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反抗期ではなく成長期

 週に1回のお菓子作りも型抜きをして焼くだけなので、アイシングに力を入れて楽しく続けている。


 エリットには助かった、と礼を言われた。

 夏休みの書庫整理は二度とやりたくなかったらしい。初等科の罰が堪えたようだ。


 教会に行くと子供達が寄って来るので、並ぶということを教える。挨拶ができた子には、2枚のビスケットが3枚になる仕組みだ。残りのビスケットは教会の人に渡し、ご褒美で渡せるようにしている。


 教会の人にも、ご苦労様です、とクッキーを渡すこともあった。


 定期的に寄付をしていることや、芋菓子店シエルの売上の 1割が寄贈されているのを知っている教会関係者には丁寧に頭を下げるので、ラウルと二人で尊い仕事をありがとうございます、と伝える。


 大抵の人は、ハッとした顔をする。


 恐らく貴族にそう言った言葉を言われたことがないのだろう。

 教会でビスケットや文房具を貰えた嬉しさは今でも忘れない。心はいつまでたっても平民のままだからな。心の中でそう思いながら微笑んだ。



 夏から始まった学校だが、夏の間に選択授業以外の科目を取り終わると、秋、冬、春が暇になりそうだ。

 だが、帰るわけにも行かず、教室で本を読む自習にも飽きて、ノエルと席をくっ付け二人で魔道具を作ったり、来年の予習をやったりと工夫をする。

 それでも暇を持て余す時間になりつつあった。


 先生に頼んで空いている先生のところに行って勉強して来ていいか尋ねると、リリス先生はいいですよ、と笑って了承をしてくれた。



 教員棟のポストに“暇です。何か教えてください”と、紙を入れる平和なゲリラ作戦を行い、担任に自室に呼び出しを受けて怒られた。


「何をやっている」

「ポストに勉強を教えて欲しいと入れました」

「はぁ。お前たちは早すぎるのだ。もう少し考えろ」


 そんな風に頭を振って呆れて見せても、先生がそれほど怖い人ではないというのは、この2ヵ月で分かっている。

 口は悪いが面倒見はいいのだ。


「二度目の課題だったらどうするかというようなことはシミュレーションもしたのですが、このままいくとだいぶ暇になると思いました」


 先生達が考えてくれるまでのタイムラグを減らしたかったのだ。動くなら早い方がいい。


「来年の授業をして貰えると助かる。無理なら2年で卒業できなかった場合に受ける3年目の授業内容はどのようなものなのかを知りたい。そちらに参加してもいい」


 アリア先輩とメイ先輩は、2年で卒業したら優秀者に選ばれて研究の日々を送りたいと言っていたが、2年で授業を取りきれず、1つ落としてしまったらしい。

 3年目を過ごすことになったとこの前、偶然に会った廊下で教えてくれた。


 落としたのは、魔道具の授業だと言っていた。女子はきっと苦手なんだな。


 3年目は、同じ授業をもう一度受けるのか、それとも内容が変わるのか興味深い。ノエルの案が了承されたら一緒について行こう。


「先に予習という形になれば他の生徒達から誹りを受けるぞ」

「なるほどな」

「予習ですか」


 そう言われればそうか。でも、暇なことに変わりはない。


「家だとお茶を飲みながらできるのでもっと捗ります。外に出て勉強したい時もあるので、教室にいなくてもいいとしてもらえませんか? 中庭で読みたいです」

「授業中に本を読み終わるとすることがない。図書館や移動教室が使えれば音楽などもできる。無駄に時間を過ごしている気がする」


 俺とノエルに暇だよ、学校に来る意味ないよ、と言われたポリコス先生は頭を抑えた。

 ため息を吐きつつ、嫌そうに言う。


「担任なので、私が教える。だから、全く知らない他教諭のポストにまで入れるな」


 図書館と音楽室も使っていいと言われた。

 よし、と頷く。

 動かなければ何も変化はしないのだ。

 やったことに意味を感じる。

 とりあえず、先生にお薦めの本などを聞いて紙に書いた。


 早速、知らないことを教えて欲しいと頼むとぼんやりしすぎていると怒られてしまった。


「勉学じゃなくてもいいのなら、教諭同士の恋愛はあるのですか?」

「……あるだろう」

 眉を顰めながらも一応質問に答えてくれた。

「先生は経験しましたか?」

「していない」

「先生と生徒の恋愛はあるのですか?」

「なんだと?」


 ポリコス先生が驚きの顔をするが、そういうことはないのだろうか。貴族の教師と生徒か。正に禁断の愛だ。


「ソルレイ、教師も人だ。あるだろう。探りを入れるな」

 ノエルに窘められてしまった。

「ポリコス先生の恋愛事情ってちょっと興味ない?」

「あるわけないだろう」

「分かったよ、もうやめる」

「……」


 その後は、初等科のように高等科でもレストランやカフェに裏メニューはあるのか、や、夏の実習ってなにするのですか?と、聞きたい話とそうじゃない話を交互に混ぜて、随分と情報を貰った。


