グルバーグ家の未来予想図
冬休みは、1週間お爺様とラウルと神殿で修業になった。お爺様との修行は久しぶりだ。馬車に泊まりの荷物を詰め込んでもらっていると、玄関の柱に凭れかかっているカルムスとその隣りで宥めているダニエルがいた。
カルムスは毎回行きたそうにするが、お爺様にあそこは孫だけじゃと笑って言われ、不機嫌そうにする。
それを見て、俺とラウルが一週間だけだよと、慰めの言葉をかけるのだった。
山小屋に荷物を入れて、山中にある神殿へと向かう。
「お爺ちゃん、今日は何をするの?」
「そうじゃな。二人共、複合魔法陣も描けるようになったのでな。難しい魔法陣を描いて見せるから真似をして描いてみるかの」
「ラウルよりは遅いけど、俺も早く描けるようになったよ」
水獣の時は、随分頑張ったのだと話すと、センター長から屋敷に御礼状が届いていたらしい。褒められた。
「二人共ようやったの」
「「うん!」」
今年は、見取り稽古のようだ。お爺様が難しい魔法陣を沢山見せてくれるらしい。口伝で残す魔法陣もあるという言葉に俺とラウルは興奮して喜んだ。
白い空間の中で集中して何度も練習を繰り返した冬休み明け、学校に行くと成績表が渡された。順位などはなく、合格としか記載がないが、並んだ合格の文字をお爺様に見せる為に鞄に入れた。
「今、配布した成績表で自分の落ちた科目を確認しろ。その科目に今年も合格しなければ2年での卒業はできないことを意味する。1つくらいなら何とかなるだろうが、2つ以上ある者は3年でとるようにしろ。でないと今年度の分を落とすことになる」
ポリコス先生の話を流すように聞いていたところ咳払いをするので、顔を上げると、先生が、俺とノエルの席の中間に立っていた。
「それから、例年の成績優秀者達と比べて、異様に頭が飛び抜けている成績優秀者のノエルとソルレイ。よく聞け。2年で卒業した者の中から学校側が優秀だと認めた数名が研究室と研究費を貰って活動することができる制度がある。今年の成績も優秀であればお前達が選ばれる。期間は、基本が2年で、功績を上げれば更に2年延長だ」
初等科の頃にノエルが、選ばれたいと言っていたっけ。
でも、エルクが来てくれるからな。
グルバーグ領で新たに事業でもして軌道に乗せておきたいところだ。辺境領に、人を呼び込むには雇用先の創出が必要だからな。エルクと一緒にできることをと考えていた。
「ポリコス先生、興味がありません。断るのは選ばれてからですか?」
先生に質問をすると頬を引くつかせた。
「……断った者はいないはずだが、おまえは本当に変わっているな」
怒らせてしまったようだ。素晴らしい制度だと思っていることをちゃんと伝えたほうがいいな。
「水獣の研究者のように、研究したいことがあれば別なのですが、今のところ出てきていません。無駄に研究費を使うのも申し訳ないです。それなら研究したいことがある学生が選ばれるべきかと思います。学校の試験が駄目でも一分野に特化している者の方が、研究成果も上がります」
「ふむ。一理ある。しかし、魔道具には興味があるのだろう?研究者になれば各国の鉱石の採掘も認められやすいぞ」
ああ、そういうのでもいいのか。かなり自由なんだな。
「なるほど。鉱石の研究はいいかもしれません」
「大体、今年の成績が優秀だったら、という話だ。まずは学業を優先するのだな」
「はい、そうします」
そうして、初日の授業が始まり、進むのが早いなあと思いながら話を聞く。
2年目も去年と変わらない学生生活が始まる。
この時は、そう思っていた。
15時の最終授業が終わる頃、カルムスが教室にやって来た。
「ソルレイ! 帰るぞ!」
「!?」
エンディ先生が唖然としているが、授業は終わっている。
