アーチェリーの憂鬱 2
暴力表現と性的な表現があります。
利用規約に従い、直接的な表現はしておりませんが、苦手な方は飛ばして下さい。
卒業後も二人は未練がましくアインテール国にいたものの、その一年後には国からようやく出て行ったとの吉報を聞いた。
俺は当主になる努力を続け、3年生で成績は100番以内になった。
4年生になると、成績は落ちて120番になったが、授業も難しかったので仕方がないだろう。
ある日。家でボンズとモレビスが俺の高等科の話をしているのを耳にした。
どうやら俺の成績が良くないから他国の学校に行くかを話をしているようだ。
俺は十分努力したと思うぞ。扉に張り付き聞き耳を立てる。
「カインズ国の貴族学校に致しましょうか」
カインシー貴族学校は金持ち学校らしく、寄付金次第で良いクラスにも入れると言うモレビスにボンズは反対をしていた。
「いや、待ってくれ。アーチェリーは、幼少期に教育を受けられなかったからだ。アインテール国のグルバーグ家が魔道士高等学校ではなく、貴族学校に行くとなると体裁が悪い。王子に取り計らってもらえるように頼んでくれ」
「内部進学者の推薦は50番以内と決まっています。それに、ボンズ殿は他国の方ですからご存知ないのでしょうが。魔道士高等学校の授業の進め方は、他国の学校とは全く違うのです。全員が卒業できるわけではありません」
「どういうことだ? アーチェリーの将来に係る。もう少し詳しく説明してくれ」
「ええ。初等科とは違って仲良く全員卒業ではありません。科目ごとに実習の課題があります。これを7試験と呼びますが、これを前期、後期とも合格をしないとその教科は不合格です。本来は、2年の在学期間ですが、2年で卒業できるのは一握りの成績優秀者です。科目を取りこぼしたものは、更に2年の追加期間が設けられます。この間に全ての科目で合格をとらないと落第です。学歴は初等科卒業となります。4年を過ぎると編入もできませんので、3年目で取れなかった者の多くは、4年目は、カインズ国の貴族学校に編入する者が多いのです。学歴は、魔道士高等学府入学、カインシー貴族高等学校卒業となります」
まじかよ。早く言えよ。また普通に卒業できると思っていたぞ。クラスメイトに聞かれて進学すると答えていたが、無理ってことか?
「なに!? それほどに厳しいのか。うーむ。なんとかならぬのか。各教員に話をつけるのはどうだ?」
お、そういうのもありか。
「魔道士学校の教員は全て各国の王の庇護下にあります。便宜を図れば教職を失いますので致しませんね。給料も破格ですから人気職です。ここはカインズ国に入学できるように取り計らってもらって、入学する方が宜しいかと。向こうは入りさえすれば卒業できます。成績の張り出しなどもありませんから、アーチェリー様もその方が心安く過ごせるのではないでしょうか」
正直な話、カインズ国の貴族学校に編入するのにも成績が足りていないとモレビスが言い、ボンズも唸りながら、やむを得ぬかと言った。
俺としては、成績を気にしなくて良くなり気ままに生活できる貴族学校の方が嬉しいぜ。
もう話は終わりのようだ。部屋に戻るかと部屋の前を通り過ぎた。その廊下の前方に、最近入った可愛いメイドがいた。
ゆっくり近づき、背後から忍び寄って胸を揉みしだく。
「あ、アーチェリー様!? おやめください!」
「少しくらい、いいだろう。お前は可愛いから雇うように言ったんだ」
柔らかい胸を手で揉み、スカートの中に手を入れる。
俺ももう14歳だ。
逃がしたりはしない。
押さえ込んで、手を突っ込んだ。
「イヤ、イヤ。誰か!」
「大人しくしていろ」
「おや? アーチェリー様、そこにおられるのですか?」
「ちっ。執事長か」
バタバタと逃げていくのを見ながら、廊下じゃなくて部屋に呼んでやればよかったなと思いつく。
今度はそうするか。
「アーチェリー様。あのメイドが何か粗相でも致しましたか」
「いや、可愛かったからな。少し口説いていただけだ」
「左様でございましたか。不躾ではございますが、そろそろ伽の者をつけようかと話していたのです」
「伽?」
「はい。ここでは少し……お耳を宜しいでしょうか」
「ああ」
廊下の端で執事長が言うには、貴族は、意中の女性の相手をする前に練習をするらしい。
“夜伽の相手”という、所謂、抱いていい女性を連れて来るらしい。
ソルレイは、病気を抱えた爺さんの後継ぎとしての勉強が急務で、弟のラウルツには生意気にも相手がいたために、そういった準備が必要なかったことから遅れていたと聞く。
「そういうのは早く言ってくれよ」
