アインテール国
ホテルに着き、出かけていてまだ戻っていないお爺さんのいない部屋で、ラウルの添い寝をしたまま眠ってしまい、気づいたら朝だった。
「えっと、ああ、あのまま寝ちゃったんだな」
ラウルと二人で寝たままで、お爺さんは? と振り返るとちゃんと隣で寝ていたので安心した。
お爺さんの毛布をかけ直し、眠っているお爺さんに「先に寝ちゃってごめんね」と声をかけていると、ラウルも起きたので、お風呂に一緒に入ることにした。
「お兄ちゃん、朝風呂は贅沢だね」
「うん、俺もそう思うよ」
石鹸で綺麗に洗ってやり、湯船につかると『あぁ』と声が出る。
これは、もう仕方がない。
ラウルも『ふぅ』と声を出すので世界が変わろうともお風呂の良さは変わらない。
湯ざめしないように十分に浸かってから前世で着ていた合成繊維ではない綿や麻の服を着る。
季節が移り変わり、今は綿の服だ。
オーガニックコットンって前世よりこの世界の方が高いんだろうな。男の服なんてなんでもいいだろうと思ってしまうが、貴族として質がよく発色のいい服を着る必要があり、綿の服に袖を通す。着心地はとてもいい。
髪を乾かして部屋に戻るとお爺さんが起きていた。
「おじいさん、おはよう」
「おじいちゃん。いつ寝たのー? 僕、全然気づかなかったよ?」
「ハッハッハ、おはよう」
笑顔であいさつを交わし、先に寝ちゃったことを謝ると、二人でくっついて寝ていたからそのままにしておこうと皆で決めたらしい。優しい人ばかりだな。
「ソルレイ、ラウルツ。少し話をしよう」
「「うん」」
お爺さんたちは昨日、大事な話をしに行ったのだろうと、エリドルドとの会話を思い出す。うまくいっただろうか。
レモン水を淹れて向かいのソファーに二人で座る。
「ラルド国の王だが、この国での亡命が決定した。ここ、ディハール国の国王の前でラルド国王との交渉も出来た。これで私は安心して国に帰ることができる。ソルレイとラウルツは、私の跡を継ぎ、グルバーグ家を盛り立てて欲しい。二人が心配しているエルクシスであるが、無事だから安心するように。二人が魔道士学校を卒業したら会ってもよいと伝えてある」
俺とラウルは、真剣にうんうん、と頷いていたのだが、お爺さんが齎してくれたエルクの情報に顔を見合わせて喜んで笑う。
「でも、会えるまで長いね」
「うん、長いね。頑張ろう」
「なに、初等科なら4年で卒業だ。会いに行ってもよいぞ。この国におる」
「「本当!?」」
「やったー!」
お爺さんはエルクには貴族学校と同じ16才で卒業だと言ったらしく、子供を泣かせた罰じゃと笑った。
でも、そのことで俺達と出会えたことを鑑みて、俺達には初等科を卒業したら次の高等科の入学までには長期休暇があるから会ってもいいと言ったのだ。
「「学校、頑張るね!」」
「ハハハ、うむ、うむ。頑張るのだぞ」
「うん!」
政治的な問題があるらしく、すぐには会えないけれど5年後には会える。そのことを素直に喜んだ。
大事な用件がそれぞれ終わったので、アインテールに向け再び旅をする。次は、カインズ国で。その北にはワインの産地で有名なセインデル国があるらしい。距離的にそう変わらないためセインデルには寄らずにアインテールを目指すと出発したスニプル車に揺られながら聞いた。
ディハール国では、ノエルと仲良くできたことを褒められ、カインズ国では貴族学校に通わないのに学校見学に行き、2日間の体験学習を二人で受け、授業風景もこっそり廊下から覗く参観形式で貴族ってこんな感じなのだと付け焼刃に勉強した。
俺とラウルには衝撃的なことも多かった。
体育館のような場所で魔法の試し撃ちを見た時は、SF映画かと思った。
できるようになるぞ、と言われ喜ぶラウルを余所に、“これは怖いな”と思った。
エネルギーが多すぎて……そして、これでもドラゴンに苦戦するのかと嫌な汗が出た。
カインズ国は洗練された国でモダンな近代都市といった具合で、冷たい印象を受けたが、向かった最終目的地。アインテール国は逆にのんびりとした自然の多い国だった。
なにせ国が、外壁に囲われた中にあるとは思えないほど広大だった。
移動は運河でも、スニプルでもと好きな方をといった具合だ。街中に運河が張り巡らされており、小舟には船頭がいる。商船になると水獣のケルンが船を曳くのだ。タツノオトシゴに似た顔で静かに船を曳き、小舟も避けてくれるので便利らしい。穏やかな性格で人懐こいという。
運河を横目に走ると、ラウルが車窓から見つける度に『いた!』と喜んでいた。
山も川もあるこの国がとても落ち着く。心の原風景に近いのか懐かしさが込み上げた。この感情が前世でのことなのかラルド国でのことなのかは分からないけれど、お爺さんの故郷を好きになれる確信を得た。
きっとここを好きになる。
自然の多い雄大なアインテールを。




