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会合への参加

 2週間の修行をしてから、財務派閥の会合に出席をして顔馴染みを増やす。辺境領の領主が集まる会合にも勉強のためと口上を立ててお爺様についていった。会合場所は、毎年変わるが、今年は辺境領の玄関口。カレサル領で行われる。


 隣の領がフォルマの家だということもあり、遊びに行ったことのある家が参加していることは心強かった。お爺様から改めて紹介を受けた。俺もラウルも一度、就学前に挨拶回りに行った家ばかりだ。

 挨拶は、領主に敬意を払い、こちらから行う。


「ソルレイ・グルバーグです。皆様、ご健勝でなによりです。本日は勉強のために祖父に同行を願いでました。お邪魔にならないように気をつけますので、末席にお加え下さい。宜しくお願い致します」

「勿論ですとも」

「さあ、どうぞ」


 歓迎の言葉をもらう。

 辺境領の領主達は、気さくでざっくばらんな性格の人が多い印象だったが、変わりないようだ。小ぢんまりした迎賓館に案内された。庭が楽しめるように大きな窓が壁一面にある開放感のある部屋だった。


「ラインツ様は良き後継者がいらっしゃって宜しいですな。うちもフォルマを連れてくれば良かったです」

「ハッハッハ。学生の内は大いに遊べばよいのだ」


 今日の議題は、暑さに弱い乳牛をグルバーグ領にある山の中腹で放し飼いにしていいかという話だった。これは、毎年頼まれるもので、お爺様が快く了承をして終わる。

 議事録に載せる建前の話が終わると、食事会に変わり情報交換が始まった。


「そういえば、セインデル国は、宰相が変わったと聞きましたな。皆様はご存知かな?」

「なに。またか。あの国は本当にころころと変わるな」

「今度は第三王子派閥の者だと耳にしたぞ」

「その方らは耳が早いな。私は今、知って驚いておるところだぞ」


 お爺様のおどけるような言葉に場が和み、笑いながら話が進む。


「第二王子は蚊帳の外で、第一王子と第三王子で争っているのですよ。ラインツ様がラルド国に向かわれる前は、きな臭い話などなかったのですが、近年は酷いと、この前の社交界で外交派閥の者が申しておりました」

「ふむ。となると、ワインの値は上がるのう」

「ハハハ、そうでございますね」


 今の内に飲もうと言い出して、グラスのワインを呑み干す大人達を見なかったことにした。

 食事は始まっているので好きに呑めばいいのにな。大人には理由がいるようだ。


「これは由々しき事態ですな。今秋には買いに行かねば」

「貴殿、それでは遅いぞ」

「さよう。買い占められた後だぞ」

 お酒が好きな大人たちの笑い声が部屋に広がった。

「ただ気になる話もありましてな。ハウウエスト国は軍拡するとか」

「ほう。真か。雪山の麓にある北国であったな」

「ええ。アインテール国からは遠い国ですがね」

「直接関係はないでしょうが、ウェイストン国は気が気ではないかと思いますよ」


 外務派閥の長はエリドルドで、外務大臣はミルチェと言うらしい。大臣は常に王都に住み、王の補佐に就くため、実質まとめ役はエリドルドが担っている。

 二人が不仲だと、外交にねじれが起きるらしい。今のところ関係は良好のため、社交界では二人揃って出ていることもあり、信憑性のある情報だそうだ。


 ハウウエスト国はかなり遠い国だ。外交派閥の情報網は凄いんだな。

 ハウウエスト国の出身者はクラスにはいない。恐らくだが、初等科のどの学年にもいないだろう。

 ウェイストン国は、確かクラウンの母国だったな。

 話を聞きながら、地図を思い浮かべた。


 アインテール国から西に行けば、ワインで有名なセインデル国、その北が海のある観光立国で山側に別荘のあるグリュッセン国、その更に北がモンパー国。モンパー国から北西に行ったら芸術の国ウェイストン国だ。


 ハウウエスト国は、ウェイストンの北に位置する最北の国で、ウェイストンからすれば北の隣国といえども距離は恐ろしく離れている。何せ山を幾つか超えないといけない。


 脅威に感じるだろうか。

 俺と同じことを思ったようで、お爺様が口を開いた。


「ウェイストン国を狙えば、その南に位置する大国ワジェリフ国が黙っておるまい」


 確かに。難民が押し寄せることになるワジェリフ国は怒るだろう。

 南のラルド、西のワジェリフ、東のアインテールが三大大国だと言われている。ダニエルからそう習ったのは、ラルド国からアインテール国に向かう車の中だったな。


 北は、どれだけ魔法や魔法陣、魔道具で補おうとも痩せた大地で大国にはなれない。

 軍拡はいい方法ではない。


 領主たちも一様に頷き、会話は、春に行われた王主催のパーティーにて、正式な婚約者だとお披露目された第一王子のお相手へと流れていった。未来の王妃か。


 お爺様が、春に出かけていないことに気づいた。招待状を無視したのだろうか。それとも案内自体が来なかったのだろうか。横顔を見ても穏やかに微笑んでいて、心の内までは読めなかった。


「ルーナ様がアジェリード王子と並ぶと絵物語のようであったな」

「目を引く美貌だったのは確かだ。政に明るいかは不透明であるな。通っていたのは、ワジェリフの貴族学校だったはずだ」

「ほう。公爵家でそれは珍しいことだな」


 そういった話で盛り上がるのは、女の子だけだと思ったが、意外にも政略結婚ではなく恋愛結婚らしい。

 王子が魔道士学府を休学して留学をしたワジェリフにある貴族学校で出会ったというので、話としては面白かった。


 ただ、現実に選ばれるのは、家格の釣り合う公爵家のご令嬢で、物語のように平民と恋に落ちるということはないようだ。


 他はこれと言って聞くような話もなく、雑談であったため、聞き流した。



 卒業まで帰らないと言っていたノエルにも泊りに来てもらい、一週間を遊びに使い、一日は一緒に勉強をした。俺が魔道具を教え、ノエルからは剣舞を教わっていたのだ。それにラウルも混ざり、3人で遊びと勉強を兼ねてやっていた。


 それを運悪く、カルムスに見つかった。庭で剣を振り回していたところを見られたのだ。


「ようやくやる気になったか。後期も試験合格を目指して頑張るぞ」

「違うよ、違う」


 教えてもらっていたのは、剣舞で剣術の練習をやっていたわけではないと言ったけれど、聞く耳を持っていない。遠慮をして言えなかったのだろうと勘違いをされた。


「研究も一段落だ。まあ、次の段階に入るだけだがな。身体も鈍るからな。遠慮をするな」

「ええ? やりたくないよ」

「お兄ちゃん! 僕もやるからちょっとだけ頑張ろう」

「ええ?」

「ソルレイ、せっかくだ。教わるべきだ」


 そう言われると俺が悪いように感じる。せっかくカルムスが声をかけてくれているのだ。ラウルもノエルもこう言ってくれている。


「うん、頑張るよ」

 思っていたより力のない声が出た。

 それでもノエルとラウルと共に頑張りつつ、ダニエルに第4騎士団長補佐の弱みはないか探ってもらうという二軸制で合格を目指すことにした。

 高望みはしない。点数はいいから合格を狙う。


「ダニー、仕事を増やして本当にごめん」

 代理執務室まで謝りに行くと笑い飛ばされた。

「大丈夫ですよ。弱味のない者などいません。前から探りを入れていましたから情報は掴んでいます」

「え! そ、そうなんだ、ありがとう」


 ダニエルには考えている案があるらしく、その時はちゃんと協力をするという約束を交わした。

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