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初等科最後の試験結果

 次の日の朝に、50番以内に入らないと進学できないことを掴んだ、と全員に伝えた。学年末の試験が不安な者のために休みの日の1日を補講の授業を行うと言うと意外にも喜ぶ子が多かった。


 時間割を作って壁に貼っておくので、朝から来るもよし、分からない授業だけ来るもよし。来ないのもよしだ。

 初回と2回目は前期の復習、3回目から本格的に教えると伝えた。


「俺が知っている進学希望者はアンジェリカ嬢くらいだけど、合格と不合格のどちらに転ぶか、というところらしいから来られる日は来るように。フォルマは絶対参加だ。後期で20番以上あげるぞ」

 名指しされた二人は顔を青くしながら頷いた。


 授業終わりの15分休憩は、今の授業で分からないところがあった者は手を挙げろと言って、先着二人の質問を受け付け、板書を使って説明をした。


 フォルマには、分からなくてもいいから前日に教科書を読んでくるように、放課後も今日やった授業分、全教科の本を読んでから帰るように言った。


 一月もすると、前より授業が分かると言っていた。

 真面目なのでちゃんとやるのだ。

 辺境伯家の俺に言われていると家で言うと、家族が皆協力してくれるという。



 試験2週間前になった。全員参加の試験勉強をして、模擬試験の問題も作ってやらせた。

 これは購買で買った3年分のノートを元に俺が作ったものだ。


「模擬試験の答案を返すよ。フォルマ、よく頑張った」

「はい!」

 嬉しそうだ。努力が結果に出たからな。全員に答案を返し一つずつボードで説明をしていく。


 学年1位で絶対に進学できる未来がある、本来来ないでいいノエルも模擬試験にはちゃんと参加するあたり付き合いはいい。


「この問題を間違った者は、教科書の60ページを家でもう一度読むこと。ソラ嬢! 答案にちゃんと60ページって書いて。余裕ぶっていると落ちるよ」

「は、はい」


 魔道士学校に進学を希望する者だけではなく、貴族学校の方を受ける者も成績は向こうにいく。

 4年生の学年末はこれまでの総ざらいで一番重要視されると先生も言っていた。

 行ける学校が変わってくることもあり、皆、真面目に受けていたと思う。質問もちゃんとするようになった。


「ふぅ。お疲れ様。 一週間後は試験だ。泣いても笑っても最後の試験だから頑張ろう」


 俺も皆に教えるために、随分と資料集や本を読んだ。

 司書の女性達にクラスメイトと進学できるように、休みの日に補講をしているというと、教員が手本にする本や資料を教えてくれた。

 貸し出してもらい、随分と細かい知識を頭に入れた。勉強は大変だが有意義な時間でもあったのだ。


 俺もここからは自分の試験勉強に入る。

 図書館の自習室でひたすら本を読み、理解を深めるのだ。


 ラウルも隣で勉強だ。

 分からないところは最後に纏めて聞いて来るので、休みの日に付っきりで教え、カルムスにもダニエルにも頼んだ。


 ラウルの場合は、どこまで加点が貰えるかだ。



 音楽の試験の日は、ラウルのクラスはラウルの演奏を聴くために、俺のクラスは俺の演奏を聴くために残った。人数が凄かった。


 そこに、グレパスの泡沫を聴くのは、これが最後になるだろう。そう言っていた年配の先生が足を運び、教務課の人達がどんな曲なのですかと見に来たことで、さながら中庭は、コンサートの様相だ。


「ラウル、緊張していないか? 大丈夫か?」

 中庭での演奏が、足を運ばせたのだろう。ただ、寒くなってきているので、弦を引く手が強ばるのではないだろうか。

「うん。僕は、いつもこんな感じだから平気だよ」


 そう言われれば、ラウルを見ている女の子が多いな。白服は凄いな。こんな効果があるのか。緊張しないように席をラウルに向けて座り直す。互いにいくらか視線も遮れるだろう。


