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ラウルツ・フェルレイの高等学校 2

 高等科の授業は、科目によって難易度が違うように感じた。魔法や魔法陣なら理論も実践も簡単だなって思ったし、選択科目は、先生のやる気による。魔道具は、初等科の頃からソウルに教わっていたから皆よりは分かるかな?


 授業は、女性のリリス先生だと聞いていたけど、マルコーロ先生という男性の先生だった。


 聞いた話では、1ヵ月を過ぎると、課題を出されるようになり、最初の30分が授業で後半の30分が課題を作る時間になる。その時間でできないと回収され、次回の授業の後半で作業をすることになり、ずれ込んでいく。


 ソウルのように30分以内に次々と作成できればすぐに終わり、課題をどんどんこなしていけるそうだ。


 僕はそこまで早く作れないから2コマ授業の1時間での作成を目標にしようかな。


 マルコーロ先生と目が合った。眼光鋭いお爺さんで、お爺“ちゃん”という感じではなくお爺“さん”という感じだ。長い白髪を後ろで一つ括りにして束ねている。

 困った時は笑うんだった。にっこり笑って、用事でもあるのか尋ねた。


「先生見すぎだよ。どうかしたの?」

「そうさな。ソルレイ様は、素晴らしい魔道具作りの腕をお持ちだとか。グルバーグ家は、魔法陣に力を入れる。知っておれば、儂が授業を受け持ったのだが……ラウルツ様はいかがか?」

「ごめんね、先生。僕は期待外れだよ。お爺ちゃんに、“ソルレイは魔法陣より魔道具の才あり、私をも凌ぐ”って褒められていたけれど、僕は並よりはいいかな程度の腕前だよ。研究室で魔道具を作っているから訪ねてみて」


 魔道具作りが得意な人達が何人か集まっていて、中には初等科の先生もいると話すと、口角を上げる。


「出入りできるかは、自作した魔道具の腕次第だって! 先生でも容赦なく落としてるよ。行くなら気合い入れてね」


 挑戦は一度きりだ。なんでも魔道具ギルドに行ったらそうだったらしい。その場で作成して、それに応じてランクを決められたと不満気に言っていた。


「カッカッカ。あい、分かった。訪ねるとしよう」


 楽しそうにするので、これでいいようだ。

 僕もそこそこの物は作れるんだけど、型紙というかレシピというか、そういうものがないとなかなか難しい。

 新しいものを生み出すのは苦手みたいだ。



 魔道具の授業の次は、魔法陣の授業だった。一番科授業時間が多い。


「この魔法陣の書き換えを、ラウルツ様、どうぞ」

「はーい」

 前に出て、正しい書き換えを行って席に着く。

「正解だね。では、次の書き換えを、ディング様。どうぞ」

「すみません。分かりません」

「ん?……少し難しかったかな」


 ルベルト先生が言うように、一番前の席は成績優秀者だと思われているようで、どの授業もやたらと難しい問いが当たる。


「では、ラウルツ様」

 くすくすと笑い声がこぼれてしまった。

「先生、当てる順番が戻ってるよ? 成績順に座っていないから次の人は分かるかも」

「そうなのかい? てっきり成績順だと思っていたよ」

 驚いて、次の女子生徒を当てる。

「シャルロワ様。どうぞ」

「……はい」

 前に言ってボードに書き替えを行うが、少し間違っている。

「おしいね。ここは、こうなるよ。なぜなら――――」


 間違った方が丁寧な回答を貰えるし、勉強になるので皆は“分かりません”じゃなくて、前に行って間違えて欲しい。



 学校が始まって3日目。ルベルト先生がダンジョンの班を決めたかの聞き取りを朝の時間に行った。


「まだ決まっていない者は立つように」


 先生がそう言っても、僕は関係ないとばかりに、机に魔法陣を指で描いて遊んでいた。魔力は込めずに、秒ごとに属性の違う魔法が打ち上がる複合魔法陣の連鎖を頭で想像していた。

