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クライン先生とポリコス先生

 先生を招く日。ラウルも同席したいと言ったことから迎賓館で、夕食を取りながら話をすることになった。


「ソルレイ様、お部屋が整いました。一度ご覧いただいてもよろしいでしょうか」

「ありがとう。信用しているからいいよ」


 読んでいた魔道具の本から目を話さずに答えた。古い文献を集めたもので、頭の中で本当に可能な作りなのか無意識に計算をしていた。


「そうおっしゃらずに。キアは、アイネの代わりが務まっているのかを気にしているのですわ」


 迎賓館はいつも整っているのだが、来るのは先生達だ。堅苦しくならないようにとメイド長のキアに頼んでいた。

 ミーナがそう言うのなら行った方がいいのだろうと見に行くことにする。


 迎賓館は元々屋敷とは繋がっていない。一旦玄関を出て歩いた。


 部屋は、きちんと飾りつけられていた。長方形のテーブルに、秋色のテーブルクロスがパリッと張られ、中央に松ぼっくりやヘーゼルナッツなど木の実をふんだんに使ったリースが大小様々一列に並んでいる。リスの小物や大きなロウソク台もその間に置かれていた。


 見た印象は、赤を基調としているが女の子が来るようなクリスマスのようなそんな雰囲気だった。


「気合いが入りすぎかな?」

「ふふ、可愛らしい雰囲気ですね」

「クライン先生は喜ぶか。キアにありがとうって言っておいて欲しい」

「はい、伝えたら喜びますよ」


 グリュッセンに向かってもらったメイドも多い。残ってくれたメイド達で朝から念入りに掃除をしてくれたようだ。それに、部屋の隅に置いてある大きな花瓶も挿されている花も秋のものだ。カーテンも品の良い赤に金糸の飾りが入った物に代わっていた。


