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嫌な思い出。再び

「クレバ!!」


 大きな声を聞き、こちらも負けない声を出して無事を知らせる。

「大丈夫です! 兄上! うぉぉおお!」

 周囲で皆が背を向けて戦い、何とか凌いでいた。

 そこに魔獣のカクベイドが死角から現れ、襲われたのだが、死の光線と呼ばれる不可避の攻撃をソルレイ様の魔道具が守ってくれた。

 弾ける魔道具を見て、“おのれよくも!”という気持ちが湧き魔法を放ちながら槍を投擲した。

 雷撃魔法の”バシュク“を上乗せした槍が首に突き刺さる。

 軍の槍は、特別性の魔道具のため十分に効き、仕留めることができた。


「よくやった」

「よくありません。ソルレイ様から戴いたのに」

 弾けた魔道具の大きな欠片を一つだけでも拾う。

「馬鹿者。命があっただけよかろう。今は集中しろ。お前が指揮官だ」

「はい。分かっております」


 兄上に久しぶりに叱られた。

 しかし、まさか迂回した先の罠がダンジョンに飛ばされるものだとは思わず、ダンジョンの苦い記憶を思い出しながら入口まで進む羽目になった。


 飛ばされたのが、最下層のため、出てくる魔物や魔獣が強く弱い者は部屋で守護魔法を張りながら待機して、少しずつ進んで行っている。

 最初は、ダンジョンにいる一番強い魔獣を倒すかどうかも考えたが、実習で行ったダンジョンの主を思い出してやめた。


 向こうはまともに戦争をする気はなく、完全に時間稼ぎをされているようだ。


 第4騎士団長のワーナー殿曰く、カインズ国のダンジョンは14階層らしい。

 当初は状況を呑みこめていなかった第11騎士団の騎士や第12騎士団の兵士が魔獣に倒れたが、今は走るぞと言えば生き延びるために全力で走るようになった。

 人数は減ったものの、ようやく11階層まで上がって来られた。


「1階層ずつが広い。アンデッドが出ないだけマシですが、よくこんなところに繋げたなと敵ながら感心します」

 他の騎士団長が話しかけてきたので周囲に気を配りながら頷く。

「それにしても11階層でカクベイドか」

「参りましたね。また来られると死の光線で多くの者が死にます」

「そうですね。正直、私も持っている魔道具で守られると分からなければ不安になっていましたよ」


 配給された魔道具ではなく、ソルレイ様がこれで大丈夫だと言ってくれた魔道具が弾けたので、ワーナー殿がこれって役に立つのですね、と触っている腕輪を見て兄上達と目を逸らした。

