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ラウルツ・フェルレイの高等学校 6

 予定通りダンジョン病にならないように少し寝ようと話して、お爺様の魔道具を設置した。


 ソウルから、お風呂以外にもベッドもあるから入れておくな、と笑顔で言われたこと

 を思い出し、これかな、と取り出して紐を引っ張るとすぐに膨らんでベッドになった。


「「「「…………」」」」


 吃驚した。

 メモを探して見ると仕舞うときは枕元の魔法陣に魔力を少し込めれば元の大きさに戻る、か。お風呂よりも簡単だね。


「……どうせソルレイ様の配慮だと思うがそれは狡くないか?」

「あ。やっぱりばれちゃった?」


 僕の持ち物はほとんどソウルが用意してくれたことは言わない方が良かったかな。

 だけど、これに関しては、ミューとラッピーの分もある。

 女の子が班にいるって心配するから言えなかったんだよね。班の編成でもめたことも伝えなかった。ちらっと湯を溜め直して入浴しているラッピーのいる部屋を見る。


「あと2つならあるよ」

「ソルレイ様は僕達の分も用意してくれたのか?」

「心配すると思って班分けのことは言わなかったんだよね。班の全員が、男だと思ってるんだよ。くっつければ3つ入れれば足るなって思って入れたのだと思う」


 料理も本当は友達と食べて、と書かれている物もあったが何日潜らないといけないか分からないから秘密にしておこう。特に手作りの焼き菓子は絶対に分けたくないよ。


「僕は一つを一人で使うよ。疲れるのは嫌だからね。一つはミュリスに。もう一つは女子達に渡す。交代で使うのもいいし、女の子同士だから一緒に寝るのもいいと思う」

 帰りには回収することを話して渡した。

「ありがとう。有り難く使わせてもらうよ」

「ありがとう存じます」

「ラウルツ様、ありがとうございます」

 女子達は、意外に広いので『良ければご一緒しませんか?』とどちらからともなく声をかけ二人で一緒に寝ることになった。

「ラッピーが上がる前に僕は寝るよ」


 いそいそとローブをベッドに敷いて、ソウルが入れておいてくれた精油を染みこませたハンカチで口元を覆うと安心できた。


「あ。僕も寝るよ。お先に」

「わ、わたくし達もそうしましょう」

「そうですわね! 急ぎませんと」


 この後ラッピーが上がると全員がベッドで寝ているという状態で、『ど、どういうことですか!?』と叫んでいたが、寝ているふりでやり過ごした。

 その内に本当に寝入り、2時間後に起きるとラッピーが寝ずの番を行っていた。


「ラッピー、ここには魔道具があるから大丈夫だよ」

「そうなのですか? てっきり、僕に番をしろということなのかと思いました。ベッドも3つだけでしたよ?」

「初めから3つしか持って来てなかったからミューと女の子達に一つずつあげたらなくなっちゃったんだよ」

「えー!? 仲間外れですか!」


 お風呂は綺麗に乾かし萎んで畳まれていた。

 それを忘れない内に巾着の中に直してリュックに仕舞う。


「厚意で入れておいてくれただけだからね。ラッピーは持って来ていないの?」

「こんなベッドがあるなんて知りませんでしたよ。商業ギルドでも便利な物がないか随分と情報は集めました。冒険者ギルドにも行ったのに見つけられませんでした」

「となると魔道具ギルドかな? あそこって相当、魔道具作りの腕前がないと会員になれないからね」


 ソウルから聞いた話だと、先生達に勧められて行ったものの、その場で魔道具を作るように言われ、その腕次第で会員になれるかが決まるそうだ。一発勝負で会員のランクが決まると聞き、作ったものは持ち帰れるのかを確認したそうだ。

 力作を作り、その場で一番良いランクの会員になったと言っていた。


 僕も会員になれるはずだって言うけど、あまり興味がなくて行っていないんだよね。こういうのが買えるのなら便利だし、行ってみようかな。


「はぁ。魔道具ギルドですか。それなら納得です。魔道具を作る者しか会員の作った魔道具は買えません。ランクに応じて買える魔道具も変わります」

「そうなの? 詳しいね。ソウルは確か一番上の隠しランクだって言っていたよ?」

「な、なんですか!? ソレ!? そんなのがあるのですか!?」

「僕は行ってないから知らないよ」

「これ! 売って下さい!」

 急に迫ってくるのを躱す。

「えー? いくらで買って来てくれたのかも知らないからね。聞くだけ聞いてみるよ。ラッピーのことは『よく食べるカルガスみたいでかわいい』って気に入ってるから『いいよ』って言うかも」

「私は人間です! 食べられるカルガスに喩えるのはひどいです!」

「アハハハ。うん、でも、僕もソウルも狩ったことは一度もないよ。楽器を奏でると傍に来るからね。頭を撫でてやるとお腹を見せるんだ。撫でておしまいだね。だからカルガスも食べたことがないんだよ。ソウルがラッピーのことを可愛がっているのは本当だよ」


