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厳しくなったエンディ先生の授業

「遅刻してしまい、申し訳ありません」

 頭を下げて席に着く。

「ソルレイ様。回復魔法は必要かな?」

「ありがとうございます。精神的なものですから、大丈夫です」

「では、気休めでもしておこう」


 回復魔法をかけてくれた。

 おまじないだと思えばいいんだな。


「ありがとうございます」

「今日は初日だし軽い授業にしておこうか」


 そう言ったわりには、やたら詳しい回復魔法の魔法陣を教え出す。いつもと違う授業に困惑する間もなく、必死でノートに書きとり、先生の言葉を逃さないように聞いた。


 教会でいっぱい教えてもらえたので、構造自体は理解できたが、それでも分からないことが出てくる。ノートの端に分からない単語を書いておいた。後で図書館だな。


「質問がある子はいるかな?」

 手を挙げる。質問するのは久々だ。

「では、ソルレイ様」

「魔法陣で予め回復魔法を書いておき、回復魔法を行使後、魔法陣を発動させれば、相乗効果が得られます。ポーションは、必要ないのではないですか。なぜ、身体に負担がかかるポーションを騎士は使用するのですか? 時間軸に関係があると思うのですが、分かりません。この魔法陣に欠陥があるようには思いませんが、完璧ではない気がします」


 なんだか、ごちゃごちゃしている魔法陣だ。あっちにもこっちにも時間が書き込まれている。理論的には可能だろうが、使えるのか怪しい。


 エンディ先生が微笑む。


「素晴らしいよ。その通りだ。聖属性魔法や回復魔法は、発展途上でね。聖職者にしか継承されていなかった。それが、徐々に“教会に貢献した人にも教えてよい”ということになってね。魔法そのものが発展途上のため、魔法陣は、更に遅れたんだ。聖職者は、魔法は使うけれど、魔法陣は使わないからだね。結局、聖職者から教えを乞うた魔道士が改良をして、魔法陣に落とし込む。この魔法陣は 2年前の最新のものだけれど、実際使うと時間が間に合わずに死ぬ。だから、騎士はポーションを使うしかないのだね」


 なんだそれはという理由だった。

 呆気に取られた。発展していないのは、魔道士の怠慢な気がしてきた。


「よく分かりました。ありがとうございます」

「ちなみに、どの辺に改良の余地があると思う?」

「全部ですね」

「え」

「いらない導線が多すぎるから間に合わないのですよ。最初の原型になった魔法陣がよくなかったのではないでしょうか」


 そう言うと、先生が笑う。

「アハハ。原初の魔法陣は、グルバーグ家のロドルフ様が作ったよ。そこから色んな魔道士が発表をしてね。そして、2年前に最新の魔法陣を発表したのが私だ」


 先生を貶める気などなかったので、やってしまったな、と頭を掻く。


「そうでしたか。それは失礼を」

「謝罪よりお詫びが欲しいな。いらない導線を弾いてくれないかい」


 わくわくした顔で見てくる。

 ……えぇ。


「これが先生の素顔なのですか。こんな無茶ぶりをされるのなら前のテンションの高い先生の方がいいです」

「ハハハハ、まあ、そう言わずに」


 仕方がなく、先生に口撃を加えながら席を立ち、ボードの魔法陣を見る。

 円が重なり合っていて複雑だ。使い回す回路も多い。複合魔法陣の限界まで書き込んである。


 こんなにごちゃごちゃしていると読み解くとのも大変だ。

 中央の魔法陣が根幹のはずだが、右上と左上を回って左下からまた右の魔法陣に戻り、右下の魔法陣に魔力が通る回路がある。が、補助魔法陣だ。どことどこが繋がっているんだ。


「これはいらないでしょう」

「それはいるよ」

「いらない。左と右下でも同じことやっているよ。時間の誤差も微妙」

「二度に分けないと急激な回復に身体が持たないのだよ」

「だからって、弱い回復魔法を 何度も流せばいいってものじゃない。2回目が間に合わないからポーションになるんだよ。やっぱり構造自体がおかしい」


 継ぎ足していくから分けの分からないものに仕上がるんだ。グルバーグ家の人間は、こんなことをされると思っていなかったはずだ。


 作られた魔法陣には、極力手を入れないのがグルバーグの家流だ。つけ足すのは、あくまでも補助魔法陣で、土台になる魔法陣の導線をこんなに使い回して、分けの分からない物を足したりはしない。


 試しに魔道具のペンで空中に必要な魔法陣を抜き出して描いてみる。


「オルガス、指を少しだけ切ってくれないか。思いついた魔法陣を試させて欲しいんだ」

 描きながら尋ねた。

「その実験台は断るぞ。危ないだろうが。まずは、動物でやれ」

「……そうだな。確かに危険だ。ごめん」


 斜め後ろを振り返って、そりゃそうだと謝る。


「先生のこの魔法陣は、駄目だよ。いらない回路を弾くというレベルではない。グルバーグ家では、先祖が作った魔法陣に手を入れるのはご法度だよ。最初から作り直すべきだ。俺ならこうする」


