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ラウルツ・フェルレイの高等学校 9

 課題を成功させたその夜はというと、ソウルの指示の下、あの魔獣とあの魔獣を捕まえて肉にして欲しいと言ったものを捕まえ、ラピスが潰して肉に変えた。


 ソウルは、美味しくして食べようとリュックから鍋を取り出す。その鍋の中には、また鍋があり蓋を開けると香辛料や調味料がたくさん入っていた。


 臭みを飛ばすには一度茹でこぼした方がいいとかで。魔獣にはこの香草がよく効くとローズマリーフェネルグローブなどを入れ胡椒の実を何粒か入れ違う鍋で、肉を揉みこみ時止めの魔道具の中に保存した。女の子たちにはソウル直伝のパン作りを頼んでいる。フライパンでパンが焼けると知り、また発酵がいらないと聞き、頑張りますわ!とやる気を出していた。


「さっきの揉みこんだ肉は、困った時に食べる分だよ。今から食べる分を作ろう。ラピス、その魔獣の脂身を小鍋に火にかけてくれるか? 油をとる。今日はカツレツだ」

「はい!お任せを!」


 おいしい物が食べられるはずだと嬉々として動くラッピーに笑ってしまう。


 魔獣の中で一番美味しい部位を6枚取るとフォークでブスブス刺して香草を突き刺した。サラダでも作ろうかとヒヨコマメや花豆でビーツサラダを作ってくれた。ロース肉は、香草を突き刺していた肉を少量のワインで揉みこみ、ターメリックやウコン、グローブ、塩、胡椒で味付けをしてから、小麦粉を水で固めに溶きパン粉をつけ揚げ焼きにしてくれた。


「これでこっちはいいよ。パンは焼けたかな? カレラ、スイレンどう?」

「はい、焼けました!」

「ソルレイ様、綺麗に焼けましたわ!」

「本当だ。二人とも上手だね。これで今度は一人でも焼けるはずだ」


 急速に仲良くなる3人を見て、ちょっともやもやしながら料理を手伝った。


「よし、完成。ミュリス、紅茶はいい?」

「はい、全員分、淹れました」

「ありがとう。ラウル」

「ん? なに?」


 隣をポンポンと叩いて『隣に座って』と言われ、『うん!』と返事をして隣に腰かけた。


 後の肉は茹でてからひたすら煮込んでスジが柔らかくなるまでこのままだと言うので料理はこれでいいらしい。


 自分で作ったカツレツを頬張る。


 んー美味しい、懐かしいお兄ちゃんの味だ。目を閉じるとラルド国で年に何回か食べられる鶏肉を思い出す。こうすれば美味しいからと香草を摘んできて、安い香辛料を市場で値切って買い、作ってくれた。


 お母さんもお父さんも香辛料を買ったことを咎めたけど、僕とお姉ちゃんは、美味しいと喜んだ。お母さんの作るものはお世辞にも美味しい料理ではなかった。


「お兄ちゃん、美味しいよ」


 思わずソウルではなく、お兄ちゃんと呼んでしまった。言い直そうとすると大輪の笑顔だ。


「よかったよ」


 とても嬉しそうだった。

 無理に背伸びをせずにこれからもたくさん甘えよう。ソウルは嫌がらないはずだ。僕も笑顔で作ってくれたお礼を言った。


「全然臭みがない。肉質も柔らかくて美味しい」

 ミュリスの感嘆したような独り言を機に、皆も口を開く。

「凄く美味しいですわ! カレラ、驚きましたわね!」

「ええ! あの不細工な魔獣がレストランの味になりましたわ!」


 魔獣を貶めながらもとても喜んでいた。そして、ラピスが夢中で食べていた。


「ラッピー、喉詰めるよ」

 無駄かなと思いつつ、紅茶を飲むように言ってみる。

「大丈夫です。これほど柔らかくなるとは思いませんでした。子牛並みです。ソースがなくてもこんなに美味しいなんて、ミュリスの言った通りです。ソースは必要ないのかもしれません」