「申し訳ありません。しかしながら、グルバーグ家の子をもうけられても困ります。アーチェリー様には相応しい方とご結婚していただきたいもので、少々難航しておりました。メイドは、そういうことには慣れておらず、子供ができたなど吹聴する可能性もありますので、相手に選ぶのはおやめいただきたいのです」
「分かった。俺の好みは可愛い子だ。用意できるのか。今のメイドより可愛い方がいいぞ」
「はい。お好みは把握しております。実は、来週の週末から来てもらうことになっております」
なんだ、もう準備済みかよ。楽しみに待ってやるか。
「ハハ。そうか。分かったよ」
週末になると、本当にメイドより可愛い子が来た。
部屋で顔合わせがあり、ソファーに座っていた。
「ユナです。アーチェリー様。宜しくお願いします。まだ不慣れなので……優しくしてして欲しいです」
もじもじと顔を手で覆いながら言う。
茶色の肩までの髪にくるんとした目、肌も色白で、胸も大きい。俺好みだ。
「おう! 任せろ!」
「アーチェリー様、この方はいかがでしょうか」
気に入らないようなら、少し時間はかかるが探し直してくれるという。
「ハハ! 気に入ったぞ! 俺の好みをよく分かっているじゃないか!」
「ありがとうございます。アーチェリー様の初めてのお相手になります。今から整えましょうか。それともお二人でお出かけになられてから夜にご準備致しましょうか」
そう言われて迷う。
今すぐでもいいが、余裕がないと思われてもな。
「アーチェリー様。ユナは今からがいいです」
「よし!今からだ!」
「かしこまりました。急いで調えます」
執事が出て行ったので、向かいに座るユナの大きな胸に手を伸ばす。
「アーチェリー様、お待ちください」
「ハハハ。少し触るだけだ」
「そんな……恥ずかしいです」
「ハハ。ユナは可愛いな」
手を伸ばして胸を揉む。
「あ、あ」
可愛い声を出すので、マシュマロのような柔らかさの胸を服の上から揉んでいると、執事長が入って来た。
「御準備が整いました」
「よし!ユナ行くぞ」
「はい」
寝室ではなく、奥の部屋に行く。
そこは天蓋つきのベッドと薄暗い間接照明だけだった。
「湯はいつでもつかえるようにしてありますので、お二人の時間をお楽しみくださいませ。軽い食事や飲み物はあちらに調えてございます」
なるべく邪魔しないで済むようにだな。
「さすがだな。気が利く」
「では、ユナ様、アーチェリー様を宜しくお願い致します」
「はい。アーチェリー様に優しくしてもらいます」
出て行き、扉が閉まったので、ユナを抱こうとすると止められる。
「ユナ!?」
「アーチェリー様。私を抱く前にシャワーを。その間に準備をしたいのです」
「準備?」
「心の準備です」
そう言って俺にキスをした。
「仕方のないやつだな。分かった。浴びてこよう」
「はい、あそこで待っています。早いのも嫌ですが、遅いのも嫌です」
「ハハハ」
俺はさっさと浴びることにして、驚かせようと戻った。
ベッドの脇で一枚ずつ服を落としていく姿を見て、なるほど、この時間が欲しかったのだなと思う。
ここで眺めて、ベッドに入ってから戻ろうと思う。
身体はかなりいい。
ユナはセクシーな白い絹の下着を身につけていた。
綺麗な白い下着は貴族しか身につけられないはずだ。
なるほど、メイドも下級貴族だと言っていたからな。
ユナも下級貴族なのだろう。
下着を落とすか躊躇って、そのままベッドに上った。
よしいくか、とベッドに行き、座っていたユナを押し倒した。
熱を発散し、身を起こすと、ユナも身体を起こして俺に甘えるように凭れかかってきた。
「アーチェリー様。ユナはすごく気持ちよかったです」
「ああ、俺も良かったぞ」
「また、ここに来てもいいですか?」
肩に頭を置き俺の胸板を指で擽る。
不安そうに聞くので、キスをしてやった。
「ハハ!もちろんだ!」
こんなに可愛くてスタイル抜群の子をまた抱けるのかと思うと、今までメイドに手を出していたのがバカらしく思えた。
この後、もう少し一緒にいたいと強請られ、いいぞと一緒に部屋で過ごした。
「また可愛がってやるから来い」
来週も来るように言っておいた。
執事長から今度はデートをしてから、ホテルに行くのがいいのではないかと勧められ、そうだなと頷く。
「高級ホテルを取っておきます」
「ハハハ! そうしてくれ!」
御者にも言っておくというので、仕事ができるやつだなと褒めておいた。
ユナとの関係はその後も好調だったが、カインズ国の貴族学校に通わなくてはいけなくなり、出発の期日が迫っている。そのことを伝えた途端、ユナは泣きながら部屋を飛び出して行った。
「クソっ!」
