短い夏の終わり
残り少ない夏休み。教会に皆で行って治癒魔法や回復魔法を教えてください、と頭を下げると、『よろしいですよ』『お教えしましょう』と、教会の人達に快く教えてもらうことができた。
その代りといってはなんだが、暑い夏にも子供達が涼しく勉強できるように、魔法でミストを生み出したり、普段は来ない平民の大人達にも子供と同じ冷やしたベリオットのジャムが塗られたクレープを振る舞ったりした。
子供達も10日勉強しに来たらクッキーがを3枚もらえるというイベントをしたので、涼しいこともあり、勉強を頑張っていた。
ダニエルの仕事を手伝いつつ、友人を屋敷に招くこともでき、楽しく過ごせたと思う。
グリュッセンに移ってもいいと言ってくれた働き手を家族ごと移住させるなど、来年の春に向けての準備は、着々と進めて行った。
ベリオットハウスもようやく移動させることができたのだ。
グリュッセンの商業ギルドは、新しい雇用が生まれるならと移住を歓迎してくれているので、ギルド間で摩擦が起きないように地元民もある程度の人数を雇う算段にしている。
盛り沢山だった夏休みも明けてしまい、もう少し休みが欲しかった。そんな気持ちで学校に行くと、なぜかクラスの座席数が少なくなっていた。
25席あったのに13席?
俺の席はまあ、前だったから分かるけど……。
クラスを間違っただろうかとクラスの中を見回してもノエルやクラウンはいるし……。扉を開けたまま、しばらく教室内の様子を前に突っ立っていた。
「ソルレイ。ここであっている」
ノエルからかけられた声に応えつつ、教室に入った。
「おはようございます。席数が半分になっていますね」
隣を示され、鞄を机の上に置いた。
「ああ。来た時からこうだった。クラウンは、どこの座席になるのか分からないから適当に座っている状態だ」
寮組は、来るのが早いものな。
「成績順だと思うのですが、全員来ないと分かりませんからね」
「ああ、確かに。俺もここでいいのか不安だよ」
「これって何でしょうね」
アレクは、立ったままだった。うっかり座って不敬になると怖いかららしい。子爵家だとそうなるか。
「急な転校とか?」
「ハハ、いても一人でしょうね」
どういうことだろうかと待っていると、入って来た女子生徒が、自分の席が分からなくなっていたり、俺と同じようにきょろきょろとクラスメイトの顔を確認したりだった。
13人目のクリスが来た時点で、席を立ち、たぶんこうだよな?という相談をしながら席に座りなおした。
思い切って、『後ろがいいです』と言ってみたが、エリットやノエルに前にいるようにと言われ、従うしかなかった。
その内に、ポリコス先生がやって来た。
もっと早く来て欲しい。
全員の視線に気づいたのだろう。咳払いをしてから挨拶をした。
「あー。授業の説明をする前に、話しておくことがある。クラスメイトについてだが、ダンジョンで下層に下りた者は、毎年、退学させることになっている」
「「「「!?」」」」
13人全員が退学になったのか!?
