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ラウルツ・フェルレイの高等学校 7

「地図で見る以上に広いね」

「涼みに来た者達は、この階にはいないから助かるけど……身代金目的で誘拐したいと考える人間はまだいるな」


 ミュリスが脇から出てきた大男を風魔法で地面に叩きつけた。何か持っていないか確認して、魔石が入った袋を見つけたので貰っておく。ナイフと食料は情けをかけ、見逃してあげた。


 装備品を剥がし、無言で近づいて来た女子達に場を譲れば、お決まりのように服はビリビリにされていく。


 その後も額に魔石が埋め込まれている変わった魔物や、身体の大きさの割に小さい魔導石しか持っていない魔獣を倒しながら早目に中央で一晩泊り、翌日も朝早くから進み、2階の中央より手前の部屋で泊まった。


 この辺りは、冒険者達とかち合うため守護魔法陣を張って完全に入れなくしてから休む。


「これで朝までは持つから、今日は見張りは無しで寝ようよ。明日は3階に入るでしょ?」

「ああ。気を緩めるとまずそうだ」

 全員で身体を休めることにした。

「最短で6日の意味が分かりました。今日で3日かかっています。食事は何日分持ってきましたか? まだ課題が終わっていないので、帰りを考えると6日は確実に超えます」


 ラピスが、食べられる魔獣がまだ出てきていないので、食料は大丈夫かと皆に確認をした。

「僕は平気だよ。ラッピーの分をとったりしないからね」

 ソウルは10日分の食事とおやつをいれたからね、と言っていたし、おやつも多い。


 ソウルやアリス達は『無事に帰って来てくれ』と気を揉みながら見送ってくれた。アイネからも手紙で、無事を祈る言葉をもらっている。

 皆に心配させないように、早く帰りたかったのに。最短で帰れないなんて。それでなくともアインテール国からレイテックに来るまでに1日かかっている。


「僕も余分目に持って来ているよ。大丈夫だ」

「私ももちろん多目です。足りなくなるなど愚問です。カイラ嬢とスイレン嬢はいかがです? 足りないようなら私が分けてあげましょう」

「そうですわね……10日分で用意してきましたの」

「わたくしもですわ。まだ大丈夫です」

 それなら問題なさそうだ。

「行きより帰りの方が早くなるから 10日でなんとかなるんじゃない?」

 それよりも早い日数で出たい。

「3階の魔物や魔獣次第だけど、先生の部屋の位置は分かっているからラウルの言うように楽観的に考えられる面もある。ただ、気になっていることがある」

「なに?」

「なんでしょう?」


 ミュリスが、1階にしかいない魔物や魔獣だった場合、この石が違うとまた戻る羽目になるから時間を喰うというのだ。


「先生が言った夏休みの返上ってそういうことでもない限り起らないだろ?」

「僕も8本獅子と遭遇した時に、その可能性を考えたよ。大型の魔獣だからてっきり3階かと思ってた。運よく狩るのには成功したから、問題はこの石だね。植物の魔獣とは一度も会っていないから一か八かになるよ」