「先生! 15時ですので帰りますね!」
俺は何かあったのだと片づけもせずに鞄だけ持って、急いで廊下に出た。
やっぱり何かあったようで『門まで走れ!』と言われ、全速力で走った。
「ラウルツの方へはダニエルが行った! ラインツ様が倒れた!」
「お爺様が!?」
「ああ! 助からないからお前とラウルツを呼んでくるようにとのことだ!」
「そんな……」
グルバーグ家の家紋の入った車を見て飛び乗った。ロクスに急いでくれ!と頼み、飛ばしてもらう。カルムスが、回復魔法陣を描いたといった話をしているが、相槌を打つのが精一杯だった。
敷地に入ると、玄関までつけると言うので焦る心のまま扉を自分で開いた。
屋敷の中に急いで飛び込み、お爺様の部屋まで走る。
「ソルレイ様、こちらのお部屋でございます!」
いつもと違う部屋を案内するのに執事長にも走ってもらい、俺もその後を走る。
扉を開けるメイドを押しのけるように中に入った。
「お爺様!」
ベッドで医者や聖職者に囲まれているお爺様に駆け寄る。
「お兄ちゃん」
ラウルは先に来ていたようだ。
「お爺様は……お爺様!」
枕元に行き顔色を見ると良くないのが一目で分かった。膝をついて手を握っているラウルに倣い、俺もその上から手を重ねた。
「我が愛する孫のソルレイとラウルツに話がある。席を外してくれ」
意外にもしっかりとした口調だが、助からないと聞いたため心臓がドクドクと鳴っている。
全員がさっと身を翻し部屋から出て行った。カルムスとダニエルも席を外してくれた。
弱々しい手で俺とラウルの頬を撫でる。
「老いぼれの身体にしては、ようもった方じゃ」
「嫌だよ」
「そんなこと言わないで」
片手で胸を押さえる仕草に心臓が痛むのだろうと涙が溢れてきた。
「かわいい孫が生き甲斐になったからの」
優しい指で涙を拭われる。
あの時と同じ優しい仕草に手を取った。
「嫌だよ。もう一度、あの時みたいによくなってよ」
「そうだよ。諦めちゃ駄目だよ」
涙で掠れた声しか出なかった。熱いと感じる涙が頬に伝って流れていく感触が嫌だった。
とても笑顔で送り出せそうにない。
「ハハハ。無茶を言うでないぞ。もう時間がない。あの時の約束を果たそうぞ」
手を握るように言われて、しっかりと握る。そうして、握り返す力の弱いことに気づいた。
ラウルがぼろぼろと涙を零してお爺様の手を両手で包み込んでいた。ぐっと堪えて、息を大きく吐き出し、お爺様の口元に耳を寄せる。
「ソルレイには書斎を。ラウルツには隠し部屋をやろう」
「隠し部屋なんかあったの?」
気づかなかったと無理に笑うと、お爺様も僅かに笑みを作った。
「あるぞ。各国に別荘もある。書斎じゃ、二人で協力して探すように」
「「……うん」」
「グルバーグ家はカルムスとダニエルにやることにした。二人は、自由に。幸せになりなさい」
ああ、エルクと幸せに暮らすようにと、言っているんだ。
お爺様はなにもかもお見通しだったんだな。
でも、お爺様に言った言葉に嘘はないんだ。
「ここは、いつまでもお爺様のものだよ。ここを盛り立てるのが俺とラウルの役目だ。幸せになりながら領民のことも考えて守るよ。お爺様の生まれた場所で、俺とラウルにとっても大好きな場所になったんだ」
「僕も。アイネと結婚して、エルクも呼んで、カルムお兄ちゃんとダニーと仲良く守っていく!お爺ちゃんの愛した場所をずっと残すよ!約束する!」
「そうか、そうか。それは、安心できそうだの」
穏やかに微笑まれて、それがお爺様の最期になった。
呆然とした後、俺とラウルは声を上げて泣いた。
「うわぁぁあ、お爺ちゃん、お爺ちゃん」
「うぅっおじいさまあぁぁ」
その泣き声で、カルムスやダニエルが入って来た。手を握ったまま泣いていると、頭を撫でられた。
