んでおる。川に魚もいるのでな。大いに遊ぶが良いぞ。粗相を咎めることはせぬゆえ、使用人達も長旅の心労を癒すのじゃ」

 付き添いで来ていた執事やメイドや護衛もお爺様の気持ちの良い歓待に笑顔で頭を下げた。

 迎賓館を使うか、二人の部屋の隣を使うかと聞かれ、隣を選んだ。一緒に2階に上がり、部屋に行く。

「ソルレイ、ラウルツ。遊ぶ時に敬語はいらない。学校でも周りに誰もいなければかまわない」

「「うん、分かった」」

 早速遊びに出かけたいと言うので、皆で水筒を持って出かけた。

 護衛をする人間が慌てて追って来る。

 モルシエナとベンツは心得ていて、もう玄関にいる。

「モル、ベン!遊びに行くよー」

 ラウルの親分のような声を聞き、二人が後ろと前につく。

 春は、冬の厳しさから顔を出す昆虫が多いので楽しく捕まえ、魚釣りに川へ行き、雨が降れば、皆で音楽を楽しみ、読書もする。


 同じ部屋でそれぞれ読むだけでも楽しいものだ。


 俺もラウルも大きめのクッションに寝そべって本を読むので、驚かれたが、気にせず本を読み、ラウルが寝ると本を閉じて、頭にクッションを入れ寒くないようにブランケットをかけ寝かせてやる。

 ノエルにじっと見られていたので目を合わせた。

「相変わらずの仲の良さだな」

「そうかな?」

「自覚がないのか。ここまで仲がいいのも珍しい」

「それ、音楽の家庭教師に来てもらっているシュミッツ先生にも言われたよ。兄弟愛ですねって。でも、かわいいのはそうだよ。ノエルもマリエラが可愛いだろう? 下ってやっぱりかわいいよ」

「……いや、そうでもない」

「え!?」

 仲良くなれたと思っていたが、ノエルは底が知れないな。マリエラはあんなに可愛いのに、可愛くないのか。

「一緒には遊べないからな」

「そうか。俺も妹だとそうなのかな」

 ドレスを汚すと怒られるから、外で遊びたいのに遊べないと言ったマリエラを覚えている。

「ブーツを履けば踵がある、ドレスももう少しだけ上にすれば汚さずに遊べると言っただろう。あれから庭で遊ぶようになった」

「そういえば言ったような気がする。庭で遊んだ時に凄く喜んでいたから。お母さんに怒られた?」

「やった遊びは外で遊べる割に大人しいものだったから、ドレスは一度も汚していない。ソルレイは妥協案を出すのがうまいから付き合っておくように父上に言われた」

 妥協案?

 不思議そうな顔をしていたのかもしれない。

 見返すと、話を始める。

「マリエラと遊んだことはなかった。あの時も一緒に遊びたくなかったが、人形遊びでもなく外で遊ぶというから、いいかと思った」

 それを聞いて驚く。

 渋々了承をしていたらしい。その割には本気でだるまさんが転んだ、をやっていたなと思い返す。

「アハハ、そうだったのか。でも、ノエルも楽しかっただろ?」

「一緒に遊べるのだなと気づいた」

「そうか、よかった」

「……学校でも宜しく頼む」

 顔を見ると逸らすので、どうやらこれが言いたくて、会話を頑張っていたようだ。

 珍しいなと思ったのだ。

「友達が困っていたら助けるのは当たり前だ。でも気づかない時もあるから、その時は言って欲しい。ラウルツと3人でどうしたらいいか考えようよ」

「分かった。努力する」

 嬉しそうに微笑むので俺も微笑んでおく。

 破壊力は違うが笑みは笑みだ。

 相手に伝わればいい。



 ノエルの使用人達が心配に成る程朝から遊び回り、昼をとってまた出かけるという、子供特有のエネルギーを使い、たまに遊び疲れて三人揃ってソファーで寝入ることもあったが、お爺さんがブランケットをかけておけばよいという人なので、起きたらラウルに凭れられたまま寝るノエルなど貴重な姿を見ることもできた。


 ラウルだけではなく、今ではお爺様の為にも作る菓子は、ラウルが持ち帰った鶏により卵がいつでも手に入ることや、自然豊かなグルバーグ領ではハチミツが簡単に手に入ることもあり、めきめきと上達した。


 この領で鶏肉とは、山鳥だ。


 鶏肉? 飛んでいる鳥で良ければ落として来ますよ、となるので、鶏は領地内に鶏舎を作られこの1年で相当数増えた。肉ではなく卵を主としているのだ。

 卵は需要があり、新たな雇用先を創出できたとお爺さんは喜んでいた。

 最近では“1:1:1ケーキ”という誰でも簡単に焼けるケーキの配合で、レモンケーキやナッツケーキ、オレンジケーキ、贅沢にカスタードクリームをいれることもあり、皆に振る舞える腕になった。

 雨の日になると偶に出るケーキのおやつが、俺の手作りだと気づいていなかったノエルが驚くので、皆で葉っぱやカエデの形のショートブレッドを作ることにした。

 クッキーより簡単で失敗しない、スコーンと悩んだが、型が抜ける方がラウルも楽しめていいだろう、とこっちにした。


「お兄ちゃん見て!」

 生地はみんな立派な虫型になっていた。

「うん!上手だ!大きな葉っぱに小さい葉っぱを重ねることもできるよ。それに、こうやって葉っぱを丸い型で端っこを落として……これを小さく丸めてつなげれば、ほら葉っぱを食べる芋虫」

「わぁー!僕もやるー!」

 出来の良くなかったものを捏ね直して作っていた。

「ふふ」

 じっとそれを見て、オリジナルで作っていくノエルのショートブレットは虫型だが、それを食べるのだが分かっているのだろうか。

 羽や突起、節がリアルすぎる。

「自分で作った物は自分で食べようね」

「うん!楽しみー!」

「……テントウムシの方がいいか」

 形が違うだけだけど、まだテントウムシの方がいい気がするな。

「可愛い形だからそっちのほうがいいかも」

「そうだな」

 楽しんで作り、良い色で焼き上がったので、アイシングでラウルの芋虫に目をつけてやった。

「わぁ!かわいい!お兄ちゃんありがとう!」

「ん。かわいいな。ラウルもやってみる?」

「できるかな?」

「できるよ、大丈夫だ」

 お菓子の飾りを作る時専用の竹細工でちょんちょんとやり、自分で作った中で一番の力作を俺にくれた。

「ありがとう、食べるのが勿体ないな」

「駄目だよ。また一緒に作るから食べて!」

「分かった!あ、そうだ!お爺様にも渡そう」

 ディテールに凝るノエルにすっとテントウムシを差し出され、赤テントウに仕上げて渡すと喜んでいた。


 お爺様にもノエル作の赤テントウとラウルの作った葉っぱを食べる芋虫と俺の無難な花の型抜きのショートブレットを渡すと笑いながら喜んで食べてくれた。

 夕飯の席で、カルムスとダニエルに自慢するのを見て笑うのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] ノエルくんが良い子でうれしいな~
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