「なるほど、それでこれほどに減っているのか」
「2班が破ったのか。二人合わないけど……」
オルガスが、ライゼンは6階に行きたがっていた、と言っていたな。
班員全員で下りたのか。授業以外で行けばよかったのに。馬鹿なことをしたなあ。
ノエルと俺が勝手に話していると、先生が大きな咳払いをするので、怪訝な顔で見返した。いつもなら許されるくらいの私語だ。
「ルールを守れるかどうかも大事な課題だからな。貴族だと奢らぬよう、ということであったが、今回のダンジョンで4階層から下に行った者の中で死亡者が出た。人数が減っているのはそのためだ」
「!?」
これには、クラスが一斉に静まった。
俺もポカンとした顔で話を聞いていたと思う。
まさか、死亡者が出ているとは思わなかったのだ。
「数年に一度、下の階に行きたいという者は出るが、死亡者が出るのは稀だ。今回は、下層まで行かざるを得なかった者達がいたのだ。班である以上、3人が下層に行くと言えば、残された二人はどう判断をするか。ということだな。そして、行動を共にした結果、命を失った。無理に誘った方も退学だ」
衝撃的過ぎて、なんと言えばいいのか。
うちの班は、揉めることもなく、平和にカードゲームをしていたからな。
班員って大切なんだな。
ラウルにもちゃんと選ぶように言おう。
誰が死んだのか考えたくなくて、なるべく思考を楽なものに変える。聞き流すというと言葉は悪いが、深く考えると吐きそうだ。
「先生、宜しいか」
「エリットか。なんだ? 質問には答えられる範囲でのみ答える。故人の尊厳を踏みにじる質問はしてくれるなよ」
「そのつもりです。しかし、このようなことは、言いたくないが、あの実習の課題は適正だったのか?」
ダンジョンで悩んでいたエリットを思い出した。
「我らの班は、早々に出ることを決断した。5日は出てはならぬと聞いたが、命を優先した結果だ。ノエル達の班も2階にいたので話をしたが、出るか判断に迷っていたぞ。我らはまだ学生だ。危険であるのなら、実習は取りやめてもらいたかった」
エリットの抗議を受け、先生はただ黙っていたが、ノエルも発言をした。
「エリットの言う通りだ。1階の出入り口付近の部屋で寝て、守護魔法陣を施し、5日目の朝にすぐに出た。実際のところ、ダンジョンは、危険性を増していたのではないのか」
鋭い二人の指摘に、先生は目を瞑ってから覚悟を決めたように強い目で一人ずつ目を合わせていく。俺はその強い目に戸惑いを覚えた。
「話をするか迷ったが、最初の犠牲者は、仲間割れだ。生徒が加害者になっている」
どういうことだと再び教室内がざわつき、女子生徒が誰が被害者なのかを尋ねていた。隣では、ノエルが納得していた。
「そうなると話は変わる」
「どういうことだ。魔物や魔獣にやられたのではないのか? 生徒がどんどん殺人をおかしていったのか?」
よく通るエリットの声に緊張した。
なんだよ、それ。怖すぎるだろう。
どこの殺人鬼小説だよ。
一部分を納得したノエルに対して、真逆にも感じるエリットの殺人予想に身の毛がよだつ。
「ポリコス先生。……実習に紛れて、生徒が次々とクラスメイトを殺していくという話を聞いてしまい、気持ち悪くなりました。持っているお茶を飲んでも宜しいですか」
前世で子供の頃に先生に水筒のお茶を飲んでいいか聞いて飲んだな。ふと記憶が蘇った。
俺の顔が青かったのか、先生がため息を吐いて『いいぞ』と言った。
二人しかいない女子生徒が『私も宜しいでしょうか』『私も』となり、皆でお茶を飲んで喉を潤した。暑い夏に飲み物を持ち歩く生徒は意外に多い。
「最初に言っておくが、ダンジョンという特性上、遺体が発見されていない生徒もいる。殺人の痕跡があり、確実に生徒に殺された、殺した相手も分かっているのは一人だ。後は、7階層や8階層での死亡だと思われる。遺体をはっきりと確認したのは3人だ。これらは、スケルトンロード7階層にいるアンデットによる犯行だった。教員が助けに行って7日目。6階層で6人を救助したが、他の生徒が7階層、あるいは8階層に侵入したことが原因だと思われるが、ダンジョンの主の逆鱗に触れたようだ。1階層まで複数のロードが追いかけて来て、襲ってくるようになり、逃げる過程で生徒2人が探査魔法でも分からなかった罠にかかり、運悪く落下した。恐らく8階層の主部屋に直行だ」
