クラスメイトとの交流
久しぶりにクラスメイトに会うため、使用しているという4階の教室に向かった。 5階は4年生用らしい。
担任は継続してポリコス先生だ。
最後の生徒が卒業するまで、最長でも4年間は同じクラスを受け持つらしい。担任は交代制となっており、次は担当教科の魔法学を受け持つことになると聞いた。
担当の先生が変わらないから、やりやすいと言えばやりやすいか。馬が合わなければ終わるが……。
ここかな? ここかな?と、後ろの扉の丸い窓から中を覗き、ようやく見つけた。
特進科クラスだ。
自分のクラスなので、後ろの扉からそっと中に入る。
ジョエル先生が魔法の授業中だった。誰か落としたのだろうか。人数が多いな。クラウンもいるのか。いないのはアレクだけだのようだ。
ダンジョンが終わってからというもの、やたら厳しくなった。
100点でないと不合格のはずだ。
ラウルに聞いたらラウルのクラスは、90点で合格だと言っていた。ジョエル先生はかなり厳しいといえる。
入ったものの席が人数分しかない。仕方がない。先生が板書をしている内にと魔法で、椅子を作り、そっと腰かけた。何人かは振り返ってびっくりしていた。
椅子に続き、机を作っているとジョエル先生が振り返り目があった。
「まあ! ソルレイ様! お久しぶりですわね」
怒ることもなく、にこやかに笑ってもらえてよかった。
「はい、研究に邁進しておりました。お元気そうでなによりです」
「ええ、それにしても静かな魔法行使で驚きましたわ」
「ありがとうございます。ジョエル先生のご指導のたまものです。消音魔法を使って教室に入りました。椅子は、速度を1にして出力も1にすると、遅いですが静かにできあがります。1年生の時に先生に教わったものです」
補助魔法陣を描かなくてもできる工夫で、先生はこういうものが得意だった。魔法と魔法陣の行使速度の差を極力減らす描き方は、実戦向きだ。
魔法も魔法陣も教えられる先生で、理論も実戦も完璧主義な一面があり、生徒には優しくもあり厳しい。
ダンジョン後は、雄々しい実践訓練が続いた。
「理論を分かっているからこその魔法や魔法陣の選択。喜ばしいですわ。教師冥利に尽きますもの」
「ご教授ありがとうございました。ちゃんと身になっております。今日の授業は……ああ、その応用の難しい連撃魔法の時間演算ですね。邪魔をしてしまって申し訳ありません。クラスメイトと先生の顔を久しぶりに見たくなったのです」
後ろで静かにしておりますので、参加させてくださいと頭を下げる。
「よろしいですわよ」と笑ってもらえた。
「先生」
「質問でしょうか? どうぞ、オルガス様」
「質問ではなく、ソルレイ様に一言ございます。他クラスの生徒を教える前に自分のクラスを教えてもよいのでは? 私は、この演算が苦手なのです。是非ご教授いただきたい」
クラスメイトたちから見られたので微笑んで返す。
「このクラスは特進科だけあって、とても優秀だよ。先生の話をちゃんと聞いていれば分かるよ。皆、違うことを考えていたんだろう。さあ、もう一度集中をして」
オルガスがこれ見よがしに俺を“様づけ”するので、それらしく振る舞った。大方、先生に何か言って欲しいのだろうが、後が怖い。
しかし、ここで思わぬ賛同者が現れた。
クラウンだ。
「ソルレイ様。合格できていないのはこの科目だけです。助けて下さい。100点など無茶です。ラウルツ様と階段ですれ違った時に聞いたら90点でいいと聞きました。私は95点で連続不合格です」
もう合格できる気がしませんと頭を振る。
うっ。なんて気の毒な。
「コホン、クラウンの場合は、その5点のところを勉強すればいいのでは? 苦手なところは誰にでもあるよ。オルガスはきっと70点くらいなのだろう」
ここで諦めるのは勿体ないと思い、オルガスの点数を適当に言うと、オルガスに『俺は98点で落とされたんだぞ!』と叫ぶように言われた。
そうか。オルガスは初日に10番目の席に座っていた。頭がいいのか。目が泳ぎそうになるものの、ここはどうにか回避しないと。