「そうか。じゃあ、そろそろ演奏しようか」

「うん!」

 先生達に合図をすると、静かになった。ラウルと視線を合わせて笛を奏でる。


 最初から強い音で始まるこの曲もシュミッツ先生とゴーヤン先生、そのお父さんの元宮廷横笛奏者のおかげで、物になった。


 苦しいばかりの演奏も、息継ぎを正確に行うことや、メリハリをつけることで、苦しくないように変わっていった。


 音色に拘って吹けるようにまで成長できたのだ。

 ラウルとの 演奏は、本当にやり易く、あっという間だった。走りすぎたかな。


 顔を見るとにぱっと笑う。大丈夫だったのだとそれだけで安心できた。笑って頷きを返した。

「「もう終わっちゃったね」」

 二人で笑い合って演奏は終わった。

 大きな拍手をもらい、俺とラウルは、立ち上がると貴族らしく挨拶をして終えた。


 先生達が感想をくれる。ゴーヤン先生が、大きく手を叩いて褒めてくれた。

「素晴らしい演奏だった」

 父親以外に演奏する人を知らないと言っていたことを思い出す。喜んでくれていることに喜んだ。


「綺麗な音色でしたわ」

「また聴けるとは思わなかった」

「今日は善き日となりますわ」

 皆が口々に感想を言い合っていた。

 このクラスとラウルのクラスは偏見が無くなっていそうで嬉しい。


「ラウルのおかげだ」

「楽しかった! 家でまた弾こうね」

「うん。家族とそれからシュミッツ先生も招かないとな」


 最初は、楽ができると選んだ横笛。大変だった4年間の音楽の授業も今日で最後か。

 横笛を人前で演奏することはもうない。

 ただ、音楽のある生活は、楽しい。これからも続けていきたい。




 一週間後の試験は、剣と剣舞以外は満点の自信がある。だから、少し休息が欲しくて、ベリオットの収穫を楽しんでいた。

 ラウルもお兄ちゃんに教わったから満点だと思うと笑っていた。

 思わず、籠を置いて抱きしめた。


「忙しくてあんまり教えてやれなかったな。ごめんな」

「そんなことないよ。図書館で一緒に勉強できたもん」

「そうか、そうか。そういえば、今年の体育祭はどうなるんだろうな。顔合わせすら個人で会いに行く形だったろう? ノエルは誰と組んでるんだ?」

「僕のクラスの子じゃないみたい。教えてねって言ってたのに誰も言ってくれなかったよ。でも、ペア鬼ごっこでしょ? 僕、ノンに勝つからね!」


 侯爵家を辺境伯家が降すのだ。燃えるよな、こういうの。


「ふふ、二人で頑張ろうな」

「ふふ、うん!」



 4年生は卒業の為体育祭の前日に試験が張り出された。クレバが強いから3番目くらいかな。5番以内ならいいや。そう思って見に行った。

 目に入った順位に驚く。


 1 ソルレイ・グルバーグ

 2 ノエル・アヴェリアフ


「ソルレイに加点差負けか」

 いつの間にか隣にノエルがいた。それにしてもあっさりとした物言いだったな。


「本当だ。剣と剣舞は駄目なのに、音楽と詩、魔道具、茶会、確率で30点の加点だ。1点差にノエルの恐ろしさを感じるよ」

「逆だ。剣で65点なのによく勝てたな」

 うっ。ノエル、ごめん。目を見れずに掲示物に戻した。


「……第4騎士団の団長補佐は駄目だね。俺の頑張りを見ていない」

「……65点もつけていて驚いたが?」

 70点は騎士候補だと言われている。

「満点で勝ちたかったのに」

「無茶を言うな。対人戦で、剣を戦わずに服を掴み、足を狙って引倒してから、最後に思い出したように剣を突き立てただろう」


 うん、言われるまでもない。あれで65点はないよな。柔道家が、止めを刺すのに剣を選んだという訳の分からない感じだったはず。


「最後でもちゃんと使ったんだからいいはずだよ。勝てばいいって言ってたし」

「剣を最後にしか使わないことに目を見開いていたぞ。十分に戦えるという判断で65点なのだろうが……」


 ノエルはそれで納得していた。

 合格できたのは、ダニエルに調べてもらった弱みを利用して『黙っておきますね』と言ったからだ。


 ちなみに、年若い子が接客してくれる店に行くことは、前世でもここでも大したことではない。

 この世界でも貴族は体裁が悪いというだけだ。


 忍んだ格好をしていても金髪までは隠せないので、店から出てきたところで『え!? 先生!?』とラウルと声をかけたのだ。


 そのまま出てきた店を見て、もう一度青い顔をしている先生を見て、頷いて『黙っておきます』『ラウルも内緒にしておくね』と、二人で言ったのだ。

『絶対に誰にも言いませんから!』

 そう声をかけ、ラウルの手を引いて足早に去った。


 自分の保身を鑑みて忖度してくれたようだ。


「お爺様には1点差で勝てたって言おう」

「事実だ」

「カルムお兄ちゃんって剣術大会で優勝したことがあるんだよ。教えてもらっていたのに振りかぶられると痛いだろうなと思って、距離を詰めて引き倒しちゃったんだ。65点だと怒られちゃうよ」

「……黙っていればいい」

「うん、ありがとう」

 内緒にしてくれるらしい。

 ノエルは優しいのだ。


 俺の加点1点差の勝ちは、前期の音楽試験を受けていないため物議を呼ぶと思ったが、レリエルでは、皆に教えながら結果を出したと好意的だった。


 いつもは確認しないアンジェリカとフォルマの順位を確認しにいき 、中々出てこない名前にやきもきしながら廊下を歩き、“50 フォルマ”という文字を見て喜んだ。


 アンジェリカも37番だった。頑張ったな!