「それなら今夜捜索しますか?」

「うーん。どうしようか」


 僕は体力的に平気だけれど……。女の子達を見るにやめた方がいい気がした。


「今日は全員で休んだ方がいいんじゃないか? 焦ってもな」

「うん、探知に引っかからないからね」

「ふむ、そうですねえ。夜に徘徊するとなると……トイレの時にちょっと見て回るくらいでしょうか?」

「そういう感じになるか。疲れをとったほうがいいんだろうけど、風呂とベッドで楽をしているからそれもいいかもな」

「僕もいいよ。疲れてるかどうかでいうと全然疲れてないよ。夜に歩いてもいいなって思ってるくらい」

「なら、出現時間やエリアがあるかもしれないからこの石が駄目だった場合を想定して動こう」

「1時間ごとに起きて歩きまわる?」

「いや、3時間ごとにする。そうすれば、休憩もできるだろう」

「では、わたくしが地図で歩いた場所と時間を記録しますわ。出現しなかった場合は除外できますわ。2階は広いのですから。ないよりあった方が役に立つはずです」

「私は、何をすればよいでしょうか?」

「カレラの警護だね。記載している時は無防備になる。ラッピーも警護で」

「分かりました」

「了解です!」


 ミューが前、僕が最後尾で後方を警戒することになった。

 役割分担を決め、せっかくだから寝る前に全員で歩いてから3時間後にしようかと話した。


 こうして、21時、0時、3時に2階を歩き回り、歩いている冒険者に偶々出くわした。


「ねえねえ。そこの冒険者さん達。ちょっと質問いい?」

 8人グループに声をかけた。

「ん?なんだ?子供か?」

 ―――。

「3階の中央より奥で、0時から1時までがティンカー石。それ以外の時間ならロッド石。上位種で運がよければ、ゼナルド石だ」

「そうなんだ。助かったよ。ありがとう」

「いや、冒険者ギルドの会員なら調べられる情報だ。これで小金貨1枚なんてついていたぜ」


 情報料だと約束した小金貨1枚を渡して、お互いに礼を言って別れた。


「ラウル君、慣れていますね」

「領内の交渉事は昔からソウルが引き受けてくれていたけど、僕も隣で見ていたからね」


 コツは、ちゃんと前金を支払うことだ。

 これでちゃんと支払ってくれると分かれば、急いでいない限り足を止めて話を聞いてくれる。


「なんにせよ。助かった。今日は無駄足になったけど、3階に下りても中央に行くまでは休める」

「もしかしたら、こういう交流を持たせるためのものかもしれませんわね」

「冒険者の方と話す機会はございませんものね」


 カレラとスイレンの予想が当たりの気がする。全員で頷き合う。危険な者とそうでない者を判別するための目を養えということかもしれないね。


「部屋に戻って朝まで休みましょうか」


 ラピスに同意しさっき使った部屋まで戻ることにした。守護魔法陣を張っているので、行使した僕だけが入れる。壊してもう一度張り直しだ。


 3時から寝るから6時間後の9時からでいいだろうと皆で寝ることにした。


 ベッドをどうするかの問題が出たので、僕は知らないよ、と早々にベッドに寝た。

 女子達が、私達は二人で精一杯ですわ、と言いさっさと横になり、ミューが、おまえと寝るくらいなら床で寝るとラッピーに言い始めたので、全員で各自が持って来ていた寝袋やゴザを出して、クジを引かせた。寝袋は皆の中から一番いい物を選べることにした。


 ミューが負けたので寝袋いきだ。全員の寝袋を見ることなく自分のものでいいよ、と用意をした。

 ラッピーは女子が持って来た寝袋を見て、寝たことがあるか確認をして新品だと知ると静かにベッドに寝た。僕の考えている以上にラッピーが危ないと分かった。


「ふぅー。なんだか疲れましたわ。おやすみなさいませ」

「おやすみなさい」

「おやすみー」

「おやすみ」

「いい夢を見て下さい。隣は僕です。ご安心を」

「「嫌ぁー!」」

 女子が悲鳴を上げた。

「おい!やめろ!ラピス!女性を怖がらせるな! ラウル!おまえが真ん中で寝ろ!」

「えー? 端っこの方が落ち着くのに。女子が端で、ミュー、ラッピー、僕でいいでしょう? 高さが違うからラッピーが動いたら分かるよ。それか隔絶魔法を使おうか?」

 どちらでもいいよ。

「確実な方で頼むよ。女性の悲鳴で夜中に起きるとか嫌だからな」

「じゃあ隔絶魔法だね」


 女子達が『お願いしますわ』と切実そうに頭を下げる。

 ラッピーはなぜ悲鳴を上げられたのか分からずに首を傾げていた。


「ラッピー“おやすみ”だけでいいんだよ。じゃないと寝られなくなっちゃうからね」

「なるほど、そうでしたか」

「寝るタイミングを逸したかのように言うな。お前の発言が怖がらせているんだ」

「ハハ。アンデットは出ないと先生も言っていたではないですか」

「何の話をしているんだよ!?」


 そんな話はしていなかったろうが! 頭の中はどうなっているんだ!?とブチ切れたミュリスに、これを嗅いでとラベンダーの精油をかけたハンカチを渡す。


「なんのつもりだよ!?」

「ソウルからだよ」

「…………」


 ぴたっと止まって香りを嗅ぐと、もう一度香りを確かめるように息を吸い込んだ。


「……借りておくよ。洗って返す」

 いつものミューに戻った。

「うん。僕の分はあるから」

「なんです? 唯のハンカチではないのですか?」

「アハハ。ラッピーには必要ないと思うよ。おやすみー」


 これ以上疲れることはやめようと僕達は、寝ることにした。

 翌日遅い起床でいい中、いつも通りの体内時計が働き起きると、ミュリスも起きてきた。


 寝袋は寝心地は悪くないが、寝返りが打てないので何度か起きてしまったようだ。

 ベッドで寝ていいよと言ったが、もう起きると言うので、二人でトイレに行き、朝の身支度を整えることにした。


 女子達も起きていないので、シャワーを浴びたいと言ったので、魔法で手伝ってあげた。

 朝からシャワーを浴びて目覚めるのが常らしい。


 不運だったミュリスと一緒にソウルが作ってくれたラビオリを食べていると、ラッピーが匂いで起きて怒りだすという騒ぎはあったけれど、これは僕が持って来た食事なのできっぱりと断った。