「アーチェリー様、貴族学校は、全寮生と決まっております。お力になれず申し訳ありません」
執事長は、通いを認めてもらえないか学校側にも尋ねたが、王族も皆寮から通うらしく無理だったと言った。
ユナには最初に学校に通うまでという話をしていたが、俺のことを愛してしまったのだろうと言い、俺も抱いている時に、『いなくなっちゃうなら、せめて、もっと抱いて欲しい』そう甘えるように言われていたことを思い出し、そうみたいだなと頷いた。
「お二人の間のことに口を挟むのも烏滸がましいですが、卒業までは二年です。それに、あちらの学校で良き方に出会うこともあるかもしれません」
慰めるように言われたが、確かに向こうにも可愛い子はいるはずだ。チャンスはあるだろう。
「ああ、そうだな」
「本日は、気分が浮上するようにアーチェリー様のお好きなステーキをご用意いたします」
「そうしてくれ!」
翌日、俺は後見人のボンズと共にカインズ国に出発した。
ボンズも入寮を見届けた後は、帰国して、俺が戻るまでモレビスと領地運営に努めるそうだ。
俺も2年後はグルバーグ領の領主として働く予定になっている。
モレビスが言うには、グルバーグ領は、領民も穏やかで素朴らしい。
もっと反発があるかと思ったが、一切そういうことはなく、新しい領主であろうが上手にやってくれるならそれでいいという気風らしい。
当初は弾圧することも考え、第一騎士団を出す許可を王子から貰っていたが、拍子抜けするほど従順だそうだ。
これには、俺もそうだろうなと頷く。
平民には平民の則というものがあって、貴族が生活を著しく脅かしてこない限りは、逆らおうとかそういうことは思わない。
食えなければ別だが、この国は豊かでここの領民も皆働いて食っていけている。
前は平民だったこともあるしな。受け入れているのなら締めつけなくていいと言っている。
その方が人気は出るだろ。
俺が戻れば、大規模に新領主の誕生だと領をあげて祝いをすることになっているので、それまでは緩いままでいいぞと言ってある。
こういうのは徐々にやっていく方がいいからな。
グルバーグ領には、保護区域という未来に自然を残すという地区もあるらしく、爺さんが魔法陣を張っているため入れない区域があるとボンズとモレビスは言っていた。
入れる森や林もあることで、平民からの不満もでておらず、何代も前の王と交わした誓約書が見つかった為、まあ代々そうして守ってきたのならいいだろうと話していた。
俺も金も採れない山や手つかずの森には興味がない。
かけられた魔法陣を外すには、有力な魔道士が総出だというので、やるなと言っておいた。
次に、魔法陣で保護をしろと王に命令された時が大変だ。
ソルレイが入るなと言った迎賓館や研究棟は腹が立ったので、魔道士を呼んだが、すぐに無理ですと音を上げられた。
グルバーグ家の血族魔法陣なので、破れないというのだ。俺も解除の方法を知らないので、その時は諦め、卒業してから挑もうとしたらボンズに罠だと言われた。
あの二人は、グルバーグ家ではないので、俺には元々破れないというのだ。
そうして、破れなかったからグルバーグの者ではないだろうと俺を嵌めようとしているのだ。あいつらの性格の悪さに嫌な気分になった。
どうするかボンズとモレビスは、来た当初から相談をしていた。結局、迎賓館は未だにそのままで。新たに別館を建て直すことになった。
その話を聞いてから出立したのだが、カインズ国はアインテール国とは違い、格好いい国だった。
俺にはこっちの方があっていたぞ。
田舎は合わないと分かった。
全寮制では、王子や王女が普通にいて礼儀作法だけは身についた。
自分より上の身分にあまり会ったことがなかったが、自分がされるように挨拶も先にして道を譲って、なんでもよいしょをして喜ばせるのだ。
それさえやっていれば楽な学生生活だった。
可愛い子や綺麗な子も多い。
下級貴族や中級貴族の好みの女の子に抱かせろと言えば、20人声をかければ一人くらいは青い顔をして頷く。
その子をキープしつつ、他の子にも声をかけていけば、可愛い子をとっかえひっかえして抱くことができる。
貴族らしく振る舞えば、我が物顔ができる国で、かなり良かったが、17歳になったために戻らないといけない。
全く、困ったものだ。
貴族といえども不便な生き方を強いられるのだ。
迎えにきたのがボンズではなくモレビスで驚いたが、領地に戻る前に王都に行ってもらう必要が出たという。
「は?」
「ですから、セインデル国が挙兵しました。背後にはカインズ国も兵器や人員を流していると言われていますが、王や王子から出陣要請があれば出てもらいます」
出るって、せ、戦争にか?