 “勉強もよく頑張っている、努力家”だと、初等科の頃から褒めていたと言うと喜んでいた。


 ソウルが、参加していたダンジョンで半数の生徒が死亡したと聞いて、学校で倒れそうになっていたとノンから聞いた話をした。

 生存率をあげるために男友達と組むように言われていたので、女の子がいると言わなかったからこのベッド数で足りると思ったはずだと、ミュリスにもした話を聞かせた。


「侯爵家が3人だからね。ミューもラッピーもそれぞれ持って来るって、きっと思ったんだよ。僕はよく寝たから、そこのベッドで寝るといいよ」

 よく眠れたこともあり、交代を申し出た。

「では、お言葉に甘えます」

「うん。見張りご苦労様」


 ラッピーは優しいから大丈夫だと思いながらも、念のために番をしていたんだろうね。


 貴族だからと身なりを見て狙う者もいるけど、女の子だからと狙うものもいる。はぐれると、それだけで女の子は危険だ。魔物や魔獣だけではなく、人にも注意しないといけないからね。


 国が管理するダンジョンは、学生が入る期間は、規制がかかり入れないことが多い。

 規制のないところは、難易度も高めで、管理も徹底している。冒険者ギルドで届け出を出さないと潜るのも禁止だ。ランクによっては入れないとルベルト先生は言っていた。


 ここは無法地帯で、街に入るのも身分証の提示義務がない。そういう意味でいうとかなり危ないダンジョンだ。

 先生のいる小部屋の場所を予め知らせたのは、不測の事態に備えてだと思う。配布されたこの位置情報が把握できる腕輪もだね。


 まるで初等科の体育祭のようだね。

 笑いながら紅茶を淹れ、飲みながら見張りを行ったが、これといって音もせず、静かなものだった。

 小腹が減り、ソウルやミーナが作ってくれた焼き菓子を取り出す。本当に美味しいよ。香ばしいキャラメルと絡まったナッツのかかったプチケーキを食べながら1時間過ごし、起きたミュリスと買ったダンジョンの地図を見ながらルートを決めた。


「ここで一日過ごすか」

「初日は、とにかく無理をしない方がいいって言われたよ」

「それは、エリット様からも忠告されたよ。そうだな。明日に備えるか。それでなくてもダンジョン内は薄暗い」

「移動している生徒も少ないだろうからね。それに張り切っても、夜に徘徊する植物型の魔獣だっけ? 探しても1階だと人の方が危なそうだね。2階に行ってからにしようよ」

「3階までしか行けないということは、そういうことだろうからな。1階にはいないかもしれないな」


 ここはダンジョンでできた街で、素材の買取り屋なんかは多い。冒険者ギルドもあるけど、他のギルドはない。情報ギルドもないから魔獣の情報は思ったほど得られなかった。

 書庫やアインテール国の各ギルドの方が詳しいくらいだった。調べてきたおかげで見た目は分かっている。


「他の班はもう2階かもしれないな」

「うちはのんびりでいいよ。あくまでも学校の課題だからね。命優先で!」

「ソルレイ様にそう言われたのか?」

「うん」

「なら、仕方がないか。さっき食べていたソルレイ様の焼菓子一つでいいよ」

「えー? 嫌だよ」

 甘い匂いで目が覚めたと言われるが、知らないよ。

「ソルレイ様のことだ。皆で食べるようにって言われただろう」


 くっ、ソウルを慕っているだけあってよく分かっているね。その通りだよ。でも…………。


「僕は独り占めしたいんだよねー」

「ラピスには黙っておくよ」

「それは嬉しいけど、ラッピーはすぐに気づきそうだから大変だよね。できるだけ、早目に食べていこうかな」


 諦めて焼菓子を2つ渡す。ミュリスとだけ食べても友達と食べたって言えるしね。


「ソルレイ様、いただきます。ラウルもありがとう」

「アハハ。僕は、完全についでだね」


 美味しそうに食べていたので僕ももう一つ手に取る。

 食べた後に、証拠隠滅だとばかりに消臭剤を部屋に撒いたのを見て笑う。

 徹底しているね。

 ラピスが食べなければ、また機会があるっていう算段みたいだ。ミュリスは僕と同じ甘党だからね。


 この焼き菓子は、愛情たっぷりで手間暇がかかっているから独り占めしたかった。

 初等科ではうまく乗り切ったんだけど、教会のお菓子作りの時に、二人にはばれちゃってるからね。


 二人で話をしながら過ごしていたが、起きないラピスや女子達を見て、ミュリスと相談をして一旦全員を起こした。

 大丈夫だとは思うけど、念を入れて一人は警戒で起きていようと話して、持ち回りにした。


「ラッピー、僕、ミューとしたから。次はカレラかスイレンだよ。2時間交代だからね」

「では、わたくしがやりますわ」

「うん、いいよ。カレラがやったら、次はスイレンだね。その次はラ…………その次は、僕がやるよ。僕がやったらラッピー、ミューの順ね。ちょうど10時間経って朝の7時になるから出発しよう。勝手に起きている分は自由だけど、寝ている人を起こさないようにね。トイレも行きたくなったら見張りと交代の時に行こう。そうすれば前の見張りと今の見張りで3人で行ける。どうしても2時間待てなくて行きたくなったら、僕かミューを起こしてくれればいいよ」