 交換でミューからは瓶に入ったテリーヌを分けてもらったが言わない方がいいと判断をして黙っておく。


「ミューにあげたのは、2つだけだよ? 昨日はクジで負けて不運だったからだね。もう食べ終わったからラッピーの分はないよ。食事は自分で用意することになってたでしょ? 食料がないならともかく、あるんだからあげないよ」


 女子達は今の内にと後ろを向いて着替えていた。

 位置的に僕とミューからは背中が見えているけれど、ラッピーにさえ見えなければもういい、となっている気がする。


「ラビオリが食べられるのなら寝袋で寝ました!」

「アハハ。ラッピー。それは言われても困るよ」


 気づいたミューも視線を逸らしながら着替えが終わるまで会話を引き伸ばそうとしていた。


「寝袋にラビオリがついているわけじゃないだろう。偶々起きるのがかち合ったからだ」

「具材はなんだったんですか!? ソルレイ様のお手製だったのでしょう!?」

「聞いてどうするんだよ」

「聞いてももうないよ?」

 ラビオリはこれで終わりのはずだ。

「いいえ! これは重要なことなのです!」

「えー?」

「なんだよそれは……。まあ、言うだけならかまわないけど。ホウレンソウを練り込んだ生地で包まれた方はクルミとベーコン、チーズだった。人参を練り込んだ生地の方はオイル浸けのカキが大葉に巻かれたものだったよ。茹でてからハーブが練り込まれたバターを乗せてもらったが、ラビオリの熱で溶けてとても美味しかったよ」


 レストランのシェフ達はソースで食べさせるけど、シンプルで素材の美味しさが伝わるもので僕はこっちの方が好みだ、と言った。


 ミューがそう言うので、女の子たちの着替え具合を見て僕も追加しておく。


「ミューにあげたのは、2種類だったけどもう1種類あって、豚肉を燻製にしてからピリ辛の香味油に漬けたものが入ってたよ。夜食というか、ソウルが常備菜で作ってくれているものだね。これもオイル漬けだと思ってくれればいいよ。いつもは、ピラフに入れたり刻んでオムレツに入れてお弁当に入れてくれたりするやつだよ」


 ラビオリに入っていたのは、初めてだったけど愛情いっぱいで嬉しかった、と幸せの笑顔を浮かべる。


「うわーん!食べたかったですー!」


 悔しそうな声をあげる。

 お兄ちゃんはわざわざ、バターをハーブや砕いたカシューナッツを加えて再成形したものを棒状にして10グラムずつ切れ目を入れて冷凍するのだ。


 そして小さい薄型の筆記具ケースのような保冷の魔道具に入れ、これがあるだけでパンも美味しく食べられるからね、と持たせてくれた。


 固いパンを交換してくれと頼まれたら、スープに浸すとパンが吸うのでそうするかバターを乗せて焼くように言われていたけど、お兄ちゃんから貰った物を渡す気はない。


「ラッピーはラッピーが持って来た料理を食べてね。そんなに食べ物に拘るのなら、料理好きな相手を探したらいいと思うよ」


 初めに言った通り、偶々起きるのが一緒で食事をとるのも同じで、昨夜は寝れらなかったみたいだから英気を養わせようとしただけだと伝えた。


「そうか! 料理上手な人と結婚を……いや、やっぱり女性はかわいい方が……」

 ぶつぶつ言う、ラッピーに早く着替えなよ、と言っておく。

「ミュリス様のお相手は、どのような方なのですか?」

「お聞きしてもよろしいのかしら?」

 問われたミュリスは、逡巡してから述べた。

「……まだ決まっていないよ」

「「まあ!そうでしたの!」」


 あーあ。ロックオンされてるね。

 ミューも気づいて“しまった”という顔をしたが後の祭りだ。


「候補はあがっていたからそろそろ決まっているはずだ。今夏に帰れば分かるだろうね」

「「まあ……そうですの」」


 疑いつつ、一応引き下がった。

 ミューは、こういうのが上手だね。

 失敗してもリカバリー力があるよ。


 それにしても早く帰りたいよ。

 朝の身支度を終えたら3階に行こうかと話してラピスを急かすのだった。

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