うわあああっ。
俺は怖くなり、震える手でお茶を飲むと、手で耳を覆う。もう聞きたくない。
「教員も応援と合わせて8人いたが、俺とリリス先生と生徒二人は逃げ道を塞がれたのだ。2体のロードにやられそうになったが、まあ、なんというか……ソルレイのおかげで助かった」
「え?」
名前を呼ばれたので手を外して、先生を見る。褒めているような顔ではなく、難しい顔をしていた。
「……リリス先生と交換した魔道具ですか?」
「……あれは、ロード2体の同時攻撃を撥ね退けた素晴らしい魔道具ではあるな」
「ありがとうございます。役に立って良かったです」
こんな事態は想定していなかったが、結果オーライだな。
「ゴホン。話を戻すが、ダンジョンが危険な状態で、エリット班やノエル班が危険だったかという問いは難しい。なぜなら4階までならすぐに助けに向かえるからだ」
「どういうことでしょうか」
「2階でも昼間は教員が魔道具を持って歩きまわり異常がないか二人体勢で確かめていた。3日目には、生徒が3階に移動したので、それに合わせて教員二人も3階をくまなく歩いていたのだ。4階は、二人だと危険なので歩いてはいないが、昼間は、3階の中央より4階に下りる階段近くを重点的に歩くことで、生徒が戻って来た時に対処できるようにしてあった」
夜に動き回る生徒はいないという判断か。
思っていたより、先生達に守られながらのダンジョン実習だったようだ。
「だが、4階層と5階層には大きな差がある。5階層からは、探査、探知魔法は使えない。知覚を狂わせるノイズも出ている。身体の感覚をだんだん狂わせるものだ。よって5階からは相当な負担となる」
5階から探査も探知魔法も使えないのか。
皆、そんなところによく行ったな。
3階でも巧妙な罠が多くて、これは、探査魔法無しだと厳しいなと話していたのだ。
「教員が探す場合も負担は大きい。部屋を一部屋ずつ虱潰しにしていくしかないわけだ。部屋には、確実に魔獣がいる。誰もいない5階をくまなく探して6階だ。下りてすぐの近辺の部屋にいた者は、すぐに助けられるが、連れて5階まで戻り、また6階を一部屋ずつ探すことになる」
ずっと戦闘が続くのか。
「4階から下りたら退学だというのは、生徒の生存確率が、3割を切るからだ。5人班ならば1人、2人は死ぬ。それから、7階に下りれば教員も生存率は3割になる。よって、こういう緊急事態が起きた場合、探すのは6階までだと厳格に決まっている。今回は、6階で誰も見つからなかった場合、応援と合流後、7階まで下りようと話はしていたが、15人もいない異常事態だったからだ。教師が捜索にダンジョンに潜った期間は10日。連日戦い続けて、持つギリギリだ」
10日は長い。
先生の話をただ黙って聞く。
「お前たち2班は課題をクリアして2階にいた。課題に合格すると位置が常に分かるようになる。場所は、教員が定期的に確認していたのでな。即死なら無理だが、怪我をしたら分かるようにはしてあったのだ。生徒達が仲間と共に考え作戦を立案し、判断する。これこそが重要なのだ」
エリットの班のダンジョンを出る、という判断も今回は良い判断だったとされているし、ノエルの班のできる限り1階の出入り口の部屋で過ごすという判断も良いとされている、と説明を受けた。
「他の3班は課題を持って来ることなく、6階まで下りているので、位置が全く掴めなかった。最後に確認したのは4階だった。ただ、班員で意見が割れてやむを得ずという者や、生存率を上げるために6階に行き全員で戻る方が安全だと判断した者もいる。班ではなく個々での急な判断を求められたので、そういった者は、今回は退学者から外した」
なるほど、と頷く。
本当は10人だけだったのか。
3人がお目こぼしか。
クリスにクレバにニールだな。
「話は理解できた。冷静な判断であったかは分からないが、皆で出るという決断をしたので評価は気にしていない。先生方が、あの後、生徒の救出に尽力されていたこともよく分かった。だが、3人は殺人に関与していないということでいいのか? それともその場には居合わせたのか? なぜ3人だけが目こぼしを受けるのかよく分からぬ。戻りたい女子は、本当にいなかったのか? とてもそうは思えぬ」