 微笑むミーナに、伝言を頼み、先生達を出迎えるためにこの部屋に近い応接室へと向かった。ラウルもそこで待っているはずだ。


 扉を開けると、紅茶を飲みながら寛いでいた。ちゃんと余所行きの服装だ。俺もミーナにちゃんと選んでもらった。いつものチェストにしまっている服ではない。


「ラウル。ノックス先生は、本当に呼ばなくてよかったのか?」


 隣に座って尋ねた。手紙を出す予定だったが、先にラウルに断られた。

 だから参加しないと思ったのだが、クライン先生のことは好きらしく、参加するよと言われたのだ。


「うん。先生は喋っちゃうよ」

 笑っているので、嫌いではないようだ。

「そうか」

「ソルレイ様、ラウルツ様。お客様がお見えになられました」

 すぐにメイドの一人が言いに来た。ラウルと部屋へ移動だ。

「お世話になっている先生方だから丁重に頼むよ。女性のクライン先生は、明日はお休みだからお酒も用意して欲しい」

「かしこまりました。準備はできております」

「「ありがとう。あとは、任せるよ」」

「はい」


 食事はクライン先生好みの、彩が綺麗な食事内容にしてもらっている。ポリコス先生の好みは、知らないし、クライン先生に合わせたと言えば何も言わないはずだ。


 メインを食べ終わったドルチェ辺りで、話を切り出そうとラウルと軽く打ち合わせをしておいた。


 少しして、執事が扉を開き、メイドに案内を受けたクライン先生とポリコス先生が揃ってやって来た。


 ポリコス先生は、もうどこかで呑んできたような赤みを帯びた顔だった。


 着飾った、それでも社交界にでるようなドレス姿とまではいかない上品な装いのクライン先生に緊張していそうだ。


「ソルレイ様、ラウルツ様。お招き頂きありがとう存じます」

「「先生、堅苦しい挨拶は必要ないので、どうぞ」」

「まあ。ふふふ。では、遠慮なく美味しい食事を食べて帰りますわ」

「そうなさって下さい」

 笑って席を勧める。

「ポリコス先生は、クライン先生のお隣でよろしいですか。なんなら私が席を移動しましょうか?」

「何を言っている」


 さっさと給仕に引かれた席に着く。

 顔を見ながら食べたいかなと気を遣ったのだが、不要だったようだ。

 笑いながら、失礼しましたと言葉をかける。


「まずは、乾杯だね。クライン先生は、明日は、お休みなんでしょ? お酒もあるよ。お兄ちゃんが作ったお菓子もあるけどね。どうする?」

「まあ! わたくし、どちらも大好きなの! 是非、いただくわ!」

「ポリコス先生は、学校ですね」

「先生には悪いけれど、いただきますわ」

「いえ、お気になさらず。召し上がってください」


 ポリコス先生、そんなちょっと見られたくらいで、大げさに顔を背けると誤解されるよ。


 なんだか心配になってきた。


 俺とラウルも少しだけワインを注いでもらい、グラスを持ち上げ、貴族らしい乾杯をした。

 ポリコス先生も普通に呑んでいた。酔わないと無理だという判断かもしれない。


「今日は、クライン先生好みの食事だと思います。先生は、見た目の綺麗な方がお好きでしょう?」

「それって、皆そうじゃないの?」

「「見た目より味!」」

 俺とラウルは揃って言う。

「アハハ。味ももちろん大事よ!」


 終始、緊張しているポリコス先生を余所に、3人で楽しく話しながら食事をすすめる。


 綺麗な鰻とアスパラの煮凝りや、キッシュ、自家製のロースハムは人参のソースで、甘藷のガレットも飾りで乗った前菜は綺麗な物だ。

 スープは秋茄子のポタージュに、ホウレンソウのスープで渦巻状に絵が描かれており、楽しめるもので、パンは、小ぶりのパンがどっさり入った中から好きな物を選べる仕様だ。

 給仕がサーブしてくれる。


「今日は、何種類ある?」

「プチパンは全部で 8 種類でございます。クルミ、レーズン、ミルク、クロワッサン、ロールパン、塩バターパン、ローズマリーのフォカッチャをご用意いたしました」

「僕は、ロールパンとフォカッチャ以外にして」

「俺は、ミルクとレーズン以外で」

 俺とラウルが6つも取ったことに先生は大笑いをする。

「アハハハ。そんなに食べられるの?」

「いつも食べています。料理長はクロワッサンが得意ですよ。塩バターパンとローズマリーのフォカッチャもワインに合うと思います」

「うん。いつも食べているよ。先生はやっぱり女の子なんだね。僕たちの半分だ」


 先生が笑いながら選び、ポリコス先生がじっと何を選ぶのか見ていた。


 ちょっと怖い。


 ラウルにもポリコス先生は、クライン先生のことが好きだとは言ってあるが、先生が余りにも無口なので気にしないことにしたようだ。


 メインは、大きなフィレ肉をベーコンで巻いて焼いてから作るビーフシチューだ。

 ごろんと皿に乗る。

 スプーンで切れるほどに柔らかいが、ナイフとフォークも用意されている。自分で切って食べるのだ。

「美味しそうね!」

 喜ぶ先生を見ながら食べ進めると、ポリコス先生が口を開いた。

「ソルレイ。いい加減に話をしろ。初等科の時の担任のクライン先生と今の担任の私を呼ぶということは、重要な案件なのだろう」

「ドルチェに入ってからにしようと弟と決めておりました」

「これは、すごく美味しいよ。話していたら食べ時を逃がしちゃう」

 二人で、もう少し後でいいだろうと言うと、クライン先生をちらりと見た。

「クライン先生は、先生である前に女性なのだ。帰りが遅くなるのはよくない。もう少し女性に対して配慮しなさい」

「プッ! アハハハハ。先生! そんなことを気にしていらしたの?  大丈夫ですわ」


 豪快に笑い飛ばされ、うっと怯んでいた。顔を赤くしているから可愛いとでも思っているのだろう。

 俺もラウルも『大丈夫だそうです』『いいってー』と軽く流してメインを味わう。


 眉間を指で押さえていたが、気を取り直してメインを食べていた。

 眉間の皺は寄ったままで、ラウルにもう少し揉まないと戻ってないよと指摘され、クライン先生に笑いながら顔を見られていた。

 そうすると耳まで赤くなる。

 それを見て、笑うというより何とも言い難い気持ちになった。生温かい見守る顔になっている気がする。


「クライン先生。栗のミニパフェか渋皮栗のパイどちらが宜しいですか?  両方を食べたいのならパイは、持ち帰って下さい」

「ふふふ。分かっているわね。もちろん両方よ」

「クライン先生にミニパフェを。パイは……お土産にして。そうだな、ホールでそのまま渡してあげて欲しい。日持ちもするし、友人と食べられるからね。ポリコス先生には、甘くないコーヒーのジュレを。ラウルは……」