 安全重視だ。

「そうだな」

「「そうですわね。お願い致します」」

「僕も起こしてもらって大丈夫ですよ。不届き者が覗かないように見張ります!」

「「「「うん」」」」


 全員の乾いた返事を聞いても満足そうにしていた。

 ラッピーの中での想定が、既に女の子だけなんだよね。

 そして悲しいことに、女の子達はラッピーにこそ覗かれる心配をしている。頼まれることはないだろうね。


 4時間後にしか回ってこない上、全員起きているのでトイレに行ってから眠りについた。スイレンに起こされたので、起きると、カレラと二人で4時間見張りをしていたようだ。


 そうすれば男3人でベッドで眠れると考えたのかな。


 見張りも問題なく、誰かが訪ねて来ることもなくひっそりとしたものだった。ラッピーを起こして、交代して無事に朝まで問題なく過ごした。

 出発前になると1時間前から起き始めることもあり、ミュリスの見張りは意味がなく、自然消滅だった。


 本人も早めの朝食を食べていたら、皆が起き出したという感じだったと言うので笑った。


「今日は2階に下りたいところだね」

「頑張ろう!」

「はい!」

「そうですわね!」

「頑張りましょう!」


 全員で、目標を2階の中央と定めて出発をした。

 小型の魔物は足が速く、人の肉を好んで齧ってくる小さい魔物は特に魔法陣を当てるいい練習になった。


「魔法ではなく魔法陣でやるのか」

「うん。魔法では当てられるから練習にならないんだよ」

「僕もやってみていいか」

「いいよ。外したら当てるから一番前でやって」


 魔法陣も小さく極小化してやったり、カルムお兄ちゃんのように飛ばしたりするのが練習になる。


「あ! あの魔獣は8本獅子です!」

「んー?」

 後ろからした声に振り返ると、ラピスが指差す方にいるのは、確かに脚が8本ある白い獅子だった。

「あ! 本当ですわ!こんなところにいましたのね!」

「取られる前にやりましょう!」

 もしかして課題ってニつとも1階にいたりするのかな?

「ラウル! 行こう!」

「うん!」

 頭に過ったが今は集中! 集中!

「皮は剥ぎますので、首を落として下さい!」

「はーい。動きを止めるよ」

 雷の魔法陣で、心臓を狙いショック状態にした。

「え? ラウルもうやったのか? 外傷がないぞ」

「うん。弱い魔力で体内を範囲指定したからね。気絶させたよ」

「早いな。よく分からなかった」

「魔法でやると焦げちゃうからね」


 ルベルト先生が、素材はオークションにかけて寄付すると言っていたから皮を傷つけないように気を遣った。


「では、止めは私がやります」

「必要ないよ」

「一応やるのが決まりです」


 ラッピーがサクッと首に短剣を振り被るので、僕もミューも見ないように周りを警戒をするふりをして離れた。

 プシューッと血が噴き出るのを少し見てしまったと、女子達が嫌そうな顔をしていた。


 10分ほどすると、ラピスが声をかける。


「ふぅー。終わりました。綺麗に剥げましたよ」

「ラッピー、全部任せてごめんね。ありがとう」

「ラピス、悪いな。助かったよ」

「ラピス様。申し訳ないのですが、牙も宜しいでしょうか」

「ありがとう存じます」

 誰も振り返らないで、そのまま話をする。

「カレラ嬢とスイレン嬢は分かりますが、ラウル君とミュリスも駄目なのですか?」

「「うん、ごめん」」

「これはいいですね! 僕のターンというわけですか!」

「「うん、そうだよ」」


 女の子にいいところが見せられると喜んでいるラッピーに任せて牙も抜いてもらい、場所を移した。


「石が本物なら課題はこれでニつクリアか」

「少し拍子抜けしましたね」

「そうだね。三つ目が難しいのかも」

「早く終わってよかったですわ」

「では、先生がいらっしゃる3階の部屋を目指すということでよろしいですか?」


 全員で異議なし!と2階を目指した。1階はそれほど広くないからすぐに2階には下りられたけど、2階は思っていた以上に広い。

 とにかく進めるだけ進もうというミュリスの言葉に従って進むことにした。

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