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戦争の行方

残酷な描写があります。

血液の描写はありませんが、暴力的なことが苦手な方は飛ばしてください。


『だって、死んだらソウルが気にするよ? ここまでして助けたんだから、最後まで面倒を見ないと死んじゃうよ』

『なんだそれは。もう十分だぞ』

『ラウル、拾った小動物と同じでは――』

『ソウルは面倒見がいいからね。エルクの時と同じだね』

『そう言われると何も言えぬな』


 前に何かあったのだろうか。

 怒られたラウルツ様がカルムス様に言い返していたのだが、途中でエルク様が入り、ラウルツ様に丸め込まれていた。

 カルムス様が以前言っていた『ラウルツは可愛いふりをしているだけだ』との言葉を思い出してしまった。

 感覚として、我々は、拾った小動物のように思われていると知り、複雑だ。


「ラウルツ様、せめて人間に格上げしてください」

 思わずそう呟いていた。

『僕はねクレクレのことは友達としてしか見ていないよ?』

「……あ、はい。え? 友人ですか?」

 それもまた凄い話であり、自分には勿体ない話ではある。

『うん。だから無事にグリュッセンに来てよ。一緒に海鮮を食べようよ。あと、カインズ国の騎士団が正門から動き始めたよ。ダンジョンに向かいそう。早く逃げた方がいいね。北東から来てるよ。そこじゃすり鉢状だから狙い撃ちだね』


「!?」


 ついでのように告げられた重要な情報と良い的だねと言われたことで、疲労が一気に吹き飛んだ。

 指揮官として指示を出す。


「急げ! 一気に抜け迎え撃つぞ!」


 日頃の訓練を思い出せと発破をかけつつ、ダンジョンの入口を見渡せる丘の上を目指して、動きの見える崖の方へと辿り着く。


「敵は北東から来る! 全騎士は魔法陣を展開、土弾で連撃とする。時間は必ず”0“と記入せよ! 第2騎士団、第3騎士団は連撃の後、波状攻撃に入る! 火系の魔法陣も準備だ! 第4騎士団は、向こうからくる魔法の相殺と援護を優先せよ! 第11騎士団、第12騎士団は最も弱い守護魔法陣を4人一組で重ね掛けだ。救護者を休ませるエリアを作れ! 兵士は第2騎士団と第3騎士団の後詰めとする! 総攻撃に移行したら我らの後に続け!」

「「「「「「「はっ!」」」」」」」


 カインズ国の騎士団が急いで向かってきてダンジョンを見張る配置についていく。

 崖上のためこちらの方が見下ろす形だ。

 手を挙げて振り下ろす。


「全軍! 攻撃開始!」


 ソルレイ様とラウルツ様の補助魔法陣で硬度をあげていたものを参考にして、時間をかけて描くことのできた魔法陣に魔力をこめる。

 初撃で終わらせるつもりで撃ちこんだ。

 背中を向けていたカインズ国軍は、違う敵軍が新たに来たと思ったのか、魔道具に守られながら攻撃を展開した。

 それでも崖の上からの地の利と背中を向けていたことが功を奏し、数を減らすことができた。


 分が悪いと判断した残ったカインズ国軍は、自らの身体に描いた魔法陣を発動させようとしていた。

 まるで大きな魔道具の魔法弾のように、エネルギーが膨らんでいく。

 自分の魔力を媒体にしての自爆の道を選んだようだ。


 隔絶の魔法を騎士団長、副騎士団長の10人で使い、魔力の譲渡を背後から代わる代わる騎士達から受け、凌ぐ。

 色んな魔力が混ざる感覚に汗が吹き出た。


「耐えろ!」

 自分自身を鼓舞するように声を張り上げた!

「これが最後の攻撃だ!」

「魔力が枯渇した者は後ろに下げろ!」


 カルムス様から隔絶魔法を教わっていてよかった。徐々に向こうの魔力が切れ、人の身体の原型を留められずに弾けていく。


「もう少しだ! 踏ん張れ!」

「おおおぉぉぉ!」


 呼応する声を力に変えて、気力を振り絞れば、最後の魔力の多かった数人も力尽きて弾け飛んだ。


 こちらの人数が多かったことで被害者数は無く、勝ちを収めた。


「はぁ、はぁ」

 すぐには声が出ないほどの脱力感を振り切る。指揮を執る使命が残っている。


「魔力消費が激しい! この崖で休息とする! 各騎士団1、2班は休憩。3班、4班は騎士団順に北から東周りに警戒せよ。5、6班は索敵、7班は休憩とする。ただし、聖属性魔法が使える者、はどの班であろうが休憩とする。休憩は4時間交代だ。兵士は所属番号の偶数番が索敵に参加、半数の奇数番は休憩とする。3時間交代とせよ!」