 隣を見ると、笑顔で大盛り注文だった。

「僕もパフェ。アイス大目に入れてくれる?」

「俺はアイスだけにして欲しい」

「「「「かしこまりました」」」」


 多くの使用人達が下がったので、話を振った。


「ポリコス先生。第一王子のあの一件は、先生方の間で話は回っていますか。クライン先生は、ご存知なのでしょうか」

「高等科の教員のみだ。学長が箝口令を敷いた」


 それを受けて頷き、目を合わせると、クライン先生もまた、真面目な顔で見返していた。


「クライン先生。お話ししておくことがあります。グルバーグ家に来春、新しい当主が来ます。第一王子が連れてきた人で10歳の男の子だそうです。私と弟は、グルバーグ家ではない。偽者だと第一王子の署名入りの文書を持って、授業中に伝令と武装した騎士が来ました」

「なんですって……」


 クライン先生が、隣のポリコス先生を見て、先生は事実ですと簡潔に答えた。


「来るのが、来年の春と正式に決まりました。これはポリコス先生に言うのも初めてですね。私と弟はすぐに国を出るか話していたのですが、相手が10歳ということもあり、成績優秀者に選ばれたことや、弟が卒業年でもありますので、春からは寮に入ることにします。弟が高等科を卒業する2年はアインテール国に留まりますが、その後は、他国で静かに暮らしたいと思います」


 ポリコス先生は、眉間に皺を寄せて、目を瞑り、ショックを受けているクライン先生の前には給仕の手により、パフェが静かに置かれた。


 全員の前にデザートが供されたので、俺は融けない内にと薦め、一口食べた。先生達も甘さで苦い思いを塗り替えて欲しいと願った。


「クライン先生をお呼びしたのには、幾つか理由があるのです。本当ならノックス先生も呼ぶはずだったのですが、勝手ながら今回は遠慮をしてもらいました。ブーランジェシコ先生には、弟のお茶会の試験の時に同席して、お話ししてあります。その子は10歳ですから初等科に入学します。先に話しておいた方がいいと思ったのです。それに、先生方には、大変お世話になりましたので、噂が耳に入る前に自分の口から伝えようとお招き致しました」


 クライン先生が顔を両手で覆う。


「聞きたくなかったわ」

「先生は優しいので、色々なことを考えていらっしゃると思いますが、自分のことだけを考えてください。後見人と補佐官が、第一王子派閥から来るそうです。無能が来ても領民が困らないように、手は打ちました。できることはやりましたので、2年後は、他国で幸せに暮らすとします」


 打ちひしがれたようなクライン先生に俺もラウルも笑う。


「ふふ。先生! 2年はいるよ!」

「そうです。2年はいます。そのような顔をなさらないで下さい」

「せっかくのデザートなのに味が分からないわ」


 融けかけた栗のアイスが乗ったパフェをやけ食いのようにバクバクと食べる。ジェラードより硬いのでまだ大丈夫だと思う。融けない内に食べて欲しい。


「お前たちは、優秀だからさほど心配はしていない。ラウルツが高等科に入学したら誰が受け持つかという話も既に出ている。エンディ先生かルベルト先生のどちらかだ。担任を持つと授業はもてないが、どちらも魔法陣の講師としては一流だ。引き受けたいと両方が言っているので、担任か授業かのどちらかになるはずだ」