「ふぅ。いいかい? オルガス。ジョエル先生はとても優しい先生なんだ。人が集中して話を聞けるのは、最長で6分ほどだ。短ければ3分だと言われている。だからこそ先生は、授業開始直後の5分間に最も大事な授業の要点を話すんだよ。休み時間の延長で気を抜いているから聞き逃すんだ。98点ということは2問落としたな。先生ではなく、自分自身の問題だと恥を知るべきだ」
お前はいいよな、合格してるんだからと恨み言を言い続けるオルガスに強めに言ってから、仕方なくジョエル先生に申し出る。
「せっかくの先生の教えを理解できていないようです。今日は息抜きがてら代わりにお話をさせてもらってもよろしいですか? 明日には先生の有難さが分かるはずです」
「まあ! 宜しいのかしら。グルバーグ家の魔法理論の講義を聴けるのは楽しみですわね」
先生は特に怒ってもいないようだ。『仕方のないクラスメイト達ですみません』と謝りつつ、壇上に立つ。
「俺は先生のように優しくはないぞ。集中して頭に叩き入れろ。尤も重要な理論が試験に出るんだ。このクラスは3年目。教科書を閉じ、話に集中しろ。後で全員に理論を構築させる小テストを行うから覚悟するように」
これで試験に出る問題も絞れるだろう。
「魔法士にとっての挑戦となる連続魔法行使について話す。このクラスは特進科だ。連続した魔法の行使が難しいことは、既に頭に入っている事だろう。連続させるなら魔法陣の方が時間も魔力も節約できる。進む時の流れが全く変わる無重力においては、人間の肉体も筋力が落ちる。なぜか。重力がかからないため抵抗する力がいらないからだ。では、魔法を行使したらどうなるのか? 魔法陣と違い、魔法の行使速度を設定できないために遅い。どれくらい遅いのか。その遅さはーーーー」
説明をしながら、実際に見せようと、無重力の空間を作りその中に手を入れ魔法を放った。
全員が見ている。連続行使してみせる。
「実際今見たことで、どういった理論が組み立てられる?」
オルガスを当てると、スラスラと答える。
「なるほどな。何故2点の減点になるのか分かった。不足している理論がある」
魔法理論の説明と実験。見せては、理論を構築してみてくれ、とクラウンも当てる。他の生徒も何人か当てた。
魔法を陣で放つから魔法陣なのではない。無重力空間で行うとよく分かるが、同一の動き方はしない。単なるエネルギーの放出と時間軸や範囲指定が加わる魔法陣ではエネルギーそのものが全くの別物になる。
いくつか実験を挟んでいく。
「今、五つの理論の検証を行った。この実験で分かった理論はなんだ? 分かる者は挙手を」
皆が首を傾げたり、腕を組んで考えたりする。
「まさか…………」
ジョエル先生が俺の作った椅子に掛けたまま呟くと、皆が先生を見た。
「まさか。ソルレイ様、それは……」
信じられないという顔の先生に頷く。
「先生の講義時間を頂きましたからね。私はもうグルバーグ家を名乗れませんが、グルバーグ家の理論を聞きたいとおっしゃってくださったではありませんか」
笑って、内緒ですよ、人差し指を唇に当て“魔法陣創生の理論”です、と告げた。魔法と魔法陣の違いが分かるからグルバーグ家には新しい魔法陣が生まれるのだ。
“魔法でできないことを魔法陣で成す”が、脈々と引き継がれてきた家だ。
「……あぁ。わたくし、教師をやっていてよかったですわ。今の理論が分かったこと、自分で褒めたいと思いましたもの」
「ハハハ。ありがとうございます。魔法の深淵ですね。グルバーグ家は、元々魔法士だったので、魔法にも強いのですよ。魔法陣の方があまりにも有名なので忘れられがちですが、魔法陣を生み出すきっかけになったのは、戦場で死ぬ部下の魔法士や騎士達を憂いたからです。私は、この理論を魔道具に広げて頑張ろうと思っています。先生に理論を聞きたいと言われ、授業からかなり逸れてしまいましたね」
「謝る必要はありませんわ。基本に立ち返った素晴らしい授業でしたもの」
