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少し面倒な帰国の手伝い

 ラウルがグリュッセンに来る騎士達には、平民の中古服を買って渡しておくと言い、エルクも一緒に行くという。

 アインテール国の騎士は、信用がないためラウルを心配しているのだ。学生の時にあったことは手紙で知らせあった。


 やり取りを眺めている内に、口の軽い騎士はゲートで運ばない方がいいかと思い始めた。

 食事が終わってからクレバに、もう一度連絡を取り、うっかり喋りそうな口の軽い騎士の名を尋ねた。


『それは少々、答え辛いのですが……』

「……そうか。第一陣で先に送った方が良い騎士はいるか?」

 問いかけを変えた。

『第3騎士団の優秀な者を混ぜるように兄に言ってもらえますか』

 念のため帰らせて欲しい騎士の名前を尋ねておく。エイレバさんと一致していればそれでいいし、そうでなかった場合のみ言ってみよう。


 第12騎士団と第3騎士団の優秀な騎士をアインテール国へ送ることになった。ラウルが約束をしたのだ。手助けをすることにした。


 かなりの人数がゲートを潜ることは、想定していなかったため、数日に分けて送ることになりそうだ。

 俺はグリュッセンにあるゲートの魔力補充で、ラウルとエルクはそのまま第12団を送り、アインテール国側のゲートに魔力を補充だな。


「ソルレイ、おまえの方は、俺が一緒に行ってやるが、第3騎士団の騎士の中で魔力の多い者にも手伝わせろ」

「ん、分かった」

「ラウルツ、おまえもだ。アインテール国に着いたやつら全員に魔力を出させろ」

 おまえ達がそこまでする必要はないとカルムスに言われて、素直に頷いた。

「そうだね。人数も多そうだからね」

「では、私は屋敷を守っておきます」

「「うん、お願い」」


 実際やるとなると、大変だろうな。

 中古の服を着た平民が大人数で押しかけるってグリュッセンの警備をしている者達にとっては脅威だ。


 まだ、貴族の方が分かるだろう。観光国だからな。


 正直、正門で足止めとなり、ハニハニの3階にあるゲートを国外に移動させないと駄目だろうなと思っていた。


 そして、運ぶとしたら収納に入れ目録の魔道具で取り出しとなるのだろうが、どちらも空間に作用する魔道具だ。

 実験をしていないから何とも言えないが、空間の狭間に落ちて取り出せないとかそういうことになるかもしれない。

 反発し合って両方壊れるのは、最悪の想定で……。


「正門で止められたら、ゲートは一旦、ばらばらにして国外まで運んで組み直すよ」

「どうして?」

「強引に入ろうとして、グリュッセンの騎士達と揉めたくないし、なにより収納の魔道具が壊れたら嫌だからだよ」

「ソウルの魔道具なら大丈夫だよ。事故防止とか組み込んでいるんでしょ?」


 にこっと笑うラウルに、俺より俺の作る魔道具に自信を持つのはやめてくれと苦笑いで答えた。


 魔力が無くても何回かは往復できるように予備動力の特級の魔導石は入れてはあるくらいだ。事故防止機能は当たる物は、一つの石が死んだら絶対に動かないようにするもので、大抵の魔道具は、そういう仕様だ。


 そういうのと、空間に干渉する魔道具の中に空間を縮める魔道具を放り込む怖さは、別物だ。


 お爺様から貰った魔道具が、万が一にも壊れたら困るからと言って、カルムスを味方につけ、ダニエルにも賛成をしてもらった。最後にエルクを見れば、ラウルが窘められる。


「魔道具はソウルの言うことを聞くようにな」

「はーい」



 軍服を脱いだ騎士達が、グリュッセンに入ったのは3日後のことだった。

 正門で全く止められなかったと聞き、目が点になった。

 観光国は近くで戦争が起こっていてもいつも通りだったが、不審に思わなかったのか。

 入国するのは3日に分けて、時間もバラバラだったと言うが……。

 国が変われば色々だなと家族と話して、それでは動こうかと腰を上げた。


 正門に近い街に入った騎士達に会い、ハニー&ハニーの3階に案内をしないといけない。


「ソルレイ様、この度は――」

「いえいえ、そういうのはいいです。これからカルムス兄上とゲートのあるところまで案内します」

「分かりました。宜しくお願い致します」


 第3騎士団も協力してくれ、エイレバから指名を受けた第3騎士団の2班もアインテール国に送られることになった。

 クレバの言っていた名前と違っていたために伝えはしたが、帰らせる班員を変更はしないということだった。


 軍のことは分からないため、頷いた。

 若い騎士達だった。フィルバくらいか。


 エイレバさんは、まだ若い騎士達をこの戦争で潰させないようにという配慮から選んだ気がする。


 魔力を補充してもらったグリュッセン国に残る第3騎士団達には、急遽借りた海側の貸別荘に移動してもらった。

 恐縮していたが、軍が借りられる別荘などここにはない。ホテルは観光客でいっぱいだしな。


 ひたすらアインテール国へと送り続け、案の定、出してもらった魔力でも足りない事態となり、石の魔力消費を抑えたいために魔力を補充することになり、カルムスも嫌々、補充してくれる。


「カルムス兄上、ありがとう」

「戦場よりはいいからな」

 ふふ、ぶっきらぼうな言い方に笑ってしまいそうになる。

「うん、ほっとした。英雄なんて呼ばれているから、『戻る』って、言うかもしれないなってラウルと話していたんだよ。そうなったら止めようと思っていた」

「行くわけないだろう」

「先生を人質にしようって考える王だよ。カルムス兄上だって、アイオスさんに何かあったら戻るよ。そうでしょ? その時は皆で、王様の顔を殴りに行くのもいいかもしれないなって考えていたんだよ」

「なんだそれは。ソルレイが殴るのか?」

「全員でだよ。最初は俺だけど。……何で皆、できないって思うんだ」

「ハハハハハ」


 言っている途中からカルムスが声を上げて笑い出す。

 俺だって殴るくらいはできる。

 痛いからやらないだけだ。

 それに、殴るより先に何かできそうなことがあったらそっちにする。王様の痛い腹を探る方をダニエルとやるかもしれない。


「アイオスさんの領地に金の成る木を作ったけど、あれでなんとかなるの?」

「ああ。財務派閥には、昔、魔道具を作って売ってやっただろう。攻撃を受けるまで分からなかった魔道具の効果のほども発揮された。で、あるなら金回りさえ良ければ他家も抑えられる。あいつの得意な分野だ」

「それならいいよ」


 最後の第12騎士団の人を送る。潜る時に丁寧にこちらに頭を下げてから入って行った。


「ありがとうございました」

「いいえ、どういたしまして」

 ようやく終わった。もう日が傾いている。

「よし、帰るぞ」

「ふぅ、疲れたね」


 凝った肩を解すように腕を動かすと、食べてから帰るぞと機嫌の良いカルムスに言われ、行ったことのない店に引っ張って行かれた。


「旨いところに連れて行ってやる」

「いつも当たりだから心配はしてないよ」


 そう言えば、髪をかき混ぜられた。

 エルクのように優しくないので、髪を手でざっと調える。

 

 着いた店は、看板が出ていないので、何の店かも分からない。入ると背筋を伸ばした男性に「ようこそ」と言われた。

 鉄板焼のお店で、海鮮ではなく肉料理のコースのみを出すお店だった。

 俺は海鮮が好きだから気にならなかったが、カルムスは、元々、肉派だったな。

 住んで長いのに、こういう隠れ家的な店を一軒も知らないことに気づいた。


 今度探してみようか。

 新たな楽しみを見つけた。

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