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懐かしい補講授業 後編

「午後の魔道具は……うん。女の子の方が苦手だろうね」


 教室に戻ると、憂鬱そうな女子生徒を見て気づく。

 これはいけない。初等科からの苦手意識が尾を引いている。


「午後の魔道具は明日に変更するよ。3等級の鉱石を持ってくるから皆で拡張器を作ろう」

「ソルレイ様、拡張器とはなんですの?」

「音楽を壮大に楽しむためのものだよ。音を反響させて大きく聞こえる。演劇場や歌劇場で使われている装置だ。部屋にあると楽しいよ。例えば、1回限りの安い記録石を使って、六弦楽器の上手な人に弾いてもらう。拡張器があれば繰り返し部屋で楽しめる。どう?」


 女子たちの目が話の途中から輝いていた。

 うまくいきそうだ。


「魔道具というのは、もっと日常に溢れていていいと思う。身近なのは冷蔵庫とかだろうけど。趣味にも使えるんだよ。自分で作れたら便利だろう? 俺が魔道具を好きなのは、そういうところ。皆、高レベルの守護魔道具を思い浮かべすぎなんだよ。簡単な物をいくつか作っている内にだんだん仕組みが分かってくるから。明日の一日で拡張型の魔道具と、午後からは、そうだな……初等科の付与魔法の魔道具作りから復習しようか。細かい鉱石の種類とか聞くの嫌だろうから午後も作成物にしよう。魔道具は経験で覚えていこう」


 初等科の魔道具でつまづいたままなのだろう。

 1年の時に取らないと駄目なものも溜まっています、とソラが恥を忍んで伝えてきたので、他の人にも聞く。


「1年生の時の魔道具作れていませんっていう人は? 何人いるー?」


 手を堂々と挙げるのはフォルマで、女子は恥ずかしそうに小さく手を挙げる。


「大丈夫、大丈夫。恥ずかしいのは最初だけだから気にしないで挙げて。そこに座っている特進科のオルガスもクレバも碌な魔道具を作れていないから。魔道具は一度苦手になると中々作れないみたいなんだ」


 そう言って手を挙げている人数を確認して名前を書いていく。

 オルガスからは、抗議の声が上がったが、3年目ってことは、何の授業が残っているんだと尋ねると黙る。


 クレバは、助言をもらったので合格しています、と言ってきたので、リリス先生がギリギリ合格にしておきます、と言っていたと言うと静かに頷いた。できない自覚はあるようだ。


「魔道具研究をしている俺からしたら皆のつまづくところって、ささいな問題なんだよ。鉱石の名前や持っている力が分かっていないことと。そもそもの組み立て方が分からないの 2点だからコツさえ掴めばどんどん合格できるよ」


 一番は苦手意識だろうけど、目標が高すぎる場合もある。


「大事なのは焦らないこと。急いで組み立てるより、ちゃんとした設計で確実にやる方がいいよ。あとは、“たぶん、これでいけるはず”と、思いながら進める時は、ここをたぶんで進めたと後から分かるようにメモをしておくといいよ。動かなかった時にそこだけいじればいいから楽だ。どこで失敗したか探す作業が嫌で魔道具が嫌いな人はそうするだけでイライラしない。絶対に動かしたいと思うなら、たぶんで進めようとしているところで止まって教科書の確認だけど、どこに書いてあるのか探すのも嫌なのだろう?」


 ほぼ全員が頷く。

 恐らく、それでどんどん課題が膨らんでいったのだろう。合格しないと次の課題にいけないので、最初で躓くときつい。


 魔道具は理解を置いておいて次の課題をやるかということはできない教科なのだ。明日の授業は今日の応用になっていることが多い。


「ページも合っているかも教えるから、その時点で手を挙げて聞くように。じゃあ、今からは魔法理論と魔法陣理論だけど、実は、午前中の授業で魔法理論は68ページまで終わった。魔法陣理論は32ページまでだ。午後でどちらも終わりそうだな」


 拍子を打ち、ここからは集中して話を聞くように、と言って。午前同様、複合問題を出しながら説明していく。


「残り90分だな。よし、実技にしよう。一人ずつ今日の授業が頭に入っているか小テストをする。行使は遅くなってもいいから、例題に理論立てて答えてから魔法か魔法陣を行使してもらう。魔法制御館まで移動してー。そこで解散するから鞄も持って行くように。机も戻してから来るようにね。遅い人は後回しになるだけだから、人数も多いしゆっくりでもいい。ハイ! 移動して!」