図書館の魔法と魔法陣というシリーズ本には、どの巻も最初に魔法と魔法陣は別物だと。このことが書いてあるが、本当の意味は、分かっていない魔法士や魔道士が多い。
先生に満足してもらえたなら良かった。
「そう言って頂けると、お時間を頂いた甲斐があります。ジョエル先生、弟の学年は確かに90点で合格なのですが、先生がダンジョンで亡くなった生徒のことを憂いて、悔恨の念から厳しくしているのも知っております。ですが、点数よりも大事な理論は多くの人間が考えてこそ生まれます。『試験はあくまでも深淵への足掛かりの一歩でしかないぞ、長い目で生徒を見よ』お爺様ならきっとそう言います」
試験の為の理論も良いですが、深い知見を持つ先生にはもっと違う理論を教えることができるでしょう、もったいないです、と言い添える。
合格の点数下がるかな。思わずクラウンを見てしまった。笑って頷くので、いけるかな。
「そうですわね。厳しくした分、力になると思っておりました」
「とても正しいです。私はそのタイプで勉学に励みますから。でも、理論を考える人間の総数は、減ってしまいそうです。オルガスは、並列式の魔法陣は得意なのに、時間差で連続して行使する場合の魔法演算は何故か苦手なようです。といっても行使に時間がかかる魔法の種類とそうでない魔法の区別はついていますよ。クラウンの場合は、理論の元になる知識は多いですが、理論提唱者については抜けているところがあるようです。ですが、どちらも優秀なので答える時の理論は素晴らしいです。理論を考える上で除外すべき人間ではありません。先生、試験は創作理論になさるのも手ですよ」
「創作理論。なんて甘美な響きなのでしょう。一番点数が低い生徒でも95点ですわ。宜しいでしょう。試験は創作理論とします」
クラウンの95点が一番低い点数なのか。皆、苦労していたんだな。
「点数はつけませんわ。未来につながる理論の一端を見せて下さい。今日の授業はこれまでです」
先生が出て行ってから、「皆!やったね!」と声をかけたら、『創作理論とはなんだ?』とエリット様に聞かれた。
「自由に作る理論です。空に浮かぶ雲だけ掴んで魔法で放とうと考えるとして、それに必要な理論を考えていけば大丈夫です」
「いや、却って難易度上がってないか」
オルガスが疑問を口にする。
「何点でも合格だよ」
「なるほどな。そうなると、まあいいのか?」
「うん。題材自由だし楽勝だよ」
久しぶりに顔を見たクラスメイトもいるので、挨拶をして春に卒業できそうか尋ねると、やっぱり皆、優秀で取りこぼしは一つか二つらしい。
ジョエル先生の厳しい試験により帰国できない他国組は、帰ってお見合いを薦められるくらいなら1年間いられる方がよかったらしく、特に困っていなかった。
余計なことをしただろうか。
謝ると、卒業できないのは困るからいいと笑って許してくれた。
オルガスが卒業パーティーの件は言ってくれていた。せっかくだから全員で楽しもうと話した。
「授業ってこんな風にやるって思ってなくてちょっとびっくりしたな。先生と1対1とかもあるのかな」
クラウンが私はこの授業だけなので、と言い、他の生徒を見ると、エリットは魔道具はオルガスと一緒だと言った。生徒はニ人だけらしい。
アレクは早々に合格しており、学校に来ていないそうだ。
教会でそれは聞いた。わざわざ参加するので無理をしないで良いと言ったら、ここに来ている時は家の仕事から逃れられるのでと、遠い目で言っていた。
下級貴族の苦労があるようだ。
クレバも残していたのはこれだけだと言う。
「クリスは?」
輪に入ってこないクリスに尋ねると目を伏せ、下を向く。まずかったかな。
「……ソルレイ様の前で言い辛いのですが、魔法陣の実践試験を落としました」
「クリス、まじか。このクラスは魔法陣が得意なやつばかりだと思っていた」
オルガスの反応が早い。
「意外だな」
「ソツなくこなしそうなのに」
確かに意外ではある。
魔道士学校に来るってことは、魔法陣が得意なはずだ。クリスは理論派ということだろう。
