ロッド石<ティンカー石<ゼナルド石
「こちらはティンカー石ではありませんわね。ロッド石ですわ」
「そうだな」
鑑定をし終えた先生達は揃って首をふった。
「えー!? ジョエル先生本当!?」
「ええ。残念ながら違いますわね。もうひと頑張りですわ!」
「そうだね、頑張るしかないね」
「今から拠点になる部屋を探して、夜に捜索だ。ラウルの言うとおり10日で出られるように今夜は頑張ろう」
「「「はい」」」
先生の部屋に来るまでに、部屋はいくつか見つけている。その部屋を見て回り、冒険者もいない運よく空いていた部屋に決め、素早く守護魔法陣を描いた。
「0時から1時の1時間が勝負だから23時半から捜索しよう」
ミュリスの案に頷き、それまでは体を休めることにした。
見つかりさえすれば、僕達のものだよ。
先生に見せに行って、三つ目の課題を聞けばいいんだからね。
夕飯は仕留めてからお祝いに食べることにして、僕はベッドに早々に横になった。
ピピッ。
魔道具のアラームが鳴った。時刻は23時15分だった。ローブを身に纏っていると、ミュリスは既に起きていたらしく、紅茶を飲んでいた。
「僕ももらっていい?」
「あと一杯ならあるかな」
そう言ってカップに注いでくれたのでお礼を言って飲み干す。
「ありがとう」
全員が用意を終えたところで、リュックを背負って植物の魔獣を探しに向かう。
0時前に捕まえて、木から生えている尾らしきものを切り落としても意味はない。
ロッド石になってしまう。
とはいえ、姿は確認しておいた方がいいと、歩いて探していると、冒険者達も狙っているものがあるのか夜に動くらしく、時々出くわす。
お互いに距離を取って、相手の出方を見るといった無駄な時間が過ぎてしまった。
「急がないと」
気が急いてしまう。落ち着こうと深呼吸をする。
ここで焦って怪我をしてしまうと家族を悲しませる。
「あら? 木の破片が落ちていますわ」
スイレンが通路に落ちている木片を検分するために拾う。
「ここを通ったのかもしれませんね」
ラピスが灯りで木片に光を当てる。
「ゴミかもしれないけれど、今は大事な手がかりだと考えよう」
「それなら他にも落ちていないか探そう」
幸いにもここは一本道だから地面を見ていても敵を見つけやすく、戦いやすい。前方と後方は索敵し、後の3人で木片を探しながら歩いた。
「あそこを見てください! 天井に根が張り付いていますわ!」
「あれは……どうです? ラウルツ様」
スイレンの指を指した方角に確かに天井に根が伸びている。その根の一本が丸くなっていた。暗いから分かり辛いけれど、そこだけ灰色に見えた。
こういうことなんだね!
「あれだよ! ミュー! 時間は!?」
「0時5分前だ! 行こう!」
「これで課題をクリアしてしまいましょう!」
真っ直ぐ行くと右に曲がり道がある。逃げられると厄介だと、全員で駆け出し、天井に張り付きながら移動をする本体を見つけ、尾の鉱石のある部分を狙う。
「見つけた! 取るよ!」
「ああ! 時間は問題ない!」
近づくと木の根ではなく、突起のある岩のような尾が本当にあり、大きな鉱石がついている。
これで課題もクリアだと風魔法で尾を切り落として鉱石を手元に引き寄せた。
「やりましたね」
「ふぅ。これで二つ目クリアだね」
全員で笑いあい、その後も見かけた木の魔物、エギンテから鉱石を三つ取り先生のいる部屋へ意気揚揚と向かった。
「ふむ。これは上位種のゼナルド石だ」
「こちらもそうですわ」
「「「「「えーー!」」」」」」
そんなに上位種に出会うことってある!?