うーん、確かに。
女の子達は戻りたかったと思うな。優しい子もいたから変に感じる気も分かる。
「女子生徒は、私達ニ人だけになっていますものね」
「そうですわね。そのような好戦的な方々ではなかったように思いますわ」
本当に6階に行きたかったのかも、そもそも疑問だと口にしていた。
先生が何かを迷っていると、クリスが『ちょっといいですか』と、手を控えめに上げた。大人しい彼にしては、珍しい行動だった。
「女性が頼むと男は引き受けるらしいです。退学になった女子生徒は、引きこみ役をしていました。そんなことをしていない女性は……残念ながら亡くなってしまったのです」
俯くクリスになんて言っていいのか分からずにエリットも、『……そうか』と言っていた。
どうしていいか分からない空気感に居心地が悪い。教室を出たいが出るわけにも行かない。
「なるほどな。ソルレイは、荷が重いので無理だときっぱり断っていたが……。ライゼンに女が頼んでいるのだからと言われていたな。4階に行く気などなかったが、課題の魔獣が4階だと再度、誘われていた」
違う。きっぱり断ったのはノエルだ。
「ノエル様? ノエル様が誘われて、“断る”と一蹴したので、私に声がかかったのですよ。ダンジョンは初めてなのですまない、とやんわりと断ったつもりです」
「……そうだったか?」
「はい」
「いえ、ソルレイ様は、8匹中2匹しか4階の魔獣はいないのに、わざわざ選んだのか? 勉強熱心だな、と言っていましたよ。僕は、それで、何かおかしいと気づいたのです。結局、4階までだと約束をしたのですが、班員が3人共抜けて、6階に行くと言って……4階から二人で戻る自信がなかったのです。でも、戻るべきでした。6階では拠点係でそこで待機して安全を確保するという役割で。エリット様がおっしゃっていた殺人の現場には、居合わせていないので、実のところ何があったのかは話に聞くだけなのです。結局、その部屋に戻って来たのは、女子生徒二人だけでした」
クリスの中で俺はどういう印象なのだろうか。
カルムスっぽい振る舞いに聞こえるな。気をつけよう。
クリスの言葉に、何とも言えない気まずい空気が流れた。
ぼやっとしていた亡くなった子が、ウエンディだと気づいてしまった。皆もクラスメイトだった子の顔が浮かんだはずだ。
「クリスには悪いことを聞いたようだな。しかし、クレバとニールはその場にいたのか? 状況がよく分からないのだが、先生の話だと6人しか把握していないのではないか。残りはどうなったのだ。全員退学者か?」
エリットの言葉に6人という犠牲の多さに気持ち悪くなる。
俺は、胃からせり上がる何かに耐えるようにお茶を飲んで喉を潤した。
同じダンジョンにいたので、こみ上げる感情は、恐怖だ。
「ここに13人なら6人が死亡か。あとの6人が退学者だな」
ノエルの呟きに、先生が静かに答えた。
「退学者は多いが、生存している退学者は二人だ」
「「「「「「え」」」」」
「せ、先生……」
それ以上、言葉が続かなかった。
「4人は生死不明だ。7階層と8階層は捜索していないと言っただろう」
「おい! 待てよ! 10人も死んだのか!? クリスの話は分かったが、クレバとニールも話をしろ! こんなに死ぬのは、おかしいだろ!?」
「教員が助けに行き、難解な罠にかかって二人が死亡したのなら、その前に8人が既に死亡していたことになります。エリット様の言うように、生徒による殺人が行われたのですか? クラスメイトを疑いたくないのでできる限り教えてもらえませんか」
オルガスがそう言い、クラウンも言葉を発っした。
「ポリコス先生、先ほど3人の遺体を確認したとおっしゃいましたわね。その、殺人の証拠はなく、確実ではないけれど……ということなのでしょうか。わたくし、同じ国から来ていらっしゃる方が、どうなったのか知りたいですわ。お聞きしても宜しいのでしょうか」
俺はもう我慢の限界で、鞄から飴を取り出して舐める。
ポリコス先生に見られたので、眉を下げたまま一つを先生に差し出すと、無言で受け取った。