 また来ると言うとポリコス先生は嫌そうな顔をしていた。


 教室に戻ると、魔法陣の授業が始まった。

「先生、息抜きに音楽室に行ってきます、ポリコス先生が行っていいって言いました」

「え、ええ? 本当かい?」

「「はい」」


 驚く先生に正当性を訴えて、席を立ち、ノエルと二人で6弦楽器を弾くことにした。

 庭園まで行き、カフェでテイクアウトしたお茶を飲みながら楽器を弾くのだ。


「来年の学年末の課題も終わったか」

「そうだね」

「ふむ、どうする?」


 ノエルが横笛を持って来るように言い始めるので、やんわりと断り、魔法陣の方を勧める。


「やっぱり魔法陣だよ。役に立つことをしよう」

「体育祭の時のようにやりたいが、そうもいかないか」


 ノエルは実戦がいいのか。さすがにあれは無理だが、実践するだけならそうでもない。


「とりあえず魔法陣を描いて遊ぼう。“大道芸人がやることを魔法陣でできるか”を題材にしよう」

「案外面白そうだな。やってみよう」


 俺は、石を並べ、一定のリズムになると魔法陣の中へ飛び込むという補助魔法陣を描き、本命の魔法陣は“一定の間隔で風魔法が吹き上がる”という仕様にする。ジャグリングのようになり、増えていくかと思った石は、石の大きさにより吹き飛んでいき、上手くいかない。


 設定を変える必要があるようだ。


 出力を下げ、発動時間を遅くする。落下速度に合わせて調整するとうまくいった。


 それでも大きい物は弾かれるので、更に補助魔法陣を描き、大きい石はここで切断されてまた輪に戻るという魔法陣にすると、今度は石の大きさの設定が必要になり、結局同じ大きさの石が飛び跳ねるだけの面白くない結果になった。


「大きさの違う石が飛ぶからいいのに」

 どういう構成にするのかを考え直した方が良さそうだ。

「ソルレイできたぞ」

 ノエルの方を見ると大きな石に人型の石が乗りふらふらとしている。

「おお! こっちの方がいい!」

 玉乗りっぽい!

「いや、ソルレイのものもいいぞ」


 駄目な部分の案を出し合いつつ、描き直して二人で遊んでいると、魔法陣の授業を担当する先生が探しにやって来た。腕を大きく降って声をかける。


「エンディ先生! ここです! これどうですか?」

「わお! これってどういう状態?」

「テーマがあるのです」

「「大道芸人ができることを魔法陣でもできるのか」」


 二人で真面目に考えた魔法陣の構成と課題点を伝えた。


「……なるほど! 考えたこともない! しかし、確かにそれらしくできているね」

 じっと作品を見られると恥ずかしい。

「でも、先生、駄目だったよ。違う大きさでも回って欲しかったのに、大きい石は弾かれるし、それならもう少し小さくしようと思ったら石の大きさの設定がいるんだ。色んな石が回るから面白いのに、機械的で面白みにかけるよ」


 工場で同じ規格品の物を作るのなら、弾かれるこれらは不適格品で素晴らしい精度かもしれないが、大道芸でそれはないよな。ワイン瓶もコップも、ボールでさえ回るから面白いのだ。


「ハッハッハ! それなら、ここに足すのだよ。大きい石の時は強く、小さい石の時は弱く。範囲指定の魔法陣を1つ増やして、補助魔法陣を消す。そして、ここではなくこっちの時間につないで魔法の魔法陣にはあえてつながない」

「嘘だ!? つながないのに動くのですか!?」

「動くさ! 本当だよ! やってみて!」

「うん」


 笑顔の先生の言うように書き直して発動すると、動いた。そのことに驚いた。


「わぁ! 時間からの僅かな魔法の漏れ出る力ってこと? それが魔法陣に回って動くのか。 でもさ、それだと、ああ、そうか。時間で運べる魔力量は変わるんだ! そういうことでしょ!? この石に必要な魔力量を時間が自分で計算する魔法陣になったのか!」


 補助魔方陣の石の大きさの魔法陣がいらないわけだ。


「なんて優秀なんだ! その通りさ!」


 時間を設定しないことで、石の大きさによって必要な時間を魔法陣の中の時間が勝手に計算をして必要な魔力量が溜まったら輪に加える。


 範囲指定を魔法に繋げないことで時間と出力を先に経由させ発動させた。

 足すばかりじゃなくて引き算が大事。机の上で描けたって実践で描けないと意味がない。


 これは十分に汎用性のある魔法陣だ。

 大事な魔力回路の主線を引いた魔法陣を見たのはこれが初めてだった。


「先生! この魔法陣の確率は!?」

「95!」

「エンディ先生!! 凄いよ! 見直した!」


 授業をするよりもっと、新しい魔法陣を作って活躍できる人材だ! お爺様のように!尊敬の目で見ると、照れた表情をしてから腰に手を当てて大笑いをした。


「ハッハッハ! なにせ! 先生だからね!」

 自慢げに笑うが、これはそうしてもいいレベルだ。

「ノエル様の方は!?  先生改良してみてよ」

「任せたまえ!」


 この後、散々魔法陣で遊んで、先生が考える魔法陣でできる大道芸人の芸は“火の棒を振り回す”だというので見せてもらった。

 いくつもの両端についた火の棒が空中に舞いあがり綺麗だった。


「先生の魔法陣は芸術点が高い」

「うん。綺麗だ」

「じゃあ、戻るぞ」


 そう言われて、時計を確認すると休み時間に入っていた。


「ああ、そうか。次は、移動教室だね」

「ああ」


 先生にありがとうございました、と言って教室に戻ると、エンディ先生と会わなかったかとエリックに聞かれ、ノエルが会うにはあったが、特に何も言われなかったと言い、話は終わった。

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