 命令を出し終わると、第12騎士団の者の報告が上がった。

 探査魔法で、正門に辿り着いていたルファー殿の方を窺うに、こちらに敵軍が移動したことでなんとかなりそうだというものだった。


「私達が、まだダンジョン内にいると思っているようですから。ここで休息をしっかり取ります」

「それがいいです」

「なんとかなったが、指揮を執っている者はよく分からなかったな」

「ああ、どの王子が台頭したのやら」

「今はとにかく、休みましょう」

「魔力の消費が激しい。休まねば持たぬ」


 負担の大きかった騎士団長、副騎士団長は思い切って固まって休むことにした。

 これは普段ならしないことだが、ソルレイ様の魔道具があることから、そうすることになった。

 気が抜けたのか、4時間ぐっすり眠り兄上に起こされた。


「クレバ、寝かせてやりたいが指揮官だ。そろそろ起きろ」

「はい」


 伸びをする。

 思っていたい以上によく眠れた。

 安眠できた効果もあり、身体は回復できている。

 起きて所要を済ませ、兵士が川で汲んできた水で顔を洗い、喉を潤してから軍服の前を留める。


「おはようございます」

「おはよう」


 第2騎士団の者達に挨拶をしながら兄上と共に幕間に向かう。


「今日の軍議で撤退か侵攻か方向性が決まる。ここは、お前が指揮官だ。しっかりやれ」

「はい」


 軍団長の揃う軍議で、向こうもやったゲリラ作戦をやるかどうかの話が出た。


「国民の恨みを買えば危ない」

「向こうもやったことだ。気にする必要はあるのか」

「交易を再開させる気があるのかどうかだ。そもそも、この戦争どこまでやればいいのか指示は全く出ていない」


 王都は未だに混乱の中か。

 思惑と外れた行動をとれば責任問題となる。現場の指揮者にとっては非常に動かし辛い。


「……そうですね。カインズ国を叩くという曖昧な命令でした。敵の騎士団長を討つのであれば、正門に回る必要があります。敵軍の魔法弾を止めるのであれば、カインズ国内部まで行かねばなりません。王の護衛騎士団を討つのならやはり中です。しかしながら、これだけの魔道具の設置を考えると、迂闊に中に入るのは危険だと判断します」


 私の考えを述べ、王族専用の第1騎士団の瓦解で最初から指揮系統は滅茶苦茶なのだろうと話し、合流していない今ならここにいる騎士団長達で決められるため、忌憚のない意見が欲しいと訴えた。


「では、第4騎士団長の私から私見を述べる。ダンジョンにせよ、二年前からしっかり準備をしていたわけだ。私も国内は罠だらけではないかと思う。一方で、遠距離攻撃や魔道具に頼るを見るに、接近戦に持ち込まれるのを嫌がっていたようにも思う。賭けに出るかどうかだが、失敗した対価は己の命とはいかず、アインテール国になるだろう。ここで正門の騎士達と合流後、退くべきだ」


 ワーナー殿は堅実派だ。

 正門でもう一叩きしてから帰国すべきだという意見だった。


「カインズ国内で強硬派の意見がまかり通っているのではないだろうか。他国に魔法弾を撃ったのだからやり返されて当然であるし、どちらが始めたかは、周辺国とて分かっている。このまま攻めてもよいと思う」


 戦争経験のない騎士や兵士が育つことを考えれば、踏み台にしてアインテール国の未来を盤石にという意見も分かる。


「私も同様だ。もう四十になるからかもしれんが、カインズ国内で何が起こっているのか見ていた方が良いのではないかと思うのだ。こう言ってはなんだが、当初は各国の王子たちの動向を注視して、その動きに呼応するように動いていたが、途中で明らかに変わっている。この不安定な戦のやり方を見るに、アジェリード王子の暴走に似ていると感じるのだ。王が崩御して王子に移行しているのではないか?」