 ソウルも危ないと思ったようで、パンを口に詰め込む前に、お茶を飲むように促した。

「ありがとう。お代わりもあるから急がないでいいよ。それに、ソースで食べても美味しいよ。俺はパンに挟んで食べるのも好きだよ」

「僕も。ソウルのタルタルソース大好き」

 エビフライが食べたいとリクエストを出しておく。

「帰ったらまた作るよ」


 ダンジョンとは思えない料理に舌鼓を打ち、海藻とヒヨコマメのサラダもとても美味しく、海藻は美容にいいよ、ダンジョンだと栄養が偏るからと女の子たちに言うのを聞きながら食べた。


 眠る時は、「皆一緒でいいんじゃないの?俺の時なんか、御座を持ってきたのが俺一人で、固まって寝たよ」とソウルが言い、女子は二人で使ってもらい、ソウル、僕、ミュリス、ラッピーはくっついて眠った。



 皆でベッドで一緒に眠り、朝になると、すやすや眠る女子とソウルの寝顔をラッピーと共に見ていた。疲れたのかぐっすりと寝入っている。無理をしてここまで一人で来たのだろう。女子も課題が終わり、気が抜けたのだと思う。

 体力的にもきついなか、よく頑張ってくれた。

 既に起きていたミュリスに『時間はたっぷりあるのだから起こすなよ』と注意を受けるのだった。


 とても幸せだった。

 朝になると、乾燥した野菜やきのこと夜通し茹でこぼしていた魔獣の肉を優しい味のスープにしてくれた。

 チーズを練りこんだパン生地をスープ皿に張り付け魔法で焼きポッドパイもどきだと言われた僕たちは、揃って安息の気持ちから深い吐息をついた。


 特にラピスは、絶対的な忠誠心を示し、帰りの道中で、ソウルにあの大きな魔獣を解体できるかと聞かれる度に『もちろんです! おまかせください!』と言い、僕に『絶対に仕留めてください!』と言うので、『誰に言ってるの。外すわけないでしょ』と大きな魔獣を壁にぶつけ絶命させるのだった。


 ソウルはなぜか罠の解除が恐ろしく早いので、どうしてか尋ねると、他国の友人たちとわざと罠の多い道を通り互いの国のものを教え合ったという。


「俺たちの時は仕留める魔獣が8種の中から選べたんだ。だから簡単な難易度のものを選んで、あとは魔物の仕掛ける3段階の複雑な罠ばかり練習していたよ。そっちの国の方が効率がいいな、とか。けっこう多くて勉強になった。せっかくだから皆でやろうよ。技術を身につけるいい機会だ。カレラとスイレンの国のものは知らないんだ。俺にも教えてくれるかな?」

 すると、二人とも嬉しそうに笑う。

「もちろんですわ!」

「足を引っ張らないようにとルベルト先生に言われましたので、罠の練習だけはかなりやりましたの!」


 そうだったの?と僕たちは、頭をかき、活躍の場を奪っていたことを反省して、練習をしながら帰り道を進んだ。


「3階は勉強の場だ。クラスの誰よりも早く解除できるようになることを全員が目指す。カレラとスイレンは女性だ。舐めてくる男には舐めさせて動かし、技術は秘匿しつつ、ここだと思う場面で力を発揮する。そんな強かさを心掛けるといいよ。一度身につけた技術は邪魔にならないからね」

「「はい!」」


 そこからそれぞれの国の罠の解除方法がかなり違うことに驚きながら、夜は、どの罠にどの国のものがよかったかを意見を言い合うことになった。


 3階にいる魔獣もかなり狩り、3日後、『この階の魔獣はコンプリートしたし、罠も皆かなり早くなった。食事の心配もないし、そろそろ2階に上がろうか』とソウルに言われ、皆で頷いた。


 2階は人さらいが巧妙化するのだが、ソウルが近づいてくる冒険者たちを容赦なく、壁に叩きつける。


「な! てめー!」

「ん? 世界に名がとどろく名家の俺たちに何用だ。次は内臓が潰れる強さで使うぞ。戦いたいなら前に出ろ。受けて立つ」


 貴族らしく言い、怯ませて道を開けさせた。他の冒険者たちも慌てて道を開けるので、こちらには丁寧に返す。


「変なのがいたので力を見せただけだ。申し訳ない。ありがたく、今のうちに通らせていただく」

 そう言って僕の手を引くのだ。

「カルムお兄ちゃんみたいだね! 格好いいよ」

「アハハ、ありがとう。こういう時はカルムお兄ちゃん風に言うといいんだよ。荒事に冒険者たちは慣れてる。特にここでは、こういうのは免罪だ。向こうもやりたい放題ならこっちもそれ相応の対応でいい」