 エンディ先生は、魔法陣が好きで極めたいと家を飛び出し、縁を切っているものの、元々は公爵家で、ルベルト先生も外交派閥の伯爵家で顔は広い。

 どちらになってもある程度なら守ってやれるはずだという。


「ご配慮、ありがとうございます」

「じゃあ、お兄ちゃん、今度会わせて。どっちの先生にもよろしくねって言っておくよ」

 ラウルが笑うと、先生が俺の方を見るので首を傾げる。

「ソルレイとは少し……。違うタイプだな」


 ラウルと俺が対照的に見えるのだろうか。

 兄弟だから似ているところも多く、そうでもないけどな。


「ふふふ。お兄ちゃんとお爺ちゃんから伸び伸び育って、その方が嬉しい!って言われからこのままでいようかと。先生のことは尊敬するけれど、お茶を一緒に飲めるような友達の方が嬉しいかな」


 クライン先生やブーランジェシコ先生みたいな関係の方が良いとラウルは笑って答えていた。


「うん。それでいいよ」


 笑い合っていると、クライン先生が食べ終わり、硝子の器をテーブルにドンと乱暴に置き、俺達を見て涙ぐむ。


「このままいなさいよ!」

 俺もラウルも優しい先生に笑みが浮かぶ。

「「ごめんね、先生」」

「飼い殺しは幸せじゃないよ。お爺ちゃんの遺言は、“自由に生きて幸せになりなさい”だよ。僕たちの幸せを望んだの。グルバーグ家を道具のように扱う王子が王になる以上、ここでは幸せにはなれないよ」

「自然の多い美しいアインテール国が大好きですよ。国を守ろうとか大きなことは思っていなかったけれど、領地は盛り立てて守っていこうと思っていました。王が引っくり返すと思ったんだけどなあ。甘かったみたいです。来るのが春になったのも、カルムス兄上とダニエル兄上が第一王子と交渉して伸ばしてくれたからです。それが、できる譲歩なのかもしれません」


 王族や王が相手である以上、もう何もできないと肩を竦めた。

 後は自分や弟の命、家族である使用人達を守る行動に移るしかないので分かって欲しいと先生達に理解を求めた。


「正直なところ優秀な兄弟より、他国に筒抜けになったことの方が心配です」


 ポリコス先生が、宥めるようにクライン先生に穏やかに話しかけた。

「まさか……」

 そこから言葉が続かないクライン先生に頷いてポリコス先生が言葉を引き継いだ。


「3年前カインズ国の貴族学校を卒業していった次の王子世代が台頭するのに5年から 10年はかかります。ただ、台頭するのに土産をと考える血の気の多い王子がいれば分かりません。情報が筒抜けになってしまった。ソルレイとラウルツが寮に入れば、まだいると分かりますので、2年は大丈夫としか言えません。そしてそれは、もろ刃の剣で、新当主が来て家を追い出されたと、とるでしょう。初等科では、グルバーグ家の新当主として入学してくるのであれば、確証を得ます。こんなことを言いたくはないが、10 歳の、魔力も微弱しかない新しい当主では、戦争回避や抑止にすらなりえません」


 鑑定もしておらず、本当にグルバーグ家の血筋であるかどうかも分からない以上、防衛に協力する貴族も少ないのではないかという。


 クライン先生が頭を痛そうに抑えた。


「これは、一教員ではとても手に負えないわ」

「先生は自分のことを守ればいいんだよ」

「弟の言う通り、特に何かをする必要はないですよ。戦うのは軍部の仕事ですし、戦争を回避するのは、外交部の役目。先生は、自身の命を大切にして、周りの大切な人と共に生きて下さい」