「ダニー」
「ソルレイ様。そんなに泣いていてはラインツ様が心配されます。涙を拭って下さい」
厳しい言葉を優しい微笑みを浮かべて言われ、涙を乱暴に拭くが、涙は止むことを知らず零れ落ち続けた。ラウルの方はカルムスがついていたが、立ち上がってラウルを抱きしめた。
「ラウルっ」
「うっ、お兄ちゃんっ」
何を言えばいいのか分からなくて、抱きしめるだけだったが、十分だったようで、ラウルも涙を零しながら抱きしめ返してくれた。
こうやって痛みを分け合うのだ。
どれくらいそうしていただろうか。
このままではいけないと現実に引き戻されたのは、お爺様の顔から血の色がしなくなったからだろうか。自分でも分からないままに握っていた手を組んであげないといけないと思った。
「……お爺様に親愛の口づけをしよう。俺達が戻るまできっと頑張ってくれていたんだ」
「……う、ん。ちゃんとお別れをするよ」
嗚咽を抑えるように努め、制服の袖で涙を乱暴に拭うと、二人で眠っているだけに見えるまだ温かいお爺様の頬に口づけをする。
この厳しい世界で、俺達のことを孫にしてくれた愛に溢れた人は偉大な人だった。
名門家を鼻にかけることなく、領民や使用人達にも愛された。
俺もラウルも血なんか繋がっていなくてもお爺様を愛していた。
大事なのは、血じゃなくて時間なんだ。どれだけの時間をお爺様と過ごしてきたか。もっと一緒にいて欲しかった。
大人になったらセインデルでワインを一緒に空けたかった。立派になったのうって言われたら、抱きしめて。育ててくれたお礼を言って、いつか、いつか――――。
そうした未来のいつかは永遠に来ない。そのことが悲しくて、やっぱり涙が溢れ出て、何度も拭った。
カルムスに頭を乱暴に撫でられる。
「ラインツ様は、二人がいて幸せだといつも言っていた。子供のようにはしゃぐ師の姿に驚くこともあったが、あの大怪我から 8年だ。神官の見立てでは余命は2年だと言われていた。大往生だ」
おまえ達がいたからだ、と言われた。
ここに住むように、と言って頂けたおかげで、俺も随分といろんなことを教えてもらえたと呟く。
その声は震えていた。
「ラインツ様を送り出そう。俺たちの役目だ」
俺もラウルもその場にいた誰もが、静かに頷いた。
お爺様の両手を組ませ、無事の旅立ちを祈った。ミーナに背を労わるように撫でられ、洗面室に向かい、顔を洗った。
皆にちゃんと伝えないといけない。執事長とメイド長に使用人を集めてもらい、大階段の踊り場から使用人達にお爺様が亡くなったことを伝えた。
皆も覚悟をしていたようで、静かに黙とうを捧げる。
目を閉じ黙とうを行うと、そこには笑顔のお爺様がいる。ただただ感謝の言葉と愛の言葉が胸に溢れた。
黙とうが終わると、皆が俺の言葉を待っている。何と声をかけようかと回らない頭なりに言葉を考えていると、カルムスが前に出た。
「グルバーグ家の当主はソルレイだが、まだ若く、勉学に勤しむ身だ。師の遺言で、俺とダニエルが補佐につく。まずは葬儀を整えよ」
使用人達が一斉に頭を下げて動き出す。それを見やり、カルムスに礼を述べた。
「カルムお兄ちゃん、お爺様が、グルバーグ家はカルムスとダニエルに譲るって言っていたよ」
お爺様から話を聞いていたのか、困ったように頭を掻く。
「そんな話は後だ。ラインツ様は、家族に静かに送り出して欲しいと願われていたからな」
「そうだったんだ。領民には知らせないの?」
「そうだな……」
カルムスが故人の意思か、名誉を重んじるべきかで迷っていた。気持ちとしては後者なのだろう。
いつも偉大なる師だと言っていた。盛大に送り出したいのだろうな。
「多くの人が、お爺様に助けられてきたはずだ。俺ならお別れしたいって思うよ」