 お爺ちゃんに最後に教わった魔法陣だ。


「む? 人数が合わんな?」


 その声に顔を上げて、教室を一番後ろの席から見回す。

 本当だ。ラピスと女の子ニ人しか立ってない。


「今から決まっている班員を挙げていく。一番早かったのは、ラウルツ、ミュリス、ベイリンスム、ドグレフ、ガイザー。次に、アネッサ、ルベニラ、ココ、メイシャン、ラーニー。男子生徒5人と女子生徒5人の班だな。他は聞いていない。名前を呼ばれなかった者は、全員立て」


 10人が決定で、15人は決まっていないってことだね。

 成り行きを見守っていると、女子が立ってから手を挙げる。


「ご報告が遅れて申し訳ありません。5人班を作っております」

「よし、名前を言え」

「はい。ベロニカ、アスク、ユートス、タイロン、アイリーンです」

「ベロニカ、アスク、ユートス、タイロンにアイリーンだな。分かった」


 先生は紙に名前を書いて、座れと言った。


 他の男子も決まっています、と申し出て先生に確認をされて席に座った。


「では、最後に残っているお前たちが5班目だ。ラピス、スナイデル、ウォルフッド、カイラ、スイレン」


 先生がそう言い、座れと指示をしたが、ウォルフッドだけは座らなかった。自然と皆の目が集まる。


「どういうつもりだ?」


 鋭く睨まれると、赤茶けた長い髪を耳にかけながら、へらっと笑って答えた。


「実は、ベイリンスム、ドグレフ、ガイザーの 3 人と私とスナイデルで5人班を組んでいました。侯爵家のお二人に言われて断れなかったようで……。この5人で組みたいのです」


 僕は目を瞬いた。初対面のはずだけれど、いい性格をしているね。


「待ってくれ。初日の最初の休み時間に話をした。お前たちはいつ話をしたんだ?」

「うん。いつしたの?」

 不思議そうに尋ねると、にやっと笑って、元々友人同士です、と答える。

「そうなの? 3人はそっちと組みたいのかな?」


 3人は視線を彷徨わせた末に、『はい』と頷いた。取り込み済みってわけだね。面倒だなあ。


「そっか。二つ返事で『お願いします』だったからてっきり『いいよ』だと思ったよ」

「最終確認で引っくり返すくらいなら先に言ってもらえないか。迷惑だ」

「うん。あの時に断られたら声をかけられるけど、もう声もかけられないから、こういうことは二度とやめてね」

「「「申し訳ありません」」」


 どう決着するかを見守っていた先生に声をかける。


「ルベルト先生、僕達が立たないといけなかったみたい」

 おどけて笑うと先生も笑う。

「ハハハ。そのようだな」

 笑った僕に、ミュリスは溜息を吐いていた。


「で、お前たちは、それで済むと思うのか? なぜ引っくり返した。答えろ。答えないのならダンジョンは全員成績順で組み直す」


 ルベルト先生が、怖い顔でウォルフッドに投げかけた。

 へらっと笑って座ったウォルフッドの横顔は真顔になっていた。前の方の席のスナイデルは分からない。


「ウォルフッド。終始おまえだけが話していたが、おまえが描いた絵か? うん?」

「何のことか分かりません」

「いつからの友人同士だ? 各家に問い合わせるとしよう。嘘をついていた場合は、停学だ。停学にするのは、班員の 5 人とする」


 それは困るのか。ベイリンスム、ドグレフ、ガイザーの三人が振り返って、ウォルフッドを見た。


「ルベルト先生、私は彼とは友人ではありません」

 スナイデルがそう言った。

「ほう?しかし、おまえは最初に立たなかったな」

「友人ではないのですが、一緒に組もうと言われました。メンバーはあと一人だと聞いていたんです」

「ふむ。ベイリンスム、ドグレフ、ガイザーはどうだ? 今なら家に問い合わせての停学は撤回しよう」


 先生の言葉に、僕達の方を見て頭を下げた。


「最初に誘われたのは、ラウルツ様とミュリス様でしたが、ヴォルフッドに外交で圧力を家にかけると言われて、仕方なく了承しました。先生が最初に決定していると名前を呼んでくれたので、それならこのままでいいかと申し出ませんでした」