 その可能性もあることに背筋に嫌なものが流れる。カインズ国は激しい王座争い中だという話は、軍で何度も回って来ていた。


「で、あるならいくところまでいかねば愚に気づくまい」

 兄上が言葉を落とすと、何人かが頷く。

「全軍が出ている。第1騎士団が瓦解しているのならアインテール国の防御は手薄だ。ここで遠距離攻撃を受ければ持たない。その可能性も考え、騎士団の一部をアインテール国に戻すべきだ。幸い、ラウルツ様が好意的に助けようと言って下さっている。第11騎士団や第12騎士団ならばそれほど軍人という感じはしない。軍服を脱ぎ、グリュッセン経由でアインテール国に即時帰国ということも検討すべきだ」


 ウェイリバ兄上の鋭い視線を受け、今しかできない決断が必要だと頷く。


「今回、ダンジョン内での情報収集を引き受けてくれたのは第12騎士団です。情報をアインテール国に持ち帰ってもらいます。それからグリュッセンにも第3騎士団を残します。こちらは、カインズ国の情報を探るためと、国に何かあれば即時帰国して迎撃できるようにです。カインズ国の動き次第では、セインデル国の動きにも注意が必要だと判断します。第2騎士団と第4騎士団、第11騎士団は正門軍と合流します」


 そこで状況を見極めると告げた。正門部隊の方がより情報を得ている可能性が高い。


「「「「承知した」」」」


 全員からの了解を取り、残りの警備は第12騎士団と第3騎士団で担うという言葉の元、引き受けてもらい、残りの二時間程は食事を取り身体を綺麗にすることにした。


 兵士の用意した湯は疲れがとれる。

 階級順に入るため一番だが、後に入る騎士達のために湯殿を汚さないように川の水を浴びてから入った。

 兄上達もやって来た。向かう場所が変わる。他の軍団長達に気を回されたようだ。


 このままグリュッセンに行って、海を眺め、海鮮を食べたかったが、そううまくはいかない。

 今回はエイレバ兄上に譲ろう。


「兄上、“此度の御尽力痛み入ります”とよくよくお礼を言っておいてください。カルムス様やダニエル様、エリクシス様には特にお願いします。ソルレイ様とラウルツ様が責められることの無いようお願い致します」


 貴重な魔法陣やグルバーグ家が発見したことを惜しげもなく教えてもらった。

 仲が良いので、大丈夫だとお二人は笑っておられたが、ラインツ様の一番弟子であるカルムス殿からすれば、知識の開示は、甚だ面白くないだろう。


「もちろん、分かっているよ。クレバ。ソルレイ様に伝言はあるかい?」


 エイレバ兄上に隠し事はできない。

 シュレインの家に遊びに来たソルレイ様への憧れもすぐに知られてしまった。


「はい。御多幸な未来を心より願っております、と伝えてください」

「第2騎士団がグリュッセンに行くといえばいいものを。おまえは本当に不器用だな」


 ウェイリバ兄上のらしくない言葉に笑みが浮かんだ。

 軍人として、指揮官は残るべきだ、という考えと兄としての行かせてやりたい、という気持ちは別もののようだ。

 笑みが浮かぶ。


「こちらの指揮は、私が任されましたからそういうわけには参りません」

 顔をバシャバシャと洗う。

「クレバ、ウェイリバ兄上の海鮮の食べたそうな顔を見なかったのかい?」

「え」


 ピタッと動きを止め、兄上を見ると、真顔で見返される。


 まさか、それで!?

 しかし、兄上に限って…………。


「ハハハハ。冗談だよ、冗談!」

「ククク」


 耐えかねたようにエイレバ兄上が笑い出しウェイリバ兄上も笑う。

 からかわれたようだ。


「……はあ。やめてください」

「でも、兄上の好物がエビなのは知っているよ」

「エビはうまいだろう。お前たちは好きじゃないのか?」


 知らなかった。

 我が家の食卓では肉が多かった。

 苦しい騎士家同士の助け合いというか仲の良い騎士達で狩りに行って仕留めるのだ。


「初めて知りました。お好きだったのですか?  エイレバ兄上。アインテール国は川エビですから、グリュッセンで海のエビがあれば乾燥した物でもいいので買っておいてください。お土産にします」

「分かった。家族の分を買っておくからね。生きて戻るんだ」

「そのつもりです。無事に戻れたら休暇をとると決めました」

 そう言って笑ってみせた。

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