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ディハール国への入国 前編

 晴天に恵まれ予定通り5日後に到着したディハールでは、検閲官と衛兵に厳しい入国審査を受けた。

車から全員降りるよう求められたのだ。


 これは、貴族に対しては異例の措置だという。アインテール国の身分証を持っているおじいさんやカルムスやエリドルドがいる中、厳しい目はラルド国の身分証を持つダニエル、モルシエナ、ベンツに向けられた。が、おじいさんが、グルバーグ辺境伯家で働く者たちだと言うと、身なりを見て頷いた。

「ご無礼を申し訳ありません。どうぞお通り下さい」

 軍服ではなく、冒険者御用達の店で揃えた服装が良かったようだ。車に乗り込み息をつく。

 外壁をくり抜いて作られたトンネルを抜ければ、街に出るはずだ。

「空気がピリついていますね」

「ソルレイ様、ラウルツ様。国に入っても我々から離れないでください」

「「うん」」

 自分の顔が強張るのが分かった。

 軍人は空気が変わると、敏感に感じ取るというが本当らしい。

 隣に座るラウルの手を握り、大丈夫だからな、と小声で伝えた。

「うむ。心配いらぬぞ。私もいるのでな」

「「うん!」」

 おじいさんに優しい笑みをもらい二人で大きく頷く。

 トンネルを抜けると街だったはずが、逃げ場のないトンネル内で馬車や荷馬車が1台ずつ止められている。どうしたのだろうか。遠くで聞こえるやり取りにそわそわする。


「なに⁉」

「二重検閲だと⁉」

 車を動かしてくれていたモルシエナとベンツの驚きの声が重なる。カルムスが手元で何かを描いている。紙ではなく空中に描かれたそれが初めて見る魔法陣だった。魔法陣を指でつむと覗くように見ている。

「貴族家の車も止めるのか……いや、これはラルド国の貴族の車を狙って止めているな」

「ラルド国の貴族の入国拒否ということでしょうか」

「かもしれん。ダニエルはハッセルで身分証を作り直さなかったよな。まずいぞ」

「私だけ入れないというわけですか」

 肩を落とすダニエルが可哀相だ。ここまで来て入国できないなんて。

「ダニーはここから帰れって言われるの?」

「そんなの嫌だよ。一緒がいいよ」

 なんとかならないだろうか。

「うむ。そうじゃな。突破できるかの?」


 え⁉ まさか、実力行使?


 入ってしまえばどうにでもなるという。

 おじいさんにそう言われて焦ったのかベンツが慌てて言った。

「二重検閲は、積み荷を検める場合が多いです」

「ベンツの言うとおりです。隠れた密入国でない限り大丈夫だと思いますよ」

 モルシエナが言うには、誰か探している時や、違法の積み荷が運ばれると分かっている時くらいにしかやらないらしい。

「じゃあ、保険をかけよう。ラウル、ダニーの膝に座って寝たふりをしてて」

「うん、いいよ。でも、本当に寝ちゃうかも」

「アハハ、それは別にいいよ」

「うん!」

 ダニエルの意思を無視してラウルを膝の上に乗せた。

「ソルレイ様?」

「寝ている子どもを起こしてまでやらないと思うよ。それに、おじいさんがいるもん。弟子で通せばいいんだよ」

「なるほどの。大魔道士のラインツ・グルバーグだ、と名乗るとしよう」

 次は、騎士たちが出張ってくるだろうからの。貴族にはてきめんだと茶目っ気たっぷりに笑う。

「それはいいですね。アインテール国に喧嘩を売ることはしないでしょう。師匠の名を知らぬ者などおりません」

 カルムスが確認をする。先に止められている馬車の様子を見ながら、スニプルに乗った騎士が数名で検閲を行っていると告げ、ドキドキしながら順番を待った。

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