最後の一つをスイレンが緊張しながら渡すと、ルベルト先生は頭を振り、ゼナルド石だと告げ、僕は泣きそうになった。
「三つとも上位種ですか。これは運がいいのか悪いのか」
ラピスの言葉に、ため息が漏れる。
「悪すぎだよ」
3回連続で上位種に当たる確率を考えてみてよ。こんな不運なことはないよ。神様の意地悪。
「5日目に持ち越しか。今日は眠ろう。出現時間は真夜中だ」
「そうですわね。疲れましたわ」
「精神的な疲労ですわね。明日の真夜中まで移動できませんものゆっくり休みましょう」
結局、三つ目の課題も分からないままトボトボと使っていた部屋まで帰った。
そしてお弁当を開け、愛情たっぷりのカキフライやエビフライ、手作りのゆで卵が入ったタルタルソース、ふわふわの白パンに心を慰められるのだった。
だけど、これがまさか何日も続くとはこの時は分かっておらず、僕たちは先生に見せに行った 3回目に『全てゼナルド石だ』と言われ、頭を抱えながら叫ぶ羽目になるのだった。
「なにこれ!? 本当にあるの!?」
そうして ダンジョン生活8日目の深夜。
眉間に皺を寄せる先生達の顔を見て、僕は諦めの境地に入っていた。
絶対に駄目な方の顔だよ。貴族なんだから隠して欲しい気もするけど、期待してしまって駄目だった時もきついよね。
最初の頃なら平気だったんだけど……。
もう何個目だろう。
「先生方、どうですの?」
「毎日見せに来ておりますのよ。慎重に鑑定して下さいませ」
カレラもスイレンも今日こそはと願っていた。
「ふむ。また上位種か。これでゼナルド石は20個を超えたな」
陽気なルベルト先生の顔に脱力する皆をよそに僕は納得がいかない。
「嘘でしょ、もう! 20こ連続とかおかしいよ!」
先生に鑑定間違いしてないよねと言うと笑い出した。
「ハハハ! 見たら分かるからな」
「ええ、間違っておりませんわよ。ゼナルド石ですわ」
二人共可笑しそうにするから何も言えなくなってしまった。ジョエル先生もそう言うのならそうなんだろうけど……。
「じゃあ三つ目の課題を先に教えてくれたりする?」
“じゃあ”とはなんだと言うけど、言ってみるくらいならいいよね。知れたらラッキーだよ。
「だって夜まで暇だから。昼間いる魔獣とかなら効率いいでしょ」
「それはできんぞ。他の生徒も頑張っているからな」
「もう一歩ですのよ。惜しいのですわ」
ジョエル先生の言葉を聞いたミュリスが、少し話そうと言った。ここで話して先生達の反応を見るという案だと気づき、僕達も同意を示した。
「他の冒険者たちも0時から1時の出現で間違いないって言っていたな。だが、手に入るのはゼナルド石だ。これは一体どういうことかを考えよう」
「他にも出現条件があるのかもしれませんわ」
「全部がゼナルド石となると、わたくしもそう思います。個体差があるのではないかしら」
カレラの意見にスイレンも賛成し、ラピスも大きく頷いた。先生達を見ても澄ましていて、この推測が正解なのか不正解なのか分からないね。
「そう考えないとおかしいですね。冒険者たちは嘘をついているようには見えませんでした。あれからも確認を続けて、5パーティーに確認をとりましたからね。僕としては、冒険者が知らない条件があるのではないかと思います。自力探索になるのであれば、今夜は肉を確保すべきです」
ラピスの言うことは正しい。
ここからはどれだけ日数がかかるか分からないからね。食料確保も必要だ。
若しくは一回出て、情報を集め直して潜り直すとかかな。時間の無駄が多いからダンジョン内で情報を手に入れたいと思っていたけれど、ゼナルド石が20個連続となると、必要な情報が足りていないのは明らかだった。
「そうだね。今日で8日、日付が変わったから9日目か。今夜はお肉を確保してから寝ようか」
「はい。解体はお任せを」
「うん、ありがとう。せめてお肉が美味しいのを捕まえよう」
「そうだな。今日の時間は過ぎた。丸一日考える時間はある」
「とりあえず、条件を考えるのは明日の朝にしましょう」
「そうしましょう」
ティンカー石が手に入れられないまま10日目、11日目になり、僕たちは冒険者達からゼナルド石ばかりを狙って戦う集団だと不本意な認識をされ始め、冒険者達とは顔見知りになっていった。
鉢合わせても知った顔だとお互いに警戒しあうこともなくなったが、“換金率の良いゼナルド石を狙う学生達”という噂が回っていると教えてもらった。嬉しくはないけど、気にするほどでもない。
ただ、3階に来るのが初めての冒険者達に『お前たちか?』『ゼナルド石に目をつけるとはやるな』と、爽やかに声をかけられた時、無の境地に立った。
好き勝手に言ってくれてもいいんだけどね。いい加減打開策が欲しいなあ。
そんな翌日の夜のことだった。
今日はもう少し手前で探すかを真面目に話していた。
奥で上位種なら中程ではティンカー石ではないのかということだ。ダンジョンでは珍しい同一種族による地理的要因を潰すことにした。
4層近くのため強いのではないかということで、見つけられるぎりぎりまで下がって探そうという案だ。
「思いつく要因を一つずつ潰していこうよ」
「そうだな」
「できることをやるべきです。情報を持っている冒険者もいるかもしれませんから積極的に声もかけていきましょう」
「そうですわね」
「他の学生ともそろそろ会うかもしれませんわ。情報交換をしても良いと思います」
そうしようかと話がまとまった矢先、バキッと固い音がした。
「何の音ですの?」
不思議そうにするカレラに答えるより先に手が動く。
これって!?
まさか。破られたの!?
部屋に張った守護魔法陣にヒビが入った音だと気づき、隣の部屋を睨み付けながら攻撃の魔法陣を手元で小さく描いた。
「戦闘の準備をして! 何か来るよ!」
立ち上がってすぐに追加の魔法陣描いていく。逃げられないように魔法と魔法陣で攻撃だ。
「守護魔法陣が破られるとなると相当強いぞ!」
「カレラ嬢とスイレン嬢は僕の後方で守護系の支援を! ラウル君の次にミュリス、次が私です! 狭い部屋の中で狙いは定めやすいですからね! この部屋の入口に来たら狙いをつけて連撃しましょう!」
深夜の来襲のおかげで一斉に戦闘態勢に入り、踏みしめる音を聞き逃さないように耳を澄ませるのだった。




