学校の選択
ラルド国に魔法剣士学校があったように、学校というのは大国と呼ばれる国には必ず1つはある。貴族は、どこの学校に通いどのような友人を作るかを家の意向に沿って決められる。円滑な学校生活を送るために、派閥同士で年の近い者同士の交流会を催すのは常だそうだ。
入学を控える王子がいる場合は、就学の2年前に王都にある王宮に呼ばれて事前に友人を決めると聞き、俺もラウルも目を丸くする。
幸い第一王子も第二王子も婚約する年で、傍系の王族の子供も産まれたばかりで呼ばれることはないと言われて胸をなで下ろした。
グルバーグ家は近しい王族の子が生まれた時は、友人候補になっていたと知ったのはずっと後のことだった。
肝心の俺の友人づくりだが、まずどこの学校に通うかで探す友人が変わるようだ。アインテール国はラルド国と同じく大国で、近隣諸国から魔導学校に通う生徒がやってくるらしい。
「ラルド国以外でこの辺りで有名なのは、カインズ国のカインシー貴族学校です。全寮制で10歳から16歳までの6年間一貫して通います。ただ、一貫校であるのに他学府からの編入も可能ですね。その後、騎士になったり更に勉学を極めたりと様々な道に進みますが、貴族は16歳で一人前です」
16歳になるまでに立派な貴族になっていないといけないわけか。
ラウルに16歳になるまでいくつか分かる?と尋ねると10!と返事がくる。
褒めて伸ばすのでたっぷり撫でた。
「ゴホン。ダニエルの言う通りだ。王族がよく通うのでな、情勢次第で途中編入も可能になっている。これに対し、アインテール国の魔道士学府は、一貫教育ではない。初等科と高等科は完全に分かれている。高等科に進めるのは優秀な者だけだ。試験に受かれば他国の貴族学校から高等学府に来る者もいる。魔道士になるには才能がいるからな。少しでも芽のある貴族は最初からこちらの学校に通う」
カルムスが言うには、カインシー貴族学校は“貴族らしい貴族”が通うらしい。ふーん、という声しか出なかった。すでに理解し辛い。
「何も知らないけど…俺でも魔道士学校に通えるの?」
「大丈夫だ。初等科の最初の2年は、貴族としての常識やマナーだった記憶がある。ソルレイはある程度敬語も使えている。真面目だからなんとかなるだろう。才能がなくても初等科までは在籍できるからな。14歳で他国の貴族学校に編入でもいい」
なるほど。カインシー貴族学校はそういう生徒の受け皿も担っているのか。アインテール魔道士学校は年度途中の編入は一切認められないため、途中で転校生が来ることは絶対にないとのことだ。初めから貴族学校に通うほうが無難だろうけど、魔道士学校があるアインテール国に行く、それも大魔道士として有名なおじいさんの孫として。
選択肢は一つだな。こっちに通うしかなさそうだ。明るい未来のために死ぬ気で勉強しよう。
「14歳で編入することになるかもしれないけど頑張る」
やれるだけやろう。
「魔道士は才能が必要だが、その前に血が何より物を言うんだ。半分は入っているから心配しないでいい」
ん? 半分?
……そうか!駆け落ち設定だな。おじいさんの娘のレイナさんが平民と駆け落ちしたというやつだ。
「カルムス。まだそういった話は……」
俺たちを心配して、咎めるようにダニエルに見られたカルムスが少し慌てていた。
「悪い。あーっと……ラインツ様がいる。そんなに心配するな」
「「うん」」
俺もラウルも生暖かい目で返事をしておいた。
[<間小話>]
この日の夜ーー
おじいさんと3人でカードゲームをして遊んで過ごしていた。このカードは前世でもあった勉強を兼ねているもので、遊びながら学んで覚える式だ。
年号が表面、事件が裏面で四隅に点数があり、その数字で勝負をするのだが。表面の年号を覚えていると、相手が高い点数が書かれたカードを持っていると分かるので、ラウルにはてきめんだった。勝ちたいが故に、難しい貴族の歴史や事件を学んでいくのだ。
おじいさんが時折、『なぜこの数字が高いか分かるかの?』と、言いながら事件のあらましを伝え、だから点数が高いのだよと、よく分からないこじつけをするのだが…疑問符だらけだ。
まあ、配点の謎はともかく。
事件の概要はよく分かるのでいいのだ。
ラウルに負けじとカードとにらめっこをして勝ちを積み上げるのだった。
翌日におじいさんから俺も大概負けず嫌いだと笑いながら指摘を受け、顔を熱くさせるのだった。
ラウルのことを言えないか。




