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動き出した歯車

「カルムお兄ちゃんとダニーがグリュッセンに行くでしょ。僕とお兄ちゃんは、2年したらエルクと一緒にグリュッセンに向かうね」

「ああ。それまでは、のんびりと楽しむさ。観光国は娯楽も多い」

「カルムス……」

「ふふ。そうだね。ダニーも楽しんでね」

「うん!そうして!」


 笑顔で言うと、困ったように微笑んだ。


「仕事は、ベリオットハウスの事業で、商業ギルドと話もしてあるよ。ハチミツシャンプーとリンス、石鹸は売れ行きも好調だからこのまま、アインテール国でも商業ギルドに下ろすよ」


 得意先の貴族には、そのまま直送されるから貴族家との繋がりは残すことになる。これである程度、貴族しか知らない情報も入って来るはず。


「グリュッセンでも地元の雇用を確保するために、貴族街の 一等地に高級店“ハニー&ハニー”略してハニハニの店舗を開店させるよ。店舗も確保してもらっているからね」


 執事長もメイド長もこういうのが得意だったようなので、そのまま商業ギルドに土地の確保と店舗の設計を頼んでくれている。


 高級店である証として店内は黒色と白で統一している。


 黒地に金の中でも格調高い紫金の文字でハニー&ハニーとカリグラフィーの洒落た文字でデザインをした風呂敷で包まれる。


 値段はガラス瓶にロゴが入った 2本セットが木箱に入り、風呂敷に包まれて金貨6枚だ。1本の瓶売りも勿論できる。

 観光立国だけあって、土地代が高いこともあり一瓶の値段は、金貨3枚だ。

 女性の美容にかける思いは、際限がないのでいけると思っている。


 軌道に乗ったら、上客のみが使えるエステもオープンさせる予定だ。事業計画書を見せ、今の進捗状況はここだとダニエルに説明をする。


「もしかして、私達はやることがないのですか?」

「ふむ。そうなのか?」


 計画書の概要を捲って確認していたダニエルがそう言うので二人で頷く。


「うん。しばらくは。今のところ使用人達に振り分けているよ。店舗は、商業ギルドから貴族の対応に慣れている人材をメイド長と執事長が面接して選りすぐった人を採用してくれているって手紙が来たよ」

「アイネに頼んであるから大丈夫だよ」


 話題になるように、襟刳りと袖にモノトーンのチェック柄が入る可愛いメイド服と同じチェック柄のチーフが胸ポケットに入った黒のスーツでの対応だ。


 アイネやアリス達が、楽しそうに決めていたとラウルから聞いている。夏は、長袖の白シャツになるが、店内には魔道具のサーキュレーターと冷風機で涼しくなる。


 ラウルが、カルムスとダニエルに好きなことをして楽しんでいいんだよと笑う。二人で旅行にも行けるでしょ?と言うと、カルムスは嬉しそうだった。


「配送なんかは、業者に任せてあるよ。春にオープン予定だからダニーとカルムお兄ちゃんにはどんな具合か見てもらって、貴族が通うクオリティーか見てくれる? ハニハニのブランド力が、定着するかが大事なんだ。オープンの日は、小さい固形の石鹸を試供品で入れることになっているから。ある程度は宣伝効果もあると思う」


 それが終われば好きにしてくれていいからお願いと頼むとダニエルは『分かりました』と二つ返事だ。


 護衛のベンツは、本屋敷の警備を頼むことにするので、冬休みに連れて行ってあげてね、と頼んでおく。一緒に行ってもらうことにした。


「この計画書だと、この店舗の美容品売り上げは俺とダニエルのものだがいいのか?」

「本当ですね。納税責任者が私達になっています」


 二人が問うので、その事業はお願いすると頼んだ。


「うん、大丈夫だよ」

「僕たちは、違う事業をやるの。だからこっちはカルムお兄ちゃんとダニーでやって」

「新事業か?」

「うん」


 ベリオットハウスの中で採れるベリオットは、ケーキやタルト専門のカフェをアインテール国のケーキ通りで開店させる予定をしている。名前も、もう決まっていて“ベリオール”だ。


 グリュッセンに移ったら、そちらでもオープンさせるので、ベリオットは、欲しいと伝えた。カルムス達はハチミツを使った事業を。俺とラウルはベリオットと同じハウスを利用した棲み分け事業を行う。


「いるのはハチミツだけだ。勿論、かまわないぞ」

「うん、ありがとう」

「2年は無理だから食べるかドライフルーツにしておいてくれる?」

「分かりました」


 こちらが、俺とラウルの稼ぎになる。

 フォルマの領の土地を売買しあい、俺とラウルの所有の土地になったので、そこでもベリオットハウスを移転させて作っているのだ。


 今までグルバーグ領のベリオットとハニーハウスで従事していた者達はここで働いてもらう。


 雇用者たちからも了承を得た。


 グルバーグ領内の民家に紛れて生産しているものは、見つかるまでそのままだ。

 辺境だけあって、領内は広大だ。見つかるまで時間はかかるだろうと思っている。


 山の麓の村では、2年契約を交わしている。ばれた時点で、この契約は終わりだと言ってあるが、うまくやりますと笑っていた。


 2年経てばハウスごとグリュッセンに持って行くことになるので、その後はできないが、グルバーグの領民は、俺とラウルがいる間にがっつり稼ぐ方を選んだのだ。


 村が一丸となっているので、意外にいけるかもしれない。


「4人で過ごすのもあと少しだね。一緒にご飯が食べられる日は、一緒に食べたい!」

「カルムお兄ちゃん。美味しいお店に連れて行って!」

「いいぞ」

「では、今日は外で御馳走ですね」


 強請る俺達に、二人が笑い合って快く応じてくれた。アインテール国の郷土料理が食べられる店へ出向き、楽しく過ごせそうな未来を祝った。


 この日の夕方、荷物を持ってグルバーグ領を後にした。今日から入寮日まではホテルだ。

 良い思い出ばかりだった。振り返りると未練が出そうだと車に乗るまでは、決して振り返らなかった。




 カルムスとダニエルは、連れて行く使用人達とグレイシー領のホテルに泊まることにしたらしい。そのこともあり、一緒にカルムスのお父さんの領地に出かけ、鉱石を採りに行った。