 教室に戻り、頑張ったフォルマと抱き合った。

「ソルレイ様のおかげです」

「違う、フォルマが頑張ったからだ。よく頑張ったな」

「はい!」


 アンジェリカとは抱き合えないが、顔を見ると喜んで頷いていた。

 レリエルは軒並み成績が上がったようだ。


「皆聞いてちょうだい。このクラスは成績が優秀だったこともあって内部進学者が増えそうです。諦めていた子もいたことでしょう。だから、少しでも先に話をしておきます。他国の貴族学校に行く子達の話も後でします。まずは、高等科について話します。高等科は3クラスです。1クラスは特進科です。外部生、内部生共に優秀な者がこのクラスに入ります。25人ね。このクラスからはノエル様、ソルレイ様、アレク、クラウンの4名が確定よ。ハルドは外部生次第ね。いずれにしても4人ないし5人も優秀者が出たのは素晴らしいことだわ」


 4人か、5人。

 クラスが違ったとしてもハルドも進学は確定だ。

 俺は良かったと笑顔で頷く。


「あとの2クラスが内部進学者のみで構成されるの。つまり50人ね。だから50番以内に入らないと推薦はできない。このクラスはほとんどが、50番以内に入ったわ。自分の順位を確認したでしょう? 奨学金の制度もあるわ。返却しないで良い物は事前の申請と担任印が必要なの。他国に行くのは、難しいと進学を断念していた子は学費が免除になる申請書を書くわ。50番以内に入った子は、必ず相談に来なさい。50番から70番の子はボーダーね。どちらに転ぶかは分からないわ。他クラスで確定している子は二人ずつくらいだから50番台なら進学の可能性が高いわ。ただし、推薦はされないの。試験と面接で決まるわ。70番だろうが試験と面接が良ければ51番の子を抜かして入学もできるわ。諦めないで」


 フォルマはギリギリだったか。

 それでも推薦組に入れるのと入れないのでは雲泥の差だ。


「多くが進路先の変更を考え直すことになったと思うわ。次に、他国の貴族学校に行く場合ね。魔道士学校は高等科から更に難しくなっていく。今まではクラスに面倒見の良いソルレイ様がいたけれど、特進科とは授業内が全く違うわ。合否は明確で、1つでも落とせば次の年はまたその科目をとらないといけないの。取り終わるまで卒業はできないわ。嫌なら入りさえすれば卒業できるカインズ国の貴族学校になります。4年生の時の成績で編入が決まるわ。このクラスは全員が基準をクリアしていて問題はありません。明日は体育祭で終われば冬休みだけれど、あなた達はまだ魔道士学校の学生。いつでも相談に来て頂戴。他国にある学校の詳しい話が聞きたい場合もいらっしゃい」


 先生はカインズ国以外の貴族学校の情報も持っているらしい。聞きたければ、いつでもどうぞと言っていた。



 それからは、体育祭の話になった。今年は、ペアの2年生を守り切るゲームらしい。

 鬼ごっこではないようだ。

 残念だ。


「ノエルに勝とうと策をあれだけ練っていたのに無駄になったか」

「…………」


 一昨年、去年と連続して2年生を囮につかったり、放置したりが多かったための措置だという。

 クライン先生もバラバラに動くのも手だと言っていた記憶がある。真面目な他の教員が問題視でもしたのだな。


 必ず2年生と行動させるために2年生がやられたら連座でアウトらしい。

 カラーボールを1つずつ渡されてスタートをする。相手にぶつけるらしいが、自分がぶつかっても2年生が無事ならいいというルールだった。


 今年は、腕に魔道具をつけてスタートだが、これは位置情報の確認に用いるそうだ。


 カラーボールを使いきっても3時間ごとに正門と中庭にカラーボールが設置されることも教えてくれた。

 これは好きなだけ持って行っていいボールだ。


 それから特別ルールでカフェ、レストランでは使用禁止。

 去年は、ひもじい生徒が沢山出たのでそうなったらしい。レストランの策を封じられたか。


 クライン先生が俺の方を見るので、たぶん支配人経由で予約したのがばれているのだろう。

 渋々頷くと笑って頷かれた。


 時間は24時間だ。

 明日の9時からスタートだと説明を受けて解散になった。

 すぐに鞄を握りしめて立ち上がるとダッシュをする。向かうは勿論、教務課へ。急いで拠点の申請だ!!

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