 こういう振る舞いは苦手なのを知っているから僕達の身の安全のためにやってくれていると分かった。


「勉強になります」

 ミュリスが頷いていた。信者がまた一人だね。いやミュリスは元々か。

 手間取った2階があっという間で驚いたけれど、1日で2階を抜け、階段を上った先の1階の部屋に入る。


 冒険者がいようが、『こんばんわ。お邪魔するよ』と気さくに声をかけて入り、守護魔法陣を張って守ることを約束し、ベッドで寝たいので奥の部屋を使っていいかなどを交渉して、さっさと部屋を得た。


 一緒に食べようと声をかけ冒険者と共に夕飯を食べ、美味しい料理に口の軽くなる冒険者たちから色んな情報を聞き、それならとこちらも良い鉱石が取れる採石場所がある国を教えたり、あの国の何がおいしいとか、そう言うことを話した。


 皆も他国出身なので、それぞれがこういう郷土料理があると言うと、ラピスや冒険者達より先に、『わぁ! 食べてみたい!』と僕達は揃って声を上げるのだった。


 ダンジョンクリアで日にちは減ったけれど、一応は長期休みになるし、二人で各国を回ってもいいかもしれない。


 冒険者たちは、魔道具のベッドが気になるらしく、質問を受けていたので、ラッピーも欲しいらしいよと伝えた。


「これは一般の人でも買える魔道具だよ」

「そうなの? 会員じゃなくていいんだ?」

「危険な魔道具は、身元が確かな人にしか売れないから、そういうのは会員限定だ。あと、使い方が複雑な物も壊さないように知識のあるランク別になっていることもあるけど、これは買えるよ」

 会員の紹介状がいるらしいが、欲しいなら書くよと言っていた。

「ソルレイ様、おいくらですか?」

 魔道具ギルドで金貨 5枚だと言うと、ラピスは喜び、冒険者達は買えないと頭を振る。


「なら魔道具を作れる技術を磨いて自分で作るしかないな」


 2級鉱石を出して簡単な魔道具作りを教え、守護魔法陣はこうだと描いてやり、これも何かの縁だと魔道具を作って渡す。


 その大盤振る舞いに僕は笑い、皆や冒険者たちはびっくりしていたが、ソウルは気にせず、ヒビが入ったらもう危ないから使えないと注意事項を言い、そろそろ風呂に入りたいから隅によってくれと風呂を膨らませた。


 女性冒険者に最後なら入っていい、と声をかけて喜ばせ、男の冒険者たちに背を向ける協力をさせ、女子たちもいつも通り風呂に入り、皆でベッドで眠った。


 朝に一緒にスープを飲み、冒険者達に気をつけてと、手を振って笑顔で分かれた。


「ソルレイ様。安心な冒険者の見分け方を教えてください」

「私も教えて頂きたいです」

 ミュリスとラピスが頼むと、女子たちもお願いしますわ、と頭を下げた。

「アハハ。安心かどうかは俺も分からないよ。でも、悪党がいつも悪党かと言うとそれは疑問なんだ。俺がやったのは、悪事を働く対象から外れるという感じだ。“こいつらはやめとこう”くらい。骨の髄まで悪党も世の中にはいるけれど、生きるために止むにやまれずという人も多いだろう。例えば、2階層の人は、貴族は狙うけど、街で子供をさらっているわけじゃない。金のあるところから引っ張る。でも、髄まで悪党じゃない。だから一人を少しだけ痛めつけるだけでいいんだ。さっきの人たちも、本音はともかく、交渉に応じるあたり、そこまで貴族嫌いという印象を受けなかったから安全を高める行動をとっただけだ」

 見分けたわけではないのだと手をふる。

「一夜の安全に一緒にご飯を食べたやつだね」

「そうそう。貴族もダンジョンに潜れば同じものを食べる。差をつけずに一緒のものを食べることは、相手に対等だと認めていると伝えられる。向こうにも女性がいたというのは少しポイントだった。警戒するのは向こうも同じだからね」

 皆、頷いていた。

「見下すほど冒険者は駄目な人間の集まりじゃない。装備品で貴族は見がちだけど、身なりは当てにならない。経歴や経験をよく見ることと、女性がいるなら女性の冒険者がいる方が安全性は高いかもしれないね」