 恐らく、カルムスが引き合わせておきたかったのだろう。

 この時に弟のアイオスさんに会ったが、がたいの良い厳格な内政官という雰囲気だった。


 鉱石を採らせてもらったので、お礼に魔道具を敷地に埋めたいと言ったら、カルムスの顔を確認してから頷いた。慎重な人のようだ。


「これは、守護魔法陣に似たものです。攻撃を反射する機能もあります」


 どういうものか説明すると、目を見開いてとても感謝された。


 財務派閥に譲渡できる魔道具の数を聞かれたので、カルムスとダニエルに言われた通り、貴重な鉱石で作ることもあり組み立ても難しいのでもう作れないと話す。


 お父さんと弟さんから必要な鉱石を言ってもらえれば、財務派閥で揃えるから作ってもらえないか、と何度も頼んでくる。


「その方達は、王や王族に渡したりしませんか?」

「ハハハ。あり得ません」

「渡すわけがないです。自領で使うはずですが、書面に残しましょう」


 それまでの穏やかな笑みを崩し、凶悪な笑みを浮かべ、一蹴した。こういう時は、親子で似るのか。

 カルムスを見ると、肩をすくめるだけだった。作っても、作らなくてもどちらでもいいらしい。実家の領は、無事だものな。


「ソルレイ様、是非」

 逡巡していると、にっこり笑って距離を詰めてくる。

「兄が、兄弟なのでしたら私とも兄弟ですよ」


 言い回しが、財務派閥っぽい。カルムスとは違う意味で貴族らしい。なんとなく、弟に後を継がせたカルムスの気持ちが分かってしまった。


「……でしたら、材料をそちらで揃えて頂けますか? それなら作っても良いです。手持ちに余裕はありません」

「では、必要な物を教えて頂けますか。こちらで集めます」


 紙と白鳥の羽のペンを渡された。

 この魔道具には別にいらないが、欲しかった鉱石を2つ程混ぜて、紙に書いて渡し、2年しかアインテール国に留まらないので、できる限り2年以内に集めて欲しいと頼んだ。




 学校の入寮が始まる春の季節になると、俺とラウルの入寮を律儀に確認してから、二人はグリュッセンに出立すると言った。俺とラウルは抱きついて、今まで側にいてくれた礼を言い、見送りに正門まで一緒に行った。


「休みの時は来い。いいな?」

「待っていますからね」

「でも、僕たちが行ったら、旅行に行けないよ?」

「冬には行こうかな」


 抱きつく俺達の背を撫で、いつでも来ればいい。俺達が出かけていてもあそこはお前たちの家だと言ってくれた。


「僕たち皆の家だね」

「うん!カルムお兄ちゃんとダニーの家でもある。エルクも来るよ」

「ああ、分かっている。何かあったらすぐに連絡して来い」

「飛んで来ます」

「「うん! 二人とも大好きだよ」」


 ぎゅっと抱きしめてから離した。


 せめて、高等科が始まる夏までは護衛に残りたいと言ったベンツに『一緒に行って、2 年したらそっちに行くから』と笑って、背を押した。


「大丈夫。また会えるよ」

「ふぅ、はい。モルシエナ頼んだぞ!」

「ああ! 分かってるぞ! 任せてくれ!」


 正門を潜るスニプル車が、小さくなるまで、手を振ってから振り返る。

 それぞれの執事とメイドに声をかけた。


「2年間、寮での生活になる。苦労を掛けることもあると思うけど、よろしく頼むよ」

「うん! 変わらずによろしく!」

「「「「お任せください」」」」


 頭を下げる4人に、協力を頼むねと、もう一度言ってから寮の部屋に戻った。


 俺とラウルは気を遣われたのか、隣同士の部屋だった。

 とはいえ、その隣はノエルなので、部屋割りはよく分からない。


 成績優秀者の中でも広い部屋を宛がわれたようだ。

 ラウルは、寮に入るならと手を抜かずに試験を受け、主席入学をした。そのこともあってかノエルに似た広い部屋だ。


 アインテール国の貴族は、もっと狭いかと思った。外部生並だ。エルクシスが、養子にしてくれたことも関係あるのかな。


 リビングに寝室に、使用人 二人の個室だ。


「隣同士だから、アリスもお兄ちゃんの部屋に行く? ロクスが僕のところに来ればいいよ」

「え?」

 俺は驚くが、ラウル付きのメイドのアリスも『宜しくお願いします』と頭を下げる。

「個室 ニ部屋で固まって、女の子同士の方がいいよ」

「そうなのか? 本人達がいいなら俺はいいけど……」

 ロクスの顔を見た。

「かまいません。朝にはお側におります」

「「では、お願い致します」」

 ミーナとアリスが言い、自分の部屋に荷物を置きに入っていった。


 研究って自由みたいだから、ある意味 2年はやりたい放題だ。4人も羽根を伸ばせるといいな。


「ラウル、長期の休みは、他国に行って鉱石を取りまくろう。ゲートを作りたいんだ」

「ふふ! 分かった! いつでも来られるようになるの? 楽しみー!」

「!」


 できるか分からないと言えず、早速、初等科の書庫室にいるソフィーを訪ねようと思うのだった。


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