「僕も。ちゃんと知らせてあげたい」
平民の心としては、よくしてくれた領主ならば花を手向けにいきたいと願うのは当然なことだった。
「カルムお兄ちゃん、悪いけど俺の意見を優先して。領民にお別れの時間をあげたいんだ」
カルムスもダニエルも頷き、了承をしてくれた。
グルバーグ家の母屋敷で、夜の20時から行うことにして、玄関を開け放つことにした。大階段の下まで自由に入れることにして、そこに祭壇を置くことにした。
従者達には、一番近い教会への連絡は勿論、領内の取り纏め役の村長や町長達に連絡を入れに行ってもらった。駆けつけてくれた司祭様はこのままいてくれるという。
俺は、ノエルにも声をかけようと学校まで行った。
明日も学校なのだが、『お爺様は、きっと花を手向けるだけで喜んでくれるので、来てくれないか』と寮を訪ねると、すぐに『行く』と頷いてくれた。ハルドやクラウンにも声をかけておくと言われた。母屋に泊まった貴族というのは特別扱いになる。頼んですぐに車へと戻った。
家に帰る途中で、誰を呼ぶべきかを考える。お爺様に派閥はないけど、エリドルドのことを思い出し、顔の広いあの人には、言っておいた方がいいと思い、屋敷で忙しくしているカルムスとダニエルに声をかけた。
「カルムお兄ちゃん、ダニー。ラウルとエリドルドさんのところに行って来る」
「待て! 先に使者を立てるのが礼儀だ」
「急用の時は、気にしなくていいからいつでも来ていいって言われていたけど、社交辞令かな」
いけないことかもしれないので尋ねると、眉根を寄せた。どっちだろうか。
「……それほどに気に入られていたのか。いいぞ! 行って来い!」
「うん!」
心ここにあらずといった表情の抜けたラウルの手を繋いで引っ張ると、何も言わずに手を引かれて後ろを歩いていた。
ベイリン家の屋敷へと向かい、門前で警備
をしている者に声をかける。
「至急、エリドルド殿にお会いしたい。ソルレイ・グルバーグとラウルツ・グルバーグがやって来たと伝えてくれ」
「かしこまりました。少々、お待ちください」
大きな門の前で待っていると、案内人が馬に乗って現れ、門扉が開いた。
「ご案内いたします」
ゆっくりと進むが、これは急な訪問をしたため会うための準備が向こうにも必要なのだ。焦ってはいけない。
「ラウル、お爺様を天国に送ってあげられるように献花を多くの人からもらおう。多くの人の安寧を願う心が神様にもきっと届くはずだ」
「うん、うん。そうだね。そうしよう」
肩を抱いて顔を突き合わせてそう言うと、ようやく目に力が戻った。
応接室に案内されると、既にエリドルドがいた。
「エリドルド殿、無作法を致しました」
「いいのですよ。なにかあったのでしょう? さあ、かけてください」
「「ありがとうございます」」
二人で向かいの席につく。
エリドルドさんのドングリのような瞳を見ると、しっかりしなくてはいけないと逆に落ち着いた。
「エリドルド殿、普段から格別のご配慮をありがとうございます。本日はお知らせしたいことがあってやって参りました。先ほど、祖父、ラインツ・グルバーグが息を引き取りました」
淡々とした受け答えになるだろうと思ったのに、エリドルドさんは眉根を寄せ、痛みを耐えるように涙を溜め天井を見上げた。
少ししてから顔を戻し、すみませんね、と言った。
「早急に知らせてくれてありがとうございます。私は、若い頃、とてもお世話になったのです」
ディハール国でお爺様を助けてくれたことを思い出す。屋敷で代理執行官をしていたとも聞いた。思い出は沢山あるだろう。
「少しだけ他の者からお聞きしました。お爺様は、器の大きな方なので、人を外聞で判断しないようにと教わりました」
「お爺様は優しい人だったから放っておけなかったのだと思います」