「別に怒ったりしないよ。俺も魔法陣より魔道具の研究をしているんだから」
「クリス、ソルレイ様に教えを乞うた方がいいのではないか」
そう言ったのはクレバで、嫌味か、と顔を見ると真面目にクリスを心配しているようだった。
背を押すようにこちらにやるので毒気が抜かれた。クレイジークレバは、クリスには優しいようだ。
「実践の点数が低い理由は、何が原因か分かっている?」
「いえ……他の人の試験は見られないので、よく分からないんです」
「そうか。あれこそ1対1の試験だものな。試しにアクアフルールの魔法陣を描いてみて」
「はい」
簡単な水魔法だ。
水甕に水を貯める時なんかは、魔法陣で描く方がいい。ここまで減ったら発動するという補助魔法陣をつけておけば、魔法士や魔道士がいなくても困らないからだ。
クリスが描くのを全員で見守る。女子も遠巻きに見ていた。
「……うん。クリス、どうしてか分かった。描くのが遅いからだな」
「え」
そんな理由ですかと言わんばかりに見られたが、皆も遅くてびっくりしていた。もう一人くらい指摘して欲しいが、皆も声を失う遅さだった。
「クラウン、どう思う?」
嫌な役をさせて悪いが、頼むと分かっていますとばかりに引き受けてくれた。
「かなり遅いです」
「うむ、そうだな。言い辛いが、10歳の妹より遅いぞ」
エリットには年の離れた妹がいるのか。
「クリス、さすがにそれでは…………」
背中を押したクレバも言葉に詰まり、オルガスはばっさり『また落ちるぞ、それ』と切って捨てた。オルガスに振ればよかった。
「そ、そんな。僕としては精一杯なのですが……」
オロオロとする姿は、女性なら可愛いのだろうが……。
深窓の麗人のようなクリスにこれ以上、強くは言えない。言えば嫌なやつになる。
オルガスを見るが、オルガスもさっきので限界らしい。首を小さく振って拒否をする。
「クリス。それでは戦いにならぬだろう。エンディ先生は何と言っていたのだ?」
「『走りながら行使できるようになろうか』と」
「そ、そうか」
エリットが困った声をもらす。
もしかして、それは、1年生の前期の課題なのではないだろうか。走って魔法と魔法陣を行使できるようになるというものがあった。
ちなみに1年生の前期2つ目の課題だ。試験は一教科に付き7つあるので、一年を通して、前期後期合わせて7回の試験を受ける必要がある。7つの試験に合格して初めて一教科が合格だ。
魔法陣は座学と実践がある。
湧いた疑問を誰が言うかで目配せが始まる。誰も言いたくないようで、沈黙が場を支配した。似たような階級だとこうなる。
「やれやれ、ここにはノエル様もアレクもいません。いいでしょう。私がはっきり申し上げます。クリス、それは1年の前期課題です。合格していないなら春に卒業はできませんよ。今すぐ死ぬ気で練習してください。そうすれば、4年目で卒業できるでしょう」
無理なら卒業を諦めて、他校に編入しなさいと言ったクラウンは、格好良いヒーローに見えた。
「!?」
衝撃を受けた顔をしているのはクリスだけだ。
クレバが、今まで合格と言われたかを尋ねると、次、頑張ろうかと言われていたという。
一応、成績表は渡されているのだが、前期の終わりと後期の終わりに“不合格”という二文字のため、いつの試験から躓いているのか分からなかったという。
エンディ先生を庇う訳では無いが、基本的にそこは生徒自身が把握をしている。
ちなみに魔法陣の試験は、2回目の試験が不合格でも3回目の試験を受けられる。魔道具とは違って、取れそうな試験からとれる。頑張ればなんとかなるはずだ。
「エンディ先生は、1年生の頃は、『グッジョブ!』が合格した時のもので、2年生の時は『グレート!』だよ」
そう言われていない試験は落ちていると教えると、クラウンが静かに首を振る。
「ソルレイ様、『合格だね』と言われて終わりです」
「え!?」
皆を見ると頷かれる。
「変なのは俺仕様だったのか。普通でいいのに……」