 仕方がないので、魔法陣を前のボードに書いていく。


「一度にこれほどの魔力を込めるのかい? ああ、でもここで……これは、凄い。回復魔法陣の新たなる1ページだ」

 何を感心しているのだ。これは、先生が教えたものだ。

「先生が、前に教えてくれたよ。ほら、魔法陣でやる大道芸人のやつ。時が必要な魔力量を決める。そうすれば、身体に負担はかからない。時間もロスしない。そもそも魔法より時間をロスせずに予め用意できるところが、魔法陣の良いところなのに。発動してもポーションを飲むのより遅くて死ぬから使えないとかおかしいよ。この魔法陣の欠陥は、先生が言ったように、初めに膨大な魔力量がいること。グルバーグ家向きの魔法陣だね。ただ、毎日込め続けることができるのが、魔法陣の良い特性だから複合魔法陣にすれば大丈夫じゃないかな。一 つの魔法陣で魔力を溜め続けるんだ。溜まり切れば結んでつなげばいい」


 隣にこれか、これで大丈夫じゃないか。というものを描いていく。


 回復魔法陣の中に時間を組み込むのではなく、もし身体に大ダメージを負ったら魔力を貯めている魔法陣と繋がるように魔法陣をもう一つ組めば、ポーションを飲むよりは早くなる。


 一旦全部消し、これがベストかなと思う魔法陣を描き直した。


「アハハハ! あの時の! そうか、そうか! 君はあんな遊びから学べる子なんだね!」


 あんな遊びって……。俺とノエルは真剣だったのに。なんて教師だ。大道芸人の花である火の芸を魔法陣で完成させておいて酷い言い草だ。


「先生、頑張って魔法陣を作ってよ。ポーションを使って命を縮めた騎士を助けたいから、そっちで頑張りたいんだ。元々、魔法陣より魔道具の方が向いているからね」


 どうせならエルクの延命の方で頑張りたい。

 2年の研究で鉱石を取りまくって、魔道具を作ってみたいのだ。完成するかは分からないけれど、頑張ろうと決めた。


「いいのかい? それなら、この魔法陣を元に僕が改良をするよ」


 先生が魔法陣を書きとった時点で、描いた魔法陣は消した。もうお詫びは、終わったので席に座る。


「理論先行だからちゃんと実験はやってね。せめて、オルガスが断わらないくらいの完成度の高いものを作ってよ」

「ああ! 任せておいてくれ!」


 先生と俺の訳の分からない、回復魔法陣のやりとりで授業は潰れ、俺は吐き気から違う形で回復をした。


 休み時間に入ってすぐに突っ伏していると、あの魔法陣は凄かったぞ、とノエルから褒められた。軍門一家だから思うところがあったのだろう。

 もしかしたら、俺よりポーションに対して忌諱感があるのかもしれない。


「回復の魔法陣が発展すれば、ポーションを使わない日が来るかもしれない」

 嬉しそうだった。

「うん、ありがとう。魔法陣が間に合わないとか笑い話だよ。原初の魔法陣を作ったグルバーグ家の祖先は、あんなに弄られると思ってなかったと思う。先生のおかげで吐き気も止まったよ。お昼も食べられそう」


 大丈夫かと心配され、もう平気だと空元気で笑った。


「ソルレイ。エンディ先生に敬語を使っていなかったぞ」


 席が近くなったエリットに指摘をされた。

 魔法陣の方に集中していたのでうっかりしていたな。


「ダンジョンで気持ち悪くなっていた先生を助けて仲良くなったので、たぶん大丈夫です。今までのテンションの高い授業は、無理をしていたそうで、ノエル様とクラウンに、痛々しいので、もうやめるように言われていました。今日は、まだ少しテンションが高かったですが、落ち着いた先生に変わっていくと思います」


 エリットが驚いた顔をして、『あれは演技だったのか』と呟くが、全員の席が近いため、周囲の至る所で反応があった。


「あれか」

「ああ、あれですね」

「ありましたね。そんなことも」

「忘れかけていましたよ」


 13人になったクラスメイトは、3人ずつの 横4列で最後の 4列目だけ 4人という並びになり、エリット、ノエル、俺、クレバが一番前の座席になった。

 6階に行った 3人は、一番端の席だと言われ、俺が退席してから席替えがあったらしいが、俺とノエルの席が変わっていなくて少し悲しい。


「さっきの話で吹っ飛んでいましたね」

 記憶の奥底にいっていたとクラウンが言う。

「皆で教会に行って、聖属性魔法を習いながら、子供達に勉強を教えて、グルバーグ家にも遊びに行ったりして、私にはとても楽しい夏休みでした」


 アレクがそう言うので俺も楽しかったと、頷いた。

 ハルドとフォルマも誘ったので、ラウルも交えて皆で 1週間ほど遊んだのだ。


 アレクが、父親から渡すように預かったというマンゴーは、今回は有り難く貰うけど手土産はいらないからねと言っておいた。


 その夜の食卓でマンゴープリンを作って出して、ラウルにはとても喜んでもらえたが、気遣いは不要だ。


「初日の今日はクラスメイトに会えるのが楽しみだったのに。それがまさか、夏休み明けに――」

「あぁぁ、また? もういいよ」

 話題を戻そうとする皆を止める。

「ソルレイ様のお気持ちも分かりますわ」

「休み明けにクラスメイトが、半分に減っているなど恐ろしいですもの」


 途中で言葉を止めてもらったのに、女子にあっさりと言われ項垂れる。


 皆が微妙な顔で女子達を見ていた。

 淡々としているよな。

 空気が読めないとかではなく、きっと、現実的な思考なのだ。と、思うことにした。


 平均寿命まで生きるとするなら折り返しに入ったことになるのか。自分を大事にして生きていかないとな。

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