 俺は借りた教科書を鞄に入れ、背負ってさっさと教室を出る。元レリエルクラスは、慣れたものですぐさま一緒に出てくる。


 集団行動と素早い行動は、レリエルでは当たり前だった。貴族の何事もゆっくり行動に移すでは、時間の無駄だからな。初等科の4年間の行動は染みついていたようで嬉しい。


「ソラ嬢。魔道具の試験だけど、1年の時のものはなんこ残ってる? 年間で2個って聞いたけどあってる?」

「ソルレイ様。わたくし、わたくし……一つもできておりませんの!」


 そんな決死の覚悟で言わなくても……。命なんか取られないよ。


「大丈夫だよ。心配しないで」

「ソルレイ様、初年度は5個だったのですが、あまりにもできない生徒が多いので3個に減り、2年は2個です」

 教えてくれたファビルに頷く。

「うん、分かった。月の日の放課後に研究室においで。そこで初めの課題の物を一緒に作ろう。作り方を覚えて、そのまま作れば合格だ。何の心配もいらないよ」

「ありがとう存じます! 頑張りますわ」

「組み立てる部品に印をつけておけばいいよ。それで手順通りになる」

「はい!」

「他の子も月曜日の1週が初回のものだよ。2回目で躓いたなら2週目においで。行きそびれたからもう行けないとかは思わなくていいからね。 2回目だけど、3回目に来ちゃいました、でもいいよ。ただ、見るのは月曜日の15時から16時半までだ。研究している物も出しっぱなしなんだよ。他の研究生や先生方も偶に来るから他の曜日や時間は困るんだ」


 ちゃんと訳を言えば、納得して邪魔をしないようにしてくれるのでこれでいい。

 魔法制御館で一人ずつ、この場合はどうなる? 何を行使する? それぞれ違う問題をだしていき、答えを言わせ魔法を行使させる。


 正解かどうかは、相対している俺が答えで。間違ったらやり返す。

 捕縛をされたり、魔法陣を無効化したり、相殺されたりだ。


「間違った3人は、魔法理論と魔法陣の理論の本を最初から読みなおすように。ちなみに今のはーー」


 間違った3人の例題と答え、なぜそうなのかを解説しておく。今の例題ができないと、俺の授業もついていくのが辛くなるから水の日までに本を読んでおくように言っておく。


「今日の授業はおしまい。解散!……フォルマは来て。もう1問やろう」


 ちなみに元レリエルクラスはフォルマだけ間違ったので、フォルマには解説をした後にもう一問例題を出した。


 今度はちゃんと正解をしたので、考え方を詳しくレクチャーして、なんで駄目なのかを実践で覚えさせた。

 体で覚える方が得意なので、

「そこは魔法だ! 魔法陣だと遅い!」


 魔法や魔法陣でやりあいをして覚えさせた。怪我をしたら回復魔法だと思っていたが、失敗した後は自分で挽回する力もあり、筋はいい。


「さすが辺境組だ。諦めない根性がある」

「それだけが取り柄ですから」


 終わった後で笑って褒め、ここは魔法陣、ここは魔法。理由は――説明をすると、素直に頷いて質問もする。その質問に答えて疑問を解消しておく。


「フォルマ。3年は厳しいかもしれないけど、4年で卒業できるぞ。絶対に諦めるなよ」

「頑張ります」


 友情を確かめ合うように軽く抱き合い、初日の授業を終えた。


 解散していたが、残っていたレリエル組に頭を下げてお礼を言われたので、まだ初日だから合格したよって言いに来て、それがお礼になる。言葉より合格という実績で示して、と笑って厳しいことを言うと、唸りながら頑張ります、と言うので声を上げて笑った。


 手を振って別れの挨拶をすませた。

 結局、一日中いたオルガスとクレバにいた理由を聞いてみた。


「暇つぶしか?」

「どんなもんなのかと思っての参加だ。思ったより為になった」

「見てみたかったので」

「なんだよ、それは」


 二人は、卒業できそうか聞くと春には合格できそうだと言った。


「魔法陣を描く速度が授業中よりも早かったですね。実戦だともっと速いのですか?」

 クレバに見下ろす形で尋ねられた。相変わらず背が高いな。

「どうだろう? 弟の方が速いよ。授業中は違うことを考えていたりするから遅いのかもしれない」

「違うことですか?」

「次の授業のこととか。頭の中で先週やった授業内容とか思い浮かべていた」


 魔法陣の実習は、手を抜ける授業の一つだった。授業数も多かったから魔道具の組み立てを考えたり、休み時間に書く書類の案件を考えたりと心あらずで、そのまま順番が来て魔法陣を描くので、速度に波があった。


「授業余裕だったもんな。おまえ。そういや実習の試験も早すぎるってポリコス先生に怒られていたな。思い出したぜ」

「うん。魔法陣と魔道具で時間を作っていたからな。3年目の授業ってどんなのやっているんだ? 皆は卒業したら国に帰るんだろう? 卒業した人でクラスパーティーの話とかは出ているのか?」