皆から厳しい視線を浴びたクレバとニールがため息を吐いていたが、怖い俺は、視線を逸して机に突っ伏し飴を舐めた。
ノエルに背を叩かれたので、そっちと飴に意識をもっていくように努めた。
「私が、生死不明の4人のことで知っていることはない。ライゼンやミクシー嬢達が狩りたかった魔獣の狩りを手伝えと言われて嫌々手伝った。終わったから戻ることが決まった。だが、決まったにも関わらず、7階に行きたいと言い出す者達がいた。もう上の階に戻りたいと最初に反対したロロコ嬢が、魔法を付与された槍で殺されそうになって、休憩部屋を飛び出した。クリスやウエンディ嬢のいる部屋を目指したが、場所が分からなくなった。後ろから追いかけてきた班員のニールとリンダ嬢と共に、違う部屋に入り守護魔法陣で夜を過ごした。朝に反対側に走ってしまったと気づいて引き返したのだが、魔獣の強さが変わっていて3人では碌に進めなかった。なんとか中央寄りまで戻り、休んだ。その夜からロードやウィッチが徘徊して部屋を一つずつ覗くようになった。魔道具を持っていたのでなんとかなったが、昼間も出させないためか魔獣が部屋の周りにいるようになった。戦うと守護魔法陣を張れなくなるから助けが来ることに賭けようと話した。その数日後に先生達が来てくれた。残りの班員の二人はアンデットになっていたのを4階で確認している」
こんな話をまだ聞かないといけないのだろうか。
今日は初日なのに……。
「クレバ様が出て行った部屋のことであれば、少しだけなら。殺されそうになったロロコ様の手をエマレア様が引いて部屋から逃げようとして、ライゼン様が『やめろ!』と叫んで庇ったのです。私もこの時、ここにいるのはまずいと部屋を飛び出しました。魔法を付与された武器だったようで、ライゼン様が倒れました。私がクレバ様を追いかけながら振り返って見たのは、そこまでです。予想でよければ、4人とアンデッドになっていた3人の7人で7階に行ったのではないでしょうか。元々班員の3人は6階にも下りるのも乗り気だったのです。若しくは、逃げようとしたけれど、ヴェイン達に殺されてしまったのかもしれません。私は部屋を出られたのですが、部屋の入口で槍を振り回していたので、他の人は、逃げられなかったのかもしれません」
「いや、アンデッドに殺されるとアンデッドになる。班員の二人はアンデッドにやられたはずだ」
クレバが冷静にそう言い、先生もあの三人は、ウィッチがやったと教員の間でも一致していると考察を述べた。顔を剥ぎ取ってアンデッドにするのがウィッチの特性なのだという。
ただ、ウィッチが徘徊するのは、6階から下の階層なので7階に行って殺されたのかまでは分からないという話が出た。
「……先生。もう限界なので、部屋を出てもいいでしょうか」
気になる人にだけ後で伝えるとかにして欲しかった。
俺は音を上げ、席を立つ。だいぶ気分が悪いので、ハンカチで口を押えた。えづきそうだった。
「ああ、待て。この話はここまでにする。その3人は、4階より下層に下りたので本来は退学だ。しかし、教員同士で話し合い、今回はペナルティーだけで済ませることにした」
「そんな目に合って、更にペナルティーとは。酷ではないでしょうか」
もう十分恐怖という名の罰は受けただろうと、思わず言ってしまった。
「いや、これは必要なものだ。いずれ分かる時が来る。6階に下り待機部屋に4人でいた瞬間があっただろう。あそこは、5階に上がるのが近かった。その時点なら力を合わせて戻れたはずだ」
そういうことか。
「心の救済になるのですか?」
「ペナルティーはペナルティーだ。書庫整理を行ってもらう」
「ん? ああ、なるほど」
アンデッドに効く聖属性魔法が描かれた本か。
トラウマにならないようにだな。
俺は頷いて、そのまま廊下に出ようとふらふらと歩く。
「こら、ソルレイ!」
「もう限界なんです。教室でぶちまけてもいいのですか」
振り返らずに、トイレによろよろと向かった。急ぐともたない。休み時間中、えづきと戦い、口をゆすいで戻ったが、授業には間に合わずに遅刻をした。
ノエルが上手く言ってくれたようで、エンディ先生には怒られなかったものの、気分は最悪だった。