 貧乏男爵家だと知っているために、配給品で防ぐことができたと思っているのだ。

 私達兄弟はソルレイ様の魔道具でも一撃しか守れないと知り、死光線の恐ろしさを実感したが、ワーナー殿は軍の配給品で安心を得ている。

 声をかけようとして、兄上達から揃って止められた。


「クレバ、やめておくんだ」

「今更どうにもならないからね」

「……はい」


 それもそうだ。

 また出くわさないように少しでも先を急ごうと11階層の中央よりか10階よりを目指して先を急いだ。

 食料すら十分にない以上、疲労があろうとも進むしかない。

 11階層の中央までなんとか辿り着き、急遽組ませた6人小隊で欠けた者の報告を第12騎士団で管理してもらった。

 だれがいつどこで死んだか、遺品を持ち帰れるようなら髪と軍属の足につけるタグを外して持ち帰ることにしたのだ。

 状況的にできない者については、仕方がないのでそのままだ。


 人数が多いため、幾つかの部屋を部屋の主を追い出して割り当てながら進んだ。

 11階層の中央より手前10階層の階段付近ではないだろうかと思われるところで軍団長と副団長が固まることにした。


 ダンジョンである以上戦力を分散させるのはまずい。

 これが全員の一致した意見だった。

 一度でも経験があるかどうかで随分変わってくる。

 軍団長はみな魔道士学校の特進科であるためダンジョン経験者だ。

 中には腕が鈍らないように個人的に潜る者もいるくらいだった。

 情報を共有して生存率を上げる。


 まず、守護魔法陣は広さによって魔力量が変わる。

 魔力を温存するために大部屋ではなく小部屋で軍団長と副軍団長のみの10人で一気に魔力を入れ全員が揃って休むことにした。

 守護魔法陣は、高等科で教わった通りに重ね掛けをした。6時間後に出発だ。

 中途半端に交代をして3時間ずつではなく、6時間眠れるこの方法は14階層から続けていた。

 重ね掛けの魔法陣は思っていた以上の強度があり夜中に襲ってきた魔獣達は破ることができなかった。

 そのことに安心をして、運用されている。


 6時間経ち、一斉に準備をしているとジジ、ジジっと音が鳴る。

 ノイズ音のような妙な音で、アラームとは違う為全員が武器を持ち、魔法陣を書いて音の出どころを警戒して探る。


『……レバ。クレバ』

 小さく聴こえたソルレイ様の声にハッとする。

「ソルレイ様?……ソルレイ様ですか!?」

 全員から正気を疑う視線を受けたが、それどころではない。

「クレバ、静かに。私達には聴こえていない」

「ソルレイ様の声が聞きたいという幻聴ではないだろうな」

「いえ、確かに聴こえました!」

 兄上達からの容赦ない言葉に思わず言い返す。


『クレバ……どこにいる?』


 この声は全員に聞こえるほどにはっきりとしたものだった。

 驚いた顔を見せる。

 そして私は音の出どころが分かった。

 ソルレイ様に頂いた魔道具だ。

 首まである軍服の留め具を外し、手を突っ込み首からぶら下がる綺麗な石の嵌る魔道具を取り出す。


『カルムス兄上、駄目だ。やっぱり繋がらない』


 間違いなくこの魔道具だ。触って、何かこちらでもすべきことがあるのかを探る。

 これは恐らく緊急時のもののはずで、説明は受けていない。


「ソルレイ様、聞こえますか! クレバです!」

『となると、カインズ国の手の中だな』

『はぁ。あの魔道具が弾けるほどだからそうかも。でも、こっちは無事なはずなんだけどな……』


 組み込むのを失敗したかな、と無念そうな声がする。

 こちらの声は聞こえておらず、向こうからは複数人の声がした。

 ソルレイ様に呼びかけていたが、兄上達から静かにするように言われ、声のする魔道具を握り締めた。


『僕は、ソウルが失敗したとは思えないよ。探査魔法が駄目で探知魔法でも駄目なのでしょ? カインズ国がそういう魔道具を作っているとかは?』

『探査魔法も探知魔法も利かぬ魔道具など作れるのはソルレイくらいだぞ』

『そうかな? てっきり軍でもそういう魔道具はあるのかと思った。敵の騎士団長の私物さえ持っていれば探知魔法が使えるとか危なくないの?』

『魔力量が少なければ街の範囲に止まる。自分のいる場所を起点としてやっても、国までが精々の範囲だぞ。魔力が潤沢でもな』

『うーん。国をまたいでもペール鉱石とアグリウェリス鉱石を使えば、何とかなる気がする。魔道具好きな皆と研鑽して防ぐものを作るのに2年がかりだったよ。でも、たかが2年だ。カインズ国の魔道具は、アインテールが思うよりももっと発展しているのかもしれない』


 魔法陣を用いて、多くの人数が魔力をいくら注いでも国を跨いでの捜索はできない。

 それを一旦魔導石を経由させれば可能かもしれないなどと。話している内容が高等すぎる。

 どの国も、探知魔法を阻害できる魔道具は作られていないと断言できる。


 まさかアインテール国で密かに作られていたとは……。

 さすがグルバーグ家だと兄上が隣で洩らしていた。


『いや、そうとも限らない。ダンジョンでは、下の階層になれば探査魔法も探知魔法も使えなくなる。これはダンジョン自体が魔道具のようなもので共鳴ではなく、反発し合うからだと言われている。この 二つの魔法がダンジョンの一部の構造と似ていることまでは分かっている。ダンジョンのようなフィールドやエリアを魔法陣で作り出すことができれば阻害できるだろう』

『では、捉えられていますか』

『そうだね。捕縛されているのかも』

『そういえば、アインテール国のダンジョンも5階層からは使えないって先生が言っていたなあ。ダニーとラウルが当たりで捕まって牢屋に入っている。牢屋がダンジョンと似たような効果を持つ場所なのかもしれない』


 魔道具が弾けたことを知られているようなので、心配して探してくれているのだと分かり、こんな時だということを忘れて嬉しさを感じた。

 

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― 新着の感想 ―
[一言] クレバが無事でよかった! でもまだダンジョン内なので油断出来ませんね。 ソウルやラウルの活躍も見たいですが、カルムス様の活躍も気になります。 このままクレバ達が頑張ってダンジョン脱出する…
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