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アヴェリアフ家

 ディハールの高級宿は、ラルド国の王族や貴族、騎士達が専有しており平民街にある富裕層向けの宿に宿泊することになった。

 俺もラウルも家よりふかふかのベッドなので全然気にならない。

 こういうのを気にするのはカルムスで、師匠の部屋だけでもと交渉に行っていた。

「ラインツ様。一部屋なら何とかなるそうです」

「そうか、そこはカルムスが使うと良いぞ。私は、ソルレイとラウルツと一緒に眠れるほうが良いのでな」

「そ、そんなこと仰らずに……」

 交渉に行く前にも気にしないでいいって言われていたのに。さっき手元で魔法陣を描いている時は、とても格好良く見えたのにな。


 ラウルと頷きあう。

「おじいちゃんと絵本を読む約束をしてるの」

「夕飯まで遊ぶ約束もしているから。じゃーね」

 背中を押し、パタンと扉を閉め鍵をかけた。

 こんなところ上級貴族が泊まる宿ではないという偏見で動いているだけなので、自分が泊まればいいのだ。

 おじいさんは気にしていないのだから。

「では、遊ぼうかの」

「「うん!」」



 時計の針が17時になった。

 野営続きだったので、シャワーを浴び、街で買ってもらった貴族の服に着替えてアヴェリアフ侯爵家の屋敷に向かう。

 貴族街に入るためにはまた門を潜らないといけない。検閲が一層厳しいのではないかということで、おじいさんと俺とラウルの3人だけだ。

 ダニエルが街で送迎専門の馬車を手配してくれた。


 けれども、実際に貴族門に着くと検閲などはなく、案内役を仰せ使ったという騎士がいて、スニプルに跨り先行してくれる。その後ろを馬車がついていくことになった。

「ふむ。気を回させたようだの」

 そんな人に見えなかったけどなあ。

 エリドルドのことを誤解してしまった件もあるので、見た目で判断するのはよくないか。


 1時間ほど走ると着いた屋敷は門が何門もある庭の先にあった。

 迎賓館の方に案内をされたところで、メイド達が直線状に並び出迎えている。その人数が多くて圧倒されてしまう。

「ようこそお越し下さいました」

 一斉に歓迎の言葉を述べる。

 騎士の人は、おじいさんに丁寧に頭を下げ、『私はここで失礼をさせていただきます』と言い、おじいさんが案内の礼を言った。俺達も礼を言い、今度は執事に案内をされて迎賓館の中に足を踏み入れた。

 調度品や室内の内装に自然と背が伸びた。

 緊張しながらついて歩き、『こちらでございます』と、観音開きに扉が開かれた。


 てっきり座って待っているのだと思っていたが、全員立っていた。

 家族は、ガンツに似ておらず造り物の人形のような顔立ちで綺麗というより、迫力があって怖かった。

 サンドバッグにされるかもしれないと(おのの)いていた長男は、俺より体が小さいまつげバサバサの子だった。

 お母さん似のようだ。

 性格は分からないけど、少しほっとした。

「ようこそアヴェリアフ家へ。お待ちしておりましたわ」

「すまぬな。突然の来訪で御婦人も驚かれただろう」

「ガハハハ!構わぬ!」

「あなた……。ラインツ様、御高名は兼ね兼ね耳にしておりますわ。この度は、主人が無理を言いまして……」

 長い金髪を綺麗に結い上げ、ディナー用のドレスを着ている。

 貴族の女性は、着飾るのが大変だろうな。

 急なことで怒っているのかもしれない。

「いやいや、気持ちの良い快活な御仁なのでな。私が先にワインでもと誘ったのだ。このような席を設けてもらって、お気遣いに感謝する」

 ホッとした微笑みを浮かべるのでしょっちゅうあることなのかもしれない。

 妹の方はそわそわするのに、長男は長男たらんとするのか、何も映していないような目で俺とラウルを見ていた。

 挨拶をして席に着く。

 ラウルも上手にできていた。

 料理はコース料理のようだが、マナーも車内でおさらいをしたからなんとかなるだろう。

 苦手なものが出たらそれは仕方がない。


 静かな戦いが始まった。

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