 参加したいな。

 オルガスに言うと呆れたように言われた。


「そういうのは、アインテールのやつが主催するものだぞ」

「そうなのか……なら、俺がやろうか? 全員、春に合格できそう?」

「13人でノエル様とソルレイが抜けたからクラスメイトって言っても11人だろ? ぶっちゃけ、数が少なくなって滅茶苦茶仲が良くなってるぞ。全員春で卒業だろうな」


 皆、取れていない教科も2、3科目くらいじゃないかという。やっぱり優秀だな。


「そうか。じゃあ半年後くらいで卒業か。寂しくなるな」

「一度も教室に来ないやつが何を言っているんだ」

「ごめん、ごめん。研究に没頭してた。でも、クラスメイトの何人かは研究室にちょこちょこ来てたよ。教会のボランティアでも週一で会うし」

「ああ、なるほどな。あのボランティアまだ続いてたのか」

「ノエル様もエリット様も来ているよ」

「まじで!?」

 そんなに驚かなくてもいいと思う。二人とも真面目だからさぼったりしない。

「ビスケットを作って、子供たちに渡すだけの平和なボランティアだからな。聖職者の使う癒しの魔法も教えてもらって、皆、司祭様クラスは使えるようになった」


 そう言うと、書庫整理のオルガスは遠い目になっていた。3年になっても冬にもあるらしい。卒業するまでずっと続くと言われたそうだ。これから秋になり寒くなるだろう。手が痛くなる季節だ。


 クレバは何だったかな。

「参加したいです」

 ん? なんのことだ?

「卒業パーティーに参加したいです」

「ああ。呼ぶなら全員だよ。オルガスは書庫整理みたいだから……クレバは教会にもいないし、なんだったかなって見ただけだ」

「……弟が草花が好きなので、そちらでボランティアをしていました。クリスと同じです」


 ああ、あれか。校内の園芸もやるんだよな。


「へえ。俺も好きだよ。新設していなかったらそっちにしてた」

 もうすぐ卒業だしな。

 頑張って苦手意識のあるクレバとも話をした。

「ソルレイは卒業後どうするんだ? グルバーグ家を追い出されたんだろう?」


 オルガスが、わざと茶化すように聞くので、レリエル組が帰っていてよかったと思った。友情に厚い何人かが怒って胸ぐらを掴みそうだ。


「グリュッセンに別荘があるんだよ。新しい当主が来る前に全部名義変更済みだ。とりあえずは、グリュッセンにと思っているよ。屋敷の者も移動しているんだ。家族と幸せに暮らすよ」


 そう言うと、オルガスがため息を吐く。


「おまえってさあ。俺が他国の貴族だって分かっているのか? 内情をべらべら話し過ぎだ」

「聞いたのオルガスだろ。グルバーグ家ってこんな感じだぞ。世界中に友達がいる方が楽しいだろう。遊びに行ったら家を訪ねるから泊めてくれないか」

 国の案内もと頼むが、二つ返事だった。

「別に、かまわないぜ」

「ありがとう。春になったら卒業パーティーをしよう。忘れないで皆に伝えて欲しい。まだ当主だったら家に呼んだんだけど残念だよ。レストランを押さえておく。格好は学生服にしよう。記録石を用意するから皆が思い出に持ち帰れるようにするよ」


 参加費はいらない。俺がもつことも伝えてもらっておこう。


「了解。言っておく」


 寮に向かい、二人とは1階の階段で別れた。明日は、来ても来なくてもいいけど、魔道具が欲しければ来るといい、だったら行くぜ、という簡単なやりとりをした。


 その翌日。研究室から鉱石を運ぶのを手伝ってくれたラウルと共に教室に入ると、元レリエルクラスの女子達がラウルを見て頬を染める。

 しまったな。ラウルも王子にしか見えない。ノエルで見慣れていたため失敗をした。


 分からないところをラウルに甘えながら尋ねるので、『ラウルは、魔道具はあんまりだから。あと将来を誓った相手もいるから!』と割って入り、厳しめに指導をすることにした。そんな俺の心配をよそに、ラウルは大丈夫だよと笑っていた。

 そして、授業の終盤。皆は魔道具を作ることができたと喜び、家で使ってみますと持って帰るのを見送るのだった。


「来週からは月の日に2時間ですわね。宜しくお願いします」

「ソルレイ様、では、また。お先に失礼しますわ」

「ああ、うん。またね」


 あれ? やけにあっさり帰って行ったな。ボードに書いた魔道具の作り方を消していると、ラウルも消すのを手伝ってくれた。


「ソウルの勘違いだよ。見ているだけでいいってやつだね」

 ノエルの代わりにされただけだと言われた。目を光らせていたのは無駄だった。

「はぁ。アイネへの気遣いに疲れた」

「アハハハハ。僕じゃないんだね」

「うん。あしらっていたからな」

「本当に分からないから僕じゃ分からないって言っただけだよ」

「そうなのか? 本当は分かるだろう?」

 簡単な設計だ。

「アハハ、もう、分からないってば。初めて見たよ。でも、次は作れるよ。ちゃんとノートに書いたからね」


 笑うラウルの頭を撫でながら偉いと褒め、一緒に寮に帰るのだった。

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