申し訳ないですね、というエリドルドの震える声色に自然と落ちた涙を拭って頭を振る。
「ソルレイ様もラウルツ様も制服のままですね」
「「あ」」
やってしまった。
「責めているわけではありませんよ。急いで帰られたのですか?」
「15時の授業終了と同時に迎えが来ました。お爺様は、私とラウルツに授業に出て欲しかったのだと思います」
「ラインツ様らしいですね」
微笑みは哀しみも表している複雑なものだった。
人が亡くなったのだ。
複雑で当たり前だ。
俺にとってもラウルにとってもエリドルドにとっても、恩人だ。
「ああ、僕、一番だったよって言うのを忘れちゃってた」
「本当だな。成績優秀者だって褒められて成績表をもらえたのに……伝えられなかった」
声が震えないように息を紡ぎ、ラウルの頭を撫でる。
深呼吸をして、頭を下げた。
「エリドルド殿、祖父は家族葬を希望していましたが、20時から屋敷を開放します。花を手向けに来ては頂けないでしょうか」
「ふむ。その話、まだ、知っているのは私だけですね?」
「いえ、他国の友人……3名には……伝わっているはずです。アヴェリアフ侯爵家のノエル様です。アインテール国の友人には、まだ伝えていません」
「なるほど。まあ、それならば問題ありません。家族葬ならば領民までにすべきです。下手に他の貴族を領地に入れると厄介ごとになります」
厳しい目にしっかりと頷く。
「そうなのですか。分かりました。そのように致します」
他にも気をつけるべきことや、急に血縁者だと現れる者がいることなどを教えてもらった。
お爺様クラスになると、どこからともなくそういう輩が現れるらしい。
そういう者が現れた場合は、相手にしないこと、有無を言わさずに領外に放り出していいと言われた。
「喩え事実でも今更来られても領内に混乱を招くだけで、邪魔にしかなりません」
死に目にも会わなかったのだから速やかに排除する対応でいいのだそうだ。ラインツ様が認めた後継者として貴族らしく対処しなさいと喝を入れられた。
死亡の届け出や王への報告も3日後でいいと言われた。
エリドルドには、学校で起ったことや軍の動きの不透明さと、王族に対しての懸念は以前に伝えてある。
俺に何かあった時は、ラウルに必要な助言をしてやって欲しいと頼んである。
守るのはカルムスとダニエルがなんとかしてくれるはずだ。貴族を御すのが苦手なカルムスと地の利を生かせないダニエルに、外交派閥の長のエリドルドがラウルについてくれれば大丈夫だと信じたのだ。
ざっと聞いたことを頭に叩きいれた。
後継者、ソルレイ・グルバーグとして見られるので、公式の場で迂闊な発言はしないように言われたので、しっかりと頷く。
エリドルドは、部屋に飾られていた花瓶から一輪の花を取ると床に膝をついた。俺もソファーから立ち上がり向かいに立つ。
「偉大なる大魔道士ラインツ・グルバーグ様の心からのご冥福を祈ります」
アイビスの花を捧げるように差し出す。
「お気持ちを受け取り致しました。こちらで手向けさせていただきます」
両手で丁重に受け取った。
「もし他の貴族達が来たら、エリドルドにも控えてもらったと言って退けなさい」
その強い大きな目に一度、唇を引き結んでから、気合いを入れてしっかりとした声を出す。
「はい、御助言をありがとうございます。グルバーグ家の名に恥じぬようしっかり務めを果たします」
ラウルと頭を下げて部屋を辞した。
ここまでいつも案内してくれる執事の人に、案内をありがとう、エリドルド殿にも時間を作って頂いた礼を伝えて欲しいと頼んだ。
玄関に行くと、ロクスがスニプル車の扉を開けて待っていた。目が合うと、一礼をして扉を開けた。
その今までにない礼の深さに当主の重みを肩に感じた。