何で、俺がでないと駄目なんだよ!? 騎士がいるだろうが!
「そんなもの無理に決まっているだろう! 戦闘訓練なんて受けていないんだぞ! 軍があるだろうが!」
「軍も勿論出ます。魔法陣や魔法の訓練は学校でしていたでしょう。いざという時に戦えるようにダンジョンも入りましたね?」
「あんなのただの遊びだろう? ダンジョンだって全員でぞろぞろ行くだけだったぞ」
「はぁ……本来、グルバーグ家なら一番前で各国の王子達を守るのです。それが外交につながり国益になり返ってきます。後ろにはいません」
恩を売るいい機会だったと小さな声で告げてきた。
「な!? 知らねーよ!」
「多くの貴族が戦います。負ければ国が蹂躙されるのですから。私もそうです」
「はあ!? モレビスは文官だろ!?」
「領地は弟が継いでいます。領主は死ねないので、私が領に戻って守るのです」
魔道士学校を出ているので、魔法や魔法陣は使えるという。
「俺も領主だぞ!」
「ええ。ですから、“要請があれば”出てもらうと言ったではありませんか」
「ああ、そういうことか。分かった。とりあえず言ったって話だな」
「……これから王都に行き、王や王子と謁見することになります」
「はぁ、面倒だな。分かったよ」
これが一月前の話だった。
王子は、俺にすぐに軍と共に出陣するように言い、俺は戦地になっているセインデル国とアインテール国の間にあるリックファイ渓谷に行く羽目になった。
領地には戻れず、そのまま王都に留まってから馬車で向かったのだ。
着くと魔法が当たっても即死しない特殊な糸で編まれたローブを着るように言われたが、重さが5キロもあった。
魔道士は動かずに魔法や魔法陣を展開させるのでこれでいいそうだ。
そして、ポーションは3本だけ支給をされた。
「これは死ぬと思った時にだけ、服用して下さい」
「は?」
「では、ここから魔法陣を展開させ、相手に放ってもらえますか」
言われるまま、求められる魔法陣に魔力を注いで魔法を放ち続け、魔力がなくなったら他の魔道士と代わるというものだった。
何をしているのかも分からないまま、戦場に張られた簡易に作られたシェルターのテントの中、大人数で寝起きをする生活が一週間立った。
「戦況が悪い」
「押されているな」
騎士は寝る前に、口々に不満を述べていた。言わないとやってられないのだが、今日はいつもと違っていた。交代で眠りに来たのは軍の中でも上の立場の人間だった。
「カインズ国の最新の兵器が使われているぞ」
「やはりそうか。ラインツ様がいなくなったからな。ここでアインテール国の資源を奪う気だな」
「グルバーグ兄弟がいてくれればこんなことにはならなかったのに……」
上がった名にどきりとして、微睡んでいた頭が覚めた。
「言うな」
「軍部が非礼をしすぎた。我らの責でもあるのだ」
「第一騎士団と一緒にされては迷惑千万だ」
「王族専用の騎士団など、こんな時でも王都を守っているだけではないか」
「あいつらが毎度やらかしたのだ。前線で戦う者がグルバーグ家に足を向けて寝たことなど一度もない」
「いてくださるだけでよかったのだ。それだけで十分心強かったのに」
「ソルレイ様とラウルツ様は戻って来てくれると思うか?」
「無理だ」
「件の出来事のでせいで、軍門一門の貴族家は全て避けられていた。ラインツ様と繋がりのあった騎士家もお二人と友好を結ぶには至らなかった」
俺が来ているというのに! 失礼な奴らめ!
「もはや他国の侯爵家になられたと聞く。出て行かれる前に止めねばどうにもならなかった」
「出国なさる正門で、車の前に立ちはだかったのは、弟の級友でソルレイ様の友人達だ。弟も遠巻きに見ていたらしいので間違いない」
「王子のやったことの責任は、いったい何人の命でとる羽目になるのだ」
「我らの命で止まればいいが、中まで入られればそうはいかぬ。カインズ国は本気であろうから、子や孫が死ぬ心配もせねばならん」
一人の騎士がそう言うと、多くの騎士達が盛大にため息を吐いて会話は途切れた。
ここにきて、ようやく死が間近に迫っていることに気づいた。
何だよ!それ。
知らず知らず、ひもじい思いをしていた頃によくやった爪を噛む仕草をしていた。
どこかのタイミングで逃げた方が良さそうだな。
いつ逃げようか。
そんなことを考えながらいつのまにか眠り、夢の中で『逃げるなよ』と声がして汗だくで起き、眠っては同じ夢を繰り返し見て、また飛び起きる。
『クソ! なんなんだよ!どうして、どうしてこんな目に!』
この日を境にして、呪いのようにグルバーグ家に初めて行った日の夢を見るようになった。