 ドグレフがそう答え、ガイザーも逡巡してから答えた。


「我が領はワインの生産が盛んですが、セインデル国からも良質のワイン用の葡萄を輸入しています。そのことで少々……」


 言葉を濁して終わり、ベイリンスムは二人が抜けるのだから抜けろと言われたと言った。

 同じアインテール国の貴族なので、二人のことを考えてそうしたようだ。


「大体分かった。スナイデルは嘘をついているようだが、もう一度だけ聞こう。ウォルフッドは友人か? 問い合わせれば分かることだぞ」

「はぁ……友人ではなく幼馴染です。しかし、本当に班員は後一人だと聞いていました。脅していたことも知りませんでした」

 顔は見えないけど、もの凄く嫌そうな声色だった。

「そうか。では、班員だが、そのままにする」

「!?」


 多くの生徒達が戸惑った声を上げる。

 正直に言った3人も『そんな……』と声を上げている。


「ラウルツとミュリスは、ラピス、カイラ、スイレンと組むように」

「うん」


 何だか面倒だもんね。

 メンバー的にも、もうこっちの方がいいよ。ダンジョンで他班に日和見になられても困るしね。


 ソウルから最初の犠牲者は、下の階にこれ以上下りたくないと言った女子を殺そうとした男子がいて、庇った男子が魔法付与をされた武器で殺されたって話だもんね。


 そんなカオスな状況に置かれても、一人で戻って来られるように。僕に渡した魔道具を少し調整すると言って色々と試していたことを知っている。やたらと防御力が上がった物を僕の腕に嵌めて、『これで大丈夫だ!』と守れることを喜んでいた。


 今の時点で関わらない方が良い人間が分かってよかった。


「先生、お待ちください。最初に組んでいた――」

「待って、ミュリス。2年前の最初の犠牲者ってクラスメイトに殺されたらしいよ。ラピスと女の子の方がいいよ。異性は、お互いに気を遣うけど、信用できない人と組むと取り返しがつかなくなるよ」


 もう信用できないでしょ?と言うと、同意をした。


「そうだね。……先生、ラピスとカイラ嬢、スイレン嬢と組みます」

「ああ、そうしろ。それから、ラウルツ。それは箝口令が敷かれている。言ってはならん」

「そうでしたか。そうとは知らず、申し訳ありませんでした」


 敬語で神妙に頭を下げると、驚かれた。


「おお!? 使えたのだな」

「ふふ。うん。言ったら駄目なのは、知らなかったよ。ごめんなさい。ラッピーは友達だからいいとして、カイラとスレイン、宜しくね!」

 笑って宜しくと手を振ると硬い表情で頭を下げた。

「「宜しくお願いします」」

「ハハハ。一瞬で終わったか。まあ、いい。おまえ達は 1 番、2 番、3 番の成績で合格している。このまま努力すれば来年の夏には、自分の命と女性の命も守れるだけの力はつくだろう。ただ、過信はするなよ。カイラとスイレンは足を引っ張らないように努力をしろ。まだ時間はあるから罠の解除方法を一つでも多く覚えろ。2年前は女子の死亡率が高かった。これは遊びではない」

「「は、はい」」

「他の女子達もだ。最後は体力のない者から亡くなっていった。2 年前から力をつけろと言う意味で初日に言うことにしたんだ。男女とも準備はしっかりやれ」


 なんだか色々あったけど、ようやく班が決まったね。

 そのまま1限目の授業を受け、2限目の選択科目のダンス教室に移動する時に、3人から謝罪をされたので、許してあげた。


「もういいよ。次はしないでね。それから、ダンジョンでは一緒には組めないよ。一度裏切られると、次もまたって思っちゃうからね」


 俯く3人の背を叩いて、移動をした。


 選択でとることにしたダンスは、ソロ、ペア、剣舞とあるので、僕が選ぶのはもちろん剣舞。

 アイネに格好いいって言ってもらいたいし、カルムお兄ちゃんにもエルクにも、なるべく長く、剣を持てって言われているからね。


 ふふふん、ふーん♪ふん♪ふん♪

 型を覚えて、動く度に頭の中で音楽が聞こえる。そのリズム通りに動けばいいのだ。

 先生に教わりながら楽しく剣を振るうのだった。


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