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モンパー国はどんな国

 旅行に行こうと皆で決めて手早く荷物を纏める。王宮からの手紙も届いた。このまま出立だ。自分の分の用意を終えて部屋を出る。

 ふと、ラウルの部屋の扉が開いたままなのに気づき、覗くと、ラウルはのんびりと服を選んでいた。


 アリスが、もう皆様は玄関近くの応接室にいらっしゃいますと告げて急かすが、どこ吹く風だ。


 持っていた旅行用カバンをロクスに預け、部屋にずんずんと入って行き、持っていた服を無言で取り上げる。畳み直して、ソファーに置いていた旅行用カバンへと詰めた。


「これと悩んでいたんだよ」

 服を突き出すように見せるその抗議に笑って、両方持っていけばいいよとそれも畳んだ。

「ラウル。モンパー国は、本当は裕福らしいよ」

「そうなの? 前にモンパー国は田舎の小国だって言ってなかった?」

「モンパー国出身のクラスメイトの言葉を鵜呑みにしていたんだ」


 クレバの話では、生活に根づいた魔道具も多いみたいだった。だから、行くのが楽しみだ。


「球体に入っての移動だって」

「なにそれ? 僕達がボールになるの?」

「プッ、アハハハ! そうだな。そう考えると楽しいな」


 想像がつかなかったらしい。車部分が丸くなっていて、動力が馬ではなく、恐らく魔導石だと言うと、腕を組んで首を傾げる。


「行ってみたら分かるよ。さあ行こう」

「うん」


 世話をするのに、アリスではなくアイネを連れて行くように言うと、伝えてくると走って行った。

 ラウルのカバンを持ち上げる。


「ソルレイ様、私が持ちますわ。姉様のことありがとう存じます」

「気にしないでいいよ。表向きの話で、感覚はもう身内だ。アリスにはお土産を買ってくるから羽を伸ばしていて」

「はい」


 ラウルの荷物を持って階段を下りれば、料理長がもう少しで、サンドウィッチができると言っていると、ミーナが報告に来る。


「応接室で待つって言って欲しい。アイネも準備中だから全員分の紅茶をもらえるかな」

「もちろんですわ」


 応接室に入ってお弁当待ちだよと伝えると、どうせラウルだろうとこの場にいないことをカルムスに指摘されてしまった。誤魔化すように笑い、応接室で二人が来るのを待つのだった。



 グリュッセンから北上するように進路を取ればモンパー国がある。


 カルムスが初めて来ると言っていた。来たいとも思わなかったらしい。理由は、北方にある国々は、他国の者を拒む気質があるというのだ。


 ノーシュは人懐こい性格だったように思う。それに北国というほどでもない。

 だから杞憂だ。

 そう考えていたのだが、実際は……。損得勘定は強いようだった。


「なにこれ!?」

「ラウルツ様、またソルレイ様達が前方で停まっていらっしゃいますわ」

「おい、またか!」

「何度目だ!」

「至る所にありますが、こんな国は初めてです」

「うん、本当だね」


 皆の憤りも分かる。

 俺ももう二度と来たくないと思い始めていた。


「これをやらないと進めないからやろう」

「そうですね」


 もう何度目か分からない、車が曲がるための標識に魔力を注ぐのだった。



 モンパー国に入ってすぐのことだった。

 正門で車もスニプルも預かると言われた。これは街中の移動は、球体型に車が走っており、そのための専用道路となっているからだと説明を受けた。レールの上を球体が滑るように走るという。とても楽しそうだった。


 入国税とは別に、スニプルの飼料代と車の保管代金をを請求された。必要経費だと割り切り支払った。


 この時は、皆もまだ笑顔だった。

 ラウルはアイネと乗るから、残りの皆でクジを引いたのだ。こういうのも楽しい。

 クジの結果、俺はダニエルと乗ることになった。


「よろしくね、ダニー」

「ええ、ソルレイ様となら静かでよさそうです」

「アハハハ。俺も楽しむよ?」


 はしゃいで煩いかもしれないと言うと、笑ってくれた。

 そして、乗り込んだ二人乗りの球体は、魔道具だった。ここまではいい。知っていたことだ。


「あれ? この魔道具の動力はどこだろう」

「魔導石もありませんね」


 魔法陣もなく、俺達が乗り込んだまま困惑していると、兵士らしき人がやってきた。薄い生地の制服を見るに自警団の人かもしれない。


「ここに魔力を込めれば魔導石が起動します」

 示されたのは方向転換用のハンドルだ。

「!」

「自分の魔力を出すのですか?」

「ハハハ。そうですよ。来られたのは初めてでしたか」

「「……はい」」

「魔力がある人だけが乗れる乗り物です」


 特権階級だから嬉しいだろうと言わんばかりの笑顔に、平民はどうしているのか尋ねると、乗合馬車での移動だった。


「ふぅ、とりあえず出発しましょうか」

「そうだね」


 ここでやめておけばよかったのだが、持ち手を握り込むような変わった形のハンドルに魔力を込め、魔道具を起動させた。


 これは、一度起動させると車から降りない限り、ずっと、魔力を叩き込まないといけない代物だった。

 すぐに気づいた。何て燃費の悪い車だろうか。

 その上、曲がるための標識に魔力を込めないと、曲がることができない作りだった。信号が変わらないのだ。それがあちこちに作ってあるため、止まらないといけない。


 そこで一人が車から下りて、標識に注ぎ入れることになるのだが、4つ目にして腹立たしい構造が徐々に分かってきた。


「ソルレイ様代わりましょう」

「平気、平気。ただ、ちょっと苛々してる」

「と言うと、これですか?」

 ダニエルが、また現れた標識を指差す。

「車を動かす動力より、道路にある標識の方が魔力を食うよ。これ、どこかに魔力を貯めている気がする」

 貴族から魔力を奪って、還流させているのだと思うと伝えた。

「……最悪ですね。1台通る度に魔力を込めているから変だとは思っていたのですが……」


 先頭を走る俺達が、魔力を余分目に入れようが、ラウル達は通れない。必ず1台ずつだ。信号がすぐに戻る。注がれた魔力の感知はいったいどこで……あの車線変更のレールも魔道具ということか。


「きっと、少ない魔力でも注げばいいんだ。量は関係ないんだと思う。でも、次はレールの方に思いきり魔力を入れて試してみるよ」

「分かりました。何も得るものがないのは嫌ですから、魔道具の研究に役立てて下さい」

「うん。構造を調べてみるよ」


 結果として、切り替えポイントに魔力を一定以上注げば、長時間信号が切り替わり、曲がれることが分かった。


 これにより幾分スムーズに移動できるようになったため泊まるホテルを早々に決め、明日は乗合馬車で移動しようと皆で話すのだった。

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