「あの。どれくらいの速さなら合格をもらえるのですか」
「俺ではなく、他の人の方がいいよ。クレバ、仲良いんだろう」
教えてあげたらと試しに言うと、笑って頷いた。今日は機嫌がいいのか? つくづくよく分からないやつだ。
「手本となればいいのだが」
そう言いつつ魔法陣を描いたのだが、中々に速い。
そのことに驚いた。とても綺麗な魔法陣の描き方だ。
「恐らく、この速さならば合格できるはずだ。練習をしてエンディ先生に見せに行くといい」
「こんなに速いなんて……」
クレバに言われると、弱ったようにクリスが返し、もう少し遅くても大丈夫だとニールも声をかけていた。
「ソルレイ、“グレート”を見せてくれよ」
「いいよ、俺は。クリスが魔法陣を嫌いになるよ」
「それほどなのか? 尚のこと見ておきたくなったぞ。ソルレイ様、後学の為に見せていただけませんか」
綺麗に敬意のあるポーズをとる。フリでも様になっていたがダンジョンとさっきで見慣れた。
「オルガスが敬語を使うと気持ち悪い」
手を振ってやめるように言う。
「見せてくれよ。見たいんだよ。クリス、悪いが、後ろを向いていてくれないか」
クリスがやる気をなくすと言ったため、後ろを向くように肩をポンと叩く。
「わ、分かりました」
「何を言っているんだ。伯爵家が言うと、いじめっ子に見えるぞ!」
クリスも伯爵家だが、そう言ったらオルガスが嫌そうな顔をした。
「はぁ、昔よく言われたぞ。腹黒な下級貴族もいるのに、王族や公・候爵家は気づかないんだよな。味方につけて、代わりに言わせるんだ。言い返せない苦痛を思い出した。詫びに見せてくれ」
どんな要求の仕方だ。
皆が『あるある』と笑い、エリットが『そういうこともあるのか。戻ったら気をつけねばならぬな』と真面目に言っていた。オルガスは見た目がやんちゃに見えるから余計そうかもしれない。
「補講授業で見ただろう」
「あれは単純なものだったろう。魔法はいいから魔法陣の本気が見たい」
面倒だから嫌だと断ると、エリットを味方につけるので、自分が昔やられたことを俺にするんじゃないと怒っておく。
「ソルレイ様、私も見たいです。先程、貧乏くじを引きましたのでお願いします」
クラウンが笑う。友人にそこまで言われては仕方がない。勿体ぶるほどにハードルが上がる。
「ああ、もう、分かったよ」
「本気の4秒だぞ」
「4秒あれば……単一魔法陣なら大抵描けるから何でもいいよ。守護魔法陣にしようか。ダンジョンで結構描いたから3秒切れるかも」
「マジかよ」
クラウンが計ります、と嬉々として時計の秒針を見るので、12時の秒針で始めることにした。
すぅ、はぁー。呼吸を調え、12時を差した瞬間に本気で描きこんでいく。
「終わった!」
「残念! 4秒ですね!」
「あー。駄目かー」
5秒に近い4秒だったと指摘を受け、反省だ。魔道具のやりすぎか。
やっぱり練習しないと駄目だな。
魔法陣は、理論より実践だといつかの自分とは真逆のことを考える。
「十分だろうが。凄まじい速さだな」
描いた魔法陣に魔力を篭め、極小化してピッと天井に張りつけると、広がり消えていく。
「まあ、この部屋の守護ですの?」
尋ねられたので、ここにいると思って変な騎士が来たら困るからね、と言っておいた。
だいたいの教室や館、寮はやったけどここはやっていなかったのだと言うと、笑顔でお礼を言われた。
謝らないといけないのはこちらだ、と心のなかで謝り、クリスには、時間を計って何度も練習するといいよ、と助言をして教室を出た。
俺も練習しないとな。
ラウルを誘って修行でもしに行こうか。
いや、ラウルはかなり早いもんな。一人で練習をしよう。
あの神殿のような美しい場所でお爺様と練習した日々を思い出す。
最初に教えてくれたのは、隣りに立つ人を命がけで守る魔法陣だった。最初に完成した魔法陣に、グルバーグ家の想いがある。
どこにいても名前が使えなくても、グルバーグ家の一員だ。
魔法陣も頑張ろう。
初心を思い出しそう思えた。




