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ノエルとマリエラへの折衷案

 食堂でマリエラと会い、子供たち4人で食事を摂ることになったのだが。


「お兄様?マリエラも遊びますからね!」

「……」

「お兄様!」

 ノエルが無視を決め込み、俺とラウルは首を傾げる。

「食事中だ」

「もう!お兄様だけずるいです!マリエラも遊びます!お人形を持ってきます!」

 人形遊びときたか。

 興味があるか一応、ラウルを見るとすぐに嫌と首を振る。

「マリー。僕、お人形遊びはしないよ。女の子じゃないもん」

「え? マリー? マリエラのことですか?」

「うん」

「ちゃんと名前で呼んでください!マリエラの名前はマリエラです!」

「僕の名前はラウルツだけどラウルでいいよ」

「ええ!?」

 驚いて声を上げるので、俺も参加する。

 これもある意味遊びだ。

「俺の名前はソルレイだけど、ソウルでいいよ」

「……」

 ノエルはノンでいいよ、とは言わなかった。

 乗るかと思ったのだが、手強い。

「マリエラは、ちゃんとマリエラと呼んで欲しいです」

「呼び捨てでいいの?」

「マリエラ様がいいです」

「長いねー?」

「な、長くないです!」

「お兄ちゃんどうする?」

「今日は無礼講だから、敬語はいらないとノエル様は言ってくれたけれど、マリエラ様には言われていない。許す人と許さない人と一緒に遊ぶと間違えてしまう。一緒に遊ぶなら敬語はなし、遊ばないならマリエラ様と呼ぼうね。間違えると怒られるから庭に出て3人で遊ぼうか」

「うん!あのね、さっき見たライデンいるかな!?」

「……ラウル、ライデンは個体数が少ない」

「そうなの? でも、赤い方じゃなかったよ?」

「赤い図鑑は、もういなくなっているかもしれない昆虫たちだ。もっと少ない」

 昆虫で盛り上がるノエルとラウル。それをハラハラしながら見守っているのはマリエラの女中で、ノエルについている執事は目を細めて会話を聴いている。

 ノエルが楽しそうなのが嬉しいのだろう。

 給仕達は素知らぬふりで食事を運び、護衛達も警護に勤しむ。

 尤もモルシエナとベンツは、子供のよくある言い合いくらいの考えだ。

 唇を噛んでいるマリエラがそろそろ泣くか、癇癪かだなと声をかける。

「マリエラ様は人形がお好きのようですね。好きになったきっかけはありますか?」

「え? ……お母様が誕生日にくれたのです」

「大切な人形ですか?」

「もちろんです」

「私達が触って壊しても怒りませんか?」

「怒ります!」

「私達は、やったことがありません。使い方が分からないので壊すかもしれません。人形遊びをしたくないといった気持ちを分かって下さい。謝ってもらっても許せない物は、人に貸すべきではありません。楽しく遊びたいので、怒られるのは嫌です。怒られるかもしれない遊びをやりたくありません」

 怒られるから遊びたくないと言われ、小さい子なりに考えているようなので、もう大丈夫だろう、と女中の人を見ると、申し訳なさそうな顔をする。

 癇癪と泣かれるのは、回避だ。


 美味しい昼ご飯を食べ終え、ラウルの口を拭いてから席を立つと、回り込んできたマリエラに背中の服を掴まれた。

 じっと待つが俯いている。

「どうするか決めましたか?」

「……」

 無言で首を横に振る。

「一緒に遊ぶなら敬語は使いません。これはいいですか?」

「はい」

「マリーも使わなくていいんだよ」

 頭を撫でると、なぜかノエルの方を見る。

「お母様には黙っていて欲しいです」

「言ったのは父上で母上も了承している」

「え?」

「昨日、食事の席で言っていただろう」

 呆れたように言われ、顔を上げて俺を見るので頷く。

「聞いていませんでした」

「ふふ、うん。そうか。」

「お兄ちゃん、僕、お人形を壊さないように頑張ってみるよ」

 優しいラウルに笑みが零れるが、その案は却下する。

「駄目だ。ラウルが頑張れても俺は自信がないよ。絶対に壊す。目の前で泣かれたらどうしていいか分からない」

 ラウルは自分が壊してしまうと思ったのに、まさかの俺が壊すのでやりたくないと言ったことに笑った。

「アハハ。うん、分かった。やっぱりお人形遊びはやらないほうがいいね」

「ん。マリーは、昆虫は平気?」

「苦手なの。だって足がいっぱいあるもの」

「そうか。昆虫からしたら2本足の人間の方が信じられないかもしれないよ?」

「うん、数が少なくてびっくりしてるかも」

 俺とラウルが言うと、頭を大きく振る。

「うぅ。そんなの考えたこともないわ」

「それじゃあ、庭で、皆で遊ぼうか?」

「服を汚したら駄目なの。怒られちゃう。家の中じゃないと遊べないの」

「そんなことはないよ。庭でドレスを汚さすに遊ぶことはできるよ」

「本当?」

「本当かやってみる?」

「うん!」


 顔を覗きこむと笑顔で返事をするので、庭に出て外でやるのに服が汚れない、“だるまさんがころんだ”のルールを必死に前世の記憶から引っ張りだし、最後ってどうするんだっけ? とあやふやなまま護衛達を巻きこんで遊びを楽しんだ。


 振り返られると動いてはいけないルールなのだが、振り返る度に驚異的な速さで近づいてくる無表情のノエルが恐怖で、バッと何度も振り返るが捕まえることができずに肩をポンと優しく叩かれるのが、ホラーだった。


 逃げる時も速いので、運動神経が良いんだなと思いながら逃げ遅れるマリエラや護衛達を捕まえ、ラウルも抱きしめて捕まえた。

 鬼はクジで決めた。

 そうしないと、ドレスの裾を気にするマリエラやリーチの足りないラウルが不利なのだ。


 夕方まで目いっぱい遊んだ。


「ラウルそろそろ帰ろうか。ノンもマリーもありがとう。楽しかった。ノエルとはまた魔道士学校で会えると思う」

「うん。ノン、マリーまたね!」

「……また会おう」

「うん!マリエラも楽しかったわ!」

 手を振って別れた。

「ラウル。抱っこはもうできないだろうからおんぶしてやる」

「うん!お兄ちゃん大好き!」

「俺もラウルが大好きだよ」

 しゃがんで背負って立ちあがる。

 もうすぐ7歳か、学校に入るまでは甘えて欲しい。

 しばらく歩くと重くなり寝たことが分かったので、背負い直す。

「ソルレイ様。俺が代わりましょうか?」

「ありがとう、いいんだ。あと1年くらいしかできなさそうだから、そうしたら頼むよ」

 ラウルが嫌がる前に俺の筋肉が先に悲鳴をあげる。

「ハハ、分かりました」


 庭の刈り込まれた植木が夕日に当たり、影が伸びる中、馬車までの短い距離を歩いた。

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