 先生は俺とラウルの言葉に頷く。

「そうね。他国から攻められる可能性が分かったのだもの。危なくなったら逃げるわ」

 眉は寄せていたが、笑ってくれた。

「「うん」」


 内政派閥なので、ある程度まで国内の動きは分かるはずだという。

 軍が大規模な演習を繰り返したり、不透明な予算が組まれたりすると、まずい状況だといえるらしい。

 その前に逃げる算段を今から少しずつ整えると教えてくれた。


「では、私も逃げるとしよう」

「「クライン先生と?」」

「そんなことは言っていない!」

「まあ! 酷いですわ。先生」

「え!? あ、いやーー」


 挙動不審になる先生を見て苦笑いだ。

 クライン先生をかなり嫌がっているようにしか見えないからな。


 これがカルムスなら、『ああ。では、共に逃げるとするか』くらい言えるのではないだろうか。


「ポリコス先生は、クライン先生と逃げたいのでしょう。素直になればいいのに。時間は有限ですよ」

「わざわざ一緒の時間に呼んであげたのに。僕、知っているよ。そういうのヘタレって言うんだよ」


 俺とラウルで『今の内に食事に誘うくらいした方がいいのでは?』『どのパンを選ぶのか見ているより、一緒にパン屋に出掛けて選んだ方が楽しいよ』と煽っていく。


 真っ赤になって口をパクパクさせる先生を見て、クライン先生も冗談ではないと気づいたようで、まあ、本当に?と驚いた顔で口元を可愛らしく手で押えていた。


「クライン先生は、お菓子が好きだけれど、ポリコス先生は甘い物が苦手だからなあ。シエルで新作が出るんです。監修を頼まれただけですけど、無料チケットです。並ばずにすみます。ポリコス先生にあげますね。クライン先生と行くのか。ヘタレて2枚とも渡してしまうのか。興味があります」


 わざと挑発するように言い、男気を見せろと促す。

 服の内側のポケットからチケットを取り出し、給仕を介してポリコス先生に渡す。


 じっと俺もラウルもクライン先生もポリコス先生を見る。


 ポリコス先生は、穴が開きそうなほどチケットを見ていた。


「“シエル”とは菓子店なのだな?」

「はい。何年か前にできた店で芋の菓子が有名です」

「ふむ」


 ちらっとクライン先生の方を見て、見られていることに気づき、たじろいで慌てて目を逸らす。


「もう! そういうことをするから嫌われているのかなってクライン先生が思っちゃうんだよ。会話にも全然混ざってこないし。ダメだよ?『一緒に行ってください』って言えばいいの。先生は常連さんでお店も知っているからね」


 我慢できずにラウルが注意を入れる。初等科でもラウルのデート力のほうが高そうだと失礼なことが頭を駆け巡っていた。


 先生の目が泳いでいる。


「ポリコス先生、無言は駄目ですよ。あと時間をおくと誘えなくなると思うので、今、誘ってください。ただのデートですから、断られてもそれはそれで思い出にはなります」


 求婚ではないのだ。

 そこまで考えることでもないのだが、先生は緊張した面持ちでチケットを手に持った。


「場所が分かりません。一緒に行ってもらえますか」

「ええ――」

「ダメ! 場所が分からないから道案内に使おうとしているように聞こえるよ」

「今のはないですよ」

 意中の女性を誘うのに、なんて残念な誘い方なんだ。

「「やり直し」」

「…………」

 先生が、ため息を吐き、頭を振って深呼吸をした。

 隣にいる先生に向き直る。

「一緒に行っていただけると嬉しいです。……お願いします」

「ふふ。ええ、よろしくてよ」


 不器用な誘い方に先生は笑っていた。

 クライン先生が、『道案内をするのですから、夕飯は美味しいものを御馳走して下さいませ』と言い、『喜んで』と嬉しそうに頬を染める。


 まるで男女が逆の台詞を聞いているようだった。


 その後は、和やかに話をして先生達を送り出すために、玄関へと一緒に向かった。

 甘い空気を楽しめばいいのに、入寮の申し込みは早目にしろと言われて、苦笑いで頷いた。


 クライン先生は、渋皮栗のパイは初めて食べると喜んで土産を受け取っていた。

 アインテール国ではパイと言えば、りんごのパイなのだ。


「楽しかったですわ。御馳走様でした。また機会があると嬉しいですわ」


 ハイブベル家のスニプル車に乗る前に、優雅な貴族の挨拶をするので、俺とラウルも貴族の挨拶を返す。


「お招きできてよかったです。またいらしてください」

「いつでも歓迎致しますよ」


 満足そうににっこり笑って乗りこんだ。

 ポリコス先生は、簡潔だ。


「大変美味な食事を御馳走になりました。では、また明日」

「はい。お気をつけて」

「うん、先生またね!」


 手を振って見送った。

 使用人達を労い、俺とラウルは母屋に戻った。

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