 俺も冒険者に関しては勉強不足だよ。今回、初めて喋ったからと言うので、びっくりしていた。


「そっか、ソウルの行ったダンジョンは、試験中は封鎖だね」

「そうなんだよ。会ったのもここが初めてだよ。ラウルが帰ってこないから心配でここに来て、冒険者を見る度に特徴を言って見なかったか、聞いていたんだ。中には石を売ったっていう人も裸に剥かれたっていう人もいたよ」


 女性に服を破かれたって言っていたらしく、噂になっているそうだ。

 バツが悪くて黙る僕達に、その顔を見るにやったのかと、可笑しそうに笑う。


「びっくりしたけど、3階に行くのを見たっていう人がいたからね。助かった。悪い人もいい人もいる。目は、これから養っていこうよ」

「うん! 毛嫌いはよくないもんね」

「そうそう。力を借りたくなる時に選択肢から外すのはもったいないよ」


 僕たちは平民だから平民に力を借りることを厭わない。

 協力して大きな力に抗って生きるのが、平民魂だ。


「さあ! 今日で外に出るよ! 最後まで気を抜かないで。ここにきて誰かが怪我をしたら嫌だからな」

「はーい」

「「「「はい!」」」」


 1階でも、最短のルートで向かってくる人は全員で死なない風魔法の練習だとソウルの指揮のもと適当に飛ばして、相手をせずに進んだ。1階は涼んでいる人が行きより増えていた。入口に近づくにつれて、だんだん生暖かい空気になってきた。


 そうして18日目のお昼にダンジョンから出ることができた。


 罠の練習もしていたから遅くなちゃった。

 うーん、それにしても外は暑いね。

 雲一つない青空に遮るもののない暑さで、ダンジョンのひんやりとした世界に行きたくなる気持ちも分かるよ。行かないけど。


「ソウル、ありがとう。助けに来てくれて凄く嬉しかったよ」

「無事で良かった。顔を見てほっとした。皆もお疲れ様」

「ソルレイ様、ご指導ありがとうございました」

「美味しいものが食べられて痩せずにすみました。ありがとうございました」

「ありがとう存じます。ソルレイ様」

「とても有意義な時間になりましたわ。学びが多かったです」

 丁寧に頭を下げられて照れていた。

「どういたしまして。俺も勉強になったよ。皆ありがとう。せっかくだからお昼は美味しいものを食べに行こう。ラピス、情報は集めてあるんだろう?」

 水を向けられたラピスは胸を叩く。

「もちろんです! スイレン嬢とカレラ嬢を誘うつもりでしたが、今日は皆で食べましょう」

 女子たちは強くなり、きっぱり断った。

「「二人なら行きませんわ!」」

「ハハハ。遠慮して奥ゆかしいところもかわいいです」


 二パ二パと笑顔だ。

 勇気を出した女子達が遠い目になり、ミュリスも呆れた顔をしていた。


「アハハ! 強靭なハートだね!」

「とりあえず打ち上げ代わりに行こう。料金は俺が持つよ。珍しい鉱石を譲ってもらったからな」

「うん。ソウル、早く行こう。ラッピー、どっち?」

 さすがに野菜が食べたくなった。野菜炒めがあったらいいな。

「はい! こっちです!」


 こうして、レストランで美味しい料理を食べ、冒険者のように騒いでダンジョンでの苦楽を話し、皆で祝った。


 明日、皆で帰ろうと話してこの街一番の高級宿に泊まることにした。

 ソウルが、スイレンとカレラに『俺が帰りにいたことは内緒だよ、これは口止め料だ』と言って支払いをもっていた。


 そっか。ここは高いから子爵家のカレラと一代限りの名誉貴族のスイレンには痛い出費だもんね。


 女子たちがソウルを見て、頬を染めながら『ありがとう存じます、ソルレイ様』と言えば、ラピスが『私が払います!』と慌てて声を上げる一幕があった。


「あいつは、大事なところで出遅れるよな」

 確かにあそこはラッピーのターンだったよね。

「アハハ! ラッピーらしくていいと思うよ」


 部屋に案内されつつ、二人で笑うのだった。笑って終われるダンジョンで本当に良かったよ。

 楽しもうと思えば自分の気持ち次第で、ちゃんと楽しめたんだと気づいた夏の学びだった。

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